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第118話:小さな奇跡
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新しい文化の創造。その第一歩として俺が選んだ『映画』というプロジェクトは、これまでの国家事業とは全く違う、ささやかで個人的な挑戦として始まった。
俺は大学の片隅にある、使われなくなった小さな倉庫を秘密の工房へと改造した。そして、工学部の中でも特に手先が器用で遊び心のある数人の学生だけを共犯者として引き入れた。
「教授、これが本当に『動く絵』になるんですか?」
学生の一人が、俺が設計した奇妙な装置の部品を手に半信半疑の顔で尋ねてきた。
その装置は、木と真鍮の歯車、そして俺が光学研究所で精密に研磨させた数枚のガラスレンズで構成されていた。
「ああ。なるさ」
俺は自信満々に頷いた。「鍵は、人間の目の『錯覚』を利用することだ」
俺は、パラパラ漫画の原理を彼らに説明した。
少しずつ動きの違うたくさんの静止した絵を素早く連続して見せることで、脳がそれが滑らかに動いているかのように錯覚する。残像効果と呼ばれる現象だ。
「この装置は、その原理を機械的に行うためのものだ。まず、この長い帯状の写真フィルムに連続した写真を焼き付ける」
俺は、化学部が開発した感光性の薬品を塗布したセルロイドのフィルムを見せた。
「そして、このフィルムを歯車で一定の速度で送りながら、その後ろから強い光を当てる。レンズを通してその光を壁に映し出せば……」
「……絵が動いて見える!」
学生たちは、ようやくその原理を理解し、子供のように目を輝かせた。
それは、科学と芸術が融合する魔法の装置。
俺たちは、その世界初の『映写機』の完成に、夜を徹して没頭した。
並行して、俺は最初の映画の『撮影』にも取り掛かった。
被写体は、俺のかけがえのない仲間たちだ。
俺は、撮影機――映写機とほぼ同じ原理で外部の光をフィルムに記録する装置――を担いで、彼らの日常の姿を記録していった。
宰相として毅然と、しかし時には笑顔で執務をこなすエリアーナ。
士官学校で厳しい表情で、しかし愛情を込めて若者たちを叱咤するバルガス。
大学の研究室で真剣な眼差しで数式と向き合うシルフィ。
そして、病院で患者に優しい笑みを向けるリリアナ。
それは、何の変哲もない彼らの日常の断片だった。
だが、その一コマ一コマには、彼らがこの新しい時代をいかに力強く、そして輝かしく生きているかが、確かに刻み込まれていた。
数ヶ月後。
ついに、世界で最初の一本の映画フィルムが完成した。
上映時間は、たったの五分。
音もない、白黒のサイレント映画だ。
俺は、最初の上映会の観客として、エリアーナ、バルガス、シルフィ、そしてリリアナを例の秘密の工房へと招待した。
「リオ、一体何を見せてくれるというの? そんなにもったいぶって」
エリアーナが不思議そうに言う。
俺はニヤリと笑うと、工房の全ての窓を黒い布で覆い、室内を完全な暗闇にした。
そして、映写機のスイッチを入れる。
カタカタカタ……。
フィルムが歯車に送られる軽快な音が響く。
レンズから放たれた一条の光が、向かいの壁に白い四角形を映し出した。
そして、その白いスクリーンの中に突如として映像が現れた。
最初に映し出されたのは、王都のメインストリートを力強く走る蒸気機関車の姿だった。
「……!」
その場にいた全員が息をのんだ。
それは、絵画ではない。
写真でもない。
本物と全く同じように煙を吐き、車輪を回転させ、滑らかに「動く」蒸気機関車がそこにはいた。
次に画面は切り替わり、士官学校のバルガスの姿が映し出される。
「……お、俺だ」
バルガスが呆然と呟いた。スクリーンの中の自分は、若い士官候補生に身振り手振りを交えながら何かを熱心に教えている。
そして、エリアーナが、シルフィが、リリアナが、次々とスクリーンの中に現れた。
生き生きと働き、笑い、そして生きている自分自身の姿。
彼らは言葉を失っていた。
ただ、目の前で繰り広げられる、そのありえない、しかしあまりにもリアルな光景に釘付けになっていた。
それはまるで、過去のある一瞬がそのまま切り取られ、命を吹き込まれて目の前で再現されているかのようだった。
記憶が、思い出が動いている。
やがて、五分間の短い上映が終わった。
フィルムが空回りするカタカタという音だけが、静かな暗闇に響く。
俺が部屋の明かりをつけると。
そこにいた仲間たちの顔は、皆、涙で濡れていた。
それは悲しみの涙ではなかった。
言葉にできないほどの深い感動と、そして郷愁に似た温かい感情が、彼らの心を満たしていたのだ。
「……リオ」
エリアーナが震える声で言った。「これは……これは魔法だわ。あなたがこれまでに見せてくれたどんな技術よりも、不思議で、そして美しい魔法よ」
「ああ」
俺は静かに頷いた。「映画という名の、小さな奇跡だ」
それは、科学が生み出した新しい芸術。
人々の心を揺さぶり、感動させ、そして物語を共有させるための最高のメディア。
俺は確信していた。
