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第七十六話 伝説の創造、開始
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俺の手が純白の光の球体に触れた。
その瞬間、世界から音が消えた。
俺の意識は肉体という檻から解き放たれ、純粋なエネルギーの奔流へと飲み込まれていった。そこは始まりも終わりもない、創造の根源そのもの。色も形もなく、ただ無限の可能性だけが渦巻く混沌の海だった。
目の前で、三つの巨大な力がぶつかり合い、そして混じり合っていく。
賢者の石が秘めた、万物の理を司る『魔力』の奔流。
世界樹の枝が宿した、生命の循環を紡ぐ『生命』の脈動。
そして、古竜の心臓が刻む、絶対的な『力』の鼓動。
三つの根源的な力は互いに反発し、融合し、新たな秩序を生み出そうとしていた。それはあまりにも巨大で、あまりにも荒々しいエネルギーの嵐。俺のちっぽけな自我など一瞬で消し飛ばされてしまいそうな、圧倒的な奔流。
だが、俺は抗った。
この嵐を乗りこなし、その力を一つの形へと導く。それが創造主である俺の、唯一の役目。
俺は、この混沌の海の中で必死に俺が望むべき「形」を想い描いた。
守るための力。
仲間を、この世界を、理不尽な暴力から守り抜くための絶対的な守護者。
ただ強いだけじゃない。あらゆる状況に対応できる万能の知恵。そして、決して折れることのない気高き魂。
そんな、俺の理想の全てをこの光に注ぎ込む。
俺の意識が創造の深淵へと、どこまでも、どこまでも沈んでいった。
―――
祭壇の間は、凄まじい魔力の嵐に包まれていた。
中央で光に包まれた俺は、まるで琥珀の中の虫のように微動だにしない。その顔は極度の集中によって、苦悶にも似た表情を浮かべていた。
「マスター……」
ゴブが心配そうに俺を見守っている。
「大丈夫……。ユーさんなら、きっとやり遂げる」
リオも祈るように、固く手を握りしめていた。
背後の通路からは未だに、仲間たちの激しい戦闘音が響いてくる。
爆発音、剣戟の音、そして雄叫び。
それはフロンティアの仲間たちが、その身を犠牲にして俺たちのために時間を稼いでくれている命の音だった。
だが、その音は徐々に、徐々にその数を減らしていった。
雄叫びは悲鳴へ。
そして、断末魔の叫びへと変わっていく。
一人、また一人と仲間たちが倒れていくのが肌で感じられた。
「……みんな……」
リオの瞳から涙がこぼれ落ちる。
ゴブも唇を噛み締め、悔しそうに杖を握りしめていた。
そして、ついに。
砦を揺るがしていた戦闘音は、完全に途絶えた。
後に残されたのは、不気味なほどの静寂。
それは、俺たちの仲間たちが全滅したことを意味していた。
その絶望的な静寂を破って。
祭壇の間に続く最後の扉が、内側から轟音と共に爆ぜた。
瓦礫と粉塵の中からゆっくりと、一人の男が姿を現す。
漆黒のローブ。優雅な仮面。
悪徳ギルド【パンデモニウム】の支配者、メフィスト。
そのローブには返り血一つついていない。彼はフロンティアの最後の抵抗を、まるで路傍の石でも蹴飛ばすかのように無傷で退けてきたのだ。
彼の後ろにはギルドの最強戦力である、親衛隊『黒騎士団』がずらりと並んでいた。その数は五十を超える。
「……見つけたよ。全ての元凶、モンスターメイカー」
メフィストは祭壇で光に包まれる俺を見て、心底楽しそうに、そして愉悦に満ちた声を上げた。
彼の視線は俺を通り越し、祭壇で渦巻く純粋な創造のエネルギーにねっとりと注がれていた。
「素晴らしい。これは素晴らしい力だ。世界の理すら書き換えかねない。これを私のものにできれば……!」
彼の剥き出しの欲望。
リオとゴブは、その圧倒的なプレッシャーを前に震えながらも俺の前に立ちはだかった。
「……マスターには、指一本触れさせません!」
ゴブが杖を構える。
「私たちの仲間をこれ以上好きにはさせない!」
リオも護身用のダガーを抜き放った。
メフィストはそんな二人の健気で、そしてあまりにも無謀な抵抗を哀れむように肩をすくめた。
「健気だねえ。実に感動的な忠誠心だ。だが、君たちも知っているだろう? 無力な正義ほどこの世界で滑稽なものはないということを」
