M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第七十八話 万能の獣王

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創造の光が完全に消え去った祭壇の間。支配していたのは死のような静寂だった。
その静寂を破り、祭壇の中央で巨大な影がゆっくりとその身を起こした。

それは、およそこの世の生き物とは思えない、神々しくも異形の姿をしていた。
獅子のしなやかな胴体。鷲の鋭い鉤爪。そして、その背には古竜のそれにも劣らない雄大な黒い翼が広がっていた。首は三つあり、中央には威厳に満ちたドラゴンの頭が、左右には森の知性を宿した狼と、空の王者の風格を持つ鷲の頭がそれぞれ異なる方向を睨んでいる。尻尾は、無数の蛇が絡み合ったかのように蠢いていた。

その体は、賢者の石のように白く輝く鱗と、世界樹のように生命力に満ちた緑の体毛、そして古竜の心臓の力を示す黒曜石の甲殻でまだらに覆われている。
三つの伝説級素材が、完璧な調和と、そして冒涜的なまでの不均衡をもって一つの生命として結合した姿。

俺の脳内に、その名が雷のように響き渡った。
【キメラ・ロード】

「……素晴らしい」
メフィストが、恍惚とした表情でその誕生したばかりの伝説を見上げていた。
「これだ。これこそが私が求めていた、世界の理を超える力!」

彼は、もはや俺のことなど眼中にない。その視線はキメラ・ロードという究極の「おもちゃ」に完全に釘付けになっていた。
「黒騎士団、かかれ!あの獣を生け捕りにしろ!私のコレクションに加えてやる!」

彼の号令一下、残っていた数十人の黒騎士たちが雄叫びを上げてキメラ・ロードへと殺到した。
鋼鉄の壁が、伝説の獣へと迫る。

だが、キメラ・ロードは動かなかった。
中央のドラゴンの頭が、ただ静かに息を吸い込んだだけだった。
その喉の奥で、三つの根源的な力が渦を巻く。

次の瞬間。
放たれたのはブレスではなかった。
赤、緑、そして黄金。三色の光が螺旋を描きながら絡み合い、一つの巨大な奔流となって黒騎士団を飲み込んだ。
それは魔力でも、生命力でも、物理的な力でもない。その三つが融合した、全く新しい未知のエネルギー。

「「「!?」」」
黒騎士たちは、悲鳴を上げる間もなかった。
光の奔流に触れた彼らの鎧はまるで砂糖菓子のように溶け、その体は塵となって掻き消えていった。
たった一撃。
パンデモニウム最強の精鋭部隊は、その存在そのものをこの世界から完全に抹消された。

「……な」
メフィストの仮面の下の表情が、初めて愉悦以外の色――純粋な『驚愕』に染まった。

静まり返る祭壇の間。
キメラ・ロードは、ゆっくりとその三つの頭を動かし、倒れている俺の仲間たち――カエデ、ゼノン、リオ、そしてゴブを、その瞳に映した。

左右の狼と鷲の頭が、低く唸る。
それは、仲間を傷つけられたことに対する明確な怒りだった。
俺が創造の瞬間に抱いていた強い想い。それが、この伝説の獣の魂の核となっていた。

キメラ・ロードの巨体が、動いた。
ターゲットはただ一人。メフィスト。

「……面白い。実に面白いじゃないか」
メフィストは、後ずさることなく不敵に笑った。
「ならば、少し遊んであげよう。この世界の支配者が誰であるのかを、その生まれたての体に教えてやる」

メフィストの体から、漆黒のオーラが再び溢れ出す。
キメラ・ロードもまた、その全身から虹色のオーラを放つ。
伝説と混沌。
二つの規格外の力が、祭壇の間で激突した。

メフィストが指を鳴らす。無数の闇の槍が空間を切り裂いてキメラ・ロードへと殺到する。
だがキメラ・ロードは、それを避けない。
その身に宿る世界樹の力が、超高速の自己再生能力を発動させる。槍が突き刺さったそばから、傷口は瞬時に塞がっていった。

「再生能力か!」
メフィストが舌打ちする。
ならば、と彼は次の手を打った。空間そのものを歪ませ、キメラ・ロードを亜空間へと閉じ込めようとする。

だがキメラ・ロードのドラゴンの頭が、咆哮を上げた。
古竜の絶対的な力の波動が、空間の歪みを力尽くで粉砕する。

攻撃が通じない。
防御が意味をなさない。
メフィストは初めて、自分以外の存在に底知れぬ恐怖を感じていた。

「……今日はこのくらいにしておこうか」
彼は、まるで何事もなかったかのように優雅に言った。だが、その声には隠しきれない動揺が滲んでいる。
「実に素晴らしい玩具だ。気に入ったよ、モンスターメイカー。その最高傑作、いずれ必ず私が頂きに参ろう」

その捨て台詞と共に、彼の姿は黒い霧の中へと掻き消えていった。
絶対的な支配者は、自らの城のど真ん中で、生まれたばかりの伝説を前に撤退を選んだのだ。

敵が去り、祭壇の間には本当の静寂が戻った。
キメラ・ロードは、ゆっくりと創造主である俺の方へと向き直った。
その三対の瞳が、じっと俺を見つめている。

俺は、ふらつきながらも立ち上がった。
そして、その伝説の獣の前に歩み寄った。

キメラ・ロードは、その巨大なドラゴンの頭をゆっくりと下げた。
そして俺の足元に、その額をそっと擦り付けた。
それは絶対的な忠誠と、そして創造主への感謝を示す無言の挨拶だった。

言葉はなかった。
だが俺たちの魂は、確かに繋がっていた。

俺は、その頭を優しく撫でた。
「……ありがとう。よく生まれてきてくれた」

俺の初めての、そして最高の伝説の相棒。
俺たちの絶望を打ち破る、絶対的な希望。

キメラ・ロードは顔を上げると、今度は倒れている仲間たちの元へと歩み寄った。
そして、その身から世界樹の枝が持つ、穏やかで温かい緑色の光を放ち始めた。
その光が、カエデやゼノンの深い傷を優しく癒していく。

俺たちの反撃の狼煙は、今、本物の、世界を揺がすほどの巨大な炎となった。
絶望の底から生まれたこの万能の獣王と共に。
俺たちの本当の戦いが、これから始まるのだ。
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