この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ

文字の大きさ
100 / 100

第100話 この聖水、泥の味がする

しおりを挟む
国王陛下と聖女様がお忍びで(?)ミストラル村を訪れてから、季節は冬を越え、再び生命力に満ちた春が訪れていた。

俺たちの村は穏やかながらも確かな発展を続けていた。ノエルの薬草は王国の公式薬品として認定され、ギムリの武具は王国騎士団の正式装備として採用された。バルトロの交易ルートはさらに拡大し、ミストラル村の名は大陸中に知られるようになっていた。村は豊かになった。だが、人々の心根の温かさや素朴な暮らしぶりは何も変わらなかった。

そして俺の『奇跡の泥水亭』もまた、何も変わらない。村の中心であり、皆の憩いの場。俺は今日もこの店のカウンターに立っていた。

ただ一つ、変わらない俺の悩み。それはこの創生水の絶望的なまでの不味さだった。

「今日こそは……! 今日こそこの長年の課題に終止符を打つ!」

俺はカウンターにいくつかの試作品が並んだ盆を置き、高らかに宣言した。俺の目の前にはいつものメンバー――リゼット、ノエル、ギムリ、そしてエリアナが、半ば呆れたような、半ば面白がっているような顔で座っている。

「またやるのか、ルーク」

リゼットがやれやれといった風にため息をつく。

「お兄ちゃん、この前の昆布のお水、すっごく変な味だったよ……」

エリアナがトラウマを思い出したかのように身震いした。

「前回の失敗は旨味の方向性を間違えただけだ! 今回は違う! 原点回帰、フルーティーな爽やかさで泥の味を包み込む作戦だ!」

俺が自信満々に掲げたのは三つのグラス。一つは太陽の実の果汁を絞ったもの。一つは森で採れた木苺をすり潰したもの。そして最後の一つは、南国から取り寄せたという珍しい柑橘系の果物を混ぜ込んだものだ。見た目はどれも色鮮やかで美味しそうなジュースにしか見えない。

「ふん。見た目だけはいっちょまえじゃのう」

ギムリが疑わしげに鼻を鳴らす。

「まあまあ。彼の探究心は評価すべきだよ。さあ、いただこうか」

ノエルに促され、四人はおそるおそるグラスを手に取った。リゼットは太陽の実入り、ギムリは木苺入り、そしてノエルは柑橘系を選んだ。エリアナはどれも嫌だと首を振っている。

三人が同時に覚悟を決めてグラスを傾けた。

そして、広場が凍り付くような静寂が訪れた。

最初に動いたのはギムリだった。彼は口に含んだ液体を、ぶはっ、と盛大に噴き出した。

「まずい! まずすぎるわい! 甘酸っぱい泥じゃと!? こんな冒涜的な味、神々も許さんぞ!」

彼はまるで毒でも飲んだかのように、カウンターに突っ伏して呻いている。

次にリゼット。彼女は無言だった。ただ、その美しい顔からすうっと表情が消え失せ、眉間に深い、深い渓谷のような皺が刻まれていく。彼女はゆっくりとグラスを置くと、腰の剣の柄をギリギリと音を立てて握りしめた。その目は完全に据わっていた。

「……ルーク。後で少し稽古に付き合え。手加減はせん」

それは最も静かで、最も恐ろしい死の宣告だった。

最後にノエル。彼女だけはいつも通り、冷静にその味を分析していた。

「ふむ……。柑橘の酸味と創生水の持つ土由来のアルカリ性が口の中で中和反応を起こして、独特の『無』の味を生み出しているね。その無の中に時折顔を出す果物の香りが、かえって泥の存在感を際立たせる。これは……芸術的な失敗作だ。素晴らしいよ、ルーク」

褒められているのか貶されているのか全く分からない。だが、彼女の目が最高に楽しそうであることだけは確かだった。

「うえーん! だから言ったのにー!」

エリアナが俺の無謀な挑戦の結果に、半泣きで抗議の声を上げる。

俺はがっくりと肩を落とした。今回もまた大失敗。俺の味覚はどうやら常人とは根本的に何かが違うらしい。

落ち込む俺の肩をリゼットがぽんと叩いた。その顔にはもう怒りの色はなく、ただ呆れたような優しい笑みが浮かんでいた。

「……まあ、いい。お前はそのままでいいのかもしれんな」
「そうじゃのう。この不味さこそがルークの旦那の印みたいなもんじゃ」
「うん。この味が変わっちゃったら少し寂しいかもね」

