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第三章 女王イリスの誕生

27話 「世紀の対決の前に」

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魔族(スペクター)による魔王エリカ暗殺計画より始まった、魔王エリカ軍団対魔族軍との戦い。

現在は事前情報の取り合いをしているので直接的な戦闘は無いが何かのきっかけで、いつ戦闘が始まっても不思議じゃない状況だ。


「どうだ?奴は巣穴から出て来たか?」

「いえ・・・魔王エリカは一向に姿を現しません」

「とにかく焦茶色と白色のもっさいグリフォンだ、見逃すんじゃねえぞ?」

ブレスト軍団長率いる暗殺部隊850名は魔王エリカの支配領域外の場所から望遠鏡と同じ様な魔道具を使い魔王エリカの巣穴の総がかりで監視をしているが、3ヶ月経っても魔王エリカを確認出来ていない。

そう言えばグリフォンの時のエリカの容姿に言及した事が無かったと、前話を書いている時に今更気が付いたアンポンタン作者。

エリカはグリフォンの中でもかなり変わった姿をしている。
単純に生えている焦茶色と白色の羽毛が長いだけだが、ブレストの言う通りに「モッサリ」としている印象だ。

頭の毛も長く鷲と言うよりはノスリの様な愛嬌がある顔をしているのだ。
反面、子供グリフォン・ロードのコンちゃんは白色グリフォン種で綺麗な真っ白な身体にモロ鷲の顔立ちに立派な金色の鶏冠有りでとても精悍な印象だ。

「・・・・・・奴は本当に引きこもってんのか?」
エリカの落ち着きの無い性格を知るブレストは少しずつ疑念を抱きつつある。
3ヶ月も巣穴から出て来ないのはおかしい・・・

そしてブレストの疑念は大正解でエリカは外出していてずっと巣穴に帰って来ていない。

分かり易く言うと「戦略的なトンズラ」をしている。
暗殺対象が居ないと魔族も攻めるに攻められない、元々の魔王バルドルの計画に乗っ取った遅滞戦略の一貫である。

大体からして1000名程度の魔族を苦労の末に討っても戦略的にメリットが少ないので極力今回は戦闘をしたくないのだ。
エリカは「早く帰ってくんねぇかなぁ?」と思っている。

じゃあエリカはどこに居るん?と言うと予定通りに「フェンリル王の説得」をしに北極圏に行っているのだ。

暗殺部隊の迎撃より余程こちらの方が重要事項なのでコンちゃんを巣穴に残して勇者ロテール君とアラクネーさんとゴーストスパイダー君20匹と共に既に北極圏中心部に近づきつつ有る。

置いてきぼりにされてコンちゃんが、ぐずるかと思われたのだが、
《コンは寒いのがとっても、とぉーても嫌いなのです!》とアッサリと魔王の代役を引き受けた。

比較的、寒冷地を好むはずのグリフォンなのだが、グリフォンそれぞれなのだろう。

最初はバルドルとヴァシリーサがエリカの護衛について来る予定だったが、
「アラクネー殿とロテール君が居れば儂等要らなくね?」と言う事に気が付いた。
本人はともかくエリカの配下は凄え充実して来ているのだ。



そして大騒動は魔族が展開する3ヶ月前にエリカの何気ない一言から始まった。



《・・・・・アラクネーさんとバルドルさんってどっちが強いの?》

うわぁ・・・ファンタジーで1番騒動が起こる事を言っちゃったよコイツ・・・
そして案の定、エリカはこの一言で4000万円(相当)を失う事になる。

「よおーーーし!!やって見ようではないか!アラクネー殿!ヨロシコ!」
そしてエリカの疑問になぜか全力で乗っかる魔王バルドル!いきなりお前どしたん?!

《エエーーー?!?!》

と言う訳で、エリカの疑問に答えるべくバルドルVSアラクネーさんの模擬戦が行わる事が決まった。
勝負の場はエリカの巣穴、天井が高く面積も広いから普段は訓練場として使われている。

