ヒーロー劣伝

山田結貴

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第七話 皇帝襲来! 外道ヒーローよ、永遠に

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「我の出番はまだか。こんなに暇では、身体がうずいて仕方がない」
「落ち着けよ。ヒーローなんか、暇な方がいいんだからさ」
 ここはKTH。現在は丸イスに腰かけた永山が、呆れ顔でナーゾノ星皇帝……いや、元・皇帝をなだめているところであった。
 ちなみに、今の元・皇帝は、見た者全てを絶句させる悩殺変態ビキニスタイルではなく、別の格好をしている。それは、永山が決戦の時に見せたヒーロースーツの、カラーリングが派手なバージョンのものであった。
「あの、陛下。本当にナーゾノ星に戻られる気はないのですか。今ならまだ」
「黙れ! 我はもう、この地に生きると決めたのだ。帰りたければ、貴様だけ勝手に帰れ!」
「メエッ!」
 元・皇帝からの一喝に、シープソンは怯えきって壁際まですっ飛んでしまった。
「どうしてこうなっちゃったのかしらねえ……」
 美江は冷たい眼差しでそのやりとりを見ながら、円卓に肘をつきつつ溜め息をついた。
 これまでの経緯をサラッと振り返ると、振り返った数だけ何度でも脱力してしまう。皇帝がヒーローになることを志願した理由は、何と永山が変身した際に身につけたヒーロースーツに一目惚れしてしまったからなのだそうだ。あの変態ルックが大変お気に入りのお召し物だったことを考えると、ダサいスーツに惚れ込んでしまうような美的センスを持っていてもおかしくないという解釈ができなくもないが、なかなか厳しいものがある。
 元・皇帝がヒーローになりたがった理由に関するフォローを頑張って入れるとすれば、彼はスーツを着たいというだけでヒーローになりたがったわけではないとのことである。フォローと名を打ちつつこちらも充分脱力必至の理由なのだが、地球を実際に自分の目で見て回ったことで、地球の文化などの至ることにどっぷりはまってしまったのだとか。そんなことの積み重ねで故郷での最高権力者という地位を捨てるなんて、偉い人が考えることは、凡人には一生かかっても理解できそうにない。
「わたくしはあくまでも、貴方様の忠実な執事。置いて帰るなんてことができるわけないでしょう。しかし、いくら地球がお気に召したからとはいえ、故郷をお捨てにならなくても。先日来た使者の報告によりますと、次代の皇帝の地位争いで、ナーゾノ星は大いに揉めているとか」
「ほほう、そうか。それはさぞかし、皇帝になりたいと望む者達が躍起になっていることだろう。つまり、次の皇帝の座は志が高いものが射とめる確率が高い。すなわち、その者に星を任せられると思えば、故郷の心配はしなくてもよいということだな」
「メエェ……」
 羊みたいな執事、実に哀れなり。
「やっぱり、彼らを雇ったのは失敗だったかなあ」
 黒沢がいつものようにパソコンを操作しながら、異星人達のやりとりを眺めつつぼやいた。
 元・皇帝は最初、永山に直談判をしてヒーローにしてもらおうと試みていたが、実際に彼をヒーローとして採用したのはもちろん黒沢である。何でも、以前に超がつくほどのお人好しの怪人である桜井がKTHに雇われたという前例があったため、駄目元で本部に彼を雇ってもいいかと指示を仰いだところ、あっさりOKサインが出てしまったらしい。いくら人材不足のヒーロー職とはいえ、すんなりと悪の親玉みたいな奴を受け入れてしまうとは。果たして、本当にこれでいいのだろうか。
「安心して下され、黒沢殿。我は必ず、ヒーローとして輝かしい活躍を収めてみせますぞ。この最高のスーツと、我の類まれな素質が手を組めばもはやこの地域……いや、地球が危機にさらされることはないと思っていただいてもかまわぬ。はっはっは」
「そ、そう。あの、最高のスーツね。はははは……」
 きっと黒沢は、KTHに厄介者を増やす一因となったヒーロースーツを張り倒したくて仕方がないに違いない。何せ彼だって自分の意志で元・皇帝を雇おうとしたのではなく、永山に「権限があるのはあっち」とパスをされた後にしつこく元・皇帝に言い寄られたことで根負けし、口利きをしてやるはめになったのだから。
「ところで黒沢さん。ここにやる気満々のルーキーがいるんですから、俺までKTHに留まっている必要はないんじゃないですか? おまけに、新人教育にまで付き合わされて。勘弁していただきたいんですけど」
 永山が不満気に苦情を言うと、黒沢もまた比例するように不機嫌になる。
 元・皇帝とシープソンのやりとりも見飽きたが、美江にとってはこの二人が決まったように行うこのくだりも、充分うんざりするものだった。
「あのね、どの世界においても、先輩が後輩に指導をするのは当然のことだろう。そこのところはきちんとわかっているんだろうね」
「わかってますよ。でも、新人教育がろくに給料に加算されないことが不満なんですよ。そうですねえ、新人教育に特別手当をつけて下さるのであればやる気を出してもいいのですが。あと、この間俺の貞操を生贄に捧げようとした分の慰謝料を追加して下さればめちゃめちゃやる気出しますけど」
「君は一体いくらむしり取ろうとしているんだい。まあ、その、ね。勘違いだったとはいえ、生贄の件に関してだけは丁重に謝らせていただくけど」
「黒沢殿、生贄の件とは」
「貴方は知らなくてもいいことです」
 元・皇帝からの質問をはぐらかしていると、室内に甲高い電子音が流れてきた。
 本人に事実を伝えるわけにもいかないため、黒沢は神がかったタイミングでの怪人出没の知らせに「よしっ!」と不謹慎な声をもらしながらパソコンを操作した。
「出たね、怪人。場所はA区の自然公園。何か奇声を上げながら叫んで暴れているんだって」
 元・皇帝からの指示がなくなったこともあり、地球で悪事を働いていると認識されていた怪人の多くを占めていたナーゾノ星人の出没情報こそ激減したが、広い宇宙には数えきれないくらいの星がたくさんある。つまり怪人と呼ばれる異星人達は度々地球にお邪魔してくるわけで、奴らが地球にはびこる以上、ヒーローはまだまだ必要とされているわけなのである。
「と、いうことで皆さん。早速この装置で現場に」
「うむ、やっと我の出番が来たというわけか。いざ、世を乱す狼藉者の元へ!」
「ああ、お待ち下され。陛下ーっ!」
「……」
 元・皇帝は黒沢の指示を最後まで聞かず、目にも止まらぬ速さでKTHから飛び出していってしまった。
 ただでさえ人間の身体能力を遥かに超えているというのに、お気に召したというだけでヒーロースーツを常時身につけているのである。それに食らいつくのは、鉄砲玉と徒競走をして一位を獲得するのと同じか、それ以上の難易度であるに決まっている。立場上実質の監視役みたいになっているとはいえ、シープソンがかわいそう過ぎる。
「あのままだと彼、町中で不審者と間違われそうで心配なんだけど。いや、でも、職務質問を受ける前に走って逃げられそうだし大丈夫かな? じゃあ、永山君。君は変身をして転送装置に」
「お断りします。俺は今から、ぼちぼち現場に向かいますから。ほら、花咲も行くぞ。高給もらってる分、ちゃんと仕事しろよな」
「はいはい、わかってるわよ」
 このままだと変身を強いられるのが完全に目に見えている。
 永山の言いぐさに引っかかることも多々あるのだが、美江はぐっとこらえてKTHを後にした。
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