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第109話:未来へのロードマップ
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国際連盟の設立は、大陸に束の間の、しかし確かな安定をもたらした。
もう大規模な戦争が起きる心配はない。その安心感が、各国に内政へと目を向けさせる貴重な時間的猶予を与えた。
そして俺が約束した技術供与は、その効果をすぐに、そして劇的に現し始めた。
王国から派遣された農業指導員たちの下、新しい農法が大陸中に広まっていく。各地で食料生産量は飛躍的に増大した。
ペニシリンを始めとする基礎的な医療技術もまた、多くの人々の命を病から救った。
義務教育のシステムも、各国の先進的な指導者たちによって少しずつ導入され始めた。
大陸全体が、貧困と無知と病という古くからの呪縛から、ゆっくりと、しかし確実に解き放たれようとしていた。
俺が生み出した革命の波は、もはや王国という一つの器には収まりきらず、大陸全体を洗い流す巨大な潮流となっていたのだ。
そして、俺自身はといえば。
公爵としての山のような政務をクラウスに半ば押し付けるような形で、再び王立魔導科学大学の自らの研究室に籠る時間が増えていた。
俺の知的好奇心は、もはや目の前の国家運営という現実的な問題だけでは満たされなくなっていたのだ。
俺の視線は常にその先。
まだ誰も見たことのない、遥か先の未来へと向けられていた。
その日、俺の執務室には俺が最も信頼する数人の仲間たちだけが集められていた。
エリアーナ、クラウス、バルガス、そしてシルフィ。
俺は彼らの前に一枚の巨大な羊皮紙を広げた。
そこには、まるで巨大な樹形図のように無数の言葉と線が、複雑に、そして有機的に描き込まれていた。
「……リオ、これは一体……?」
エリアーナが戸惑いの声を上げた。
「未来へのロードマップだ」
俺は静かに、そして熱を込めて語り始めた。「俺たちがこれから十年、二十年、いや五十年をかけて成し遂げていくべき、未来の設計図だよ」
俺は、その樹形図の根元に近い、いくつかの項目を指し示した。
「まず、ここ。『ラジオ放送』だ」
俺は電信を発展させた次の通信技術の構想を語った。
「電信は点と線で文字しか送れない。だが、このラジオは人間の『声』そのものを電波に乗せて王国全土に同時に届けることができる。国王陛下の演説も、最新のニュースも、美しい音楽も。情報が一部の知識層だけでなく、文字を読めない人々にも瞬時に、そして平等に届けられるようになる。これは、真の情報化社会の始まりだ」
「次に、これ。『内燃機関』だ」
俺は魔導蒸気機関の次の世代の動力機関の設計図を指した。
「蒸気機関は巨大で効率が悪い。だが、この内燃機関はガソリンと呼ばれる精製した石油を燃料とし、シリンダーの内部で直接爆発させることで動力を得る。小型で、軽量で、そして圧倒的にパワフルだ。これさえあれば、馬のいらない馬車、すなわち『自動車』が一家に一台普及する時代が来るだろう。そして……」
俺は樹形図のさらにその先の枝を指し示した。
「この軽量で高出力なエンジンがあれば、ついに俺たちの長年の夢が叶うことになる」
その項目には、こう書かれていた。
『航空技術』と。
「飛行船ではない。もっと速く、もっと高く、自由に大空を飛び回るための『飛行機』だ。固定された翼が生み出す揚力を利用して、鳥のように空を飛ぶんだ。国と国との距離は、もはや無意味になるだろう」
そして俺は最後に、このロードマップの最も未来に位置する究極の目標を指し示した。
その言葉を、仲間たちはまだ誰も理解することはできなかった。
『情報ネットワーク』と。
「ラジオや電信は、一方通行の情報伝達だ。だが、このネットワークは違う。世界中の全ての人間が互いに双方向に情報を受信し、そして発信することができる、巨大な電子の蜘蛛の巣だ」
俺は階差機関のさらにその先の電子計算機、すなわちコンピュータの概念を語った。
「世界中の全てのコンピュータがこのネットワークで結ばれる。誰もが自宅にいながらにして、世界のあらゆる知識にアクセスできるようになる。そして誰もが、自分の考えを世界中に発信できるようになる。国境も身分もそこでは意味をなさない。知性だけが価値を持つ新しい世界が生まれるんだ」
俺の説明が終わると、部屋は深い静寂に包まれた。
エリアーナも、クラウスも、バルガスも、シルフィも。
誰もが俺が語ったそのあまりにも眩しすぎる未来のビジョンに、ただ圧倒されていた。
それは彼らの想像力を遥かに超えていた。
まるで神が語る創世の物語を聞いているかのようだった。
やがて沈黙を破ったのはクラウスだった。
彼はその氷のような仮面をわずかに緩ませると、ほとんど呆れたような、しかし心の底からの畏敬を込めた声で言った。
「……リオ殿。あなたは一体、何者なのだ。あなたは本当に、我々と、同じ人間なのか?」
その問いに俺は、ただ静かに微笑むだけだった。
俺は神ではない。
ただ少しだけ、彼らよりも先の時代を知っているだけの、ただの転生者に過ぎない。
だが、その知識をどう使い、どのような未来を創り上げるかは、全て俺自身の意志と責任にかかっている。
この未来へのロードマップ。
それは俺がこの世界とこの仲間たちに捧げる、俺の生涯をかけた誓約書だった。
この輝かしい未来を、必ず俺たちの手で実現させてみせる、と。
仲間たちの顔には、もはや戸惑いはなかった。
そこには、途方もない夢を共に追いかける同志としての、熱い決意の光が輝いていた。