《怪我とかは絶対にダメです!》
思わぬ急展開に慌てた魔王エリカから「安全第一」が言い渡される。

「ふむ、残念じゃが仕方あるまい」勝負は寸止め勝負に決まる。

《私ハ、ドチラデモ大丈夫デス》相手が魔王バルドルなのに余裕が見えるアラクネーさん。

寸止め勝負と言えどバトルマニアのバルドルは、もう珍しくウッキウキだ。
「剣聖」と戦える機会などそうそう有る事ではないからね。

「ええい!!狡いぞ!バルドル!」完全に出遅れたマクシム君はもうブーブーだ。

「苦労して作ったんだから、あんまり壊さないでね?」
ヴァシリーサさんはエリカの巣穴に追加で防御障壁をドンドンと壁に埋めている。

「こんなモンかね?スケさんよ?」{そっすね、こんなモンっすね}
どうせ奴等が来るのは明白なので先行して客席を作り始める「物資設備担当」のロテール君とスケさん。

何か模擬戦と言うよりお祭り感が出て来ている。

とは言え互いに世界トップクラスの実力者の2人・・・気を抜くと大怪我必至なので超真剣に対峙する。

今回の模擬戦はバルドルの遠距離魔法を掻い潜り、剣の間合いに入ればアラクネーさんの勝利と、バルドルに超有利な設定になる。

《バルドルさん狡くない?!》不公平勝負に激オコのエリカ。

「ん?こんなモン、ハンデにもなっとらんぞ?
よおーーーし!!何が何でも一発は当てるぞぉおおおおお!!」

《ええ?!》

超楽しそうなバルドル、バルドル曰く「一対一なら儂の敗北は必至じゃが、儂の魔法がどれだけアラクネー殿に通用するのかがメッチャ楽しみ」との事。
何でもマクシム君とタッグを組んでようやく五分との事だ。

《アラクネーさん・・・そんなに強いの?》
はい、そんなに強いですね、何せ《神さまの中での剣聖》なので。

トントントントンとその場でジャンプしているアラクネーさん。
いつも無表情だが、今は集中しているのか更に無表情に見える。

そして当然ながら奴等が現れる・・・・・・

「おっしゃああああ!!今は「アラクネー82対バルドル18」だ!
今回は特殊勝負!バルドルが魔法をアラクネーに「5発」当てれるか?だ!
さあ!張った張ったぁ!!」
トトカルチョ軍団の登場である・・・

「なんと?!18も儂に張ってるアホがおるのか?!」

《ネエ?君達?・・・》
静かなアラクネーさんの声がエリカの巣穴に響き、静かになる野次馬共・・・はっちゃけ過ぎてて怒られる?!

《私モ張ルワ・・・私ニ大金貨100枚(おおよそ4000万円)賭ケテオイテネ!》

ウオオオオオオオオオオオオーーーー!!!コレにはテンション爆上がりの会場!!

コレで大穴狙いの連中が更にバルドルに賭け始めてオッズが更に面白くなるのだ!
いつも無表情だが、なかなか楽しい事が大好きなアラクネーさんだったのだ。

「アラクネー殿にそう言われると儂も張らねばな・・・儂にも大金貨100枚じゃ!」
これで本命狙いの連中の配当金が上がり面白くなる!

ドオオオオオオオオオオオオオオ!!!テンションが最高潮に達する!

「うむ!ならば我はアラクネー殿に大金貨100枚だな!」更に追加が来たーー!!

ギャアアアアアアアアーーー!!!!!!マクシム君の言葉に会場の声援が悲鳴に変わる!
これで1億円(相当)勝負が確定である!過去一の大勝負になったのだ!

「はははは!それなら商工会の方からも大金貨100枚を配当金に上乗せしましょう!」
取引に来ていた人間の商人達がここで大盤振る舞いをして来た?!

フンギャアアアアアアアアーーー?!?!
これでどちらが勝っても大金貨100枚が配当金に上乗せである!

《ううーーー!!なら私も配当金に大金貨100枚を上乗せするわ!》
万年金欠魔王のエリカだが魔王として自分も上乗せしない訳にはいかぬ!!
後でお小遣いの運用計画の計算のやり直し確定である。

ドッビャアアアアアアアアアア?!?!これで2億円(相当)勝負だ!

