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水の都編
潜入
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水平線に太陽が沈んでいく。
黒い影は長く伸び、街は闇に包まれ始める。
足早に家に帰る人、売れ残りを売ってしまおうと声を張り上げる人、夜の営業に向かって支度をしている人。様々な人達がすれ違い、挨拶を交わし、一日の終焉を迎えようとしている。
そんな中、水路の端に設置してある、幅約50センチほどの細い通路を静かに進む影。
すでに水路は闇に包まれ、目を凝らさなければそんな影に気づくことはできない。
キーナとテルディアスは足音を殺しながら、迷路のような水路を迷うことなく進んでいく。
「こんな裏道いつの間に・・・?」
図面に書いてあるのは城の内部のみ。水路の道順など書いてあるわけはない。
「ん? 鍵屋のおじさんが教えてくれたよ?」
当然と言う顔でキーナが答える。
(何者だよ・・・)
キーナにくれたという泥棒7つ道具といい、裏道のことといい、只者ではない。
それに・・・。
「キーナ、本当にこういった仕事をしたことはないのか?」
「ないよー」
のんきに答えるキーナ。
だがしかし、その足運び、身のこなし、とても素人とは思えない。
もやもやとするが、明確な答えを得られるわけでもないので、余計にもやもや。
だがしかし、今は盗みに集中しなければならない。
背後のテルディアスのそういった気持ちが通じたのか、キーナも考えていた。
キーナにもテルディアスの言いたいことはなんとなく分かっている。
何故こんなことに詳しいのか、やったこともないのに何故身のこなし方まで自然と振る舞えているのか。
自分でも不思議でしょうがないのだ。
だがしかし、今は考えていても仕方がない。
この感覚に身を任せ、宝玉を絶対に手にしなければ、盗み出さなければならないのだ。
テルディアスのために。
(宝玉を盗み出すには、今はこの感覚が必要なんだ)
ほぼ闇に支配された通路をひたひたと歩いていく。
城の内部へと続く水路の中。
もちろん容易く侵入できないようにちゃんと柵が設置されている。
その柵の前で、キーナがガチャガチャと奮闘している。
柵の扉に付いている鍵を開けようとしているのだ。
テルディアスが火の魔法で明かりを作り、キーナの手元を照らす。
「開くか?」
「もちょい」
カチカチと先の曲がった金物を動かしていたが、
ガチャリ
鍵の外れる音がした。
「やったね!」
扉が、
ギイイイイ
と軋む音を立てながらゆっくり開く。
「錆びてたから固かった。テル、明かり消して」
「え?」
なにやらゴソゴソとポケットの中を探ると、先に丸い球体の付いたステッキのような物を取り出した。
これは「ライト」と呼ばれている道具で、魔法を使えない人、狭い所などで仕事をする人などが、暗い場所で使う道具である。
手持ちの所に特殊な粉を詰め、軽く振ると先の球体にその粉が入り、その真ん中にある特殊な加工、魔法を施した石に触れると発光するというものだ。
お値段はそこそこします。もちろん、粉もただではありません。粉がなくなったら光らなくなります。
魔法よりは若干光量は劣るが、困る程ではない。
「ここから先、魔法を使ったら警備兵が来ると思ってね。鍵は僕が全部開けるから」
そう言ってスタスタと歩き出す。
「キーナ、どこでそんなもの手に入れた?」
「鍵屋のおじさんがくれたよ?」
またしても当然と言う顔で答えるキーナ。
そんな高価な道具を?
(何者なんだ・・・?)