俺たちの本当の創世の物語は、この一枚のロードマップから、今、静かに、そして壮大に、始まろうとしていた。
もう大規模な戦争が起きる心配はない。その安心感が、各国に内政へと目を向けさせる貴重な時間的猶予を与えた。
そして俺が約束した技術供与は、その効果をすぐに、そして劇的に現し始めた。
王国から派遣された農業指導員たちの下、新しい農法が大陸中に広まっていく。各地で食料生産量は飛躍的に増大した。
ペニシリンを始めとする基礎的な医療技術もまた、多くの人々の命を病から救った。
義務教育のシステムも、各国の先進的な指導者たちによって少しずつ導入され始めた。
大陸全体が、貧困と無知と病という古くからの呪縛から、ゆっくりと、しかし確実に解き放たれようとしていた。
俺が生み出した革命の波は、もはや王国という一つの器には収まりきらず、大陸全体を洗い流す巨大な潮流となっていたのだ。
そして、俺自身はといえば。
公爵としての山のような政務をクラウスに半ば押し付けるような形で、再び王立魔導科学大学の自らの研究室に籠る時間が増えていた。
俺の知的好奇心は、もはや目の前の国家運営という現実的な問題だけでは満たされなくなっていたのだ。
俺の視線は常にその先。
まだ誰も見たことのない、遥か先の未来へと向けられていた。
その日、俺の執務室には俺が最も信頼する数人の仲間たちだけが集められていた。
エリアーナ、クラウス、バルガス、そしてシルフィ。
俺は彼らの前に一枚の巨大な羊皮紙を広げた。
そこには、まるで巨大な樹形図のように無数の言葉と線が、複雑に、そして有機的に描き込まれていた。
「……リオ、これは一体……?」
エリアーナが戸惑いの声を上げた。
「未来へのロードマップだ」
俺は静かに、そして熱を込めて語り始めた。「俺たちがこれから十年、二十年、いや五十年をかけて成し遂げていくべき、未来の設計図だよ」
俺は、その樹形図の根元に近い、いくつかの項目を指し示した。
「まず、ここ。『ラジオ放送』だ」
俺は電信を発展させた次の通信技術の構想を語った。
「電信は点と線で文字しか送れない。だが、このラジオは人間の『声』そのものを電波に乗せて王国全土に同時に届けることができる。国王陛下の演説も、最新のニュースも、美しい音楽も。情報が一部の知識層だけでなく、文字を読めない人々にも瞬時に、そして平等に届けられるようになる。これは、真の情報化社会の始まりだ」
「次に、これ。『内燃機関』だ」
俺は魔導蒸気機関の次の世代の動力機関の設計図を指した。
「蒸気機関は巨大で効率が悪い。だが、この内燃機関はガソリンと呼ばれる精製した石油を燃料とし、シリンダーの内部で直接爆発させることで動力を得る。小型で、軽量で、そして圧倒的にパワフルだ。これさえあれば、馬のいらない馬車、すなわち『自動車』が一家に一台普及する時代が来るだろう。そして……」
俺は樹形図のさらにその先の枝を指し示した。
「この軽量で高出力なエンジンがあれば、ついに俺たちの長年の夢が叶うことになる」
その項目には、こう書かれていた。
『航空技術』と。
「飛行船ではない。もっと速く、もっと高く、自由に大空を飛び回るための『飛行機』だ。固定された翼が生み出す揚力を利用して、鳥のように空を飛ぶんだ。国と国との距離は、もはや無意味になるだろう」
そして俺は最後に、このロードマップの最も未来に位置する究極の目標を指し示した。
その言葉を、仲間たちはまだ誰も理解することはできなかった。
『情報ネットワーク』と。
「ラジオや電信は、一方通行の情報伝達だ。だが、このネットワークは違う。世界中の全ての人間が互いに双方向に情報を受信し、そして発信することができる、巨大な電子の蜘蛛の巣だ」
俺は階差機関のさらにその先の電子計算機、すなわちコンピュータの概念を語った。
「世界中の全てのコンピュータがこのネットワークで結ばれる。誰もが自宅にいながらにして、世界のあらゆる知識にアクセスできるようになる。そして誰もが、自分の考えを世界中に発信できるようになる。国境も身分もそこでは意味をなさない。知性だけが価値を持つ新しい世界が生まれるんだ」
俺の説明が終わると、部屋は深い静寂に包まれた。
エリアーナも、クラウスも、バルガスも、シルフィも。
誰もが俺が語ったそのあまりにも眩しすぎる未来のビジョンに、ただ圧倒されていた。
それは彼らの想像力を遥かに超えていた。
まるで神が語る創世の物語を聞いているかのようだった。
やがて沈黙を破ったのはクラウスだった。
彼はその氷のような仮面をわずかに緩ませると、ほとんど呆れたような、しかし心の底からの畏敬を込めた声で言った。
「……リオ殿。あなたは一体、何者なのだ。あなたは本当に、我々と、同じ人間なのか?」
その問いに俺は、ただ静かに微笑むだけだった。
俺は神ではない。
ただ少しだけ、彼らよりも先の時代を知っているだけの、ただの転生者に過ぎない。
だが、その知識をどう使い、どのような未来を創り上げるかは、全て俺自身の意志と責任にかかっている。
この未来へのロードマップ。
それは俺がこの世界とこの仲間たちに捧げる、俺の生涯をかけた誓約書だった。
この輝かしい未来を、必ず俺たちの手で実現させてみせる、と。
仲間たちの顔には、もはや戸惑いはなかった。
そこには、途方もない夢を共に追いかける同志としての、熱い決意の光が輝いていた。
俺たちの本当の創世の物語は、この一枚のロードマップから、今、静かに、そして壮大に、始まろうとしていた。
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