彼が杖を軽く振るう。
ただ、それだけの動作。
だが、その瞬間、リオとゴブの体は見えない衝撃波に弾き飛ばされ、為す術もなく壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
「きゃあっ!」
二人は受け身も取れず、床に崩れ落ちる。HPゲージが一気に赤く染まり、動くことすらままならない。
「……ほら、ね?」
メフィストはまるで子供に世界の真理を教え諭すかのように、優しく言った。
彼はゆっくりと祭壇へと歩みを進める。一歩、また一歩とその足音が、絶望の宣告のように静かな空間に響き渡った。
彼は創造の光に包まれ、完全に無防備な俺の目の前で足を止めた。
「惜しいことをしたね、モンスターメイカー。あと数分、いや、数十秒あれば君は、その伝説とやらをその手にできたのかもしれない」
彼は俺の顔を楽しそうに覗き込む。
「だが、物語というものはいつだって主人公の思い通りにはならないものさ。特に君のような三流の役者が主演の物語はね」
メフィストがその黒檀の杖をゆっくりと持ち上げた。
その切っ先が創造の光の中心、俺の心臓部分へと正確に向けられる。
あと数センチで俺の命と、そして生まれようとしていた伝説は完全に絶たれる。
「や……やめて……!」
リオが絶望の声を上げる。
「マスター!」
ゴブも涙ながらに叫んだ。
「――さらばだ、英雄気取りの愚かな道化よ」
メフィストが嘲笑と共に、その杖を突き出そうとした。
その、瞬間。
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!
祭壇から放たれる光が、今までとは比較にならないほど眩しく、そして力強く爆発的に輝きを増した。
それはもはやただの光ではなかった。
一つの巨大な生命が、その産声を上げようとする圧倒的な胎動。
「なっ……!?」
そのあまりにも神々しく、そして荒々しい生命のオーラに、絶対的な支配者であるはずのメフィストですら思わず一歩後ずさっていた。
彼の嘲笑の仮面の下で、その瞳が初めて驚愕に見開かれる。
俺の創造はまだ終わっていなかった。
いや、ここからが本当の始まりだったのだ。
その瞬間、世界から音が消えた。
俺の意識は肉体という檻から解き放たれ、純粋なエネルギーの奔流へと飲み込まれていった。そこは始まりも終わりもない、創造の根源そのもの。色も形もなく、ただ無限の可能性だけが渦巻く混沌の海だった。
目の前で、三つの巨大な力がぶつかり合い、そして混じり合っていく。
賢者の石が秘めた、万物の理を司る『魔力』の奔流。
世界樹の枝が宿した、生命の循環を紡ぐ『生命』の脈動。
そして、古竜の心臓が刻む、絶対的な『力』の鼓動。
三つの根源的な力は互いに反発し、融合し、新たな秩序を生み出そうとしていた。それはあまりにも巨大で、あまりにも荒々しいエネルギーの嵐。俺のちっぽけな自我など一瞬で消し飛ばされてしまいそうな、圧倒的な奔流。
だが、俺は抗った。
この嵐を乗りこなし、その力を一つの形へと導く。それが創造主である俺の、唯一の役目。
俺は、この混沌の海の中で必死に俺が望むべき「形」を想い描いた。
守るための力。
仲間を、この世界を、理不尽な暴力から守り抜くための絶対的な守護者。
ただ強いだけじゃない。あらゆる状況に対応できる万能の知恵。そして、決して折れることのない気高き魂。
そんな、俺の理想の全てをこの光に注ぎ込む。
俺の意識が創造の深淵へと、どこまでも、どこまでも沈んでいった。
―――
祭壇の間は、凄まじい魔力の嵐に包まれていた。
中央で光に包まれた俺は、まるで琥珀の中の虫のように微動だにしない。その顔は極度の集中によって、苦悶にも似た表情を浮かべていた。
「マスター……」
ゴブが心配そうに俺を見守っている。
「大丈夫……。ユーさんなら、きっとやり遂げる」
リオも祈るように、固く手を握りしめていた。
背後の通路からは未だに、仲間たちの激しい戦闘音が響いてくる。
爆発音、剣戟の音、そして雄叫び。
それはフロンティアの仲間たちが、その身を犠牲にして俺たちのために時間を稼いでくれている命の音だった。
だが、その音は徐々に、徐々にその数を減らしていった。
