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第14話 開かれる心
俺はルナを連れて、滞在している「風見鶏の宿」に戻った。
清潔で明るいロビーに足を踏み入れた途端、ルナの足がぴたりと止まる。彼女は怯えたように俺の外套の裾を固く握りしめ、俯いてしまった。無理もない。奴隷として生きてきた彼女にとって、ここはあまりにも場違いな場所に感じられるのだろう。
「大丈夫だ」
俺は彼女の肩を優しく抱き、宿の主人に事情を説明した。遠い親戚の娘を引き取ることになった、と。幸い、主人は深く詮索することなく、俺の部屋の隣室を用意してくれた。
部屋に入り、俺はまずルナに風呂に入るよう勧めた。
「お湯を使わせてもらった。ゆっくりしてくるといい。その間に、何か新しい服を用意しておくから」
ルナはこくりと頷くだけで、何も言わずに浴室へと消えていく。その背中はあまりにも小さく、頼りなかった。
彼女が風呂に入っている間に、俺は街の服屋で少女用の簡素だが清潔なワンピースを数着購入した。そして宿に戻り、厨房を借りて簡単な食事の準備を始める。
使うのは、もちろん【収納】に入れておいた、あの『極上・熟成サンフルーツ』だ。
しばらくして、湯上りのルナが部屋の隅で所在なげに立っていた。新調した白いワンピースが、まだ濡れた銀髪と相まって、彼女の儚げな美しさを際立たせている。
「……座ってくれ。温かいものを用意した」
テーブルの上には、湯気の立つホットミルクと、薄切りにしたサンフルーツを添えた皿が置いてある。
ルナはおずおずと椅子に座ったが、目の前の食事に手をつけようとはしなかった。毒を警戒しているのかもしれない。
俺は何も言わず、自分も席に着くと、同じサンフルーツを一切れ口に運んだ。
「……美味いな」
その様子を見て、ルナは少しだけ警戒を解いたようだった。やがて、震える手でフルーツを一切れつまみ、小さな口にそっと運ぶ。
次の瞬間、彼女の薄翠の瞳が、驚きに見開かれた。
こくり、とそれを飲み込んだ後、彼女はまるで憑かれたように、夢中で皿の上のフルーツを平らげていく。ホットミルクも、一滴残さず飲み干してしまった。
よほど空腹だったのだろう。そして、生まれて初めて口にするほどの美味だったに違いない。
食事を終え、血色が少し良くなったルナに、俺は静かに告げた。
「疲れただろう。今日はもうゆっくり休め。隣が君の部屋だ」
俺は彼女に何かを求めたり、過去を詮索したりするつもりはなかった。ただ、安心して眠れる場所を提供したかった。
立ち上がって部屋を出ようとした、その時。
「あ……あの……」
か細い声に、俺は振り返った。
ルナが、俯きながらも必死に言葉を探しているようだった。
「……とても、おいしかったです」
絞り出すような、感謝の言葉。
その健気な響きに、俺は思わず頬を緩ませた。
「そうか。よかった。またいつでも作ってやるよ」
俺が心からの笑みを向けると、ルナの表情が、ほんの少しだけ、本当にわずかに、動いた。
固く閉ざされていた唇の端が、ほんの少しだけ持ち上がる。
それは、まだぎこちなく、はにかむようなものだったが、確かに笑顔だった。彼女が取り戻した、最初の小さな光。
その輝きは、俺がこれまでに手にしたどんな金貨よりも、ずっと温かく、価値のあるものに思えた。
清潔で明るいロビーに足を踏み入れた途端、ルナの足がぴたりと止まる。彼女は怯えたように俺の外套の裾を固く握りしめ、俯いてしまった。無理もない。奴隷として生きてきた彼女にとって、ここはあまりにも場違いな場所に感じられるのだろう。
「大丈夫だ」
俺は彼女の肩を優しく抱き、宿の主人に事情を説明した。遠い親戚の娘を引き取ることになった、と。幸い、主人は深く詮索することなく、俺の部屋の隣室を用意してくれた。
部屋に入り、俺はまずルナに風呂に入るよう勧めた。
「お湯を使わせてもらった。ゆっくりしてくるといい。その間に、何か新しい服を用意しておくから」
ルナはこくりと頷くだけで、何も言わずに浴室へと消えていく。その背中はあまりにも小さく、頼りなかった。
彼女が風呂に入っている間に、俺は街の服屋で少女用の簡素だが清潔なワンピースを数着購入した。そして宿に戻り、厨房を借りて簡単な食事の準備を始める。
使うのは、もちろん【収納】に入れておいた、あの『極上・熟成サンフルーツ』だ。
しばらくして、湯上りのルナが部屋の隅で所在なげに立っていた。新調した白いワンピースが、まだ濡れた銀髪と相まって、彼女の儚げな美しさを際立たせている。
「……座ってくれ。温かいものを用意した」
テーブルの上には、湯気の立つホットミルクと、薄切りにしたサンフルーツを添えた皿が置いてある。
ルナはおずおずと椅子に座ったが、目の前の食事に手をつけようとはしなかった。毒を警戒しているのかもしれない。
俺は何も言わず、自分も席に着くと、同じサンフルーツを一切れ口に運んだ。
「……美味いな」
その様子を見て、ルナは少しだけ警戒を解いたようだった。やがて、震える手でフルーツを一切れつまみ、小さな口にそっと運ぶ。
次の瞬間、彼女の薄翠の瞳が、驚きに見開かれた。
こくり、とそれを飲み込んだ後、彼女はまるで憑かれたように、夢中で皿の上のフルーツを平らげていく。ホットミルクも、一滴残さず飲み干してしまった。
よほど空腹だったのだろう。そして、生まれて初めて口にするほどの美味だったに違いない。
食事を終え、血色が少し良くなったルナに、俺は静かに告げた。
「疲れただろう。今日はもうゆっくり休め。隣が君の部屋だ」
俺は彼女に何かを求めたり、過去を詮索したりするつもりはなかった。ただ、安心して眠れる場所を提供したかった。
立ち上がって部屋を出ようとした、その時。
「あ……あの……」
か細い声に、俺は振り返った。
ルナが、俯きながらも必死に言葉を探しているようだった。
「……とても、おいしかったです」
絞り出すような、感謝の言葉。
その健気な響きに、俺は思わず頬を緩ませた。
「そうか。よかった。またいつでも作ってやるよ」
俺が心からの笑みを向けると、ルナの表情が、ほんの少しだけ、本当にわずかに、動いた。
固く閉ざされていた唇の端が、ほんの少しだけ持ち上がる。
それは、まだぎこちなく、はにかむようなものだったが、確かに笑顔だった。彼女が取り戻した、最初の小さな光。
その輝きは、俺がこれまでに手にしたどんな金貨よりも、ずっと温かく、価値のあるものに思えた。
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