Can't Stop Fall in Love

桧垣森輪

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☆こーひーぶれいく☆番外編

劇中劇『王子様と私』 ※R18微

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☆現代物しか書いたことがないのでヒストリカル風にも挑戦してみたく、試しに書いてみました。ですが……完全なおふざけなので、ゆる~くお読みください。

********************************************

 昔々。あるところに、スザキ公国という国がありました。

「ミヅキ、ここの掃除をしておいて頂戴ね」
「はーい」

 簡素なお仕着せにエプロン姿の私は、部屋の箒かけに勤しんでおります。
 私の名前はミヅキ・シン・デレラ。このスザキ公国で暮らすごくごく平凡な普通の娘です。

「ミヅキ、私の髪飾りはどこにあったかしら?」
「サキ姉さま、少々お待ちください」

 今日は我がスザキ公国の王子様のお誕生日。母と義理の姉であるサキ姉さまは、お城で開かれる舞踏会の準備で朝から慌ただしくされている。
「なあ、本当にミヅキは舞踏会へ行かないのか?」
 不安げにそう発したのは、一張羅に身を包んだ兄のユウイ。
「そうなのよ。何度も誘ったのにどうしても嫌だって言うのよ」
「ひとりだけ留守番だなんて、まるで私たちが除け者にしているみたいじゃない。ねぇ?」
 ドレス姿の母とサキ姉さまは、お互いに顔を見合わせた。
 私の母は継母ではなく、サキ姉さまは義理は義理でも兄嫁であって決して関係性は悪くない。したがって、私は家族に虐げられるかわいそうな娘じゃなくて、この格好は単なる趣味だ。
「だって、舞踏会だなんて恐れ多くて」
 私の父はこの国を統べる女王様の宰相で、その功績から子爵の爵位をいただいている。一応私も貴族の娘ではあるが、所詮は官僚からの成り上がり。由緒正しい血統のお嬢様とは到底呼べず、質素倹約を好む父の意向で、庶民の家となんら変わりのない生活をしていた。
 舞踏会での必須スキルであるダンスレッスンも一応受けてはいるが、皆の前で披露できるような代物でもない。なにより、緊張しいの私は、人前にでるとガチガチになってしまうという欠点も持っている。
 ……いや、舞踏会に出たからといって、私ごときがみんなの注目を集められるとは思ってもいませんよ!?
 でも、万が一にも殿方から誘われるってことがあるかもしれないじゃないですか。大恥をかく可能性があるのなら、最初から参加しないという安全策をとってもいいと思うのです。
「とか言って、本当は家で読みたい本があるとかじゃないの?」
「は、はは……まさか」
 うう、サキ姉さまは鋭い。入手困難だったのをなんとか取り寄せた、巷で大人気の恋愛小説は、クローゼットの奥深くに隠しておいたはずなのに。
「とにかく、私なんかが参加しなかったからといって支障があるわけではないんですから。私のことは構わずにどうか舞踏会を楽しんできてくださいませ」
 こうして私は三人を見送り、晴れて平穏な時間を手に入れた。



