婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ

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第五十二話 王都への道

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王都までの道中は、驚くほど穏やかだった。
以前はいつ野盗に襲われるかと護衛が気を尖らせていた道も、アークライト家の黒銀の騎士団の前では、ただの静かな田舎道に過ぎなかった。

馬車の中は、私とカイの二人きりだった。
彼は腕を組んだまま、窓の外を険しい顔で見つめている。しかし、その神経は全て私に向けられているようだった。

「寒くないか。膝掛けを持ってこさせよう」
「大丈夫ですわ。それより、あなたこそずっと緊張していませんか?」
私がそう言うと、彼は気まずそうに咳払いをした。
「……別に。ただ、王都の空気は好かん」

その言葉とは裏腹に、彼が私のことを心配してくれているのは明らかだった。
かつて一人でこの道を通った時は、不安と、未来への期待だけが胸の中にあった。今は違う。隣に彼がいる。その事実だけで、心が不思議なほどに安らいだ。

旅の途中、いくつかの村に立ち寄った。
その光景は、私がラピス領へ向かった時よりも、さらに悲惨なものになっていた。
畑は荒れ、家々の戸は固く閉ざされている。道端に座り込む人々の瞳には、もう光すらなかった。飢えが、人々の生きる気力すら奪い尽くしている。

「……ひどい」
私の呟きに、カイは何も言わず、ただ私の手を強く握った。その温かさが、痛む私の心を少しだけ慰めてくれる。

私たちの行列は、道行く人々の注目を集めた。
辺境伯の騎士団が、なぜ王都に向かっているのか。誰もが畏怖と好奇の入り混じった目で私たちを見ていた。その視線が、王宮に対する無言の圧力になっていることを、私は肌で感じていた。

やがて、旅の終着点が見えてきた。
灰色にくすんだ、巨大な城壁。王都だ。
一年ぶりに見るその姿に、私の胸に様々な感情が込み上げてくる。
あの卒業パーティーの夜、私はここから逃げるように去った。今、私はこの街を救うための切り札として、再びその門をくぐろうとしている。

「アリシア」
カイが、私の名を呼んだ。
「心配するな。全て、うまくいく」
彼はそう言うと、握っていた私の手に、自分の額をこつんと合わせた。その不器用な仕草が、彼の精一杯の励ましなのだと分かった。

私は頷き、まっすぐに前を見据えた。
馬車はゆっくりと、王都の正門へと向かっていく。
活気を失い、静まり返った都が、私たちを待っていた。
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