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第64話 魔導師の故郷へ
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王国総司令官という身に余る役職を拝命した俺は、休む間もなく最初のアーティファクト確保へと動き出した。
目的地は北の果て、アシュフォード辺境伯領。
俺とカイル、セレスティーナ、リリアーナ、そして案内役を兼ねるルナ。Sクラスの五人に加え、ライナス団長が選抜した騎士団の精鋭十名を加えた少数精鋭の部隊が編成された。
大軍を動かせば闇の教団にこちらの狙いを察知される危険性がある。今回の任務は迅速かつ隠密に行う必要があった。
北へ向かう馬車の中、ルナは珍しく少しだけ饒舌だった。
「アシュフォード領は古くから魔術の研究が盛んな土地です。大地そのものが強い魔力を帯びている。そのため古代の遺跡も数多く残されています」
彼女は故郷の地図を広げながら冷静に説明する。だがその声には、わずかながら誇らしさが滲んでいるように聞こえた。
「最初のアーティファクト『星詠みの宝珠』が眠るとされるのは、領地の中心にある『星見の塔』。アシュフォード家が代々守り続けてきた禁足地です」
「君の実家が直接管理している場所なのか」
俺が問うと彼女は静かに頷いた。
「ええ。ですが塔の内部は、数百年前に初代当主が施した強力な結界に守られており、我々一族ですら最深部へは立ち入ることができません」
「なるほどな。だからアーティファクトも今まで手つかずのままだったわけか」
俺は納得した。そしてそれは同時に、俺たちの前にも大きな障壁が立ちはだかることを意味していた。
数日後、俺たちはアシュフォード辺境伯領の領都に到着した。
そこは王都とは全く違う独特の雰囲気に満ちていた。街のあちこちに魔法の光が灯り、自動で動くゴーレムが荷物を運んでいる。行き交う人々も魔術師のローブを纏った者が多い。まさに魔導師の故郷と呼ぶにふさわしい光景だった。
俺たちを出迎えたのはルナの父親である、現アシュフォード辺境伯だった。
娘に似て感情の読めない、いかめしい顔つきの男だ。だがその瞳の奥には確かな知性と、娘の帰還を喜ぶ父親としての色がわずかに見えた。
「――話は陛下から伺っております、アレン宰相閣下」
辺境伯は俺に向かって深々と頭を下げた。
「まさか古の伝承が真実であったとは……。そしてその危機に、我が娘がお力添えできていること、父として誇りに思います」
彼は俺たちを城の奥へと案内した。
「『星見の塔』への道は我らアシュフォード家が開きましょう。ですがその先の結界を破れるかどうかは、貴方様の力にかかっております」
その言葉には俺への絶対的な信頼と、そして試すような響きがあった。
その夜、俺たちは辺境伯の城でつかの間の休息を取っていた。
だがその平穏はすぐに破られた。
「――敵襲!」
城の外から騎士の鋭い声が響いた。
窓の外を見ると、城を取り囲む森の中から無数の黒い影が蠢きながら現れるのが見えた。
闇の教団だ。
俺たちの動きは完全に読まれていたのだ。
「馬鹿な……! なぜ我々の動きが……!」
ライナス団長の部下である騎士隊長が歯噛みする。
「おそらく内通者がいるのでしょう。あるいは我々が気づかない特殊な追跡魔法か」
ルナが冷静に分析する。
「話は後だ! 迎撃するぞ!」
カイルが剣を抜き、セレスティーナも戦闘態勢に入る。
城の兵士たちも一斉に動き出し、城壁の上から矢や魔法が放たれる。
だが敵の数はあまりにも多かった。
黒ローブの教団員たちだけでなく、彼らが召喚したと思われるおぞましい姿の魔獣たちが次々と城壁に取り付いてくる。
「アレン様! どうすれば!」
カイルが俺に指示を仰ぐ。
俺は城壁の上から冷静に戦況を見つめていた。
敵の狙いは明らかだ。
俺たちをこの城に釘付けにし、その間に別動隊が『星見の塔』へと向かう。陽動だ。
俺は即座に決断を下した。
「カイル、セレスティーナ、そして騎士団はここで城の防衛に当たってくれ! 敵の主力をここで食い止めるんだ!」
「なっ!? アレン様はどうされるのですか!」
「俺とルナ、そしてリリアーナの三人で塔へ向かう」
俺の言葉にカイルたちが息を呑んだ。
「無茶です! 敵の別動隊がいるかもしれないんですよ!」
「分かっている。だが時間がない。それに塔の結界を破るには、俺とルナの知識、そしてリリアーナの聖なる力が必要になる。適材適所だ」
俺は有無を言わせぬ口調で言った。
「ここは任せたぞ、カイル。お前ならできるな?」
俺の絶対的な信頼を込めた視線に、カイルは一瞬言葉を詰まらせた。そして力強く頷いた。
「……御意! アレン様の背中は俺たちが必ず守ります!」
俺はルナとリリアーナを伴い、城の裏口から闇に紛れて飛び出した。
背後で繰り広げられる激しい戦闘の音を聞きながら。
闇の教団の影はすでにこの魔導師の故郷にまで、深く、そして広く浸透していた。
俺たちの最初の任務は、いきなり最悪の形で始まったのだ。