テルディアスの疑問は闇と共に深まっていく・・・。
城の奥、闇が広がる倉庫の片隅で、カタカタと小さな音がする。
ガタッ
と一度少し大きな音がして、しばらく静かになった。
そして、音もなく床の一部が持ち上がる。
その下から覗く二つの目が油断なく辺りを見回し、蓋をそのまま持ち上げた。
「誰もいないみたいね」
「そうだな」
開いた床の穴からキーナとテルディアスが滑り出てくる。
どこからか微かに漏れ入る僅かな光で辺りを見回し、様子を探る。
広い倉庫には荷物が積み上げられている。
「テル、肩車して」
「は?」
突然の申し出に呆気に取られるが、暗闇でそんな表情見えません。
ほぼ無理矢理手探りで肩に登られるテルディアス。目が見えないので触感などがいつもよりも過敏になっているなどとはあまり考えないようにする。
手探りで壁伝いを調べていくキーナ。
「もちょい右~」
と気軽に命令してくる。人使いの荒い奴だ。
「何かあるのか?」
何もないわけもないのだろうが、自分が何故こんな目に遭っているのか、わけは知っておきたい。
「うん、図面にね、この辺りに抜け道みたいなのがあったはず」
トントンと壁の上の方を叩いて探っていくキーナ。
もう少し右だ右だと言われて、何歩目か進んだ所で、キーナが叩く壁の音が微妙に違う音を出した。
キーナがその壁を調べると、ガコリと穴が開ける。
「うし! 行こ! テル!」
人一人やっと通れるかという穴にキーナを押し込み、テルディアスも後に続く。
身体のでかいテルディアスにはやっとという広さなので、進むのに苦労した。
半分手探り状態で随分進むと、先の方に薄明かりが見えてきた。
キーナがその出口らしき所から顔を出し、辺りの様子を探る。
出てきた所は暖炉の中。普段は使われていない部屋のようだった。もちろん人影はない。
キーナがそろりと出てくると、テルディアスもきつそうに穴から這い出てくる。
「着いたか・・・」
「うん」
体中に付いた埃を払う。
満月に近い月の光が窓から入ってきている。
扉に静かに近寄って、廊下の様子を伺う。
「すぐ階段だから気をつけてね」
「ああ」
キーナが扉を細く開け、様子を伺う。
誰もいないのを確認し、すばやく扉から出てすぐ側の階段へ向かう。
テルディアスも音もなく後に続いた。
螺旋状の階段をひたすら駆け上がって行く。隠れることのできない階段は危ないからだ。
と、キーナが突然止まって、
「隠れて!」
と小さく鋭く声を出す。
階段の壁にピタリと身体をくっつけると、今しも辿り着こうとしていた上の階の廊下の奥から、足音が近づいてきた。
(誰か来る?! よく聞こえたな・・・)
テルディアスも耳はいい方だが、キーナの聴覚はそれ以上ということか?
コツコツコツコツ
規則的に続くその音はだんだんと近づいてくる。
コツコツコツコツ
その音は目の前までやってきた。
そして、
コツコツコツコツ
そのまま通り過ぎて行った。
二人は安堵のため息をつく。
「行くよ」
「ああ」
気配を伺いながらキーナがまた進み出す。
テルディアスも後に続く。
と、キーナがあと一つ上で宝玉のある階と言う所で階段から離れていく。
「キーナ?! 宝玉は上だぞ?!」
「分かってる。こっちでいいの」
「え?」
テルディアスには分からない。
分からないけれどもとりあえずキーナについて行く。何故かそう納得できる気配がキーナからするため。いつもならばありえない。
キーナはとある部屋の前に行くと、扉に耳をくっつけて中の様子を伺う。
コンコン
とノックしてみるが、中から人が出てくる様子もなかった。
用心しながら扉を開け、中の様子を伺い、誰もいないことを確認し、すばやく中に潜り込む。
「こんな部屋に入ってどうする気だ?」
「あのまま階段を上がって行ったら警備兵とご対面だよ。お城にはだいたい非常用の抜け道があるでしょ? それを使わせてもらうの!」
なるほど、とテルディアスは納得。
確かにあのまままっすぐ行けば、宝物庫への通路と言うこともあり、所々に警備兵が配置されている。面倒ごとになることは目に見えている。
まあそんな奴ら瞬殺してしまえばいいとテルディアスは考えていたのであるけども。
「でもそういう抜け道って王族しか知らない秘密のはずなんだよね~。でもあの図面事細かに書かれてたなぁ。まるで誰かが調べて書き加えたみたい」
当たらずとも遠からずかもしれない。
あの地図は誰かが使っていたのではとテルディアスも思っていたのだ。
「しかもそのほとんどが抜け道っていうより、逢引き用隠し通路っぽいんだよね~」
テルディアスがずっこけた。
確かになんだか変だなこの通路というのは結構あったけど・・・。逢い引き用・・・。
そんな言葉を知っていたのかキーナ。
と、何やら壁やら壁に掛かった絵画やらを調べていたキーナが、何かを発見したようだった。
カチリ
と音がして、壁に掛かっていた絵画が動き出す。
それは扉になっていて、その向こうにはまた少し狭いけれども、人が通れるくらいの通路が延びていた。
「さ、参りますか」
キーナの後に続いてテルディアスが通路に入るが、やっぱり身体のでかいテルディアスには狭い通路だった。
幾度か折れ曲がったりしながら、通路は突然終わりを告げる。
そこにはガラスが嵌まっており、中の様子が見て取れた。
キーナがやはり用心して見回すが、誰もいないようだった。
ガラスを押し開けて部屋に入り、ガラスを閉めると、ガラスは鏡になっていた。
「姿見がマジックミラーなんて、・・・のぞき?」
キーナが呟いた。
まさかねぇ?
