M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第九十三話 絶対的絶望

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俺の体が光に包まれる。それは創造主が自らの創造物と一つになる禁断の儀式。俺は人間であることを捨て、キメラ・アークロードという伝説そのものになろうとしていた。

「面白い……!面白いぞ、モンスターメイカー!」
混沌の竜王と化したメフィストが、その光景を心底楽しそうに眺めている。
「自らをモンスターに変えるか!その発想、その狂気、実に私好みだ!見せてみろ!その果てに何が生まれるのかを!」

俺の意識がキメラ・アークロードの巨大な魂と混じり合っていく。
三つの伝説級素材が持つ根源的な力が、俺の魂に直接流れ込んでくる。
魔力、生命、そして力。
人間のちっぽけな器では到底受け止めきれない奔流。
俺の意識がその奔流に飲み込まれ、千々に引き裂かれそうになる。

「ぐ……あああああああああっ!」
俺の口から、もはや人間のものではない絶叫が漏れた。

だが、その崩壊しかけた俺の意識を繋ぎ止めてくれるものがあった。
それは仲間たちの声だった。

「ユー!」
「ユーさん!」
「マスター!」

カエデ、リオ、ゴブ。そしてバルガン、ゼノン。
彼らの想い。
それが光の鎖となって、俺の魂をこの世界に繋ぎ止めてくれる。

俺は歯を食いしばり、その奔流に耐えた。
そしてその力を、俺という一つの意志の下に束ねていく。

光が収まった。
そこに立っていたのはもはや神代悠というただの青年ではなかった。
俺の体はキメラ・アークロードの神々しい鱗と甲殻で覆われていた。
背中からは巨大な黒い翼が生え、その瞳はドラゴンのように黄金色に輝いていた。
人にして竜。
人にして神。
新たな半神半魔の存在が、そこに誕生していた。

「……素晴らしい」
メフィストが感嘆の声を漏らす。
「これほどの力をその身に宿すとは。君はもはやただのプレイヤーではない。この世界の新たな理となる資格がある」

俺は何も答えなかった。
ただ、その有り余る力を拳に込めた。
そして地を蹴った。
いや、虚空を蹴った。

音速を超える速度で、俺はカオス・バハムートへと肉薄する。
「――喰らえ」
俺の拳が、混沌の竜王の泥のような胴体に叩き込まれた。

轟音。
カオス・バハムートの巨体が、初めて大きくのけぞった。
その体の一部が俺の拳の力に耐えきれず、弾け飛ぶ。

「やったか!?」
リオが歓喜の声を上げる。

だが。
弾け飛んだ混沌の肉片は、すぐに再生を始めた。
そしてメフィストの嘲笑が響き渡った。

「無駄だと言ったはずだ」
カオス・バハムートの無数の腕が、俺に向かって伸びてくる。
「私の力は混沌。破壊すればするほどその混沌は増大していく。君が私を殴れば殴るほど、私はより強く、より巨大になるのだ」

彼の言う通りだった。
俺の一撃は確かに彼にダメージを与えた。だがそれは彼の混沌をさらに活性化させる餌にしかなっていなかった。
俺がキメラ・アークロードと融合して得たこの絶対的な力ですら、彼のその理不尽な法則の前には通用しない。

「ぐっ……!」
俺は無数の腕に捕らえられ、その巨体へと引きずり込まれそうになる。

「ユー!」
カエデが最後の力を振り絞り、聖なる剣を投擲する。
ゼノンもまたイグニスを失ったその身で、雷の魔法を放つ。
だがその全ては、混沌の竜王の分厚い闇のオーラの前に掻き消えてしまった。

仲間たちが一人、また一人と力尽き、倒れていく。
希望が潰えていく。
俺が掴んだはずの最後の光が、絶対的な絶望の闇に飲み込まれていく。

「……どうだね?モンスターメイカー」
メフィストの声が俺の脳内に直接響いてきた。
「これが世界の真理だ。秩序は混沌に飲み込まれ、光は闇に屈する。どんな絆も、どんな奇跡も、この絶対的な法則の前には無力なのだ」

彼の言葉が俺の最後の闘志を砕こうとしていた。
そうだ。
もうダメなのかもしれない。
俺たちは全てを出し尽くした。
それでも届かなかった。

俺の意識が混沌の中に溶けていく。
仲間たちの声が遠のいていく。

ああ、これが終わりか。
俺が諦めかけた、その瞬間。

俺の心の奥底で。
一つの小さな声が聞こえた。

『――まだです、マスター』

それはゴブの声だった。
彼だけはまだ諦めていなかった。
彼は傷ついた体を引きずりながら、俺の、そしてカオス・バハムートの足元まで這い寄ってきていた。

そして彼はその小さな手に握りしめていたものを、高く掲げた。
それは俺が彼に初めて与えた、歪んだ木の杖だった。

『マスターは紛い物なんかじゃありません』
『マスターがくれたこの杖が、この心が、僕がここにいる証です』

彼のそのあまりにも純粋で、そしてあまりにも力強い想い。
それが俺の魂の最後の砦を繋ぎ止めた。

そうだ。
俺はまだ諦めるわけにはいかない。
俺にはまだ、やれることが残っている。

メフィストの力は「心」を無視した、強制的な魂の結合。
ならば。
俺にしかできない最後の創造。
それは仲間たちの「心」そのものを素材とする、究極の奇跡。

俺は混沌の中で最後の力を振り絞った。
「……ありがとう、ゴブ」

俺の本当の最後の戦いが、今、ここから始まる。
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