仲間たちが口々に慰めてくれる。その言葉が失敗した俺の心に温かく染み渡った。

その時だった。

「おーい! ルーク様! 手紙が届いたぜ!」

店の外からバルトロの陽気な声が聞こえた。彼が馬車から降りて、数通の羊皮紙を手にこちらへやってくる。

「一通は王都から。王家の紋章入りだ。もう一通は……こいつは珍しい。遥か東の海の向こうの国からだぜ」

俺は、その手紙を受け取った。

王都からの手紙には国王と聖女セシリアからの近況を知らせる言葉が温かい筆致で綴られていた。大神殿の再建が無事に進んでいること。ゲオルグが修道院で静かに農作業に励んでいること。そして近いうちに、またあの『刺激的なお茶』を飲みに村を訪れるという嬉しい予告。

手紙の最後にはセシリアの子供らしい文字で、こう追伸が添えられていた。

『ルークへ。この前エリアナちゃんにもらった花冠、大切に飾っています。また一緒に遊びたいです。追伸、ポーションの味の改善、あまり無理しないでくださいね。私はあのままの味が結構好きですから』

その言葉に俺は思わず顔が綻んだ。

もう一通の海の向こうからの手紙。それはミストラルの薬草と武具の噂を聞きつけた、新たな大陸の商人から送られてきた正式な交易の申し込みだった。俺たちの村の世界がまた一つ大きく広がろうとしている。

俺は二通の手紙を手に店の外へ出た。

仲間たちが夕日に染まる村の広場で笑い合っている。リゼットがギムリに稽古をつけ、ノエルがエリアナに新しい薬草の名前を教えている。村人たちが一日の仕事を終え、家路についていく。

どこにでもある、穏やかでかけがえのない光景。

俺は、この光景を守るために戦った。そして、これからも守り続けていく。

俺は自分の店を見上げた。『奇跡の泥水亭』。俺の、俺たちの城。

俺はカウンターに戻ると、一つの使い古した木の杯を手に取った。そして、そこに今日作ったばかりの、いつも通りの創生水をゆっくりと注ぐ。

茶色く濁った液体が夕日を浴びて、なぜか少しだけ黄金色に輝いて見えた。

俺はそれを静かに一口飲んだ。

顔が歪む。

「……この聖水、泥の味がする」

俺は一人静かに呟いた。

そして、心の底から笑った。

最高の仲間たちと最高の日常。その全てがこの一杯に詰まっている。

俺の物語は、まだまだ始まったばかりだ。
しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

卓也
2025.11.17 卓也

タグのハーレムは?いつ展開するのかな?
最後にハーレムになるなら?
ハーレムエンドになるけど・・・

解除
noik
2025.11.16 noik

今夜儀式を行うという偽情報を流したのに今夜儀式を行うのですか?

解除
ちゃ
2025.10.17 ちゃ

ノエルとは森で会ったから、村人はノエルを知らないのでは?「お帰り、ノエルお姉ちゃん」に違和感を感じました。

解除

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です

たまごころ
ファンタジー
「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」 勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。 しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。 一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。 彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。 引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――? ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。 「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」 これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

「役立たず」と追放されたが、俺のスキルは【経験値委託】だ。解除した瞬間、勇者パーティーはレベル1に戻り、俺だけレベル9999になった

たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ、アレン。お前のような戦闘スキルのない寄生虫は、魔王討伐の旅には連れていけない」 幼馴染の勇者と、恋人だった聖女からそう告げられ、俺は極寒の雪山に捨てられた。 だが、彼らは勘違いしている。 俺のスキルは、単なる【魔力譲渡】じゃない。 パーティメンバーが得た経験値を管理・分配し、底上げする【経験値委託(キックバック)】という神スキルだったのだ。 俺をパーティから外すということは、契約解除を意味する。 つまり――今まで彼らが俺のおかげで得ていた「かさ増しステータス」が消え、俺が預けていた膨大な「累積経験値」が全て俺に返還されるということだ。 「スキル解除。……さて、長年の利子も含めて、たっぷり返してもらおうか」 その瞬間、俺のレベルは15から9999へ。 一方、勇者たちはレベル70から初期レベルの1へと転落した。 これは、最強の力を取り戻した俺が、雪山の守り神である銀狼(美少女)や、封印されし魔神(美少女)を従えて無双し、新たな国を作る物語。 そして、レベル1に戻ってゴブリンにも勝てなくなった元勇者たちが、絶望のどん底へ落ちていく「ざまぁ」の記録である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。