追放された【ガチャ師】の俺、鑑定不能のゴミアイテムばかり出ると思いきや、実は神話級の遺物だった件

夏見ナイ

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第二十六話 ドワーフの旧鉱脈

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旧鉱脈の内部は、ひんやりとした空気が満ちていた。外の喧騒とは隔絶された、静寂の世界だ。壁は人の手によって規則正しく削り取られ、床には錆びついたトロッコのレールが奥へと続いている。それは自然の洞窟ではなく、かつてドワーフたちの情熱と槌音が響き渡っていた巨大な作業場だった。

「気をつけて。この鉱脈は、ただの魔物の巣じゃない」

先頭を歩くシルヴィの声が、静かな坑道に響いた。彼女は半年前のトラウマを感じさせないほど、冷静沈着だった。その瞳は鋭く、壁の染み一つ、床の小石一つ見逃さないといった気迫に満ちている。

「ドワーフは宝を守るため、至る所に巧妙な罠を仕掛けている。一歩間違えれば、命はないと思いなさい」
「分かっている」

レクスはロングソードの柄を握り、シルヴィの言葉に頷いた。エリアナも緊張した面持ちで、レクスの少し後ろを歩いている。

しばらく進んだ時だった。シルヴィがぴたりと足を止め、右手を上げて二人を制した。
「待って」

彼女が指差す先は、何でもないただの通路に見える。しかし、彼女の目は床の不自然な砂埃の流れと、壁に刻まれた微かな傷を見逃さなかった。

「……ワイヤートラップだ。足を引っかけたと同時に、左右の壁から毒矢が飛んでくる仕掛けね」

普通の冒険者なら、気づかずに通り過ぎてしまうだろう。シルヴィの豊富な経験と知識が、最初の危機を未然に防いだ。

「どうする? 迂回するか?」
「いいえ、この通路を通るのが一番早い。エリアナ、あなたの力で、罠の魔力を感知できる?」

シルヴィの問いに、エリアナは驚いた。彼女に何かを頼むのは、これが初めてだった。エリアナはこくりと頷くと、目を閉じて意識を集中させる。

「……はい。足元に、細い糸のような魔力の流れを感じます」

エリアナの聖なる力は、邪悪な気配だけでなく、人工的な魔力の流れも敏感に感じ取ることができた。彼女が指し示した場所は、シルヴィが予測したワイヤーの位置と寸分違わなかった。

「よし」

レクスは慎重にワイヤーを飛び越え、対岸に渡ると、ロングソードの柄で壁の仕掛けを叩いて破壊した。カシャン、という軽い音と共に、罠は無力化される。
三人の連携による、最初の成果だった。

罠地帯を慎重に抜け、彼らはやがて広大な空間に出た。そこは巨大な採掘場で、いくつもの坑道が複雑に入り組んでいる。そして、その中央には、数体の奇妙な人影が佇んでいた。

それは、金属で作られた人形だった。身の丈は二メートルほど。ずんぐりとしたドワーフのような体躯で、その両腕は巨大な鉄槌や鋭いドリルになっている。魔法人形、オートマタだ。鉱脈の警備兵として、侵入者を排除するためにドワーフが遺した古代の兵器。その目は、魔石が埋め込まれているのか、不気味な赤い光を放っていた。

「来たか……」

オートマタたちが、ギギギ、と関節を軋ませながらこちらを向く。数は四体。彼らは生者ではない。プログラムされた通りに、侵入者を破壊するだけの存在だ。

「レクス、右の二体は私たちが引きつける! あなたは左から回り込んで、一体ずつ確実に仕留めて!」
「了解!」

シルヴィの的確な指示が飛ぶ。彼女は力を失っていても、戦場の指揮官としての能力は健在だった。
シルヴィは石を投げてオートマタの注意を引きつけ、エリアナは聖なる光でその動きを鈍らせる。レクスはその隙を突き、一体のオートマタの背後へと回り込んだ。

「はあっ!」

レクスはロングソードを振り下ろす。しかし、硬い金属の装甲に阻まれ、浅い傷しかつけられない。オートマタが振り返り、巨大な鉄槌を振るってきた。レクスは咄嗟に後方へ跳んでそれをかわす。

「関節を狙え! ドワーフの機械は、頑丈だが関節部分の強度が低い!」

シルヴィの鋭い声が響く。レクスは彼女の指示通り、オートマタの膝関節に狙いを定めた。相手の動きを冷静に見極め、攻撃の隙を突いて剣を突き立てる。
ガキン、という硬い手応え。剣は関節の継ぎ目に深く食い込み、オートマタはバランスを崩して膝をついた。そこへ、レクスは追撃の一撃を首の付け根に叩き込む。赤い光が消え、金属の人形は完全に沈黙した。

その間にも、シルヴィとエリアナは見事な連携で残りの敵を引きつけていた。エリアナが放つ閃光がオートマタのセンサーを狂わせ、シルヴィはその隙に敵の攻撃を巧みにいなし、時間を稼ぐ。

三人の役割が、初めて一つの歯車として噛み合った。シルヴィの頭脳、エリアナの支援、そしてレクスの戦闘力。それぞれが自分の役割を完璧に果たすことで、格上であるはずのオートマタの群れを圧倒していく。

最後のオートマタが、レクスの剣によって破壊された時、広間には静寂が戻った。
三人は互いの顔を見合わせた。言葉はなくとも、確かな手応えと信頼が、彼らの間に芽生えていた。

シルヴィは初めて、レクスとエリアナに向かって、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「……やるじゃないか、お前たち」

それは、彼女が初めて見せた、仲間への賞賛だった。
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