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第八十三話 運命の謁見
エルミール王国から派遣された使節団は、ヴァルハイト公爵邸の威容と、そこに満ちる厳格な雰囲気に、完全に気圧されていた。
彼らは、謁見の間へと通される。
そこには、帝国の上級貴族や高官たちが、まるで壁のように、ずらりと居並んでいた。その誰もが、エルミールの使節たちを、冷たい、値踏みするような目で見つめている。
謁見の間の上座。
そこには、まだ主のいない、二つの豪奢な椅子が置かれていた。
使節団の長であるバーンズ子爵は、生きた心地がしなかった。
本国で、王太子アルフォンスから受けた命令。
『聖女エリアーナを、即刻、返還せよ』
その、あまりにも現実離れした要求を、この、帝国の怪物と謳われる公爵の前で、本当に口にしなければならないのか。
彼の背中を、冷たい汗が伝う。
その時、謁見の間の扉が、静かに開かれた。
そして、侍従が、朗々とその名を告げる。
「ヴァルハイト公爵、カイン・ド・ヴァルハイト閣下、並びに、エリアーナ・フォン・リーゼンガング様、ご入場!」
その場の全ての視線が、扉へと注がれた。
現れた二人の姿に、使節団は、言葉を失った。
カインは、黒を基調とした、帝国軍最高位の軍礼服に身を包んでいた。胸には、数々の勲章が輝き、その立ち姿は、絶対的な王者の威厳に満ちている。
そして、その素顔。
呪いの痣が消え去った、神々しいまでの美貌。噂には聞いていたが、実際に目にすると、その衝撃は、想像を絶していた。
だが、使節たちの心を、それ以上に打ちのめしたのは、彼の隣に立つ、エリアーナの姿だった。
彼女が纏っていたのは、威厳と気品に満ちた、深い紫色のドレス。その胸元には、月の光を宿した『月光石』のネックレスが輝き、左手の薬指には、虹色の光を放つ婚約指輪が、確かな存在感を放っている。
かつての、怯え、やつれていた少女の面影は、どこにもない。
そこにいたのは、内から溢れ出る自信と、清浄なオーラに満ちた、一人の気高い貴婦人だった。
その紫水晶の瞳は、どこまでも澄み渡り、使節たちの卑小さを、全て見透かしているかのようだった。
それは、もはや人間ではない。
誰もがひれ伏す、女神そのものの姿だった。
エリアーナは、カインに優雅にエスコートされながら、居並ぶ帝国貴族たちの間を、堂々とした足取りで歩んでいく。
その一歩一歩が、使節たちの心を、絶望の淵へと叩き落としていった。
無理だ。
勝てるはずがない。
この、神々しいまでの一対を前に、我々が何を言えようというのか。
バーンズ子爵は、戦う前から、完全に敗北を悟っていた。
エリアーナは、カインの隣、上座に用意された椅子へと、優雅に腰を下ろした。
カインは、そんな彼女の姿を、満足げに見つめると、その手に、そっと自分の手を重ねる。
その、あまりにも親密で、そして完璧に調和した二人の姿は、彼らが、誰にも引き裂くことのできない、運命の相手であることを、何よりも雄弁に物語っていた。
カインは、氷のように冷たい目で、床にひれ伏す使節団を見下ろした。
「……エルミールの者たちよ。面を上げよ」
その、地を這うような低い声に、バーンズ子爵の身体が、びくりと震える。
彼は、意を決して顔を上げた。
そして、主君アルフォンスから託された、あの、あまりにも愚かで、傲慢な要求を、口にしようと、震える唇を、開いた。
謁見の場は、整った。
エリアーナは、カインの隣で、静かに、かつての同胞たちを見つめていた。
もう、彼女の心に、動揺はない。
これから始まるのは、ただの謁見ではない。
偽りの聖女として死んだ、過去の自分との、決別の儀式。
そして、ヴァルハイトの未来の公爵妃として、生まれ変わるための、戴冠式なのだ。
