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第七話 皇帝襲来! 外道ヒーローよ、永遠に
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「う……」
乾いた風を頬に受け、美江は目を覚ました。
「どこなの、ここは」
地面に投げ出されていた身体をどうにか起こし、辺りを確認する。
先程までいた町中から一変し、目の前に広がるのは岩や崖と砂くらいで、人の住んでいる気配は全くない。どうやらここは、どこかの荒地らしい。
「何なの。これじゃあまるで」
「特撮ドラマとかの戦闘シーンとかで使われる、撮影現場みたいだな」
「そうそう。あのゴロゴロした岩辺りに爆薬とかが仕掛けてあってー……って」
横槍が飛んできた方に視線を向けてみると、そこには眠そうな目を手の甲でこすっている永山の姿があった。
とんでもない事態に陥っているにも関わらず、大きな欠伸までかましていて緊張感というものが皆無である。
「目が覚めて早々、よくも空気をぶち壊すようなことを言えるわね。普通だったら、『まさかここは、ナーゾノ星?』とか『ここはひょっとして、奴が生み出した異空間?』みたいに思うんじゃないの?」
「また出たな。ドラマの観過ぎだって何回言わせたら気が済むんだよ。俺、昔ここに来たことがあるんだ。確か、何かのエキストラのバイトの時だったかな。俺達が住んでる地域から、そんなに遠くはないところだったと思うけど」
「……」
これ、まさかの近距離瞬間移動だったんかい。
充分すごいことなのだろうけど、何か微妙やないかい。
美江が心の声にエセ関西弁を交えてしまうほど現実と空想の差に打ちひしがれていると、どこからともなく「ふっふっふ。ようやく気がついたか、ヒーローよ」と、余裕を含んだ声が聞こえてきた。
顔を向けてみると、そこにあったのはいかにも戦隊ヒーローなどが乗っかっていそうな高い崖で、その上に皇帝とシープソンが立っていた。
「ふん。高いところから失礼しまーすってか?」
「我はそんなつまらぬシャレをかますほど、暇を持て余してはおらぬ」
「シャレがつまらなくて悪かったな。あと、格好つけるためだけに崖にわざわざよじ登ってる時点で、相当な暇人だと思うんだが」
永山は後手に縛った髪をいじりながら、皇帝に対し適当な受け答えを繰り返す。 これは挑発のための計算なのか。それとも、面倒くさくて何も考えていないだけなのか。
「わはは、そうだ。我を笑わせたければ、もっと面白いシャレをかますのだ。貴様如きのユーモアのセンスで、我の腹筋を崩壊させることなど不可能なのだ」
駄目だ。永山の適当な発言にも問題はあるが、皇帝は皇帝で頭のネジが変なところについているらしい。
美江が軽い頭痛を催した頃、シープソンが話の路線を元に戻すため、皇帝に耳打ちをした。
「あの、わたくしが言うのも大変差し出がましいかもしれませぬが、そろそろ本題に入ってはいかがでしょうか」
「うむ、それもそうだな。ヒーローよ、我は貴様に聞きたいことがある」
「キャッシュカードの暗証番号なら、死んでも教えねえぞ」
「永山!」
ふざけた言動を続ける永山に苛立った美江は、怒号を響き渡らせた。
「やれやれ。人がちょいとばかしふざけたらすぐこれだ」
「あんた、時と場合って言葉を知らないわけ? 少しはタイミングとかを考えなさいよ」
「いや、今のシャレのタイミングはなかなかよかったぞ。ヒーローよ、少し面白かったぞ」
「お、そうか。ありがとうよ」
「陛下!」
シープソンがダブルボケの漫才みたいになりかけている会話をどうにか制止すると、皇帝は咳払いをし、曲がり倒している話の路線を強引に元に戻した。
「我が聞きたいことは、カードの暗証番号でも、ユーモアのセンスがきいたシャレなどでもない。ヒーローよ、貴様は我が地球に派遣したかわいい部下達をさんざん痛めつけてくれたようだな」
「それが仕事だからな」
「異星人を全て排除するのが仕事というわけか。何と非情なものよ。そのような存在を、我は決して放ってはおけぬ」
「ほっとけない、ねえ。じゃあ、俺をどうしようっていうんだ」
「この我が自ら示してくれよう。貴様が犯してきた、幾多の罪の重さを!」
皇帝は崖からいきなり飛び降りると、軽やかに地面に降り立ち永山を見据えた。口元に微笑をたたえながら、こう高らかに宣言する。
「ヒーローよ、今日が貴様の最期だ」
「ほう、てめえの方が俺よりよっぽどユーモアのセンスとやらがあるんじゃねえか。今日が俺の最期だなんてさあ。そんなシャレ、なかなか思いついたもんじゃねえよ。その言葉、そっくりそのままお返ししてやるからな」
ヒーローと皇帝。相反する二人の間で、他者をも寄せつけぬ気迫がぶつかり合う。それは今までの間の抜けたやりとりを全て帳消しにするほど、凄まじいものであった。
「ひいっ……へ、陛下。待って下され。わ、わたくしはまだ、地に足をつけられておりませぬーっ」
そんな中、シープソンがひーひー言いながら、へっぴり腰で崖をちょびっとずつ降りている。
