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4章 私の幸せ、あなたの幸せ
20話 揺れる心
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父親の納骨日の一週間前。
祐司は、アパートの部屋で、ひとり深く息を吐いた。
美咲と生きる道を選んだあの日。
自分は正しい選択をしたはずだった。
妹と距離を置き、迎えに来てくれた恋人の元に行く――
誰に聞いてももっともらしい、誰も傷つけないように見える選択だ。
あの瞬間の自分は、それを“正しい”と信じて疑わなかった。
だが、いま胸にこびりついているのは、迷いに近い感情――。
美咲は優しい。
彼のために、新しい職場の人間関係まで気にかけ、
疲れて帰った日でも食事を整え、
「大丈夫だよ」と笑って支えてくれる。
それなのに、祐司は、ふとした瞬間に絵名の優しい言葉や、あの震災後の狭い部屋で寄り添って生きた日々の記憶が蘇る。
思い出そうとしているのではない。
身体の奥が、勝手に思い出してしまうのだ。
祐司「絵名に会い、ちゃんと吹っ切らないと。みさちゃんをこれ以上裏切れない。」
納骨当日、祐司と美咲は車で緑山町に向かった。
車で到着した時、絵名は共同の仮設墓地から父親の骨壺を出して待っていた。
絵名「久しぶり、ゆうくん、美咲さん。運転お疲れ様だったね。」
祐司「久しぶりだな、絵名。元気そうで良かったよ。」
久しぶりにあったただの妹なのに、声を聞いて心がざわついた。
美咲「お久しぶりです。」
美咲は深く頭を下げた。
祐司「骨壺の受け取りありがとう。車に乗せて、袴で持っていこう。」
3人は車に乗り、山下家の墓に向かった。
お互いの短い近況報告した。
絵名は自分のことは語りたがらなかったが、こちらの話で盛り上げ、気持ちを軽くさせたら、少しだけ話してくれた
明るく報告していたが、苦労は言葉の端々から分かる。
新しい仕事の話。
足の手術の話。
母親との生活の話。
自分が離れた半年間に、
彼女は痛みや新生活の不安に耐え、それでも明るくふるまっているように見えた―。
その姿が、胸に刺さる。
美咲は横で相槌を打ちながら、
祐司のわずかな表情の揺れをみているようだった。
お互いの近況報告をしながら、お墓のあるお寺に着いた。
お寺では無事に納骨の法要を行い、お坊さんとこれまでの状況について話をした。
お坊さん「無事に納骨を済ませ、お父さんもとても喜んでいますよ。
祐司「そうだとよいのですが。事情がありましたが、一年近く納骨が遅れて、親不孝な息子ですよ。父は地震の時に、私を庇って下敷きになってしまったのに。」
お坊さん「負い目を感じているのですね。男手一つでお二人を育てたような懐の広いお方ですから、そんなことは思っていないですよ。
お写真やお骨から感じます。生きてくれていてありがと、お父様は言っています。」
祐司「そうですかね。自分は父親に恩返しも出来ず、正しいこともちゃんと出来ていない、情けないです。」
お坊さん「悩まれているのですね。お父様は直接的な恩返しなんて望んでいないと思いますよ。息子を庇おうとするくらい可愛がっていたのですから。
お父様が望むのは、あなたと妹さんが幸せになり、幸せになった報告をお墓に持ってきてくれることだけです。幸せになる努力を諦めないでください。」
祐司「私と絵名の幸せですか。そうかもしれませんね。」
美咲と絵名は、お坊さんに相談をする祐司をじっと見つめていた。
全ての予定が終わり、三人は帰りの準備をしていた。
絵名「美咲さん、わざわざうちの家族の予定にお付き合いいただき、ありがとうございました。
ゆうくんも久しぶりに会えてよかったよ。また今ね。」
美咲は深呼吸した。この先の言葉が起こす変化に対する不安を押しとどめるように。
美咲「ゆうくん、せっかくだから絵名さんと二人で話をしてきたら?二人だからこそ話せる話もあるでしょ?」
祐司「いや、それは良くないんじゃないかな。」
祐司は驚いた顔をした。
行きたくないのではない。
行くことを恐れているのだと
絵名「美咲さん、気を使わなくて大丈夫ですよ・・・」
美咲「いいえ、行ってきて。そしてちゃんと話してきて。ゆうくんには必要なことだから。」