月の光が煌々と差し込む窓に寄り、静かに開け放つ。
バルコニーに出て上を見上げる。そこには一つの窓。
「あの窓よ」
テルディアスも見上げた。
「あそこから入ればあとは廊下を一直線だよ」
「だがどうやってあそこまで?」
大分高さがあるし、手掛かりになるような物もない。
魔法が使えたなら飛んで行けたろうが。
「だからさ・・・」
キーナが作戦を伝える。
キーナがテルディアスの手に足をかけ、そのままテルディアスはキーナを放り投げる。
その反動を利用してキーナが跳ぶ。うまくいけば窓に届くだろう。
「行くぞ」
「うん」
テルディアスが一度息を吸い、手に力を込める。
キーナもテルディアスの力を逃すまいと足に力を込めた。
「フッ・・・!!」
テルディアスがキーナを放り投げる。
初めてなのに息の合ったコンビネーション。難なくキーナは窓に飛びついた。
梁に足をかけ、一度テルディアスにガッツポーズ。
「いいから早くやれ」
と突っ込まれる。
ガラス切りで窓に小さく穴を開け、そこから針金を通し、窓の鍵を引き抜く。
手慣れたものだ。
静かに窓を開け、静かに廊下に降り立つ。
側にある柱の陰に隠れ、廊下の先を見ると、扉の前に二人の警備兵が立っていた。
(警備兵が二人・・・、どうやって気づかれないようにテルを上げよう)
と考えていると、
「キーナ」
と小さく自分を呼ぶ声。
「ピイ!」
びっくりして変な声が出た。
見れば窓からテルディアスの顔が。
「どうやって上がったの?!」
とひそひそひそ。
「これくらいの高さなら自力で跳んで来れるわ」
とひそひそひそ。
テル君の身体能力侮ってました。
「誰だ?!」
と響き渡る警備兵の声。
「誰かいるのか?!」
どうやら感づかれてしまった模様。
げげ!どうしよう!とキーナが思った矢先、
「どいてろ」
とテルディアスがひそひそひそ。
キーナ大人しく柱の陰に。
テルディアスなにやら準備を始める。
カツカツカツ
と足音が近づいてくる。
カツカツカツカツカツ・・・
警備兵が窓の近くまで寄ってきて、もうすぐキーナが見えてしまうという所で、テルディアスが窓の上枠を掴み、軽くジャンプ。そのまま足から廊下へ勢いよく飛び入って来た。
ゴッ!
警備兵の顔面にテルディアスの足がミラクルヒット。あえなく一人目ダウン。
その間にテルディアスは華麗に着地。
事態に気づいたもう一人の警備兵が、
「何者だ!!」
と槍を構えて迫る。
振り向き対処しようとしたテルディアスの目に、すばやく行動を開始したキーナの姿が映った。
「キ・・・」
勢いよく床を蹴り警備兵に迫ったキーナは、突き出された槍を跳んで避けると、軽業師のように槍にフワリと着地した。
驚く警備兵の槍をそのまま蹴落とし、空中で一回転、後頭部を両足で蹴り、華麗に着地した。
唖然とするテルディアス。
こんなことできる奴だったっけ?
「やったね!」
キーナがピースを作る。
「お前・・・、随分戦い慣れしてないか?」
何かが違う、テルディアスの知っていたキーナと何かが違うと思ったが、
「ん? ま~あ、色々あったしねぇ?」
いろいろ?
色々とはなんだろう?
