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第八十二話 煉獄の番人
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要塞防衛ゴーレム『タルタロス』の残骸を乗り越え、俺たちは天空要塞の第一層へと足を踏み入れた。
格納庫の無機質な雰囲気とは一変し、そこはまるで地獄の窯の中のような灼熱の空間だった。
床一面に亀裂が走り、その隙間からは赤いマグマが不気味な光を放っている。空気は硫黄の匂いで満ち、時折、壁から吹き出す炎の柱が俺たちの行く手を阻んだ。
「……煉獄の間か。趣味の悪いネーミングだな」
バルガンが吐き捨てるように言った。
俺の耐熱スライムがなければ、ここにいるだけで継続的にダメージを受けていただろう。
俺たちは一本道になっている通路を慎重に進んでいく。
道の両側は溶岩の海。落ちればひとたまりもない。
やがて通路の先に、広大な円形の広場が見えてきた。
広場の中央には煮えたぎるマグマの池があり、その中心に一人の男が腕を組んで立っていた。
男は赤黒い竜の鱗を加工して作られたかのような禍々しい鎧を身に纏っていた。その背中には巨大な両刃の戦斧が背負われている。燃え盛る炎のような赤い髪。そして、その顔には獰猛な笑みが常に浮かんでいた。
【炎獄のサラマンダー Lv.62】
「……ようこそ、虫けらども。俺様の処刑場へ」
男は俺たちを見ると、心底楽しそうに言った。
その声はまるで地獄の底から響いてくるかのように低く、そして熱を帯びていた。
パンデモニウム幹部、二人目。
その男が名乗りを上げた瞬間、俺の隣にいたカエデの体がこわばった。
「……サラマンダー」
彼女の口から絞り出すようなか細い声が漏れた。その声には怒り、憎しみ、そしてそれ以上の深い悲しみの色が滲んでいた。
彼女は、その男を知っていた。
「カエデさん?」
俺が心配して声をかける。
だが彼女は俺の声が聞こえていないかのように、ただ目の前の男を睨みつけていた。
サラマンダーもまたカエデの存在に気づいたようだった。
彼は驚いたように少しだけ目を見開いた。そして次の瞬間、腹を抱えて哄笑した。
「アッハッハッハ!これは傑作だ!まさかこんな場所でお前と再会するとはな!聖騎士サマよ!」
彼の言葉に、俺たちは全てを察した。
「……知り合いか、カエデ」
バルガンが静かに問う。
カエデは震える声で答えた。
「……ああ。知り合いだった男だ」
彼女はレイピアの柄を、血が滲むほど強く握りしめていた。
「こいつはサラマンダー。かつて私が所属していたギルド『白銀の誓い』のギルドマスターだった男だ」
「……ギルドマスター?」
「ああ。私たちは正義を掲げ、弱きを助ける理想のギルドを目指していた。私は彼を誰よりも尊敬し、信頼していた。だが……」
彼女の言葉が途切れる。
サラマンダーが、その続きを嘲笑と共に語り始めた。
「だが、理想だけじゃ腹は膨れねえんだよなあ!正義だの誓いだの、そんなもんでこのクソったれな世界でのし上がれるかよ!だから俺は選んだのさ!より大きな力、より大きな富を与えてくれるメフィスト様をな!」
彼はギルドを裏切ったのだ。
仲間を、そしてその理想をパンデモニウムに売り渡した。
『白銀の誓い』は彼の裏切りによって内部から崩壊させられ、多くの仲間たちがパンデモニウムに吸収されるか、あるいはゲームを去っていったという。
「お前はあの時、最後まで俺に逆らったな。そのまっすぐすぎる青臭い正義を振りかざして。おかげでメフィスト様からの俺の評価はガタ落ちだったぜ」
サラマンダーの瞳に憎悪の炎が燃え盛る。
「だが、それも今日で終わりだ。ここでお前の首を手土産にすりゃあ、俺の評価もうなぎ登りだろうよ!」
彼は背負っていた巨大な戦斧をその手に構えた。
戦斧は彼の魔力に呼応し、灼熱の炎をその刃に纏わせる。
「カエデ……。お前のその偽善に満ちた正義ごっこも、この俺様の炎で焼き尽くしてやる!」
サラマンダーが咆哮を上げる。
カエデは何も答えなかった。
ただ静かにレイピアを抜き放った。
その瞳にはもはや悲しみも迷いもなかった。
そこにあるのはかつての師であり、仲間であり、そして今は討つべき宿敵となった男への、聖騎士としての揺るぎない覚悟だけだった。
「……ここは私に任せてもらえないだろうか」
彼女が俺たちに背を向けたまま言った。
「これは私の過去との戦いだ。この手で決着をつけなければならない」
そのあまりにも悲痛で、そして力強い背中を前にして、俺たちは何も言うことができなかった。
バルガンが静かに頷いた。
「……分かった。手出しはしねえ。だが、死ぬんじゃねえぞ、嬢ちゃん」
「感謝する」
カエデはそれだけ言うと、一人サラマンダーへと向かって歩みを進めていった。
マグマの池の中央で、かつての師弟が対峙する。
聖なる光を纏う白銀の騎士。
地獄の炎を纏う裏切りの狂戦士。
「来いよカエデ!お前の正義がどれほどのものか見せてみろ!」
「……行くぞ、サラマンダー!あなたの過ちは私が断ち切る!」
