「荷物持ちは黙ってろ!」と追い出された俺のスキルは【収納(ストレージ)】。――パーティの全財産と装備、俺のストレージの中に入れたままだったっ

夏見ナイ

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第15話 二人での初陣

 ルナを保護してから数日が過ぎた。
 美味しい食事と安全な寝床のおかげか、彼女の顔には少しずつ血の気が戻り、虚ろだった瞳にも微かな光が宿り始めていた。俺が部屋にいると、彼女はいつもすぐそばの椅子に静かに座り、俺が武具の手入れをするのを黙って眺めているのが常だった。
 だが、その穏やかな時間の中で、俺は彼女が焦りのようなものを感じていることに気づいていた。自分が俺の負担になっているのではないか、と。

「リアムさん……私は、何かできることはありませんか?」
 ある日の午後、彼女は意を決したようにそう切り出した。
 その言葉を待っていた。俺は手入れしていた安物の剣を置くと、彼女に向き直った。
「そうだな……じゃあ、仕事を手伝ってもらおうか」
「仕事……?」
「ああ。冒険者の仕事だ」

 俺たちは冒険者ギルドへと向かった。活気あふれるギルドの空気にルナは少し気圧されていたが、俺の隣を離れようとはしなかった。
 俺が依頼掲示板で選んだのは、Fランクの中でも特に難易度が低い依頼だった。

【依頼:森のゴブリン斥候部隊の討伐】
【ランク:F】
【内容:街道近くの森に現れたゴブリンの斥候(3~5体)を討伐】
【報酬:銀貨8枚】

 依頼書を手に受付へ行くと、栗毛のポニーテールの受付嬢、リナさんが少し心配そうな顔で俺たちを見た。
「リアム、あなた一人ならともかく……その子を連れて行く気? まだ子供じゃない」
「彼女は俺のパートナーだ。大丈夫、無理はさせない」
 俺が断言すると、リナさんは俺とルナの顔を交互に見て、やがて小さくため息をついた。
「……わかったわ。でも、絶対に無茶はしないでよ」

 街の外れにある森へ向かう。俺は腰に剣を一本。ルナには、護身用に買っておいた短い樫の杖を渡した。
「魔法は使えるか?」
「……わかりません。教わったことが、ないので」
「そうか。なら、無理に使うな。危なくなったら、すぐに俺の後ろに隠れろ。いいね?」
 ルナはこくりと頷いたが、その顔は緊張で強張っている。

 森に入ってしばらく進むと、茂みの奥からゲスな笑い声と、金属が擦れる音が聞こえてきた。いた。
 茂みから飛び出してきたのは、錆びた剣や棍棒を手にしたゴブリンが五体。俺たちの姿を認めると、醜い顔を歪めて一斉に襲いかかってきた。
「ルナ、下がって!」

 俺は前に出て、剣を構える。元荷物持ちで、まともな戦闘経験などないに等しい。だが、Sランクパーティの戦いを嫌というほど見てきた。アレスの剣筋、ゴードンの盾捌き。その記憶が、俺の体を動かしていた。

 一番に飛びかかってきたゴブリンの剣を、最小限の動きで受け流す。そのまま体勢を崩したゴブリンの脇腹を蹴りつけ、距離を取った。敵を倒すことよりも、ルナの前に壁として立ち続けることに集中する。
 だが、多勢に無勢だ。一体をいなしている隙に、別のゴブリンが横から回り込んでくる。

 その時だった。
「――っ!」
 背後から、ルナの息を呑む声が聞こえたかと思うと、小さな火の玉が飛来し、回り込もうとしたゴブリンの顔に直撃した。
 ぼふっ、と間抜けな音を立ててゴブリンが顔を押さえてよろめく。威力はほとんどない。だが、その一瞬の隙が、俺にとっては千金に値した。

 俺はそのゴブリンに駆け寄り、心臓めがけてまっすぐに剣を突き立てる。甲高い悲鳴を上げて一体が絶命した。
 振り返ると、ルナが杖を握りしめ、震えながらも真っ直ぐにゴブリンたちを睨んでいた。彼女の瞳には、もう怯えの色はない。

 俺たちの間に、言葉のない連携が生まれた。俺が前衛で敵を引きつけ、ルナが後方から小さな魔法で牽制する。
 泥臭い戦いだった。それでも、俺たちは確実にゴブリンの数を減らしていき、やがて最後の一体を倒した時には、二人とも肩で大きく息をしていた。

 静寂が森に戻る。
 疲労困憊だったが、不思議と心は晴れやかだった。
「……やったな、ルナ」
「……はい」
 彼女の返事はまだ小さかったが、その顔には、自分たちの力で困難を乗り越えたという、確かな達成感が浮かんでいた。二人にとって、これが記念すべき初陣の勝利だった。
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