ミドル王国で一度別れて、それからおよそ一月後に再会した。その間にサーガとかいうチンピラと行動を共にしていたのだ。色々あってもおかしくないか。
テルディアスはもやっとしながらも一応納得した。
「それよりもほら、ゴールはすぐそこだよ」
キーナが扉を指さした。
黒い影は長く伸び、街は闇に包まれ始める。
足早に家に帰る人、売れ残りを売ってしまおうと声を張り上げる人、夜の営業に向かって支度をしている人。様々な人達がすれ違い、挨拶を交わし、一日の終焉を迎えようとしている。
そんな中、水路の端に設置してある、幅約50センチほどの細い通路を静かに進む影。
すでに水路は闇に包まれ、目を凝らさなければそんな影に気づくことはできない。
キーナとテルディアスは足音を殺しながら、迷路のような水路を迷うことなく進んでいく。
「こんな裏道いつの間に・・・?」
図面に書いてあるのは城の内部のみ。水路の道順など書いてあるわけはない。
「ん? 鍵屋のおじさんが教えてくれたよ?」
当然と言う顔でキーナが答える。
(何者だよ・・・)
キーナにくれたという泥棒7つ道具といい、裏道のことといい、只者ではない。
それに・・・。
「キーナ、本当にこういった仕事をしたことはないのか?」
「ないよー」
のんきに答えるキーナ。
だがしかし、その足運び、身のこなし、とても素人とは思えない。
もやもやとするが、明確な答えを得られるわけでもないので、余計にもやもや。
だがしかし、今は盗みに集中しなければならない。
背後のテルディアスのそういった気持ちが通じたのか、キーナも考えていた。
キーナにもテルディアスの言いたいことはなんとなく分かっている。
何故こんなことに詳しいのか、やったこともないのに何故身のこなし方まで自然と振る舞えているのか。
自分でも不思議でしょうがないのだ。
だがしかし、今は考えていても仕方がない。
この感覚に身を任せ、宝玉を絶対に手にしなければ、盗み出さなければならないのだ。
テルディアスのために。
(宝玉を盗み出すには、今はこの感覚が必要なんだ)
ほぼ闇に支配された通路をひたひたと歩いていく。
城の内部へと続く水路の中。
もちろん容易く侵入できないようにちゃんと柵が設置されている。
その柵の前で、キーナがガチャガチャと奮闘している。
柵の扉に付いている鍵を開けようとしているのだ。
テルディアスが火の魔法で明かりを作り、キーナの手元を照らす。
「開くか?」
「もちょい」
カチカチと先の曲がった金物を動かしていたが、
ガチャリ
鍵の外れる音がした。
「やったね!」
扉が、
ギイイイイ
と軋む音を立てながらゆっくり開く。
「錆びてたから固かった。テル、明かり消して」
「え?」
なにやらゴソゴソとポケットの中を探ると、先に丸い球体の付いたステッキのような物を取り出した。
これは「ライト」と呼ばれている道具で、魔法を使えない人、狭い所などで仕事をする人などが、暗い場所で使う道具である。
手持ちの所に特殊な粉を詰め、軽く振ると先の球体にその粉が入り、その真ん中にある特殊な加工、魔法を施した石に触れると発光するというものだ。
お値段はそこそこします。もちろん、粉もただではありません。粉がなくなったら光らなくなります。
魔法よりは若干光量は劣るが、困る程ではない。
「ここから先、魔法を使ったら警備兵が来ると思ってね。鍵は僕が全部開けるから」
そう言ってスタスタと歩き出す。
「キーナ、どこでそんなもの手に入れた?」
「鍵屋のおじさんがくれたよ?」
またしても当然と言う顔で答えるキーナ。
そんな高価な道具を?
(何者なんだ・・・?)
