婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ

文字の大きさ
76 / 100

第七十六話 帝国、本性を現す

盤石の礎が築かれ、ラピス領が三度目の冬を迎えた頃だった。
外は厳しい吹雪が荒れ狂っていたが、館の中は暖炉の炎と人々の温もりで満たされていた。私とカイは、マテウス先生やエリアス先生を交え、領地の今後の運営について和やかに話し合っていた。

その穏やかな空気を引き裂いたのは、一人の伝令兵だった。
彼は吹雪で半ば凍りついた体で執務室に転がり込むと、息も絶え絶えに叫んだ。
「司令官! 北部国境より、緊急報告です!」

その場の空気が、一瞬で凍り付いた。
カイは北部方面軍司令官の顔つきになると、地図を広げさせ、報告を促した。
「落ち着いて話せ。何があった」

「はっ! 本日未明、帝国の小隊が国境線を越え、我が王国のツヴァイク村を襲撃! 村の食糧庫を略奪し、抵抗した村人三名に重軽傷を負わせ、即座に国境の向こうへ撤退したとのことにございます!」

その報告に、室内の誰もが息を呑んだ。
ツヴァイク村。アークライト領の北端に位置する、小さな村だ。
これは、事故や偶発的な出来事ではない。明らかに意図された、計画的な軍事挑発だった。

「……あの豚ども、やりおったな」
カイの口から、地を這うような低い声が漏れた。その青い瞳には、燃えるような怒りの炎が宿っていた。
友好の使者を送り、交易を打診しておきながら、その裏では牙を剥く準備をしていたのだ。

私は、静かに立ち上がった。
「カイ。負傷した村人たちの手当てを。エリアス先生、すぐにご準備を」
「承知した」
エリアス先生が、迷いなく頷く。

カイは、伝令兵に矢継ぎ早に指示を飛ばした。
「直ちに全軍に警戒態勢を敷け! 国境付近の全部隊は、臨戦態勢に入れ! 俺もすぐに向かう!」
彼の声が、冬の静寂を破る号令となった。

ついに、帝国が本性を現した。
私たちの築いた平和な日々は、帝国の一方的な暴力によって、終わりを告げようとしている。
私の心にあったのは、恐怖ではなかった。
私の、私たちの愛する民を傷つけた者たちに対する、静かで、しかし底なしの怒りだった。
戦いの火蓋は、今、切って落とされたのだ。
感想 35

あなたにおすすめの小説

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」  大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。  けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。  王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。  婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。  だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。 学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。 「好都合だわ。これでお役御免だわ」 ――…はずもなかった。          婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。 大切なのは兄と伯爵家だった。 何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

偽りの家族を辞めます!私は本当に愛する人と生きて行く!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のオリヴィアは平凡な令嬢だった。 社交界の華及ばれる姉と、国内でも随一の魔力を持つ妹を持つ。 対するオリヴィアは魔力は低く、容姿も平々凡々だった。 それでも家族を心から愛する優しい少女だったが、家族は常に姉を最優先にして、蔑ろにされ続けていた。 けれど、長女であり、第一王子殿下の婚約者である姉が特別視されるのは当然だと思っていた。 …ある大事件が起きるまで。 姉がある日突然婚約者に婚約破棄を告げられてしまったことにより、姉のマリアナを守るようになり、婚約者までもマリアナを優先するようになる。 両親や婚約者は傷心の姉の為ならば当然だと言う様に、蔑ろにするも耐え続けるが最中。 姉の婚約者を奪った噂の悪女と出会ってしまう。 しかしその少女は噂のような悪女ではなく… *** タイトルを変更しました。 指摘を下さった皆さん、ありがとうございます。

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。