この小さな奇跡の光が、やがてこの国の文化を根底から変えていくことになるだろう、と。
人々は映画館という新しい聖地に集い、共に笑い、共に涙し、そして共に夢を見るようになるのだ。
俺たちの創世の物語は、ついに人々の心の中へと直接語りかけるための、新しい言葉を手に入れたのだった。
俺は大学の片隅にある、使われなくなった小さな倉庫を秘密の工房へと改造した。そして、工学部の中でも特に手先が器用で遊び心のある数人の学生だけを共犯者として引き入れた。
「教授、これが本当に『動く絵』になるんですか?」
学生の一人が、俺が設計した奇妙な装置の部品を手に半信半疑の顔で尋ねてきた。
その装置は、木と真鍮の歯車、そして俺が光学研究所で精密に研磨させた数枚のガラスレンズで構成されていた。
「ああ。なるさ」
俺は自信満々に頷いた。「鍵は、人間の目の『錯覚』を利用することだ」
俺は、パラパラ漫画の原理を彼らに説明した。
少しずつ動きの違うたくさんの静止した絵を素早く連続して見せることで、脳がそれが滑らかに動いているかのように錯覚する。残像効果と呼ばれる現象だ。
「この装置は、その原理を機械的に行うためのものだ。まず、この長い帯状の写真フィルムに連続した写真を焼き付ける」
俺は、化学部が開発した感光性の薬品を塗布したセルロイドのフィルムを見せた。
「そして、このフィルムを歯車で一定の速度で送りながら、その後ろから強い光を当てる。レンズを通してその光を壁に映し出せば……」
「……絵が動いて見える!」
学生たちは、ようやくその原理を理解し、子供のように目を輝かせた。
それは、科学と芸術が融合する魔法の装置。
俺たちは、その世界初の『映写機』の完成に、夜を徹して没頭した。
並行して、俺は最初の映画の『撮影』にも取り掛かった。
被写体は、俺のかけがえのない仲間たちだ。
俺は、撮影機――映写機とほぼ同じ原理で外部の光をフィルムに記録する装置――を担いで、彼らの日常の姿を記録していった。
宰相として毅然と、しかし時には笑顔で執務をこなすエリアーナ。
士官学校で厳しい表情で、しかし愛情を込めて若者たちを叱咤するバルガス。
大学の研究室で真剣な眼差しで数式と向き合うシルフィ。
そして、病院で患者に優しい笑みを向けるリリアナ。
それは、何の変哲もない彼らの日常の断片だった。
だが、その一コマ一コマには、彼らがこの新しい時代をいかに力強く、そして輝かしく生きているかが、確かに刻み込まれていた。
数ヶ月後。
ついに、世界で最初の一本の映画フィルムが完成した。
上映時間は、たったの五分。
音もない、白黒のサイレント映画だ。
俺は、最初の上映会の観客として、エリアーナ、バルガス、シルフィ、そしてリリアナを例の秘密の工房へと招待した。
「リオ、一体何を見せてくれるというの? そんなにもったいぶって」
エリアーナが不思議そうに言う。
俺はニヤリと笑うと、工房の全ての窓を黒い布で覆い、室内を完全な暗闇にした。
そして、映写機のスイッチを入れる。
カタカタカタ……。
フィルムが歯車に送られる軽快な音が響く。
レンズから放たれた一条の光が、向かいの壁に白い四角形を映し出した。
そして、その白いスクリーンの中に突如として映像が現れた。
最初に映し出されたのは、王都のメインストリートを力強く走る蒸気機関車の姿だった。
「……!」
その場にいた全員が息をのんだ。
それは、絵画ではない。
写真でもない。
本物と全く同じように煙を吐き、車輪を回転させ、滑らかに「動く」蒸気機関車がそこにはいた。
次に画面は切り替わり、士官学校のバルガスの姿が映し出される。
「……お、俺だ」
バルガスが呆然と呟いた。スクリーンの中の自分は、若い士官候補生に身振り手振りを交えながら何かを熱心に教えている。
そして、エリアーナが、シルフィが、リリアナが、次々とスクリーンの中に現れた。
生き生きと働き、笑い、そして生きている自分自身の姿。
彼らは言葉を失っていた。
ただ、目の前で繰り広げられる、そのありえない、しかしあまりにもリアルな光景に釘付けになっていた。
それはまるで、過去のある一瞬がそのまま切り取られ、命を吹き込まれて目の前で再現されているかのようだった。
記憶が、思い出が動いている。
やがて、五分間の短い上映が終わった。
フィルムが空回りするカタカタという音だけが、静かな暗闇に響く。
俺が部屋の明かりをつけると。
そこにいた仲間たちの顔は、皆、涙で濡れていた。
それは悲しみの涙ではなかった。
言葉にできないほどの深い感動と、そして郷愁に似た温かい感情が、彼らの心を満たしていたのだ。
「……リオ」
エリアーナが震える声で言った。「これは……これは魔法だわ。あなたがこれまでに見せてくれたどんな技術よりも、不思議で、そして美しい魔法よ」
「ああ」
俺は静かに頷いた。「映画という名の、小さな奇跡だ」
それは、科学が生み出した新しい芸術。
人々の心を揺さぶり、感動させ、そして物語を共有させるための最高のメディア。
俺は確信していた。
この小さな奇跡の光が、やがてこの国の文化を根底から変えていくことになるだろう、と。
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