「それだと話が進まないのよ!」
「――うおっ!」
 家族が出かけてしばらくした頃。ソファに座って小説を読みふけっていた私の目の前に、突然謎のおばあさんが現れた。
「誰がおばあさんよ。あんたと年は変わらないっつーの!」
「た、確かに……?」
 私よりは幾分年はくっていそうな様子ではあるが、敢えて伏せておく。それに、よく見ればなかなかの美人さんのようだ。
 全身を真っ赤なローブで覆った美女は偉そうにふんぞり返りつつ、ソファに腰かけたままの私を威圧的に見下ろしている。
「私は西の森に棲む魔女ユリコよ。可哀想なあなたを舞踏会に連れて行ってあげるから、さっさと支度なさい」
「いやいやいや、別に私、連れて行ってもらえなかったわけじゃないんですけど」
「うっさいわね。主役のくせに舞踏会に出たがらないなんていうその根性が可哀想だって言ってるのよ」
 魔女のユリコさまは、顔の横でパチンと指をならした。
 その途端、周囲がざわざわと音を立て――黒づくめの集団が飛び込んできた!?
「ぎゃ――!」
 黒づくめの集団は、あれよあれよという間に私の着ていたお仕着せを脱がせ始める。
「なにするんですか!? 追い剥ぎするなら、せめてちゃんと魔法を使ってよ!」
「うるさいわね。魔法を使うと後々困るのはあなたの方なのよ? それにこれは『みすぼらしい小娘をそこそこ見られる程度にする』魔法よ」
 嘘だ! どう見たって普通の人間の皆さまじゃん!?
 必死に抵抗する私を横目に、ユリコさまは頬に手をつきながら艶めかしく溜め息を吐く。……って、ネイルのチェックとかすな! 単に面倒くさいだけじゃないか!
 そうこうしている内に、私は貧相な下着姿となって転がされた。
「さあ、お次はこれを着るのよ」
 ユリコさまが再び指を鳴らす。剥ぎ取った衣服を持った集団は家の外へと退散し、入れ替わりで、私のお仕着せよりも数倍仕立ての良いメイド姿の集団が真っ赤なドレスを手に現れた。
「な、なんでこんなド派手なドレスなんですか!?」
「そりゃあ、薔薇の魔女さまの見立てだもの。あとリクエストなんだから仕方がないじゃない」
 ――あんた、バラじゃなくてユリでしょうが!?
 リクエストとはなんなのだ。困惑している間にも、メイドさんたちはそのド派手なドレスを私に着つけていく。
 デコルテライン丸出しのドレスはなぜか身体にフィットしていて、補正効果でお胸にもうっすらと谷間が浮かび上がる。腰から下のスカートにはたっぷりとレースがあしらわれ、なるほど、これならウエストも細く見えそうだ。……って、違う!
「あとは髪とお化粧ね。ほら、時間がないんだから早く座りなさい」
 ユリコさまの言葉にメイドさんたちがまた即座に反応し、彼女たちの持って来た椅子に強制的に座らされた。
「暴れると余計に不細工になるわよ? 不気味な化粧を施されたくなければ、大人しくしてなさい」
 うう、不本意だけれどそれはそれで嫌だ。滅茶苦茶な化粧をされるよりは、せめて普通にしてください。
 仕方なく、されるがままに化粧をされ髪を結われた。着替えについては他力本願だったユリコさま自らが筆を持って熱心に私の顔を覗き込む。……やっぱりここでも、魔法は使わないようだ。
 耐えること数十分。完成した私を上から下まで隈なく見たユリコさまは、ようやく満足そうに頷いた。
「うん、我ながらなかなかの出来栄えだわ。あとは、お城までひとっ飛びしたら、私の出番は終了ね」
「あの……今さらですけど、私は舞踏会には――」
 行きません。そう言い終わる前に、視界が大きく揺らいだ。
 次の瞬間、目の前に白亜の宮殿へと続く大階段が現れる。
「一応は慣例に乗っ取ってカボチャとかも準備していたけど、大幅カットでいいわよね。ねずみ顔の女で勘弁してもらいましょう」
「……誰に?」
 あと、ねずみ顔の女って、私のことか?
「設定だと門限は12時ね。その時刻になったら鐘が鳴るから、階段の真ん中あたりに靴を片方落として家に帰りなさい。忘れちゃったらそれはそれで構わないけどね」
「だから、なんのことですか!? 私は舞踏会には――」
 行きません。そう言い終わる前に一陣の風が吹き抜け、思わず目を瞑る。
 瞼を開いた時、そこにはもう、真っ赤な魔女の姿はなかった。

 ――なんだよ、魔法、使えるじゃないか。



 さて、どうしたものか。
 耳を澄ませば、人々の声に混じって弦楽器の奏でる音色が微かに聞こえてくる。この上にあるのは、間違いなく舞踏会の会場だろう。
 階段の向こうには煌々と光を漏らす大きな窓がいくつも並び、その上には幾重にも連なった高い塔がそびえている。この国に住んでいる者であれば毎日のように目にする王宮が、目の前にあった。
 ダンスをするのは御免だが、舞踏会や王子様にまで興味がないわけではない。魔女が現れる直前まで読んでいた小説の舞台はまさしく王宮での舞踏会で、そこでヒロインはその国の王子と運命的な出会いを果たす。立場をわきまえ高望みをしない私であっても、そこはお年頃の乙女。夢物語のような世界にもそれなりに心惹かれるものはある。
 こっそりと中の様子を伺ってから退散しようか。でも、それにはこの真っ赤なドレスはあまりにも目立ちすぎる。なにより、王子様のお誕生日にこんなド派手なドレスって、無作法にも程がある。
 ……やっぱり、帰ろう。
 こんな格好であの中に入ったら、お上りさんもいいところだ。下手をすれば主役よりも目立ってしまって、周囲のひんしゅくを買ってしまう可能性が高い。ましてや、私の容姿は至って普通なのだ。絶世の美女ならまだしも、強制的に着替えをさせられて、自分がどんな姿になっているのかもわからない状態で舞踏会に行けるほど、私は強心臓の持ち主でもない。
 所詮私は、煌びやかな場所には相応しくない。自宅で地味に趣味耽っているほうがお似合いだもの。 