テルディアスの疑問は闇と共に深まっていく・・・。
城の奥、闇が広がる倉庫の片隅で、カタカタと小さな音がする。
ガタッ
と一度少し大きな音がして、しばらく静かになった。
そして、音もなく床の一部が持ち上がる。
その下から覗く二つの目が油断なく辺りを見回し、蓋をそのまま持ち上げた。
「誰もいないみたいね」
「そうだな」
開いた床の穴からキーナとテルディアスが滑り出てくる。
どこからか微かに漏れ入る僅かな光で辺りを見回し、様子を探る。
広い倉庫には荷物が積み上げられている。
「テル、肩車して」
「は?」
突然の申し出に呆気に取られるが、暗闇でそんな表情見えません。
ほぼ無理矢理手探りで肩に登られるテルディアス。目が見えないので触感などがいつもよりも過敏になっているなどとはあまり考えないようにする。
手探りで壁伝いを調べていくキーナ。
「もちょい右~」
と気軽に命令してくる。人使いの荒い奴だ。
「何かあるのか?」
何もないわけもないのだろうが、自分が何故こんな目に遭っているのか、わけは知っておきたい。
「うん、図面にね、この辺りに抜け道みたいなのがあったはず」
トントンと壁の上の方を叩いて探っていくキーナ。
もう少し右だ右だと言われて、何歩目か進んだ所で、キーナが叩く壁の音が微妙に違う音を出した。
キーナがその壁を調べると、ガコリと穴が開ける。
「うし! 行こ! テル!」
人一人やっと通れるかという穴にキーナを押し込み、テルディアスも後に続く。
身体のでかいテルディアスにはやっとという広さなので、進むのに苦労した。
半分手探り状態で随分進むと、先の方に薄明かりが見えてきた。
キーナがその出口らしき所から顔を出し、辺りの様子を探る。
出てきた所は暖炉の中。普段は使われていない部屋のようだった。もちろん人影はない。
キーナがそろりと出てくると、テルディアスもきつそうに穴から這い出てくる。
「着いたか・・・」
「うん」
体中に付いた埃を払う。
満月に近い月の光が窓から入ってきている。
扉に静かに近寄って、廊下の様子を伺う。
「すぐ階段だから気をつけてね」
「ああ」
キーナが扉を細く開け、様子を伺う。
誰もいないのを確認し、すばやく扉から出てすぐ側の階段へ向かう。
テルディアスも音もなく後に続いた。
螺旋状の階段をひたすら駆け上がって行く。隠れることのできない階段は危ないからだ。
と、キーナが突然止まって、
「隠れて!」
と小さく鋭く声を出す。
階段の壁にピタリと身体をくっつけると、今しも辿り着こうとしていた上の階の廊下の奥から、足音が近づいてきた。
(誰か来る?! よく聞こえたな・・・)
テルディアスも耳はいい方だが、キーナの聴覚はそれ以上ということか?
コツコツコツコツ
規則的に続くその音はだんだんと近づいてくる。
コツコツコツコツ
その音は目の前までやってきた。
そして、
コツコツコツコツ
そのまま通り過ぎて行った。
二人は安堵のため息をつく。
「行くよ」
「ああ」
気配を伺いながらキーナがまた進み出す。
テルディアスも後に続く。
と、キーナがあと一つ上で宝玉のある階と言う所で階段から離れていく。
「キーナ?! 宝玉は上だぞ?!」
「分かってる。こっちでいいの」
「え?」
テルディアスには分からない。
分からないけれどもとりあえずキーナについて行く。何故かそう納得できる気配がキーナからするため。いつもならばありえない。
キーナはとある部屋の前に行くと、扉に耳をくっつけて中の様子を伺う。
コンコン
とノックしてみるが、中から人が出てくる様子もなかった。
用心しながら扉を開け、中の様子を伺い、誰もいないことを確認し、すばやく中に潜り込む。
「こんな部屋に入ってどうする気だ?」
「あのまま階段を上がって行ったら警備兵とご対面だよ。お城にはだいたい非常用の抜け道があるでしょ? それを使わせてもらうの!」
なるほど、とテルディアスは納得。
確かにあのまままっすぐ行けば、宝物庫への通路と言うこともあり、所々に警備兵が配置されている。面倒ごとになることは目に見えている。
まあそんな奴ら瞬殺してしまえばいいとテルディアスは考えていたのであるけども。
「でもそういう抜け道って王族しか知らない秘密のはずなんだよね~。でもあの図面事細かに書かれてたなぁ。まるで誰かが調べて書き加えたみたい」
当たらずとも遠からずかもしれない。
あの地図は誰かが使っていたのではとテルディアスも思っていたのだ。
「しかもそのほとんどが抜け道っていうより、逢引き用隠し通路っぽいんだよね~」
テルディアスがずっこけた。
確かになんだか変だなこの通路というのは結構あったけど・・・。逢い引き用・・・。
そんな言葉を知っていたのかキーナ。
と、何やら壁やら壁に掛かった絵画やらを調べていたキーナが、何かを発見したようだった。
カチリ
と音がして、壁に掛かっていた絵画が動き出す。
それは扉になっていて、その向こうにはまた少し狭いけれども、人が通れるくらいの通路が延びていた。
「さ、参りますか」
キーナの後に続いてテルディアスが通路に入るが、やっぱり身体のでかいテルディアスには狭い通路だった。
幾度か折れ曲がったりしながら、通路は突然終わりを告げる。
そこにはガラスが嵌まっており、中の様子が見て取れた。
キーナがやはり用心して見回すが、誰もいないようだった。
ガラスを押し開けて部屋に入り、ガラスを閉めると、ガラスは鏡になっていた。
「姿見がマジックミラーなんて、・・・のぞき?」
キーナが呟いた。
まさかねぇ?
