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第三十五話 王都への帰還と新たな企み
境界都市バザールを後にした勇者パーティの道のりは、困難を極めた。彼らの乗る馬車は、まるで鉛の塊を引きずるように、遅々としか進まない。誰もが口を閉ざし、重苦しい沈黙だけが、車内に満ちていた。
その沈黙を破ったのは、甲高い魔物の咆哮だった。
「グリフォンの群れだ! 囲まれたぞ!」
御者の悲鳴に、アレスたちは渋々馬車を降りる。空には、五頭のグリフォンが旋回していた。それは決して倒せない敵ではない。ノアがいた頃なら、ものの数分で片付く相手だった。
「ちっ、面倒な!」
アレスは悪態をつき、聖剣を手に真っ先に一頭へと斬りかかる。だが、残りの四頭が、彼のいない方向からライオネルとアイザックに襲いかかった。
「ライオネル! 盾を固めろ!」
「無茶を言うな! 四方からでは防ぎきれん!」
ライオネルの大盾が、グリフォンの鋭い爪に弾かれる。その隙を突いて、別のグリフォンが彼の肩を深く切り裂いた。
「ぐあっ!」
「アイザック! 援護はまだか!」
「こいつら、動きが速すぎる! 狙いが定まらん!」
アイザックの放つ魔法は、空中で素早く旋回するグリフォンに翻弄され、虚しく地面を抉るだけだった。ノアの『減速』や『命中率低下』の呪いがあれば、これらの攻撃は容易く当たっていただろう。そのあまりにも大きな差を、彼らは再び痛感させられていた。
「オリヴィア! 回復を!」
ライオネルの悲鳴に、オリヴィアが必死で治癒魔法をかける。だが、傷つく仲間は次々と増えていく。彼女の魔力は、みるみるうちに底を突きかけていた。
「ええい、役立たずめ!」
アレスは一人で一頭を仕留めたものの、仲間たちの惨状を見て悪態をつく。彼が救援に向かおうとしたその時、背後から別のグリフォンが音もなく急降下してきた。誰もがそれに気づかない。絶体絶命の瞬間。
「危ない!」
オリヴィアが咄嗟に突き飛ばし、アレスは難を逃れた。だが、彼女の肩にグリフォンの爪が深く食い込む。
「ぐっ……!」
聖女の悲鳴に、アレスはようやく我に返り、怒りに任せてそのグリフォンを斬り捨てた。
戦闘は、多大な犠牲と消耗の末に、なんとか終結した。残ったのは、満身創痍の仲間たちと、さらに深まったパーティの亀裂だけだった。アレスは傷ついたオリヴィアを一瞥したが、感謝の言葉一つかけることなく、自分の手柄のように振る舞った。
その冷たい態度に、仲間たちの心は、決定的に彼から離れていった。
数日後、彼らはようやく王都へと帰り着いた。アレスは傷ついた仲間を宿に残し、一人で王城へと向かう。彼の顔には、辺境での屈辱の色はなく、自信に満ちた笑みさえ浮かんでいた。
玉座の間に通されたアレスは、国王アルトリウスの前に膝をついた。
「勇者アレス、ただいま帰還いたしました」
「うむ、ご苦労であった。辺境の調査、首尾はどうか」
威厳のある声で、国王が問う。
「はっ。古代遺跡の調査は滞りなく。それよりも、陛下にご報告すべき、憂慮すべき事態を発見いたしました」
アレスは、芝居がかった深刻な表情を作った。
「境界都市バザールにて、極めて危険な力を持つ呪術師を確認。その者の名はノア。人心を惑わす呪いの道具を作り、街の者たちを手懐けておりました。その力は、あるいは国家の安寧を脅かすものとなりかねません」
アレスは、ノアの力を誇張し、そこに邪な野心があるかのように歪めて報告した。クロエの圧倒的な力も、ノアが危険な手駒を従えている証拠だと付け加える。
国王アルトリウスは、百戦錬磨の王だ。アレスの言葉を鵜呑みにはしない。その報告に、わずかな私怨の匂いを感じ取っていた。だが、聖剣に選ばれた勇者の言葉を、無下にもできない。
「……分かった。その呪術師ノアについては、こちらでも調査しよう。勇者よ、しばし休むがよい」
国王の言葉に、アレスは計画が上手くいったことを確信し、玉座の間を後にした。彼の卑劣な企みは、こうして王の耳へと届いた。
国王は、アレスの背中を見送りながら、深いため息をつく。
「宰相。例の件、どう思う」
「はっ。勇者様の言葉とはいえ、にわかには……。ですが、万が一ということもございます。まずは密偵を放ち、真偽を確かめるのがよろしいかと」
「うむ。そうせよ」
王の命令が、静かに下される。
その頃、【ノアの箱舟】では、ノアが工房で新しい道具の試作品を手に、目を輝かせていた。