「――見つけた」

 大階段に背を向けた時、上の方から声が聞こえた。
 振り返ると、誰かが高い階段の上からこちらを見ている。だが、背後の光が眩しすぎて、その姿は真っ黒だ。
 ……ご、後光が射しとる。
 真っ黒なシルエットは軽やかに階段を駆け下り、真ん中のあたりでようやくその姿が見え始めた。

 ――その瞬間、時間が止まった。

 ふわふわした髪、大きな瞳、凛々しい眉、通った鼻筋、少し尖った薄い唇……
 肩やボタンに金色の入った真っ白な正装姿のその人は、まさに絵に描いたような王子様だった。

 見つけた、と言った彼は私の前に降り立ち腕を伸ばす。
 左の手首に自分とは違う体温が伝わる。それと同時に、頭の中に疑問が浮かんだ。
「……えっと、どちら様で?」
 慌てて駆け寄っていただいて恐縮なのですが、まったく面識がございません。父と兄はお城勤めをしていても、私はここに来るのは生まれて初めてで、王宮に家族以外の知り合いなどはいないのです。
 彼は一瞬だけ大きな目をさらに丸くして、それからすぐに私を掴んでいない方の手を胸に当てにこやかに微笑んだ。
「これは失礼しました。ミヅキ・シン・デレラ子爵令嬢ですね?私はアキト・ブラックハート・オブ・スザキと申します」
「ア、アキト王太子……殿下」
 なんと。正真正銘の王子様、その人でした。
 でも、王子様がなぜ私のことを知っているの?
「貴女の兄であるユウイや宰相閣下からよく貴女の話を聞いていました。今日は欠席と聞いていましたが、先ほど急に西の森の魔女が現れて貴女を拉致したと言ったので、慌てて出てきたのです」
「そ、そうですか……」
 なんだか腑に落ちないが、魔女に拉致されたことに間違いはない。私をここへ連れてきたのはユリコさまだったし、彼女がわざわざそれを王子様に伝えたのは、なにか理由があったのだろう。
「突然ここに連れてこられて驚いたでしょう? さあ、行きましょうか」
 そう言うと、王子様は私の手を引いて階段を上りはじめた。
「ちょ、ちょっと待ってください!私は舞踏会には――」
「魔女の思惑がわからないのに一人でいるのは危険だ。それに、一人で中に入るよりは、私がエスコートした方が入りやすいですよ」
 考えが追い付くより早く、王子様はずりずりと私を引き上げる。
 ――な、なんでこんなに強引なの!?
 相手が王子様であっても、初対面の男の人に突然手を掴まれるのは、いくらなんでも失礼ではなかろうか。庶民派の私でも、一応は貴族の娘であり嫁入り前の淑女なのだ。
 だけど、不思議と嫌悪感はなかった。掴まれた手首は先ほどよりさらに熱を持ち、心臓は痛いくらいにドキドキと早鐘を打ち続ける。
 お城へ続く階段を引きずられながら、いつしか自然と彼に導かれる先へと進んでいた。



 舞踏会の会場へと続く大きな扉が開かれる。
 会場にいた誰もがこちらを振り返り、一斉に降り注がれる視線の矢が全身に突き刺さるのを感じた。
 白い王子と赤い私。なんだかとってもおめでたい。
 誕生日のお祝いなのだから、おめでたいのは良いことだ。だけど、案の定目立ちまくってるよー!
 ただでさえ目立つド派手なドレスを着ている上、本日の主役である王子様とそろって入場なんかすれば注目を浴びるのも当然だ。
 さらに、舞踏会場は眩いばかりの光に包まれ、天井や壁、敷き詰められた絨毯に至るまで豪華な装飾が施されている。こんなに広くてこんなに煌びやかな世界は生まれて初めてで、途端に身体が固まり思うように足が動かせなくなっていく。
 王子様はさすがに慣れているのか、緊張する素振りはまったく見せない。ギギギと音がするほどぎこちない私を会場の中央まで引きずり、ようやく手を離すとその場へ跪いた。
「ミヅキ姫。どうか私とお相手願えますか?」
 ――ちょっと待て! ひ、姫じゃねぇし!
 王子様が衆人環視のど真ん中で、なに膝なんかついちゃってるの!?
「はい喜んでっ!」
 勢いよく返事はしたが、決して『畏まりましたぁ!』の意味ではない。
 だって、王子様が膝をついてるんだよ!? 一刻も早く立ち上がらせなくては、不敬罪になりかねん!
 それに、こんな状況で王子様からダンスを申し込まれて、断れるわけないじゃないか。
 だからそんな、眩しいものでも見上げるような潤んだ瞳で私を見つめないで。不覚にもときめいてしまうではありませんか。もっとも、眩しいのは私じゃなくて頭上の巨大なシャンデリアなのだろうから、尚更とっとと立ち上がってくださいませっ!
 なのに王子様は跪いたまま、私に向かって掌を差し出す。早く立ち上がらせたい私は、半ばやけくそ気味にその上に自分の手を乗せた。