月の光が煌々と差し込む窓に寄り、静かに開け放つ。
バルコニーに出て上を見上げる。そこには一つの窓。
「あの窓よ」
テルディアスも見上げた。
「あそこから入ればあとは廊下を一直線だよ」
「だがどうやってあそこまで?」
大分高さがあるし、手掛かりになるような物もない。
魔法が使えたなら飛んで行けたろうが。
「だからさ・・・」
キーナが作戦を伝える。
キーナがテルディアスの手に足をかけ、そのままテルディアスはキーナを放り投げる。
その反動を利用してキーナが跳ぶ。うまくいけば窓に届くだろう。
「行くぞ」
「うん」
テルディアスが一度息を吸い、手に力を込める。
キーナもテルディアスの力を逃すまいと足に力を込めた。
「フッ・・・!!」
テルディアスがキーナを放り投げる。
初めてなのに息の合ったコンビネーション。難なくキーナは窓に飛びついた。
梁に足をかけ、一度テルディアスにガッツポーズ。
「いいから早くやれ」
と突っ込まれる。
ガラス切りで窓に小さく穴を開け、そこから針金を通し、窓の鍵を引き抜く。
手慣れたものだ。
静かに窓を開け、静かに廊下に降り立つ。
側にある柱の陰に隠れ、廊下の先を見ると、扉の前に二人の警備兵が立っていた。
(警備兵が二人・・・、どうやって気づかれないようにテルを上げよう)
と考えていると、
「キーナ」
と小さく自分を呼ぶ声。
「ピイ!」
びっくりして変な声が出た。
見れば窓からテルディアスの顔が。
「どうやって上がったの?!」
とひそひそひそ。
「これくらいの高さなら自力で跳んで来れるわ」
とひそひそひそ。
テル君の身体能力侮ってました。
「誰だ?!」
と響き渡る警備兵の声。
「誰かいるのか?!」
どうやら感づかれてしまった模様。
げげ!どうしよう!とキーナが思った矢先、
「どいてろ」
とテルディアスがひそひそひそ。
キーナ大人しく柱の陰に。
テルディアスなにやら準備を始める。
カツカツカツ
と足音が近づいてくる。
カツカツカツカツカツ・・・
警備兵が窓の近くまで寄ってきて、もうすぐキーナが見えてしまうという所で、テルディアスが窓の上枠を掴み、軽くジャンプ。そのまま足から廊下へ勢いよく飛び入って来た。
ゴッ!
警備兵の顔面にテルディアスの足がミラクルヒット。あえなく一人目ダウン。
その間にテルディアスは華麗に着地。
事態に気づいたもう一人の警備兵が、
「何者だ!!」
と槍を構えて迫る。
振り向き対処しようとしたテルディアスの目に、すばやく行動を開始したキーナの姿が映った。
「キ・・・」
勢いよく床を蹴り警備兵に迫ったキーナは、突き出された槍を跳んで避けると、軽業師のように槍にフワリと着地した。
驚く警備兵の槍をそのまま蹴落とし、空中で一回転、後頭部を両足で蹴り、華麗に着地した。
唖然とするテルディアス。
こんなことできる奴だったっけ?
「やったね!」
キーナがピースを作る。
「お前・・・、随分戦い慣れしてないか?」
何かが違う、テルディアスの知っていたキーナと何かが違うと思ったが、
「ん? ま~あ、色々あったしねぇ?」
いろいろ?
色々とはなんだろう?
ミドル王国で一度別れて、それからおよそ一月後に再会した。その間にサーガとかいうチンピラと行動を共にしていたのだ。色々あってもおかしくないか。
テルディアスはもやっとしながらも一応納得した。
「それよりもほら、ゴールはすぐそこだよ」
キーナが扉を指さした。
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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