その、運命の瞬間に、彼女は、揺るぎない決意をもって、臨もうとしていた。
彼らは、謁見の間へと通される。
そこには、帝国の上級貴族や高官たちが、まるで壁のように、ずらりと居並んでいた。その誰もが、エルミールの使節たちを、冷たい、値踏みするような目で見つめている。
謁見の間の上座。
そこには、まだ主のいない、二つの豪奢な椅子が置かれていた。
使節団の長であるバーンズ子爵は、生きた心地がしなかった。
本国で、王太子アルフォンスから受けた命令。
『聖女エリアーナを、即刻、返還せよ』
その、あまりにも現実離れした要求を、この、帝国の怪物と謳われる公爵の前で、本当に口にしなければならないのか。
彼の背中を、冷たい汗が伝う。
その時、謁見の間の扉が、静かに開かれた。
そして、侍従が、朗々とその名を告げる。
「ヴァルハイト公爵、カイン・ド・ヴァルハイト閣下、並びに、エリアーナ・フォン・リーゼンガング様、ご入場!」
その場の全ての視線が、扉へと注がれた。
現れた二人の姿に、使節団は、言葉を失った。
カインは、黒を基調とした、帝国軍最高位の軍礼服に身を包んでいた。胸には、数々の勲章が輝き、その立ち姿は、絶対的な王者の威厳に満ちている。
そして、その素顔。
呪いの痣が消え去った、神々しいまでの美貌。噂には聞いていたが、実際に目にすると、その衝撃は、想像を絶していた。
だが、使節たちの心を、それ以上に打ちのめしたのは、彼の隣に立つ、エリアーナの姿だった。
彼女が纏っていたのは、威厳と気品に満ちた、深い紫色のドレス。その胸元には、月の光を宿した『月光石』のネックレスが輝き、左手の薬指には、虹色の光を放つ婚約指輪が、確かな存在感を放っている。
かつての、怯え、やつれていた少女の面影は、どこにもない。
そこにいたのは、内から溢れ出る自信と、清浄なオーラに満ちた、一人の気高い貴婦人だった。
その紫水晶の瞳は、どこまでも澄み渡り、使節たちの卑小さを、全て見透かしているかのようだった。
それは、もはや人間ではない。
誰もがひれ伏す、女神そのものの姿だった。
エリアーナは、カインに優雅にエスコートされながら、居並ぶ帝国貴族たちの間を、堂々とした足取りで歩んでいく。
その一歩一歩が、使節たちの心を、絶望の淵へと叩き落としていった。
無理だ。
勝てるはずがない。
この、神々しいまでの一対を前に、我々が何を言えようというのか。
バーンズ子爵は、戦う前から、完全に敗北を悟っていた。
エリアーナは、カインの隣、上座に用意された椅子へと、優雅に腰を下ろした。
カインは、そんな彼女の姿を、満足げに見つめると、その手に、そっと自分の手を重ねる。
その、あまりにも親密で、そして完璧に調和した二人の姿は、彼らが、誰にも引き裂くことのできない、運命の相手であることを、何よりも雄弁に物語っていた。
カインは、氷のように冷たい目で、床にひれ伏す使節団を見下ろした。
「……エルミールの者たちよ。面を上げよ」
その、地を這うような低い声に、バーンズ子爵の身体が、びくりと震える。
彼は、意を決して顔を上げた。
そして、主君アルフォンスから託された、あの、あまりにも愚かで、傲慢な要求を、口にしようと、震える唇を、開いた。
謁見の場は、整った。
エリアーナは、カインの隣で、静かに、かつての同胞たちを見つめていた。
もう、彼女の心に、動揺はない。
これから始まるのは、ただの謁見ではない。
偽りの聖女として死んだ、過去の自分との、決別の儀式。
そして、ヴァルハイトの未来の公爵妃として、生まれ変わるための、戴冠式なのだ。
その、運命の瞬間に、彼女は、揺るぎない決意をもって、臨もうとしていた。
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