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第23話 魔法という新戦術
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リリアとルゥが正式に仲間に加わってから、洞窟の雰囲気はまた少し変わった。ゴブリンたちは最初こそ異質な存在に戸惑っていたが、リリアが分け隔てなく負傷者の治療にあたる姿や、ルゥが健気に手伝いをする様子を見るうちに、少しずつ彼らを受け入れていった。
俺は、この機会を逃さなかった。俺の組織がさらに発展するためには、新たな知識の導入が不可欠だ。そして、その最大の源泉がリリアだった。
俺は彼女に、定期的に「講義」を開くよう依頼した。テーマは、魔法の基礎理論。
「よろしいのですか? 私の話は、ゴブリンの方々には難しいかもしれませんが……」
「構わん。理解できる者だけでいい。いや、最初は俺一人でもいい。お前の知識を、この群れに根付かせたいんだ」
俺たちの最初の教室は、洞窟の広場の片隅だった。俺と、知的好奇心の強いいくつかのゴブリン、そして興味深そうに見つめるルゥを前に、リリアは少し緊張しながらも、魔法の講義を始めた。
彼女はまず、元素魔法の四大元素、火・水・風・土の相関関係から説明を始めた。火は風で勢いを増し、水に弱い。土は水を堰き止め、風に削られる。それは、俺が前世のゲームで聞きかじった知識と似ていたが、リリアの説明はもっと体系的で、世界の理そのものに根差していた。
「例えば、ゴブ様がお持ちの【火魔法】。今は火球を放つだけですが、理論を理解すれば、応用が可能です。空気中の風の元素を僅かでも操作できれば、火球の飛距離や威力を増すことができます。また、土の元素で壁を作れば、敵の水の魔法を防ぐことも……」
彼女の説明を聞きながら、俺は自分の思考が如何に短絡的だったかを思い知らされた。
俺にとってスキルとは、ゲームのコマンドのようなものだった。ボタンを押せば、決まった効果が発動する。それだけだ。
だが、リリアの話す魔法は違った。それは、世界の構成要素を理解し、組み合わせ、新たな現象を創造する、科学やプログラミングに近い、知的な営みだった。
【弱肉強食】は、俺に「コマンド」そのものを与えてくれる。だが、そのコマンドをどう組み合わせ、どういう状況で使うか。その「プログラム」を組むのは、俺自身の知恵なのだ。
講義の後、俺は早速実践に移った。俺は冒険者のリーダーを捕食したことで、【火魔法Lv1】を持っている。リリアに言われた通り、火球を生み出すと同時に、周囲の空気を動かすイメージを強く念じた。
最初はうまくいかなかった。だが、何度も繰り返すうちに、コツのようなものが掴めてきた。火球を放つ瞬間、僅かな追い風を起こす。すると、火球の飛距離が目に見えて伸びたのだ。威力そのものは変わらない。だが、射程が伸びるだけでも、戦術的な価値は大きく変わる。
「すごい……! ゴブ様は、魔法の才能があるのかもしれません!」
リリアが、興奮したように声を上げる。
才能、か。おそらく違うだろう。これは、俺のユニークスキル【弱肉強食】がもたらす、特殊な効果なのかもしれない。
【弱肉強食】は、スキルという「結果」を奪う。それはつまり、魔法を行使するための根本的な資格や才能さえも、対象から奪い取っているのではないか。本来なら何年もかけて習得する魔法の基礎を、俺は捕食という行為によって、一瞬で我が物にしている。
学習よりも、遥かに効率的。そして、遥かに強力的。
俺は、自分のスキルの本当の恐ろしさと、その可能性の底知れなさを改めて実感した。
俺はリリアに他の魔法の理論についても質問した。
「例えば、俺の持つ【溶解液】は、水の魔法の亜種と考えることはできるか?」
「溶解液……酸の性質を持つ液体ですね。それは、水と土の元素を不安定な形で混ぜ合わせた結果と考えられます。純粋な水の魔法とは少し違いますが、応用は可能かもしれません。例えば、水の膜で包んで威力を高めたり、逆に土の魔法で中和したり……」
リリアの言葉が、俺の頭の中に眠っていたスキルたちを次々と結びつけていく。
【溶解液】と【硬質外皮】。水と土。
【突進】と【跳躍】。風。
【怪力】と【頑強】。土。
【火魔法】。火。
俺がこれまでバラバラに集めてきたスキルたちが、四大元素という新たな物差しによって、再分類されていく。そして、それらを組み合わせることで、全く新しい戦術が生まれる可能性が見えてきた。
例えば、硬質化した腕に溶解液を纏わせれば、防御と攻撃を兼ね備えた盾になるかもしれない。突進に火魔法を組み合わせれば、炎の弾丸と化すこともできるだろう。
スキルのコンボ。
まるで格闘ゲームのようだが、この世界ではそれが現実の力となるのだ。
俺は、自分の成長が新たなステージに入ったことを確信した。これまでは、より強い魔物を狩り、より強力な単体のスキルを求めることだけが成長だった。
だが、これからは違う。
手持ちのスキルをどう理解し、どう組み合わせるか。知恵と戦略こそが、俺の真の武器となる。
そして、そのための最高の教師は、すぐ隣にいる。
俺はリリアに深く頭を下げた。
「礼を言う、リリア。お前の講義は、百のスキルにも勝る価値があった」
「そ、そんな……私は、知っていることをお話ししただけです」
「それが、俺にはないものなんだ。これからも頼む」