 ――王子様の口角がニヤリと上がったような気がしたのは、私の思い過ごしだろう。



 弦楽器の音色が響き、私たちの周りから人が引いていく。いつしか私と王子様を取り囲むように、人々の輪が出来ていた。
 うう、緊張が半端ないっ!ただでさえダンスは苦手なのに、万が一王子様の足でも踏んづけたりしたらどうしよう!?
 緊張で足が震えて、スカートで隠れた見えない足元が気になって仕方ない。ついつい俯いていると、すぐ近くで誰かの息遣いを感じた。
 ――お、王子様の顔が私のすぐ横にぃぃぃ!
 王子様は私の耳元でそっと囁く。
「そんなに固くならないで。周囲が気になるなら私だけを見ていて」
 脳みそを直接揺さぶるようなイイ声に、思わず腰が砕けそうになった。
 わ、私だけを見て、だなんて、滅相もない!
 そんなことをしたら、その真っ白い衣装が鼻血で染まってしまうかもしれない。ただでさえ、密着した王子様のいい匂いが鼻孔をくすぐって今にも酔ってしまいそうだというのに、そんなこと言われたらますます勘違いしてしまいそうだ。
 なんとか踏ん張った私の身体を支えるように、王子様が動き始める。背後の景色がゆっくりと反転していくが、すぐにそれも目に入らなくなった。

 音楽も耳に入らない。頭の中でカウントを取らなくても、自然に足が動いていく。
 なによりも、真っすぐに私を見つめている王子様。その瞳に、すっかり囚われてしまった。

 どうしてそんな愛情に満ちた瞳で私を見ているの?
 ――まるで、愛されているみたい。

 しばらくの間、時間も忘れ周りも忘れ、世界は私と王子様の二人きりになっていた。
 だけど、唐突に鳴り響いた鐘の音が、私を現実へと引き戻す。
『門限は12時ね。その時刻になったら鐘が鳴るから、階段の真ん中あたりに靴を片方落として家に帰りなさい』
 ユリコさまの言葉を思い出し、弾かれたように繋いでいた手を離した。
 魔女がかけた魔法には、タイムリミットがあるのだ。
「ミヅキ?」
 突然動きを止めた私を、王子様は訝し気に覗き込む。変わらず私を見つめる瞳に勘違いを起こしていたが、12時を過ぎた私は、王子様に相応しい姫なんかじゃない。
「ごめんなさい、私、帰らなくちゃ!」
「ミヅキ!?」
 王子様の声を背中で聞き流しながら、慌てて出口へと走り出した。
 今日という日は魔女のくれた気まぐれな一日で、もう魔法は解けてしまった。魔法が解けたら、私は取り立てて優れたところもない庶民的で平凡な娘で、王子様と並ぶどころかその目に留まるほどの価値もない。
 会場を駆け抜け、扉を開けて大階段へと飛び出す。あれだけ大勢の人がいたのにも関わらず誰からも遮られることもなかったのは不思議ではあるが、ひとまず運がよかったということにしておこう。
「あとは、靴を脱ぐんだっけ?」
 階段の上で靴を脱いで、まるで自殺するみたいだけど、気にせず脱いじゃえ。
 ユリコさまは階段の真ん中あたりと言ったが、階段の途中で片方の靴だけを脱ぐのはなかなか難しい。忘れても構わないとも言っていたので、この際場所だってどうでもいいだろう。
 しかし、ドレスで見えないし不安定だし、おまけにこの靴ってなんか固くって、脱ぎにくいったらありゃしない! ああ、早くしないと……

