ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

文字の大きさ
52 / 97

第52話:未来知識の警告

しおりを挟む
王都を襲ったテロの衝撃は、学園の日常を完全に奪い去った。
生徒たちの間では、犯人に関する根も葉もない噂が飛び交い、誰もが先の見えない不安に怯えていた。
生徒会室の空気も、鉛のように重い。
「くそっ……!騎士団は何をやっているんだ!犯人はまだ捕まらないのか!」
カイルが、苛立ちを隠さずにテーブルを叩いた。彼の正義感は、何もできない自分自身への無力感となって、彼を苛んでいた。
「落ち着きなさい、カイル」
セレスティーナが、冷静に彼を諭す。だが、その声にも焦りの色が滲んでいた。
「相手は、周到に準備を重ねた組織よ。そう簡単に見つかるはずがないわ。問題は、次がいつ、どこで起こるかよ」
その言葉に、室内の誰もが押し黙った。
そうだ。これは、まだ序章に過ぎない。俺以外の誰もが、その事実を肌で感じ取っていた。

俺は、窓の外に広がる王都の景色を見つめながら、思考を巡らせていた。
未来を知っている。だが、それをどう伝える?
「未来が見える」などと言えば、聖人どころか狂人扱いされるのがオチだ。それでは誰も動かせない。
俺が使える武器は、俺がこれまで築き上げてきた『若き賢者』という評価。そして、その評価に説得力を持たせるための、論理的な『推測』という名の未来予知だ。
俺は、意を決して口を開いた。

「――犯人の目的は、おそらく王都の機能麻痺だ」
俺の静かな声に、全員の視線が集中する。
「最初の標的は、商業ギルドの倉庫だった。あれは、王都の物流の心臓部だ。そこを破壊することで、物資の流れを止め、民衆に経済的な不安を与える。非常に効果的な一手だ」
俺は、テーブルの上に広げられた王都の地図を指差した。
「だが、倉庫を破壊しただけでは不十分だ。王都には、まだ外部から物資を運び込むルートが残っている。犯人が本気で王都を麻痺させたいなら、次はそのルートを断ち切ろうとするはずだ」
俺の指が、地図の上を滑り、一点で止まった。
その場所を見て、セレスティーティーナが息を呑んだ。

「……中央大橋」
俺は、静かに告げた。
「王都と南部を結ぶ、最大の動脈。この橋が落ちれば、王都の物流は半壊する。民衆のパニックは、決定的になるだろう。犯人にとって、これ以上なく効果的な、次の標的だ」
俺の言葉に、生徒会室は水を打ったように静まり返った。
それは、ただの勘や憶測ではなかった。犯人の心理と目的を完璧に読み解き、そこから導き出された、あまりにも論理的で、説得力のある推論。
少なくとも、仲間たちの目にはそう映っていた。

「……さすがだ、アレン様!」
最初に沈黙を破ったのは、カイルだった。
「そうだ!その通りだ!犯人の狙いは、それしかない!」
彼は、俺の分析に一点の曇りもなく心酔し、完全に同意していた。
「アレン……貴方、そこまで読んでいたのね」
セレスティーナも、驚愕の表情で俺を見つめている。その瞳には、もはや疑いの色など微塵もない。
「……推論における飛躍が見られません。現状の情報から導き出せる、最も蓋然性の高い結論です」
ルナが、静かに俺の分析を肯定した。

「ですが、アレン様!それをどうやって騎士団に伝えるんですか!俺たち生徒会の言うことなんて、まともに聞いてくれるかどうか……」
カイルが、新たな問題点を口にする。
その通りだ。いくら俺の推論が完璧でも、それを信じさせ、組織を動かせなければ意味がない。
だが、俺にはそのための切り札があった。
俺は、セレスティーナへと視線を向けた。
「セレス。君の力が必要だ」

俺の意図を、彼女は即座に理解した。
セレスティーナは、力強く頷いた。
「ええ、分かっているわ。王女として、そして生徒会の一員として、私が騎士団に直接、警告する」
彼女は立ち上がり、その瞳に王族としての強い意志を宿した。
「父上にも、話を通す。これはもはや、ただの事件ではない。王国に対する、宣戦布告よ」

すぐに、王宮騎士団の詰所に、緊急の魔力通信が繋がれた。
相手は、俺が模擬戦で一本取った、あのライナス団長だ。
『――姫様!一体、何事でございますか!』
通信機から、ライナス団長の訝しげな声が響く。
セレスティーナは、凛とした声で、単刀直入に告げた。
「ライナス。テロの次の標的は、中央大橋よ。これは、私の婚約者、アレン・フォン・クラインフェルトの分析に基づく、確度の高い予測です」
『なんと!?クラインフェルト卿の……!』
ライナス団長の声に、動揺が走った。彼は、俺の異常なまでの実力を、その身をもって知っている。ただの子供の戯言として、無視することはできない。

「今すぐ、橋の周辺に騎士を配置し、警備を最大限に強化なさい。そして、橋を通行止めにし、市民を避難させるのです。これは、王女としての命令よ!」
セレスティーティーナの、有無を言わせぬ命令。
ライナス団長は、数秒間、沈黙した。そして、重々しく、しかし力強く答えた。
『――御意!』

通信が切れる。
生徒会室に、張り詰めた沈黙が戻った。
俺たちは、やるべきことをやった。あとは、騎士団が間に合うか、そして、俺の予測が本当に正しいのか。それを待つだけだ。
俺は、窓の外に広がる王都の空を見つめた。
ゲームの知識によれば、次の爆破は、日没。あと、数時間しかない。
被害を、最小限に食い止められるか。
俺の胃は、結果を待つ被告人のように、静かに、しかし激しく、その痛みを訴え続けていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...