異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第19話:禁断の森とざわめき

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アシュフォード商会の成功は、領地に爆発的な成長をもたらした。
水車は回り続け、高殿は新たな鋼を生み出し、商会の事務所からは日夜活気のある声が響いている。人口は増え、新しい家々が次々と建てられ、領地はもはや「辺境」という言葉が似合わないほどの発展を遂げていた。
だが、その急成長は、新たな資源不足という問題を生み出していた。
特に深刻だったのが、木材だ。
建材として、家具として、そして製鉄やガラス製造の燃料として。木材の需要は天井知らずに増え続けていた。領地内の森林はすでに伐採し尽くされ、このままでは全ての産業が停滞しかねない状況だった。
「残された木材資源は、もうあそこしかないわね」
商会のオフィスで、エリアーナは領地の地図を指差しながら言った。
彼女が指し示したのは、領地の北西に広がる広大な森林地帯。古くから「禁断の森」と呼ばれ、誰も足を踏み入れようとしない場所だった。

「禁断の森、ですか」
俺はその名を、父から聞かされたことがあった。
曰く、森の奥には精霊が住んでおり、森を荒らす者には恐ろしい祟りがある。
曰く、森に入った者は二度と戻ってこない。
そんな漠然とした迷信が、何世代にもわたって語り継がれてきた場所だ。
「馬鹿げた言い伝えよ。豊富な木材を目の前にして、祟りだなんて。ただの迷信に怯えていては、私たちの計画は進まないわ」
エリアーナは、合理主義者らしくバッサリと切り捨てた。俺も彼女と同意見だった。祟りの正体など、猛獣か、あるいは特殊な地形が引き起こす自然現象の類だろう。
俺は、禁断の森の開発を決定した。
まずは、資源調査のための測量チームを組織し、森へと派遣することにした。

だが、問題はすぐに起きた。
調査を開始して数日後、測量チームのリーダーが青い顔をして報告に戻ってきたのだ。
「リオ様、エリアーナ様。どうにも奇妙なことが続くのです」
「奇妙なこと?」
「はい。森の中に打ち込んだ測量用の杭が、翌朝行ってみると、全て引き抜かれているのです。初めは誰かの悪戯かと思いましたが、三日連続で同じことが……」
悪戯にしては、手が込みすぎている。
さらに数日後、今度は木材のサンプルを伐採しに行った木こりたちが、怯えきった様子で逃げ帰ってきた。
「た、祟りだ! 森の精霊の祟りに違いねえ!」
彼らが言うには、木を切り倒そうと斧を振り下ろした瞬間、目の前で見えない何かに斧が弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいったという。幸い怪我人は出なかったが、彼らはすっかり怖気づいてしまい、二度と森には入らないと泣き叫ぶ始末だった。
立て続けに起こる不可解な事件。
領民たちの間では、瞬く間に「禁断の森の祟り」の噂が広まった。森の開発に携わろうとする者は、一人もいなくなってしまった。
「どうやら、ただの迷信というわけでもなさそうね」
エリアーナは、忌々しげに呟いた。計画は、完全に暗礁に乗り上げてしまった。

俺は報告書を読みながら、冷静に状況を分析していた。
測量の杭が抜かれる。斧が弾かれる。
祟りや精霊などという非科学的な結論はありえない。考えられる可能性は二つ。
一つは、未知の自然現象。例えば、局地的な突風や、特殊な磁場のようなものが存在する可能性。
もう一つは、より可能性が高い、人為的な妨害。
この森に、何者かが住んでいる。そして、その何者かは、俺たちが森に入ることを望んでいない。
「測量の杭を抜くには、知性が必要だ。動物の仕業とは考えにくい。やはり、誰かがいると考えるのが妥当だろう」
「誰か、ですって? こんな辺境の森の奥に、一体誰が住んでいるというの?」
エリアーナが訝しげに言う。
「分からない。だが、分からないからこそ、確かめに行く必要がある」
俺は立ち上がった。
「俺が、直接森を調査する」
「正気なの!? 危険すぎるわ! あなたにもしものことがあったら、この領地はどうなると思っているの!」
エリアーナが、珍しく感情的な声を上げた。彼女の心配はもっともだった。だが、この問題を解決しなければ、領地の発展は止まってしまう。
「大丈夫だ。俺には、最強の護衛がいるからな」
俺は、部屋の隅に控えていたバルガスに視線を向けた。
バルガスは、俺の意図を察して静かに一歩前に出た。その目は、いかなる脅威からも主君を守り抜くという、鋼の決意に満ちていた。
「リオ様が行かれるのであれば、このバルガス、いかなる場所であろうとお供いたします」
彼の力強い言葉に、エリアーナはそれ以上何も言えなくなった。彼女は不安げな表情のまま、小さなため息をついた。

翌日、俺はバルガスと共に、禁断の森の入り口に立っていた。
森は、不気味なほど静まり返っていた。昼間だというのに、木々が鬱蒼と生い茂り、日の光を遮っている。ひんやりとした湿った空気が、肌にまとわりつくようだった。鳥の声一つ聞こえない。
それは明らかに、異常な静寂だった。
「……バルガス、警戒を怠るな」
俺は、腰に下げたアシュフォード鋼製の短剣の柄を握りしめた。
「承知しております。どうやらこの森は、ただの森ではなさそうですな。何か……獣とは違う、濃密な気配がします」
バルガスの言葉に、俺も頷いた。
科学では説明のつかない、何か。
人知を超えた存在の気配。
俺はそれを、肌で感じ取っていた。
面白い。
恐怖よりも先に、技術者としての好奇心が頭をもたげた。
この森に隠された謎を、この手で解き明かしてみたい。
俺たちは、一歩、また一歩と、未知が支配する深淵へと足を踏み入れていった。この先に待つ出会いが、アシュフォード領の、いや、この世界全体の運命を再び大きく揺り動かすことになるとも知らずに。
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