「――捕まえた」
「んぎゃあああっ!」

 背後から手が腰へと回され、身体が浮き上がった。地面から離れた足が階段へ向かって投げ出され、はずみで脱げた靴が階段を転がり、ちょうど真ん中あたりでガッシャンと音を立てて止まった。
 ……あれって、ガラス製だったのか。
 しばし呆然としながら、壊れてしまった靴を見ていた。
 壊れちゃったけど、階段の真ん中に置いてこいって話だったし、これはこれでアリ、だよね?
「なに、他の事に気を取られてるの?」
 私を抱き上げていた人物――王子様は、私を横抱きにしながら不機嫌そうにしていた。
 ぬおお、なぜにまだあなたが来るのですか!? 相変わらず顔は近いしお姫様抱っこだし、完全にパニックなんですけど!?
「あの、魔法が解けちゃってですね!? その、門限があってですね!?」
「門限は大丈夫。ご家族の了承はとってあるから」
「――へ!?」
 わけがわからない私を無視して、王子様はスタスタと歩き出した。舞踏会場とは別の入口からお城に入ると、薄暗い廊下を躊躇なく進んで行く。
 やがてとある部屋へと入り、置かれているベッドの上に私の身体を下ろすと――そのまま私に覆いかぶさった!?
「ちょっと、殿下……っ、んん……っ!?」
 いろいろ説明を求めて口を開いたところを、王子様の唇で塞がれた。
 何が起きているのかわからなかった。口元に押し付けられたやわらかくて温かい唇の感触だけがやけに鮮明で、ようやくキスをされていると自覚すると、間髪入れずに唇の間からぬるりとしたものが滑りこむ。王子様の息と唾液で口腔内が満たされ、絡めとられた舌は勢いよく吸い上げられる。

「逃がさないよ、お姫様。君と俺とは恋に落ちる運命なんだから」
 大きな瞳に獣じみた光を帯びた王子様は、意地悪に笑った。



「あっ、ああっ、……殿下、も、ムリ……ん、ああ……っ」
 大きなベッドがギシギシと軋む。白いシーツの海に寝かされた私は一糸纏わぬ姿で大きく足を広げられ、その間に陣取った王子様は私を何度でも愉悦の渦に突き落とす。
「殿下じゃない……アキト」
「は、やぁ……ん、あ、ああっ、ん、ああ」
 最奥を突かれ、狂ったように喘ぎ続ける。
 もうどのくらい受け入れているのか。何度となく絶頂へと押し上げられた身体は限界が近くて、白んだ視界すら朦朧としていた。
「まだだ、ミヅキ。まだ足りない」
 荒い息を吐きながら、王子様はなおも注挿を繰り返す。突き立てられた場所はじゅぶじゅぶと淫らな水音を立て、溢れ出たものが臀部を伝う。
「ああ……っ、は、あ……んっ」
 火照った肌を流れる蜜の感覚にさえ、昂った身体は反応した。
「ミヅキは知らないかもしれないけど、俺はユウイの家で偶然ミヅキの姿を見たことがあるんだ。あの時からずっと、ミヅキのことが欲しかった」
 遠くなる意識の向こうで、王子様がなにやら呟いている。
 だけどもう、私の耳には届かない。
「あああっ! だめ、あ、ああ、あああっ」
 私の中にあるものが、一層激しく動きを増した。大きく腰を持ち上げられ彼の腕にしがみつこうとしたが、もはやその力さえも残っていない。
 彼の背中から流れた汗で滑った手が、ベッドの上へするりと落ちた。
 投げ出された私の両手に、王子様が指を絡める。

「好きだよ、ミヅキ。――愛してる」

 耳元で囁かれ、堕ちていく。
 ああ、もうダメ。溶けてしまう……
 目の前がチカチカと点滅して、今まで見たこともないなにかが押し寄せる。
「ああっ、あ、アキト……さま、……ああっ、あああああ―――!!」
 王子様の名前を呼び、周りのすべてが真っ白に変わった。



 翌朝。
 目を覚ました私の枕もとで、きらりと光るガラスの欠片が目に写る。

 ――ほらね、12時には帰れなかったでしょう? やっぱり魔法は使わずにいて正解だったわ。

 面倒くさそうな魔女の声が、どこからか聞こえたような気がした。

*****

 沙紀「っていう寸劇を考えたんだけど、美月ちゃんたちの披露宴の余興にどうかしら?」
 美月「――却下です!!」

************************************************

☆結果、ヒストリカルには向いていないという結論に達しました。
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