俺の真摯な態度に、リリアは戸惑いながらも嬉しそうに頷いた。
魔法という新たな戦術。それは、俺の組織を、単なる暴力集団から、知略を駆使する戦闘集団へと進化させる、大きな一歩となった。俺の食欲は、もはや単なる肉やスキルだけでは満たされない。知識。理論。世界の理。その全てを、俺は食らい尽くしたいと、心の底から渇望し始めていた。
俺は、この機会を逃さなかった。俺の組織がさらに発展するためには、新たな知識の導入が不可欠だ。そして、その最大の源泉がリリアだった。
俺は彼女に、定期的に「講義」を開くよう依頼した。テーマは、魔法の基礎理論。
「よろしいのですか? 私の話は、ゴブリンの方々には難しいかもしれませんが……」
「構わん。理解できる者だけでいい。いや、最初は俺一人でもいい。お前の知識を、この群れに根付かせたいんだ」
俺たちの最初の教室は、洞窟の広場の片隅だった。俺と、知的好奇心の強いいくつかのゴブリン、そして興味深そうに見つめるルゥを前に、リリアは少し緊張しながらも、魔法の講義を始めた。
彼女はまず、元素魔法の四大元素、火・水・風・土の相関関係から説明を始めた。火は風で勢いを増し、水に弱い。土は水を堰き止め、風に削られる。それは、俺が前世のゲームで聞きかじった知識と似ていたが、リリアの説明はもっと体系的で、世界の理そのものに根差していた。
「例えば、ゴブ様がお持ちの【火魔法】。今は火球を放つだけですが、理論を理解すれば、応用が可能です。空気中の風の元素を僅かでも操作できれば、火球の飛距離や威力を増すことができます。また、土の元素で壁を作れば、敵の水の魔法を防ぐことも……」
彼女の説明を聞きながら、俺は自分の思考が如何に短絡的だったかを思い知らされた。
俺にとってスキルとは、ゲームのコマンドのようなものだった。ボタンを押せば、決まった効果が発動する。それだけだ。
だが、リリアの話す魔法は違った。それは、世界の構成要素を理解し、組み合わせ、新たな現象を創造する、科学やプログラミングに近い、知的な営みだった。
【弱肉強食】は、俺に「コマンド」そのものを与えてくれる。だが、そのコマンドをどう組み合わせ、どういう状況で使うか。その「プログラム」を組むのは、俺自身の知恵なのだ。
講義の後、俺は早速実践に移った。俺は冒険者のリーダーを捕食したことで、【火魔法Lv1】を持っている。リリアに言われた通り、火球を生み出すと同時に、周囲の空気を動かすイメージを強く念じた。
最初はうまくいかなかった。だが、何度も繰り返すうちに、コツのようなものが掴めてきた。火球を放つ瞬間、僅かな追い風を起こす。すると、火球の飛距離が目に見えて伸びたのだ。威力そのものは変わらない。だが、射程が伸びるだけでも、戦術的な価値は大きく変わる。
「すごい……! ゴブ様は、魔法の才能があるのかもしれません!」
リリアが、興奮したように声を上げる。
才能、か。おそらく違うだろう。これは、俺のユニークスキル【弱肉強食】がもたらす、特殊な効果なのかもしれない。
【弱肉強食】は、スキルという「結果」を奪う。それはつまり、魔法を行使するための根本的な資格や才能さえも、対象から奪い取っているのではないか。本来なら何年もかけて習得する魔法の基礎を、俺は捕食という行為によって、一瞬で我が物にしている。
学習よりも、遥かに効率的。そして、遥かに強力的。
俺は、自分のスキルの本当の恐ろしさと、その可能性の底知れなさを改めて実感した。
俺はリリアに他の魔法の理論についても質問した。
「例えば、俺の持つ【溶解液】は、水の魔法の亜種と考えることはできるか?」
「溶解液……酸の性質を持つ液体ですね。それは、水と土の元素を不安定な形で混ぜ合わせた結果と考えられます。純粋な水の魔法とは少し違いますが、応用は可能かもしれません。例えば、水の膜で包んで威力を高めたり、逆に土の魔法で中和したり……」
リリアの言葉が、俺の頭の中に眠っていたスキルたちを次々と結びつけていく。
【溶解液】と【硬質外皮】。水と土。
【突進】と【跳躍】。風。
【怪力】と【頑強】。土。
【火魔法】。火。
俺がこれまでバラバラに集めてきたスキルたちが、四大元素という新たな物差しによって、再分類されていく。そして、それらを組み合わせることで、全く新しい戦術が生まれる可能性が見えてきた。
例えば、硬質化した腕に溶解液を纏わせれば、防御と攻撃を兼ね備えた盾になるかもしれない。突進に火魔法を組み合わせれば、炎の弾丸と化すこともできるだろう。
スキルのコンボ。
まるで格闘ゲームのようだが、この世界ではそれが現実の力となるのだ。
俺は、自分の成長が新たなステージに入ったことを確信した。これまでは、より強い魔物を狩り、より強力な単体のスキルを求めることだけが成長だった。
だが、これからは違う。
手持ちのスキルをどう理解し、どう組み合わせるか。知恵と戦略こそが、俺の真の武器となる。
そして、そのための最高の教師は、すぐ隣にいる。
俺はリリアに深く頭を下げた。
「礼を言う、リリア。お前の講義は、百のスキルにも勝る価値があった」
「そ、そんな……私は、知っていることをお話ししただけです」
「それが、俺にはないものなんだ。これからも頼む」
俺の真摯な態度に、リリアは戸惑いながらも嬉しそうに頷いた。
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