祐司「・・・分かった。ちょっと行ってくるね。絵名、行こうか。」
祐司と絵名は美咲に頭を下げ、二人で歩き始めた。
祐司は、アパートの部屋で、ひとり深く息を吐いた。
美咲と生きる道を選んだあの日。
自分は正しい選択をしたはずだった。
妹と距離を置き、迎えに来てくれた恋人の元に行く――
誰に聞いてももっともらしい、誰も傷つけないように見える選択だ。
あの瞬間の自分は、それを“正しい”と信じて疑わなかった。
だが、いま胸にこびりついているのは、迷いに近い感情――。
美咲は優しい。
彼のために、新しい職場の人間関係まで気にかけ、
疲れて帰った日でも食事を整え、
「大丈夫だよ」と笑って支えてくれる。
それなのに、祐司は、ふとした瞬間に絵名の優しい言葉や、あの震災後の狭い部屋で寄り添って生きた日々の記憶が蘇る。
思い出そうとしているのではない。
身体の奥が、勝手に思い出してしまうのだ。
祐司「絵名に会い、ちゃんと吹っ切らないと。みさちゃんをこれ以上裏切れない。」
納骨当日、祐司と美咲は車で緑山町に向かった。
車で到着した時、絵名は共同の仮設墓地から父親の骨壺を出して待っていた。
絵名「久しぶり、ゆうくん、美咲さん。運転お疲れ様だったね。」
祐司「久しぶりだな、絵名。元気そうで良かったよ。」
久しぶりにあったただの妹なのに、声を聞いて心がざわついた。
美咲「お久しぶりです。」
美咲は深く頭を下げた。
祐司「骨壺の受け取りありがとう。車に乗せて、袴で持っていこう。」
3人は車に乗り、山下家の墓に向かった。
お互いの短い近況報告した。
絵名は自分のことは語りたがらなかったが、こちらの話で盛り上げ、気持ちを軽くさせたら、少しだけ話してくれた
明るく報告していたが、苦労は言葉の端々から分かる。
新しい仕事の話。
足の手術の話。
母親との生活の話。
自分が離れた半年間に、
彼女は痛みや新生活の不安に耐え、それでも明るくふるまっているように見えた―。
その姿が、胸に刺さる。
美咲は横で相槌を打ちながら、
祐司のわずかな表情の揺れをみているようだった。
お互いの近況報告をしながら、お墓のあるお寺に着いた。
お寺では無事に納骨の法要を行い、お坊さんとこれまでの状況について話をした。
お坊さん「無事に納骨を済ませ、お父さんもとても喜んでいますよ。
祐司「そうだとよいのですが。事情がありましたが、一年近く納骨が遅れて、親不孝な息子ですよ。父は地震の時に、私を庇って下敷きになってしまったのに。」
お坊さん「負い目を感じているのですね。男手一つでお二人を育てたような懐の広いお方ですから、そんなことは思っていないですよ。
お写真やお骨から感じます。生きてくれていてありがと、お父様は言っています。」
祐司「そうですかね。自分は父親に恩返しも出来ず、正しいこともちゃんと出来ていない、情けないです。」
お坊さん「悩まれているのですね。お父様は直接的な恩返しなんて望んでいないと思いますよ。息子を庇おうとするくらい可愛がっていたのですから。
お父様が望むのは、あなたと妹さんが幸せになり、幸せになった報告をお墓に持ってきてくれることだけです。幸せになる努力を諦めないでください。」
祐司「私と絵名の幸せですか。そうかもしれませんね。」
美咲と絵名は、お坊さんに相談をする祐司をじっと見つめていた。
全ての予定が終わり、三人は帰りの準備をしていた。
絵名「美咲さん、わざわざうちの家族の予定にお付き合いいただき、ありがとうございました。
ゆうくんも久しぶりに会えてよかったよ。また今ね。」
美咲は深呼吸した。この先の言葉が起こす変化に対する不安を押しとどめるように。
美咲「ゆうくん、せっかくだから絵名さんと二人で話をしてきたら?二人だからこそ話せる話もあるでしょ?」
祐司「いや、それは良くないんじゃないかな。」
祐司は驚いた顔をした。
行きたくないのではない。
行くことを恐れているのだと
絵名「美咲さん、気を使わなくて大丈夫ですよ・・・」
美咲「いいえ、行ってきて。そしてちゃんと話してきて。ゆうくんには必要なことだから。」
祐司「・・・分かった。ちょっと行ってくるね。絵名、行こうか。」
祐司と絵名は美咲に頭を下げ、二人で歩き始めた。
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