雄叫びは悲鳴へ。
そして、断末魔の叫びへと変わっていく。
一人、また一人と仲間たちが倒れていくのが肌で感じられた。
「……みんな……」
リオの瞳から涙がこぼれ落ちる。
ゴブも唇を噛み締め、悔しそうに杖を握りしめていた。
そして、ついに。
砦を揺るがしていた戦闘音は、完全に途絶えた。
後に残されたのは、不気味なほどの静寂。
それは、俺たちの仲間たちが全滅したことを意味していた。
その絶望的な静寂を破って。
祭壇の間に続く最後の扉が、内側から轟音と共に爆ぜた。
瓦礫と粉塵の中からゆっくりと、一人の男が姿を現す。
漆黒のローブ。優雅な仮面。
悪徳ギルド【パンデモニウム】の支配者、メフィスト。
そのローブには返り血一つついていない。彼はフロンティアの最後の抵抗を、まるで路傍の石でも蹴飛ばすかのように無傷で退けてきたのだ。
彼の後ろにはギルドの最強戦力である、親衛隊『黒騎士団』がずらりと並んでいた。その数は五十を超える。
「……見つけたよ。全ての元凶、モンスターメイカー」
メフィストは祭壇で光に包まれる俺を見て、心底楽しそうに、そして愉悦に満ちた声を上げた。
彼の視線は俺を通り越し、祭壇で渦巻く純粋な創造のエネルギーにねっとりと注がれていた。
「素晴らしい。これは素晴らしい力だ。世界の理すら書き換えかねない。これを私のものにできれば……!」
彼の剥き出しの欲望。
リオとゴブは、その圧倒的なプレッシャーを前に震えながらも俺の前に立ちはだかった。
「……マスターには、指一本触れさせません!」
ゴブが杖を構える。
「私たちの仲間をこれ以上好きにはさせない!」
リオも護身用のダガーを抜き放った。
メフィストはそんな二人の健気で、そしてあまりにも無謀な抵抗を哀れむように肩をすくめた。
「健気だねえ。実に感動的な忠誠心だ。だが、君たちも知っているだろう? 無力な正義ほどこの世界で滑稽なものはないということを」
彼が杖を軽く振るう。
ただ、それだけの動作。
だが、その瞬間、リオとゴブの体は見えない衝撃波に弾き飛ばされ、為す術もなく壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
「きゃあっ!」
二人は受け身も取れず、床に崩れ落ちる。HPゲージが一気に赤く染まり、動くことすらままならない。
「……ほら、ね?」
メフィストはまるで子供に世界の真理を教え諭すかのように、優しく言った。
彼はゆっくりと祭壇へと歩みを進める。一歩、また一歩とその足音が、絶望の宣告のように静かな空間に響き渡った。
彼は創造の光に包まれ、完全に無防備な俺の目の前で足を止めた。
「惜しいことをしたね、モンスターメイカー。あと数分、いや、数十秒あれば君は、その伝説とやらをその手にできたのかもしれない」
彼は俺の顔を楽しそうに覗き込む。
「だが、物語というものはいつだって主人公の思い通りにはならないものさ。特に君のような三流の役者が主演の物語はね」
メフィストがその黒檀の杖をゆっくりと持ち上げた。
その切っ先が創造の光の中心、俺の心臓部分へと正確に向けられる。
あと数センチで俺の命と、そして生まれようとしていた伝説は完全に絶たれる。
「や……やめて……!」
リオが絶望の声を上げる。
「マスター!」
ゴブも涙ながらに叫んだ。
「――さらばだ、英雄気取りの愚かな道化よ」
メフィストが嘲笑と共に、その杖を突き出そうとした。
その、瞬間。
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!
祭壇から放たれる光が、今までとは比較にならないほど眩しく、そして力強く爆発的に輝きを増した。
それはもはやただの光ではなかった。
一つの巨大な生命が、その産声を上げようとする圧倒的な胎動。
「なっ……!?」
そのあまりにも神々しく、そして荒々しい生命のオーラに、絶対的な支配者であるはずのメフィストですら思わず一歩後ずさっていた。
彼の嘲笑の仮面の下で、その瞳が初めて驚愕に見開かれる。
俺の創造はまだ終わっていなかった。
いや、ここからが本当の始まりだったのだ。
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