しかし、せっかく作り上げられたシリアスな雰囲気が破壊されるのも何だかもったいない気がしたので、美江はあえて哀れな羊を黙殺することにした。
乾いた風を頬に受け、美江は目を覚ました。
「どこなの、ここは」
地面に投げ出されていた身体をどうにか起こし、辺りを確認する。
先程までいた町中から一変し、目の前に広がるのは岩や崖と砂くらいで、人の住んでいる気配は全くない。どうやらここは、どこかの荒地らしい。
「何なの。これじゃあまるで」
「特撮ドラマとかの戦闘シーンとかで使われる、撮影現場みたいだな」
「そうそう。あのゴロゴロした岩辺りに爆薬とかが仕掛けてあってー……って」
横槍が飛んできた方に視線を向けてみると、そこには眠そうな目を手の甲でこすっている永山の姿があった。
とんでもない事態に陥っているにも関わらず、大きな欠伸までかましていて緊張感というものが皆無である。
「目が覚めて早々、よくも空気をぶち壊すようなことを言えるわね。普通だったら、『まさかここは、ナーゾノ星?』とか『ここはひょっとして、奴が生み出した異空間?』みたいに思うんじゃないの?」
「また出たな。ドラマの観過ぎだって何回言わせたら気が済むんだよ。俺、昔ここに来たことがあるんだ。確か、何かのエキストラのバイトの時だったかな。俺達が住んでる地域から、そんなに遠くはないところだったと思うけど」
「……」
これ、まさかの近距離瞬間移動だったんかい。
充分すごいことなのだろうけど、何か微妙やないかい。
美江が心の声にエセ関西弁を交えてしまうほど現実と空想の差に打ちひしがれていると、どこからともなく「ふっふっふ。ようやく気がついたか、ヒーローよ」と、余裕を含んだ声が聞こえてきた。
顔を向けてみると、そこにあったのはいかにも戦隊ヒーローなどが乗っかっていそうな高い崖で、その上に皇帝とシープソンが立っていた。
「ふん。高いところから失礼しまーすってか?」
「我はそんなつまらぬシャレをかますほど、暇を持て余してはおらぬ」
「シャレがつまらなくて悪かったな。あと、格好つけるためだけに崖にわざわざよじ登ってる時点で、相当な暇人だと思うんだが」
永山は後手に縛った髪をいじりながら、皇帝に対し適当な受け答えを繰り返す。 これは挑発のための計算なのか。それとも、面倒くさくて何も考えていないだけなのか。
「わはは、そうだ。我を笑わせたければ、もっと面白いシャレをかますのだ。貴様如きのユーモアのセンスで、我の腹筋を崩壊させることなど不可能なのだ」
駄目だ。永山の適当な発言にも問題はあるが、皇帝は皇帝で頭のネジが変なところについているらしい。
美江が軽い頭痛を催した頃、シープソンが話の路線を元に戻すため、皇帝に耳打ちをした。
「あの、わたくしが言うのも大変差し出がましいかもしれませぬが、そろそろ本題に入ってはいかがでしょうか」
「うむ、それもそうだな。ヒーローよ、我は貴様に聞きたいことがある」
「キャッシュカードの暗証番号なら、死んでも教えねえぞ」
「永山!」
ふざけた言動を続ける永山に苛立った美江は、怒号を響き渡らせた。
「やれやれ。人がちょいとばかしふざけたらすぐこれだ」
「あんた、時と場合って言葉を知らないわけ? 少しはタイミングとかを考えなさいよ」
「いや、今のシャレのタイミングはなかなかよかったぞ。ヒーローよ、少し面白かったぞ」
「お、そうか。ありがとうよ」
「陛下!」
シープソンがダブルボケの漫才みたいになりかけている会話をどうにか制止すると、皇帝は咳払いをし、曲がり倒している話の路線を強引に元に戻した。
「我が聞きたいことは、カードの暗証番号でも、ユーモアのセンスがきいたシャレなどでもない。ヒーローよ、貴様は我が地球に派遣したかわいい部下達をさんざん痛めつけてくれたようだな」
「それが仕事だからな」
「異星人を全て排除するのが仕事というわけか。何と非情なものよ。そのような存在を、我は決して放ってはおけぬ」
「ほっとけない、ねえ。じゃあ、俺をどうしようっていうんだ」
「この我が自ら示してくれよう。貴様が犯してきた、幾多の罪の重さを!」
皇帝は崖からいきなり飛び降りると、軽やかに地面に降り立ち永山を見据えた。口元に微笑をたたえながら、こう高らかに宣言する。
「ヒーローよ、今日が貴様の最期だ」
「ほう、てめえの方が俺よりよっぽどユーモアのセンスとやらがあるんじゃねえか。今日が俺の最期だなんてさあ。そんなシャレ、なかなか思いついたもんじゃねえよ。その言葉、そっくりそのままお返ししてやるからな」
ヒーローと皇帝。相反する二人の間で、他者をも寄せつけぬ気迫がぶつかり合う。それは今までの間の抜けたやりとりを全て帳消しにするほど、凄まじいものであった。
「ひいっ……へ、陛下。待って下され。わ、わたくしはまだ、地に足をつけられておりませぬーっ」
そんな中、シープソンがひーひー言いながら、へっぴり腰で崖をちょびっとずつ降りている。
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