キーナの魔法

小笠原慎二

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奴の名はサーガ

サーガの事情

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すやすやすや…
いい子は眠るよ眠る時間。

「3秒…」

あいかわらず寝つきがいい。あきれるほどに。
キューちゃんもキーナの肩に止まり、羽を休めている。

「相変わらず早エな」

暇を持て余したサーガが、キーナの頬を小突いてみる。
むにん。
変な顔…。

(面白い…)

おいおい。
試しに引っ張ってみた。
おお柔らかい。
うに~んと伸ばして、ぱっと手を放すと、むにんと戻った。
しばし笑いをこらえるサーガ。
何かつぼったらしい。
今度は鼻を押してみる。豚のように。

「ブイ」

擬音語もおまけにつけた。
だが、

「うっさいわーーーー!」

さすがにしつこかったか。キーナがガバッと起き上がる。

「うわっ!」

勢いでキューちゃんも飛んでった。
寝ぼけ眼でサーガを睨み付けるキーナ。

「わ、わりぃわりぃ」

一応謝るサーガ。
しかし…。
半分以上寝ているキーナには、なぜか、サーガの姿がテルに見えてきて…。

「テルゥ!!」
「ぐへぇっ!!」

おもいっきしサーガの胸にアタックした。
痛そうだ。

「会いたかった…むにゃむにゃむにゃ…」

後半は何を言っているのだか聞き取れなかった。

「んなにテルディアスがいいのかよ…」

ちょっと複雑な気持ちでキーナの頭をなでなでなで。

「…」

ちょっとむかついたのでキーナの顔を胸にギュウッと押し当ててやった。

「う~ん…、う~ん…」

息苦しいらしい。
まあ、そろそろ静かに寝かせてあげましょうと、ベッドに横たえさせて、布団をかけてやる。
飛ばされたキューちゃんもキーナのお腹の上に戻ってきた。

「いい気なもんだ」

まったくそうだ。
しばしキーナの顔をじっとみつめるサーガ。
何を考えているのだろうとサーガを観察するキューちゃん。
すると、突然サーガにガシッと掴まれ、身動きできなくなってしまった。
暴れるキューちゃんを抑え込みながら、サーガの顔がゆっくりとキーナの顔に近づいて…。
安らかに眠るキーナの唇にサーガの唇が………。

重ならなかった。

ふいっと顔を戻すと、キューちゃんを放してやる。
慌ててキーナを守ろうとキューちゃんが臨戦態勢をとるが、サーガはシャツを羽織ると、部屋から出て行ってしまった。

「???」

キューちゃんは首を傾げるが、サーガの真意は分からなかった。











(煮え切らねぇ)

夜の街をサーガが歩いていく。
まだ町はそこそこの賑わいを見せていた。
ふと顔を上げると、物陰に色っぽいお姉さん。
サーガを見つめていた。
ふらりとそのお姉さんの側へ行くと、

「いくら?」
「まけてあげる」

大人な会話を残し、二人は路地へと消えていく。








「……っはあ…」

サーガが裸のお姉さんの上に覆いかぶさる。

「あ~~~」
「あ…ん」

熱い息を吐きながら、事の終えた二人はごろりと並んで体を横たえる。

「若いのに慣れてるわね」

お姉さんが言った。てことはお姉さんは…若づ…ぶへあっ!
作者は再起不能に陥った。

「ああ…」
(この感じ…、覚えがある…)

作者を無視して物語は進んでいく。
いいもん、いいもん。

(昔…戦が終わって帰ってきたら…
「スターシャにはまだお客がいるのよ」
まだ客が長居してるとかで、俺は入ることができなくて、仕方なく他の女のところでとりあえずすましたっけ。
その後の何とも言えないもの悲しさと味気無さ…。
う~~ん)

その時の感覚がなんとなく蘇ってくる。

「今晩泊まって行くでしょ?」

若づ…ではなく、色っぽいお姉さんがサーガにすり寄ってきた。

「いや、帰るわ」

サーガがさっさと帰り支度を始めた。

「あらん。また来てね」
「ああ」

色っぽいお姉さんに見送られながら、サーガはその部屋を後にした。
今の自分には、帰らなければならない場所がある。









やっと客が帰って一安心して、身支度を整えていたスターシャは、戸口に立った人影を見て、慌てて迎えた。

「サーガ、お帰りなさい。ごめんなさい。なかなかお客が帰らなくて…」

男たちがいなければありがたいことだが、男たちが帰ってきたらば、早く居なくなって欲しい。
しかしそんなことは言ってられない。
生きるためには。
静かにスターシャに近づいたサーガは、スターシャを抱きしめた。

「サーガ?」

そしてそのまま、スターシャをベッドに押し倒す。

「サーガ…! やめて! 今は…疲れてるの! いや…いや!」

嫌がるスターシャを抑え込み、サーガは無理やり抱いた。
何かに駆られるように、憑かれたかのように。
少しして、事を終えると、スターシャはサーガに背を向けて丸くなった。

「スターシャ?」

サーガが呼びかける。

「スター…」
「なんでもないわ」

背中越しなのに何故かわかった。

「なんでもない…」

スターシャが泣いていることが…。













だいぶ人気のなくなった町を歩いていくサーガ。

(今にして思えば、ガキだったなぁ…)

キーナの眠る部屋へと戻ってきた。
静かにドアを開け、静かに部屋に入る。
シャツを脱ぎ捨て、上半身は裸のまま、ごろりとベッドに横になる。

ぬう…

キューちゃんが覗き込んできた。

(気味が悪い…)

声には出さなかった。

「なんだよ、心配してるのか?」

こくこくとキューちゃんは頷く。
そしてキーナの腹の上で、バッと羽を広げた。

「襲わねーよ」

意味を解してサーガが言った。

「安心しろ。キーナに手は出せねぇよ。じゃ、俺は寝るぜ」

そういうとキーナに背を向けて横になる。
首を傾げるキューちゃん。
そもそも首がないのにどうやって?
それは聞かないお約束。

(あんな顔見せられちゃ…襲えねーよ)

次の日の朝、泣きはらしたスターシャの顔。
そこで初めてサーガは、自分が何をしたか理解した。
自分がスターシャに何をしでかしたかを。
すやすやと心地良い寝息が聞こえてくる。
ごろりと仰向けになってキーナを見る。
何も知らず、幸せそうな寝顔のキーナ。

(俺の幸せ…か)

夜の闇はまだ、明けることはない。
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