11 / 100
第11話 路地裏の出会い
未来への計画を立てた翌日、俺はまず自分の身なりを整えることから始めた。
金貨数枚を使い、動きやすい丈夫な革鎧と、編み上げのブーツ、そして新しい外套を購入する。これだけでも、王都から逃げてきた時の薄汚れた姿とは見違えるようだった。
次に目指すは、自分の身を守るための武器だ。
フロンティアには大小さまざまな武具店が軒を連ねている。俺は何軒かを巡り、ショーウィンドウに飾られた剣や槍を眺めて回った。しかし、どれもピンとこない。Sランクパーティにいた頃、アレスたちが使っていた一級品を見慣れてしまったせいか、店の品物はどれもなまくらに見えてしまう。
(まあ、いい。どうせ【収納】で強化するんだ。今は一番安いやつで十分か……)
そんなことを考えながら、大通りから一本外れた、少し寂れた通りを歩いていた時だった。
不意に、建物の隙間から伸びる薄暗い路地裏から、怒声とくぐもった呻き声が聞こえてきた。
「おい、いつまでそうやって俯いてるんだ! 商品に傷がついたらどうすんだ、あぁ?」
ドスの利いた、不快な声。
関わるべきではない。この街では、他人のいざこざに首を突っ込むのは愚か者のやることだ。そう頭では分かっていたのに、なぜか俺の足は止まっていた。
聞こえてきた呻き声が、あまりにもか細く、悲痛に満ちていたからだ。
俺は息を殺し、建物の影からそっと路地裏を覗き込んだ。
そこにいたのは、脂ぎった顔つきの、いかにも悪人といった風体の大男だった。身なりからして、奴隷商人だろうか。
そして、その男の前には――一人の少女が、力なくうずくまっていた。
長く尖った耳。銀糸のように美しい髪は汚れ、ところどころがもつれている。着ているものはボロ布同然で、そこから覗く手足は枝のように細い。エルフの少女だった。
彼女の首には、奴隷であることを示す、錆びついた鉄の首輪が無慈悲にはめられている。
男は少女の髪を乱暴に掴み、無理やり顔を上げさせた。
「いいか、お前は高く売れるんだ。だが、そんな死んだ魚みたいな目をしてちゃ客もつかねぇ。少しは笑ったらどうだ!」
少女は何も答えない。その薄翠の瞳は、まるで光を失ったガラス玉のように虚ろで、何の感情も映していなかった。ただ、唇を固く結び、耐えている。
その姿を見た瞬間、俺の胸に激しい動悸が走った。
既視感があった。
理不尽な暴力と罵声に晒されながら、ただ黙って耐えることしかできない姿。それは、アレスに「荷物持ちは黙ってろ!」と罵倒されていた、かつての自分自身の姿と、あまりにもよく似ていた。
男は苛立ちを隠しもせず、少女を突き飛ばした。少女の華奢な体は、為す術もなく石畳に打ちつけられる。
それでも、彼女は悲鳴一つ上げなかった。ただ、その虚ろな瞳から、一筋だけ、涙が静かにこぼれ落ちた。
それを見た時、俺の中で何かが決まった。
見過ごすことなんて、できるはずがなかった。
金貨数枚を使い、動きやすい丈夫な革鎧と、編み上げのブーツ、そして新しい外套を購入する。これだけでも、王都から逃げてきた時の薄汚れた姿とは見違えるようだった。
次に目指すは、自分の身を守るための武器だ。
フロンティアには大小さまざまな武具店が軒を連ねている。俺は何軒かを巡り、ショーウィンドウに飾られた剣や槍を眺めて回った。しかし、どれもピンとこない。Sランクパーティにいた頃、アレスたちが使っていた一級品を見慣れてしまったせいか、店の品物はどれもなまくらに見えてしまう。
(まあ、いい。どうせ【収納】で強化するんだ。今は一番安いやつで十分か……)
そんなことを考えながら、大通りから一本外れた、少し寂れた通りを歩いていた時だった。
不意に、建物の隙間から伸びる薄暗い路地裏から、怒声とくぐもった呻き声が聞こえてきた。
「おい、いつまでそうやって俯いてるんだ! 商品に傷がついたらどうすんだ、あぁ?」
ドスの利いた、不快な声。
関わるべきではない。この街では、他人のいざこざに首を突っ込むのは愚か者のやることだ。そう頭では分かっていたのに、なぜか俺の足は止まっていた。
聞こえてきた呻き声が、あまりにもか細く、悲痛に満ちていたからだ。
俺は息を殺し、建物の影からそっと路地裏を覗き込んだ。
そこにいたのは、脂ぎった顔つきの、いかにも悪人といった風体の大男だった。身なりからして、奴隷商人だろうか。
そして、その男の前には――一人の少女が、力なくうずくまっていた。
長く尖った耳。銀糸のように美しい髪は汚れ、ところどころがもつれている。着ているものはボロ布同然で、そこから覗く手足は枝のように細い。エルフの少女だった。
彼女の首には、奴隷であることを示す、錆びついた鉄の首輪が無慈悲にはめられている。
男は少女の髪を乱暴に掴み、無理やり顔を上げさせた。
「いいか、お前は高く売れるんだ。だが、そんな死んだ魚みたいな目をしてちゃ客もつかねぇ。少しは笑ったらどうだ!」
少女は何も答えない。その薄翠の瞳は、まるで光を失ったガラス玉のように虚ろで、何の感情も映していなかった。ただ、唇を固く結び、耐えている。
その姿を見た瞬間、俺の胸に激しい動悸が走った。
既視感があった。
理不尽な暴力と罵声に晒されながら、ただ黙って耐えることしかできない姿。それは、アレスに「荷物持ちは黙ってろ!」と罵倒されていた、かつての自分自身の姿と、あまりにもよく似ていた。
男は苛立ちを隠しもせず、少女を突き飛ばした。少女の華奢な体は、為す術もなく石畳に打ちつけられる。
それでも、彼女は悲鳴一つ上げなかった。ただ、その虚ろな瞳から、一筋だけ、涙が静かにこぼれ落ちた。
それを見た時、俺の中で何かが決まった。
見過ごすことなんて、できるはずがなかった。
あなたにおすすめの小説
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?
あとりえむ
ファンタジー
【番外編】追加しました。連休のスキマ時間でぜひお楽しみください!
【5話ごとのサクッと読める構成です!】
本編 全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます!お気に入り登録、ハート、コメント、とても励みになります♪
─あらすじ─
世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。
「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。