俺は夜の森を駆け抜けながら、これから始まるであろう塔での死闘を予感し、奥歯を強く噛み締めた。
目的地は北の果て、アシュフォード辺境伯領。
俺とカイル、セレスティーナ、リリアーナ、そして案内役を兼ねるルナ。Sクラスの五人に加え、ライナス団長が選抜した騎士団の精鋭十名を加えた少数精鋭の部隊が編成された。
大軍を動かせば闇の教団にこちらの狙いを察知される危険性がある。今回の任務は迅速かつ隠密に行う必要があった。
北へ向かう馬車の中、ルナは珍しく少しだけ饒舌だった。
「アシュフォード領は古くから魔術の研究が盛んな土地です。大地そのものが強い魔力を帯びている。そのため古代の遺跡も数多く残されています」
彼女は故郷の地図を広げながら冷静に説明する。だがその声には、わずかながら誇らしさが滲んでいるように聞こえた。
「最初のアーティファクト『星詠みの宝珠』が眠るとされるのは、領地の中心にある『星見の塔』。アシュフォード家が代々守り続けてきた禁足地です」
「君の実家が直接管理している場所なのか」
俺が問うと彼女は静かに頷いた。
「ええ。ですが塔の内部は、数百年前に初代当主が施した強力な結界に守られており、我々一族ですら最深部へは立ち入ることができません」
「なるほどな。だからアーティファクトも今まで手つかずのままだったわけか」
俺は納得した。そしてそれは同時に、俺たちの前にも大きな障壁が立ちはだかることを意味していた。
数日後、俺たちはアシュフォード辺境伯領の領都に到着した。
そこは王都とは全く違う独特の雰囲気に満ちていた。街のあちこちに魔法の光が灯り、自動で動くゴーレムが荷物を運んでいる。行き交う人々も魔術師のローブを纏った者が多い。まさに魔導師の故郷と呼ぶにふさわしい光景だった。
俺たちを出迎えたのはルナの父親である、現アシュフォード辺境伯だった。
娘に似て感情の読めない、いかめしい顔つきの男だ。だがその瞳の奥には確かな知性と、娘の帰還を喜ぶ父親としての色がわずかに見えた。
「――話は陛下から伺っております、アレン宰相閣下」
辺境伯は俺に向かって深々と頭を下げた。
「まさか古の伝承が真実であったとは……。そしてその危機に、我が娘がお力添えできていること、父として誇りに思います」
彼は俺たちを城の奥へと案内した。
「『星見の塔』への道は我らアシュフォード家が開きましょう。ですがその先の結界を破れるかどうかは、貴方様の力にかかっております」
その言葉には俺への絶対的な信頼と、そして試すような響きがあった。
その夜、俺たちは辺境伯の城でつかの間の休息を取っていた。
だがその平穏はすぐに破られた。
「――敵襲!」
城の外から騎士の鋭い声が響いた。
窓の外を見ると、城を取り囲む森の中から無数の黒い影が蠢きながら現れるのが見えた。
闇の教団だ。
俺たちの動きは完全に読まれていたのだ。
「馬鹿な……! なぜ我々の動きが……!」
ライナス団長の部下である騎士隊長が歯噛みする。
「おそらく内通者がいるのでしょう。あるいは我々が気づかない特殊な追跡魔法か」
ルナが冷静に分析する。
「話は後だ! 迎撃するぞ!」
カイルが剣を抜き、セレスティーナも戦闘態勢に入る。
城の兵士たちも一斉に動き出し、城壁の上から矢や魔法が放たれる。
だが敵の数はあまりにも多かった。
黒ローブの教団員たちだけでなく、彼らが召喚したと思われるおぞましい姿の魔獣たちが次々と城壁に取り付いてくる。
「アレン様! どうすれば!」
カイルが俺に指示を仰ぐ。
俺は城壁の上から冷静に戦況を見つめていた。
敵の狙いは明らかだ。
俺たちをこの城に釘付けにし、その間に別動隊が『星見の塔』へと向かう。陽動だ。
俺は即座に決断を下した。
「カイル、セレスティーナ、そして騎士団はここで城の防衛に当たってくれ! 敵の主力をここで食い止めるんだ!」
「なっ!? アレン様はどうされるのですか!」
「俺とルナ、そしてリリアーナの三人で塔へ向かう」
俺の言葉にカイルたちが息を呑んだ。
「無茶です! 敵の別動隊がいるかもしれないんですよ!」
「分かっている。だが時間がない。それに塔の結界を破るには、俺とルナの知識、そしてリリアーナの聖なる力が必要になる。適材適所だ」
俺は有無を言わせぬ口調で言った。
「ここは任せたぞ、カイル。お前ならできるな?」
俺の絶対的な信頼を込めた視線に、カイルは一瞬言葉を詰まらせた。そして力強く頷いた。
「……御意! アレン様の背中は俺たちが必ず守ります!」
俺はルナとリリアーナを伴い、城の裏口から闇に紛れて飛び出した。
背後で繰り広げられる激しい戦闘の音を聞きながら。
闇の教団の影はすでにこの魔導師の故郷にまで、深く、そして広く浸透していた。
俺たちの最初の任務は、いきなり最悪の形で始まったのだ。
俺は夜の森を駆け抜けながら、これから始まるであろう塔での死闘を予感し、奥歯を強く噛み締めた。
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