「荷物持ちは黙ってろ!」と追い出された俺のスキルは【収納(ストレージ)】。――パーティの全財産と装備、俺のストレージの中に入れたままだったっ

夏見ナイ

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第10話 未来への計画

 ずしり、と重い金貨袋を握りしめ、俺はフロンティアの雑踏を歩いていた。
 ほんの数日前まで、明日の寝床すら定かではなかったというのに、今や俺の手には一般人が数年かけても稼げない大金がある。世界の色彩が、昨日までとはまるで違って見えた。

 最初にやったことは、引っ越しだった。
 一泊銅貨数枚の、いつ南京虫が出てもおかしくない安宿を引き払い、俺は大通りに面した清潔で立派な宿屋「風見鶏の宿」の一室を借りた。銀貨二枚の宿代を払っても、眉一つ動かさない。金銭感覚が麻痺してしまいそうだった。
 部屋にはふかふかのベッドがあり、窓からは活気ある街並みが見下ろせる。湯を浴びて旅の汚れを落とし、宿の食堂で温かいシチューと焼きたてのパンを腹一杯に詰め込む。追放されて以来、初めて「まともな生活」を送っている実感があった。

 だが、満たされた腹とは裏腹に、俺の心は妙に落ち着かなかった。
 部屋に戻り、テーブルの上に数枚の金貨を並べてみる。黄金色の輝きは美しいが、同時に言い知れぬ不安を掻き立てた。
 エリクサーの一件で、俺はギルドである程度名が知れてしまっただろう。「奇跡の薬師」と噂になっているかもしれない。それは金と名声をもたらすが、同時に嫉妬や危険を引き寄せる。

(これから、どうするべきか……)

 俺は椅子に深く腰かけ、これからの計画を整理し始めた。

 第一に、スキルの乱用は禁物だ。
 エリクサーのような伝説級のアイテムを頻繁に市場に流せば、必ずその出所を探られる。最悪の場合、どこかの貴族や国家に捕らえられ、アイテムを生産するだけの道具にされてしまう可能性すらある。アレスたちと同じ轍を踏むわけにはいかない。

 第二に、安定した基盤の構築。
 ミード商会やギルドとの繋がりは維持しつつも、依存しすぎないように距離を保つ。正体は明かさず、「幸運な採取者」という仮面を被り続け、細く長く、だが確実に資産を増やしていく。

 そして、最後に――。
 脳裏に、アレスたちの侮蔑に満ちた顔と、ギルドで見た、仲間を案じて必死に叫んでいた冒険者たちの顔が交互に浮かんだ。

(一人は、危険だ)

 このスキルがあれば、金は稼げる。だが、ダンジョンの奥深くにある希少な素材を手に入れるには、冒険者としての実力が必要不可欠だ。そして、高難易度のダンジョンは、決して一人では攻略できない。
 前衛で敵の攻撃を受け止め、後衛から魔法で援護し、斥候が罠を見抜く。パーティとは、互いの欠点を補い合うことで初めて機能するものだ。俺一人では、Fランクの薬草採取が関の山。

 しかし、人を信じられるだろうか?
 裏切られた記憶は、まだ生々しい傷として胸に残っている。また誰かに利用され、用済みだと捨てられるのではないか。そんな恐怖が心を蝕む。

 俺は窓の外に目をやった。フロンティアの街には、無数の灯りがともり、人々の営みが続いている。
 あの灯りの一つ一つの下に、様々な人生があるのだろう。俺のように傷つき、それでも前を向こうとしている者もいるかもしれない。

 焦る必要はない。
 まずは、この金で自分自身の装備を整え、最低限の護身術を身につけよう。【収納】スキルで、ただの鉄の剣がどれほどの物になるのか、試してみる価値はある。
 強くなるんだ。誰にも見くびられず、自分の足でしっかりと立てるように。

 そうして、いつか出会うかもしれない。
 損得勘定ではなく、背中を預け、共に笑い合えるような、本当の仲間と。

 俺はテーブルの上の金貨をしまい、ベッドに横になった。
 孤独な夜だったが、絶望はなかった。胸の中には、確かな目標と、未来への静かな希望が灯っていた。
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