【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ

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第37話 驕れる者たちの誤算

「ここが、お前たちの、墓場になる」

俺の、氷のように冷たい宣告は、彼らの僅かに残っていた理性を、完全に吹き飛ばしたようだった。
「……面白い! その減らず口、二度と叩けなくしてやるわ!」

最初に動いたのは、盗賊のイザークだった。
彼は、自慢の俊足を生かし、疾風のような速さで俺の死角へと回り込もうとする。狙いは、俺の背後を守るエリナか、あるいは、俺自身の首か。
かつての俺ならば、その速さに、反応すらできなかっただろう。

だが。
イザークの動きよりも、さらに速い影があった。

「グゥルアアアアアッ!!」

大地を揺るがす咆哮と共に、フェンが、黒鉄の床を蹴った。その巨体からは想像もつかないほどの、凄まじい瞬発力。白い閃光と化した彼は、イザークの進路上に、瞬時に割り込んだ。

「なっ!? しまっ――」

イザークの驚愕の声は、最後まで続かなかった。
フェンは、ただ、その巨大な前足で、イザークの体を、まるで、虫けらを払うかのように、軽く、薙ぎ払った。
それだけだった。

ドゴォッ!という、鈍い衝撃音。
イザークの体は、木の葉のように、いともたやすく宙を舞い、ログハウスの頑丈な『黒鉄木』の壁に、叩きつけられた。そして、そのまま、ずるずると、床に崩れ落ちる。白目を剥き、完全に、意識を失っていた。

「……イザーク!?」

ガイアスたちが、信じられないといった様子で、悲鳴に近い声を上げる。
Aランクパーティの俊足自慢の盗賊が、赤子の手をひねるように、一撃で。
彼らは、目の前で起こった出来事が、理解できなかった。

「……次」

俺は、床に伸びるイザークに、一瞥もくれることなく、静かに告げた。
その、あまりにも冷たい声に、クローディアとリリアナの顔が、恐怖に引きつる。

「くっ……! 舐めるな!」

次に動いたのは、クローディアだった。彼女は、パーティ随一の火力を誇る魔法使いとしてのプライドを取り戻し、杖を俺たちへと向けた。
「聖女様の支援があれば、私たちの魔法は、無敵よ! リリアナ!」
「は、はい! 『聖なる力よ、その魔力を増幅せよ』――マジック・ブースト!」

リリアナの支援魔法の光が、クローディアを包み込む。彼女の体から立ち上る魔力が、目に見えて増大していくのがわかった。

「これで、終わりよ! 喰らいなさい! 『インフェルノ・バースト』!」

クローディアが放ったのは、彼女の最大火力魔法。
灼熱の炎が、巨大な渦となり、俺たち三人を、飲み込まんと、轟音と共に、殺到する。その熱波は、部屋全体の空気を、焦がすほどだった。

ガイアスは、その光景を見て、勝利を確信したかのように、口の端を歪めた。
「どうだ、ルイン! これが、本物のAランクパーティの実力だ! お前のような、ハズレスキル持ちには、決して届かない、力の世界だ!」

だが、その勝利の確信は、次の瞬間、絶望へと変わる。
その、灼熱の地獄を前にしても、エリナは、微動だにしなかった。
彼女は、ただ、静かに、その美しい翠の瞳を、伏せただけだった。

そして、その桜色の唇から、古代の言の葉が、紡ぎ出される。
「『水精の守りよ、清浄なる盾となりて、邪なる炎を打ち消さん』――アクア・ウォール・サンクチュアリ」

エリナの前に、どこまでも透き通った、水の壁が出現した。
それは、ただの防御魔法ではなかった。壁の内側には、古代の守護ルーンが、無数にきらめき、神聖なオーラすら、放っている。

轟、と。
灼熱の炎の渦が、水の壁に激突した。
だが、結果は、あまりにも、一方的だった。

じゅう、という、水が蒸発する音が、一瞬だけ、響いた。
それだけだった。
クローディアの最大火力魔法は、エリナの水の壁に、一滴の波紋すら、起こすことができず、完全に、飲み込まれ、消滅してしまったのだ。

「……そん、な……。私の、インフェルノが……蒸発、させられた……?」
クローディアは、自分の杖を見つめ、がっくりと、膝から崩れ落ちた。
魔法使いとしての、自信とプライドが、粉々に砕け散った瞬間だった。

「レベルが、違うのです」
エリナが、静かに、だが、有無を言わせぬほどの、威圧感を込めて、言った。
「あなた方の、小手先の魔法では、わたくしたちの主君の、髪の毛一本、傷つけることは、できませんわ」

その言葉は、彼らに、格の違いという、残酷な現実を、突きつけていた。
リリアナは、あまりの魔力差に、恐怖のあまり、腰を抜かして、その場にへたり込んでいる。

残るは、リーダーのガイアス、ただ一人。
彼は、二人の仲間が、いともたやすく無力化されたというのに、まだ、その目を、諦めてはいなかった。
いや、むしろ、その瞳は、嫉妬と、憎悪と、そして、狂気によって、さらに、赤黒く燃え上がっていた。

「……面白い。面白いじゃないか、ルイン!」
彼は、大剣を抜き放ち、その切っ先を、俺へと向けた。
「お前、いい仲間を、見つけたようだな。だが、そいつらも、その家も、その酒も! 元はと言えば、俺たちのおかげで、手に入ったものだ! それらすべて、俺たちが、貰い受けてやる!」

彼は、もはや、正気ではなかった。
自分が、どれほど惨めで、滑稽なことを言っているのか、理解できていない。

「この、俺の『呪怨剣(カースド・ブリンガー)』の錆にしてやる! この剣に刻まれた呪いは、あらゆる防御を貫通し、触れた者の精神を、内側から蝕む! お前の、そのふざけたスキルでも、防げるものか!」

ガイアスが構える大剣から、不気味な紫色のオーラが立ち上る。
それは、確かに、強力な呪いの武器のようだった。触れただけで、正気を失いそうな、邪悪な気配を放っている。

だが。
それを見た俺は、思わず、噴き出してしまいそうになった。
呪い? 精神攻撃?
この、俺の前で?

俺は、今まで構えていた黒鉄の棍棒を、すとん、と、床に置いた。
そして、無防備なまま、ガイアスに向かって、一歩、踏み出した。

「……なんだと? 武器を捨てて、降参する気になったか?」
「いや?」

俺は、にやりと笑った。
そして、彼に、最後の、慈悲を、与えてやることにした。

「見せてやるよ、ガイアス。お前が、一番、見くびっていた、このスキルの、本当の価値ってやつをな」

俺は、彼の目の前で、ゆっくりと、その『呪怨剣』の刃を、素手で、握りしめた。
俺の、本当の力が、今、解放される。
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