異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第98話:鉄の嵐

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王国軍中央平原防衛線。
そこは、帝国軍にとって悪夢そのものと化した。
ブルクハルト将軍が率いる二十万の大軍は、その緒戦において信じがたいほどの損害を被っていた。
先鋒の重装歩兵部隊は、バルガスが仕掛けた地雷原と後装式ライフルの鉄の嵐の前に、その半数以上を失い完全に崩壊した。
「退け! 退け! 弓兵部隊、前へ! 矢の雨で奴らを黙らせろ!」
ブルクハルトは血走った目で叫んだ。
帝国の弓兵部隊は大陸でも屈指の精鋭として知られている。彼らが放つ矢の一斉射は、空を黒く染め上げ、どんな堅固な盾をも貫くと恐れられていた。
数万の弓兵が、一斉に矢を番える。
だが、その矢が放たれることはなかった。

ズドオオオオオオオンッ!

彼らの頭上で空気が裂けるような、耳をつんざく轟音が鳴り響いた。
見上げると、空の遥か彼方から黒い点が恐るべき速さで落下してくるのが見えた。
それは王国軍の後方に隠されていた長距離カノン砲部隊から放たれた榴弾だった。
弾丸は弓兵部隊のまさに中央に、吸い込まれるように着弾した。
ドッガアアアアアアアアアンッ!!
凄まじい爆発。
閃光と黒煙、そして灼熱の破片が巨大な嵐となって、密集していた弓兵たちを薙ぎ払った。
一撃。
たった一撃で数千の弓兵が、悲鳴を上げる間もなく肉片となって吹き飛んだ。
「……ひっ」
生き残った兵士たちは、自分たちの足元に転がる、ついさっきまで仲間だったはずの無残な骸を見て腰を抜かした。
「な、なんだ……今のは……」
「天が、落ちてきた……」
彼らはもはや戦うことなどできなかった。ただ、恐怖に震え、次の神の雷がいつ自分の頭上に落ちてくるのかと空を見上げて怯えるだけだった。

「観測班より入電! 着弾、完璧! 敵弓兵部隊、完全に沈黙!」
王都の最高司令部に、イーグル号からの正確な戦果報告が届く。
将軍たちはもはや驚きもしなかった。彼らの常識は、この数時間で完全に麻痺してしまっていたからだ。
彼らはただ、神のように盤面を操る若き公爵の横顔を、畏敬の念を持って見つめるだけだった。
俺は次の手を打つ。
「バルガスに伝えろ。敵の中衛が混乱している。今が好機だ。隠しておいた『騎兵』を動かせ」
「き、騎兵ですと!?」
老将軍の一人が驚きの声を上げた。「我らに帝国の重装騎兵に太刀打ちできるような、強力な騎馬部隊は存在しないはずですが……」
「俺たちの騎兵は馬には乗りませんよ」
俺は静かに答えた。

中央平原。
帝国軍の兵士たちは混乱の極みにあった。
前衛は壊滅し、弓兵部隊は沈黙した。だが、敵の姿は塹壕の向こうに米粒のように小さく見えるだけ。自分たちは一方的に見えない敵から蹂躙されている。
その恐怖と無力感が彼らの戦意を根こそぎ奪い去っていた。
その混乱する彼らの側面から。
突如として、大地を揺るがす新しい轟音が響き渡った。
それは馬の蹄の音ではなかった。
もっと硬質で、無機質で、そして圧倒的に力強いエンジンの咆哮だった。
「……な、なんだ、あの音は……」
兵士たちが音のする方角を振り向くと、そこに信じられない光景が広がっていた。
丘の陰から十数台の鉄の怪物が姿を現したのだ。
それは分厚いアシュフォード鋼の装甲で覆われ、無限軌道(キャタピラ)で大地を力強く踏みしめ、そしてその先端にはカノン砲の砲身が不気味に突き出ていた。
それは俺がこの日のために極秘裏に開発を進めていた究極の陸戦兵器。
『陸上装甲艦』。
この世界の誰もがまだ知らない、戦車の原型だった。
その魔導蒸気機関は唸りを上げ、黒煙を吐き、鉄の巨体は塹壕やぬかるみをものともせずに帝国軍の無防備な側面へと突進していく。
そして、その車体に取り付けられた複数の銃眼から。
機関銃――俺が後装式ライフルの機構を水冷式で連射可能にした新しい兵器――が火を噴いた。

ダダダダダダダダダダダダッ!

鉄の嵐が今度は横殴りの豪雨となって帝国軍の兵士たちを襲った。
歩兵の壁など紙切れのようになぎ倒されていく。
反撃しようとした槍兵も、矢を放とうとした弓兵も、全てがその圧倒的な弾幕の前にただの肉の塊へと変わっていく。
陸上装甲艦は止まらない。
それは動く要塞だった。
帝国軍の陣地を蹂躙し、踏み潰し、そしてその進んだ後には死体と破壊の跡しか残さなかった。
「……あ、あ、あ……」
ブルクハルト将軍は馬上で、その悪夢のような光景をただ呆然と見つめていた。
地を這う鉄の怪物。
天から降る神の雷。
そして、空から全てを見下ろす銀色の鷲。
彼は悟った。
自分たちが戦っている相手は、人間ではない。
自分たちが戦っているのは、未来そのものなのだ、と。
「……退却だ」
彼の口から、か細く力のない声が漏れた。
「全軍、退却……」
だが、その命令が混乱の極みにある全軍に行き渡ることはもはやなかった。
軍隊としての統制は完全に失われていた。
兵士たちはただ蜘蛛の子を散らすように、我先に戦場から逃げ出していく。
帝国最強と謳われた中央軍二十万は。
たった半日で、王国軍との本格的な白兵戦にすら至ることなく完全に崩壊した。
それは歴史上類を見ない、一方的であまりにも残酷な勝利だった。
鉄の嵐が吹き荒れた後には。
ただ、静寂と夥しい数の死体だけが残されていた。
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