M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第三十八話 ドラゴンテイマー

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モンスターコロッセオ準々決勝。俺たちの相手は、俊敏な飛行モンスター、グリフォンを操るテイマーだった。空を自在に舞うグリフォンに、観客の誰もが俺たちの苦戦を予想しただろう。

だが、俺たちはすでに空の王者を地に堕とした経験がある。
ゴブの創造魔法で『超重量スライム』を複数体召喚し、闘技場の上空に弾丸のように射出する。グリフォンはそれを避けようと高度を下げざるを得ない。地上に降りてきたところを、カエデとの戦いで編み出した連携で動きを封じ、ゴブの最大火力魔法で仕留めた。

またしても、常識外れの戦術。闘技場は、万雷の拍手と歓声に包まれた。
「ユー!ユー!ユー!」
観客席から、俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。数日前まで、嘲笑と侮蔑を向けてきた彼らが、今や俺たちの勝利に熱狂していた。

「やりましたね、マスター!」
ゴブが、誇らしげに俺を見上げる。
「ああ。お前の魔法のおかげだ、ゴブ」
俺たちは、確かな手応えと共に、ベスト4、準決勝へと駒を進めた。

控え室に戻ると、カエデとリオが興奮した様子で俺たちを出迎えた。
「見事だった、ユー、ゴブ。お前たちの戦いは、もはや芸術の域だな」
カエデが、手放しで賞賛してくれる。

だが、リオの表情は、喜びの中にもわずかな緊張を浮かべていた。
「二人とも、おめでとう!でも、次が本当の正念場だよ」
彼女は、トーナメント表の一点を指差した。俺たちの次の対戦相手の欄。そこに記された名前は。

『ドラゴンテイマー ゼノン』

その名を聞いた瞬間、控え室の空気が変わった。今まで騒がしかった他の参加者たちも、息を殺してこちらに注目している。

カエデが、厳しい表情で呟いた。
「……やはり、彼と当たるか。アステリア最強のテイマー。優勝候補の筆頭だ」
「ゼノン……。噂には聞いています。彼が従えるドラゴンは、そこらのモンスターとは格が違うと」

リオが、ゴクリと喉を鳴らした。
「格が違うなんてものじゃないよ。彼の相棒は、正真正銘の『竜』。プレイヤーがテイムできるモンスターの中では、間違いなく最高峰に位置する、本物のワイバーンなんだ」

本物の、竜。その言葉の重みが、ずしりと俺の肩にのしかかる。
今まで俺たちが戦ってきたのは、熊やゴーレム、グリフォン。確かに強敵だった。だが、ドラゴンという存在は、ファンタジーの世界において、常に別格の扱いを受ける。それは、このM.M.O.の世界でも同じだった。

「時間だ。行こう、ゴブ」
俺は、緊張を押し殺し、相棒に声をかけた。
「はい、マスター!」
ゴブの返事にも、わずかな硬さがあった。

俺たちが西ゲートから闘技場へと足を踏み入れる。今や、俺たちに向けられるのは温かい声援だった。
「ユー!次も勝てぞ!」
「あのゴブリン、マジで可愛い!」

だが、その声援は、すぐにかき消されることになる。
東ゲートが、ゆっくりと開かれる。そこから現れたのは、一人の男と、一頭の竜だった。

男は、真紅の竜鱗鎧に身を包んだ、長身のプレイヤーだった。燃えるような赤い髪をなびかせ、その鋭い眼光は、絶対的な自信に満ちている。彼が、ドラゴンテイマーのゼノン。

そして、その隣に立つ、ワイバーン。
テレビやネットで見た映像とは、比べ物にならないほどの圧倒的な存在感。全長は十メートルを超え、その全身を覆う深紅の鱗は、鋼鉄以上の硬度を誇るだろう。巨大な翼は、たたまれているにも関わらず、闘技場の半分を覆うほどの威圧感を放っている。何よりも恐ろしいのは、その顎。鋭い牙が並ぶ口の奥で、時折、灼熱の炎が揺らめいているのが見えた。

ワイバーンが、一声、低く唸った。
ただそれだけで、闘技場の空気が震え、観客席から悲鳴が上がった。今まで俺たちに声援を送っていた観客たちも、本物の竜を前にして、恐怖で完全に沈黙している。

実況のNPCが、震える声で紹介を始めた。
「さあ、ついに登場ォ!優勝候補筆頭、ドラゴンテイマー、ゼノン選手!そしてその相棒、”紅蓮の厄災”の異名を持つ、ワイバーンの『イグニス』だァーッ!」

ゼノンは、そんな実況にも、観客の反応にも、一切興味を示さない。彼の視線は、ただまっすぐに、俺とゴブだけを見据えていた。その瞳には、侮りも、油断もなかった。そこにあるのは、絶対的な強者が、挑戦者に向ける、冷徹な評価の光だけだった。

俺とゴブ。
ゼノンとイグニス。

闘技場の中央で、二組のタッグが対峙する。
変幻自在の戦術で勝ち上がってきた、無名の挑戦者。
そして、圧倒的な力で全ての敵を蹂躙してきた、絶対的な王者。

ゼノンが、静かに口を開いた。その声は、低く、よく響いた。

「モンスターメイカー、ユー、だったか。お前の戦いは、観客席から見させてもらった」
彼は、俺の戦術を評価するように、小さく頷いた。
「確かに、見事な小細工だ。弱者が強者に挑むための、知恵と工夫。賞賛に値するだろう」

その言葉は、一見、褒めているように聞こえた。
だが、次に続いた言葉は、彼の揺るぎない信念と、俺たちへの明確な宣告だった。

「だが、それもここまでだ。所詮は、紛い物の寄せ集め。本物の『力』の前には、どんな小細工も意味をなさないということを、その身に教えてやろう」

紛い物。
その一言が、俺の胸に突き刺さった。俺と、俺のモンスターたちが歩んできた道のり、その全てを否定する言葉。

俺は、何も言い返せなかった。
彼の隣に立つ、ワイバーンの威容。その圧倒的な存在感が、彼の言葉に、否定しようのない説得力を持たせていた。

ゴングが鳴り響く。
準決勝、試合開始。

闘技場の熱気は、最高潮に達していた。
絶対的な王者を前に、俺とゴブは、覚悟を決めた。

「ゴブ、やるぞ」
「はい、マスター!」

俺たちの、M.M.O.における、初めての本当の試練が、今、始まろうとしていた。
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