これで参加者がドンドン続出してトトカルチョに賭けるのに時間が掛かり勝負開始を3時間ほど待つ事になった。
会場外に居る魔物達も向かって来ているとの事だからだ。


その間に・・・


《それで?なぁーんでイリスがここに居るのかしら?》

「え?ええ~?なんでだろう?本当に不思議だねぇ~??」

変装して商人に中に潜り込んでいたイリスをエリカが1発で発見して説教中である。
商人達の大金貨100枚上乗せのスポンサーはイリスだったのだ。

最近借金返済も終わり、かなりの資産持ちになっているイリス。
まぁ、あの借金はエリカが100%悪いのだが。

元々、世界NO,1の娯楽施設「イリス・テーマパーク(旧名イリスダンジョン)」のオーナーでもあり、各種の「イリスブランド」特許料金の権利を持っているイリスだ。
今まで貧乏だったのが、ものスゲェ不思議なだけだったのだ。

《んー?・・・・・・・・食べるわよ?》

「むー!ずっと仲間外れで寂しいじゃん!私もコッソリ参加したい!」
エリカに見つめられて観念するイリス、とりあえず逆ギレをして見る。

《まっ!遊びに来るだけなら歓迎だよ!久しぶりだねイリス!》
そう言って頭をイリスにスリスリするエリカ。

「うん!」エリカの頭をギュッと抱きしめてポロポロ泣くイリス。
エルフにとって3年程度どうと言う事もないはずだが、とても長く感じていたイリス。
親友にアッサリと受け入れて貰えて嬉しくて大泣きする。

「エリカ!久しぶりだね!」
そしてイリスと抱き合うエリカに話し掛けてくる綺麗な長い金髪のエルフの女性・・・.

《????え~と?どちら様でしょう??》エルフ女性に全く見覚えがないエリカ・・・
金髪なのでハイエルフ?いや?少し違う感じがする?

「もー・・・本当に分からない?あれだけ一緒に飛んだのに!」
怒っている様に見えるけど凄く楽しそう?・・・自分と一緒に飛んだ?

《・・・・・・・・・・・もしかして・・・・テレサ???》

「正解~、久しぶりだね!」

《うええええーーー?!何でー?!・・・・・・そっか!進化が終わったんだね!!》

エルフの女性の正体は飛竜改めて天龍のテレサ、グリプス王国に行く際に乗り物酔いしたエリカに背中を○☆○☆○☆○塗れにされた可哀想な飛竜だ。

イリスの龍騎士の相棒で天舞龍リールの祝福を受けて天龍へと進化を果たした。

力が安定するまで「天空城」にて修行の毎日を送り、この度無事に修行を終えて50年ぶりにイリスの元へ帰還したのだ。

《本当に久しぶりだね!ん?って事は今のテレサは天龍だよね?
ここに来たら色々と不味いんでないかい?》

今回の魔物統一戦争では龍種は不介入を徹底している。
幾ら友達と言えど渦中の魔王の元に天龍が来るのは問題しかないのだ。

「ふっふっふ~、今の私は「エルフ」よ。
天龍からは天龍王アメデ様の許可の元に脱退しているので問題無しなのよん」

《ええーーーー?!それってセコくない?!》確かに嘘も方便も甚だしいね。
エルフを名乗ろうが彼女はまごう事なき天龍なのだ。

「そこはまぁ、特例措置ってのが有ってねえ・・・」

聞けば天竜からの進化の場合ある程度は進路を選べるとの事。
テレサはエルフの竜だったので天龍の枠組みでは無く、エルフの枠組みに入りたいと申請したのだ。

天龍からの枠組みからは外れるので天龍から支援は受けられなくなるがエルフとして行動する分には問題ないらしい・・・・・・いやコレ詭弁じゃん?!

「こんなのバレなきゃ良いのよん、バレてもエルフで押し通すけどね!」

《そ・・・そう言うモノなのかしら?》イマイチ釈然としないエリカ。

「もー、エリカは相変わらず制度とかには変に真面目だねぇ・・・
それよりも・・・」

割とテレサの件もかなりの大事だが今の熱狂の渦に包まれている会場でイリスとテレサに気が付いている者はいない。

あの思慮深い魔王バルドルですら忍び込んでる我が子同然のイリスに気が付いていないのだ。
アラクネーさんに全神経を集中している様子だ。

「あの人・・・そんなに強いの?」イリスもアラクネーさんに注目する。

《「神剣士」のアラクネーさんよ、何かいつの間にか私に仕えてくれているの・・・》
ここに来てようやくエリカもおかしな現状に気づき始めた。

「神剣士・・・何か凄そう・・・私でも強さを全く見えないよ?」
天龍テレサの龍眼を持ってしても今のアラクネーさんの強さを読めない様子だ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
数万の魔物の響めきに会場の大洞穴が震えている。

ここに「亜神」同士の次元を越える戦いが始まる!
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