「ルナ、見てくれ! この『怠け者の雑巾』、床に置いておくだけで、勝手に掃除を始めるんだ!」
王都から伸びる昏い影が、自分たちの穏やかな日常に迫りつつあることを、彼はまだ知らなかった。
その沈黙を破ったのは、甲高い魔物の咆哮だった。
「グリフォンの群れだ! 囲まれたぞ!」
御者の悲鳴に、アレスたちは渋々馬車を降りる。空には、五頭のグリフォンが旋回していた。それは決して倒せない敵ではない。ノアがいた頃なら、ものの数分で片付く相手だった。
「ちっ、面倒な!」
アレスは悪態をつき、聖剣を手に真っ先に一頭へと斬りかかる。だが、残りの四頭が、彼のいない方向からライオネルとアイザックに襲いかかった。
「ライオネル! 盾を固めろ!」
「無茶を言うな! 四方からでは防ぎきれん!」
ライオネルの大盾が、グリフォンの鋭い爪に弾かれる。その隙を突いて、別のグリフォンが彼の肩を深く切り裂いた。
「ぐあっ!」
「アイザック! 援護はまだか!」
「こいつら、動きが速すぎる! 狙いが定まらん!」
アイザックの放つ魔法は、空中で素早く旋回するグリフォンに翻弄され、虚しく地面を抉るだけだった。ノアの『減速』や『命中率低下』の呪いがあれば、これらの攻撃は容易く当たっていただろう。そのあまりにも大きな差を、彼らは再び痛感させられていた。
「オリヴィア! 回復を!」
ライオネルの悲鳴に、オリヴィアが必死で治癒魔法をかける。だが、傷つく仲間は次々と増えていく。彼女の魔力は、みるみるうちに底を突きかけていた。
「ええい、役立たずめ!」
アレスは一人で一頭を仕留めたものの、仲間たちの惨状を見て悪態をつく。彼が救援に向かおうとしたその時、背後から別のグリフォンが音もなく急降下してきた。誰もがそれに気づかない。絶体絶命の瞬間。
「危ない!」
オリヴィアが咄嗟に突き飛ばし、アレスは難を逃れた。だが、彼女の肩にグリフォンの爪が深く食い込む。
「ぐっ……!」
聖女の悲鳴に、アレスはようやく我に返り、怒りに任せてそのグリフォンを斬り捨てた。
戦闘は、多大な犠牲と消耗の末に、なんとか終結した。残ったのは、満身創痍の仲間たちと、さらに深まったパーティの亀裂だけだった。アレスは傷ついたオリヴィアを一瞥したが、感謝の言葉一つかけることなく、自分の手柄のように振る舞った。
その冷たい態度に、仲間たちの心は、決定的に彼から離れていった。
数日後、彼らはようやく王都へと帰り着いた。アレスは傷ついた仲間を宿に残し、一人で王城へと向かう。彼の顔には、辺境での屈辱の色はなく、自信に満ちた笑みさえ浮かんでいた。
玉座の間に通されたアレスは、国王アルトリウスの前に膝をついた。
「勇者アレス、ただいま帰還いたしました」
「うむ、ご苦労であった。辺境の調査、首尾はどうか」
威厳のある声で、国王が問う。
「はっ。古代遺跡の調査は滞りなく。それよりも、陛下にご報告すべき、憂慮すべき事態を発見いたしました」
アレスは、芝居がかった深刻な表情を作った。
「境界都市バザールにて、極めて危険な力を持つ呪術師を確認。その者の名はノア。人心を惑わす呪いの道具を作り、街の者たちを手懐けておりました。その力は、あるいは国家の安寧を脅かすものとなりかねません」
アレスは、ノアの力を誇張し、そこに邪な野心があるかのように歪めて報告した。クロエの圧倒的な力も、ノアが危険な手駒を従えている証拠だと付け加える。
国王アルトリウスは、百戦錬磨の王だ。アレスの言葉を鵜呑みにはしない。その報告に、わずかな私怨の匂いを感じ取っていた。だが、聖剣に選ばれた勇者の言葉を、無下にもできない。
「……分かった。その呪術師ノアについては、こちらでも調査しよう。勇者よ、しばし休むがよい」
国王の言葉に、アレスは計画が上手くいったことを確信し、玉座の間を後にした。彼の卑劣な企みは、こうして王の耳へと届いた。
国王は、アレスの背中を見送りながら、深いため息をつく。
「宰相。例の件、どう思う」
「はっ。勇者様の言葉とはいえ、にわかには……。ですが、万が一ということもございます。まずは密偵を放ち、真偽を確かめるのがよろしいかと」
「うむ。そうせよ」
王の命令が、静かに下される。
その頃、【ノアの箱舟】では、ノアが工房で新しい道具の試作品を手に、目を輝かせていた。
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