ヒーロー劣伝

山田結貴

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第六話 怪人のエレジー

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 一連の騒動に収拾がついてから、美江は近くにあったラーメン屋に足を運んでいた。
 何故かというと、先程のアホみたいな話を長々と聞かされたせいでどっと疲れてしまい、腹が空いてしまったのである。
「何というか、本当にひどかったわね。私はてっきり、怪人に身内を傷つけられたとか、それくらい重い事情があってあんなことをしたんだと思ってたんだけど。で……」
 カウンター席で味噌ラーメンを口に運びながら、ちらりと隣りに目線を向ける。
 そこには、天高く盛られた超特盛ラーメンにむさぼりつく永山の姿があった。
「何であんたまで、ここにいるのかしらねえ」
「仕方ねえだろ、腹減ったんだからさ。ここの店、この超特盛ラーメンを残さず食い切ったら食事代がタダになるっていうしさあ」
「昨日、あれだけ焼肉を食べておいて胃もたれとかしてないわけ? あんたさ、ヒーローよりもフードファイターの方が向いてるんじゃないの」
「んなこたあねえよ。しかも、フードファイターになったりなんかしたらさ、大食い関係の店が全部出入り禁止になっちまうだろ。それに、俺の胃はあっちの世界で通用するほど強靭じゃねえの」
「さあ、どうだか」
 美江はレンゲでスープを飲みながら、軽く息をつく。
 ハフハフと声をもらしながらラーメンに食らいつく永山を見てから、再び話し始めた。
「桜井さん、黒沢さんの計らいで定職に就けそうね。彼、正義感も強いみたいでKTHに所属することに抵抗を感じていなかったみたいだし」
「どうでもいいよ、んなこと」
 あの後桜井は、KTシーバーを通した簡単な面接の結果、正式にKTHに所属することが決まった。
 ただ、いい人過ぎるという性質上、ヒーローに肩入れしそうなため監視役には向かないと判断され、本部の方で事務などの補佐をすることになったとのことである。
 ちなみに、様々な暴挙を繰り広げた英子の処遇は、本部で行われる会議によって決められるらしい。ただ、彼女がKTHで下した美江に対する処分などはその場で全てなかったことにされた。
「ま、私のクビも無事に撤回されたことだし、これからも監視役として仕事を頑張らせてもらうとするわ」
「あ? お前、監視役をやめたいだとかあれほど文句を垂れてたくせに、頑張りたいとはどういう風の吹き回しだ」
「深い意味はないわよ。ただ、ほんのちょっぴりだけあんたのことを見直したというか」
「はあ? うえっ。ゲホゲホッ」
 永山は不意に呟かれた一言に動揺したのか、激しく咳込んだ。傍らにあったコップを引っ掴み、注がれていた水を一気に飲み干す。
「ど、どうした。ラーメンの熱気にやられて、頭がゆで上がったのか」
「違うわよ。だってさ……その。あんたさ、全部計算に入れて行動したんでしょ。桜井さんが、助かるように」
 これはあくまでも想像でしかないのだが、美江はどうしてもこのように考えずにはいられなかった。
 まず、監視役をとっ捕まえて縄で縛り上げ、英子が現場に来るように仕向ける。その後KTHから送られた場所に行き、桜井の真意を確かめる。そして、黒沢に連絡を入れて交渉。そして、英子が来るまで話を引き延ばして……。
「ふん。お前って奴は、どうしてもヒーローって存在を正義の象徴に仕立て上げたいんだな。悪いが、俺はそんなことに労力を割くような感性なんか持ち合わせてねえよ。俺はな、ただあの監視役が邪魔でうっとおしいから縛り上げて、桜井に関してはお前にやったように、今のうちに恩を売っておいて後々美味しい思いをするためにKTHに入ることを勧めた。でもって、黒沢と無駄話をしている間に偶然ババアが来ちまった。それだけのことだよ」
 永山が平然とした態度で語りながら、超特盛ラーメンをさらにがっついた。
 それでも美江は、疑いの眼差しを向けるのをやめようとしない。
「本当かしら? 私、嘘を見抜くのには結構自信があるんだけど」
「俺に今までさんざんだまされてきたくせによく言うな。特に、あんなでっち上げの美談まで信じておいて。偉そうに」
「そうなのよね。微妙な嘘はともかくとして、あんな大それた嘘っぱちなら簡単に見破れるはずなのに。おかしいのよ。……ねえ、まさかと思うんだけどさ。あの時話してくれたあんたの生い立ちって、実は本当のことなんじゃないの?」
「ゲホッ! な、何を言い出すんだてめえは! 急に寝ぼけたこと抜かしやがって。いいか? 俺はなあ」
「お客さん。あと三分で完食しないと、食事代一万円だよ」
「はあ?」
 核心に触れる前に、ラーメン屋の店主が無情な一言を放った。
 それを聞いた永山は、目の色を変えて顔をガバッと上げた。
「お、おい。このラーメンチャレンジには、時間制限があったのか」
「当たり前じゃないですか。ほら、メニューにもちゃんと」
 店主はメニューを取り出し、ある部分を指で示す。そこには、豆粒よりも小さな文字で超特盛ラーメンの完食までの時間制限について書かれていた。
「うわっ。お、俺としたことが。腹が減ってたもんだから見落としちまった……最悪だ!」
 永山は半分近く残っているラーメンを、焦りながら口に突っ込み始めた。
「あらあら。怪人退治よりも、激しい戦いを繰り広げていらっしゃるようね。ヒーローさん」
「うっせーな! 大体、てめえが俺にうだうだ語らせたからこんなことになっちまったんだろうが!」
「それは責任転嫁って奴よ。これは、メニューの記載を見逃がしたあんたが百パーセント悪いわ」
「何だと! いいか? そもそも」
「お客さん、あと二分」
「ゲホッ!」
「馬鹿じゃないの?」
 美江は必死にラーメンと死闘を繰り広げる永山を横目で見ながら、自分のラーメンを食べ終えた。
「本当、こんな奴がヒーローとは思えないわ。ラーメン相手に苦戦する大の男が……ぷぷっ」
 そして、あまりにも馬鹿馬鹿しい光景に我慢しきれなくなり、周囲の目を気にすることなく心の底から大笑いした。
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