偽りの聖女と罵られたので、隣国の訳あり公爵様と結託して祖国を滅ぼします~本当の力に目覚めた私を今更返せと言われても、もう遅いのです~

夏見ナイ

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第八十七話 力の証明

「バーンズ子爵」
エリアーナの声は、静かだったが、謁見の間の隅々にまで、凛として響き渡った。
床にへたり込んでいた子爵は、恐る恐る顔を上げる。目の前に立つ、女神のように美しい少女。その瞳は、もはや彼が知る、かつてのエリアーナのものではなかった。
「あなた方は、私を『聖女』と呼び、その返還を要求なさいました。ですが、私は、あなた方に、はっきりと申し上げておかなければなりません」
エリアーナは、そこで一度、言葉を切った。
そして、その場にいる全ての者たちに、聞こえるように、はっきりと宣言した。

「―――私は、聖女ではございません」

その、衝撃的な言葉に、謁見の間が、再びどよめいた。
帝国の貴族たちでさえ、驚きを隠せない。彼女は、帝国を救った女神ではなかったのか。
バーンズ子爵は、混乱した。
聖女ではない? では、あのスタンピードを鎮圧したという奇跡は、一体何だったのだ。
エリアーナは、そんな彼らの動揺を、楽しむかのように、静かに続けた。
「あなた方が崇め奉っていた『聖女』とは、神の力を借り受ける、ただの器に過ぎません。ですが、私の力は、それとは全く異なるもの」
彼女は、そっと、その白い両手を、胸の前に掲げた。
そして、心の中で、優しく、精霊たちに語りかける。
(みんな。少しだけ、力を貸してくれる? この、哀れな人たちに、真実の光を、見せてあげたいの)
その願いに、精霊たちが、歓喜の声で応えた。
エリアーナの身体から、再び、あの神々しいまでの、金色の光が溢れ出した。
「おお……!」
帝国の貴族たちから、感嘆の声が上がる。
だが、エリアー-ナが起こした奇跡は、それだけではなかった。
彼女が、その光る手を、ゆっくりと広げると、何もないはずの、謁見の間の空間から、光の粒子が集まり始めた。
粒子は、みるみるうちに形を成し、美しい花びらとなって、舞い降りてくる。
それは、一種類ではない。
春を告げる、桜の花びら。
夏を彩る、薔薇の花びら。
秋を染める、菊の花びら。
そして、冬に咲く、椿の花びら。
四季折々の、ありとあらゆる花々が、光となって生まれ、幻想的な吹雪のように、謁見の間を舞い始めたのだ。
甘く、そして清浄な花の香りが、部屋中を満たしていく。
それは、もはや魔術や奇跡という言葉では、表現できない光景だった。
まさに、生命そのものを、無から創造する、神の御業。
「……これが、私の力」
エリアーナは、舞い散る光の花びらの中で、静かに告げた。
「私は、神の力を借りるのではない。この世界に満ちる、万物の魂……精霊たちと語り、その力を、友として借り受ける者。『精霊の愛し子』なのです」
聖女と、精霊の愛し子。
その、絶対的な格の違い。
エルミールの使節団は、その事実を、目の前で繰り広げられる、人知を超えた奇跡と共に、骨の髄まで叩き込まれた。
自分たちが、どれほど矮小な存在を、崇めていたのか。
そして、どれほど偉大な存在を、その手で追放してしまったのか。
その、残酷なまでの真実が、彼らの、最後のプライドさえも、粉々に打ち砕いた。
エリアーナは、ゆっくりと、その光を収めていった。
舞い散っていた花びらは、きらきらとした光の粒子となって、跡形もなく消えていく。
後には、花の甘い香りだけが、残されていた。
「……お分かり、いただけましたか」
エリアーナは、魂が抜けたように、呆然と座り込むバーンズ子爵に、最後の言葉を告げた。
「私を、あなた方の、その小さな物差しで、測ろうなどと、思わないことです。そして、二度と、私の前に、その愚かな顔を見せないでいただきたい」
それは、慈悲などではない。
絶対的な強者による、敗者への、冷徹な最後通告だった。
バーンズ子爵は、もはや、何も答えられなかった。
ただ、その場で、何度も、何度も、意味のない頭を、床に打ち付け続けるだけだった。
その姿は、あまりにも惨めで、哀れだった。
カインは、その光景を、満足げに見つめていた。
エリアーナは、自分の想像以上に、完璧な形で、過去との決着を、つけてみせた。
暴力でもなく、罵倒でもなく。
ただ、圧倒的なまでの、格の違いを見せつけることで。
これ以上の、完璧な復讐劇が、他にあるだろうか。
カインは、玉座から立ち上がると、エリアーナの元へ歩み寄った。
そして、その肩を、誇らしげに抱き寄せ、帝国の貴族たちに、高らかに宣言した。
「皆、見たか! これこそが、我が妻となる、エリアーナの、真の姿だ!」
その言葉に、帝国の貴族たちは、万雷の拍手と、歓声で応えた。
「「エリアーナ様、万歳!!」」
「「ヴァルハイト公爵家、万歳!!」」
その、熱狂的な祝福の声が、エルミールの使節団の、打ち砕かれた心に、とどめを刺すかのように、容赦なく響き渡っていた。
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