二つの影が激突した。
炎と光が、煉獄の間で激しく火花を散らす。
カエデの過去を巡る、たった一人の戦いが今、始まった。
格納庫の無機質な雰囲気とは一変し、そこはまるで地獄の窯の中のような灼熱の空間だった。
床一面に亀裂が走り、その隙間からは赤いマグマが不気味な光を放っている。空気は硫黄の匂いで満ち、時折、壁から吹き出す炎の柱が俺たちの行く手を阻んだ。
「……煉獄の間か。趣味の悪いネーミングだな」
バルガンが吐き捨てるように言った。
俺の耐熱スライムがなければ、ここにいるだけで継続的にダメージを受けていただろう。
俺たちは一本道になっている通路を慎重に進んでいく。
道の両側は溶岩の海。落ちればひとたまりもない。
やがて通路の先に、広大な円形の広場が見えてきた。
広場の中央には煮えたぎるマグマの池があり、その中心に一人の男が腕を組んで立っていた。
男は赤黒い竜の鱗を加工して作られたかのような禍々しい鎧を身に纏っていた。その背中には巨大な両刃の戦斧が背負われている。燃え盛る炎のような赤い髪。そして、その顔には獰猛な笑みが常に浮かんでいた。
【炎獄のサラマンダー Lv.62】
「……ようこそ、虫けらども。俺様の処刑場へ」
男は俺たちを見ると、心底楽しそうに言った。
その声はまるで地獄の底から響いてくるかのように低く、そして熱を帯びていた。
パンデモニウム幹部、二人目。
その男が名乗りを上げた瞬間、俺の隣にいたカエデの体がこわばった。
「……サラマンダー」
彼女の口から絞り出すようなか細い声が漏れた。その声には怒り、憎しみ、そしてそれ以上の深い悲しみの色が滲んでいた。
彼女は、その男を知っていた。
「カエデさん?」
俺が心配して声をかける。
だが彼女は俺の声が聞こえていないかのように、ただ目の前の男を睨みつけていた。
サラマンダーもまたカエデの存在に気づいたようだった。
彼は驚いたように少しだけ目を見開いた。そして次の瞬間、腹を抱えて哄笑した。
「アッハッハッハ!これは傑作だ!まさかこんな場所でお前と再会するとはな!聖騎士サマよ!」
彼の言葉に、俺たちは全てを察した。
「……知り合いか、カエデ」
バルガンが静かに問う。
カエデは震える声で答えた。
「……ああ。知り合いだった男だ」
彼女はレイピアの柄を、血が滲むほど強く握りしめていた。
「こいつはサラマンダー。かつて私が所属していたギルド『白銀の誓い』のギルドマスターだった男だ」
「……ギルドマスター?」
「ああ。私たちは正義を掲げ、弱きを助ける理想のギルドを目指していた。私は彼を誰よりも尊敬し、信頼していた。だが……」
彼女の言葉が途切れる。
サラマンダーが、その続きを嘲笑と共に語り始めた。
「だが、理想だけじゃ腹は膨れねえんだよなあ!正義だの誓いだの、そんなもんでこのクソったれな世界でのし上がれるかよ!だから俺は選んだのさ!より大きな力、より大きな富を与えてくれるメフィスト様をな!」
彼はギルドを裏切ったのだ。
仲間を、そしてその理想をパンデモニウムに売り渡した。
『白銀の誓い』は彼の裏切りによって内部から崩壊させられ、多くの仲間たちがパンデモニウムに吸収されるか、あるいはゲームを去っていったという。
「お前はあの時、最後まで俺に逆らったな。そのまっすぐすぎる青臭い正義を振りかざして。おかげでメフィスト様からの俺の評価はガタ落ちだったぜ」
サラマンダーの瞳に憎悪の炎が燃え盛る。
「だが、それも今日で終わりだ。ここでお前の首を手土産にすりゃあ、俺の評価もうなぎ登りだろうよ!」
彼は背負っていた巨大な戦斧をその手に構えた。
戦斧は彼の魔力に呼応し、灼熱の炎をその刃に纏わせる。
「カエデ……。お前のその偽善に満ちた正義ごっこも、この俺様の炎で焼き尽くしてやる!」
サラマンダーが咆哮を上げる。
カエデは何も答えなかった。
ただ静かにレイピアを抜き放った。
その瞳にはもはや悲しみも迷いもなかった。
そこにあるのはかつての師であり、仲間であり、そして今は討つべき宿敵となった男への、聖騎士としての揺るぎない覚悟だけだった。
「……ここは私に任せてもらえないだろうか」
彼女が俺たちに背を向けたまま言った。
「これは私の過去との戦いだ。この手で決着をつけなければならない」
そのあまりにも悲痛で、そして力強い背中を前にして、俺たちは何も言うことができなかった。
バルガンが静かに頷いた。
「……分かった。手出しはしねえ。だが、死ぬんじゃねえぞ、嬢ちゃん」
「感謝する」
カエデはそれだけ言うと、一人サラマンダーへと向かって歩みを進めていった。
マグマの池の中央で、かつての師弟が対峙する。
聖なる光を纏う白銀の騎士。
地獄の炎を纏う裏切りの狂戦士。
「来いよカエデ!お前の正義がどれほどのものか見せてみろ!」
「……行くぞ、サラマンダー!あなたの過ちは私が断ち切る!」
二つの影が激突した。
炎と光が、煉獄の間で激しく火花を散らす。
カエデの過去を巡る、たった一人の戦いが今、始まった。
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