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キーナのバイト
領主の息子
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ドスドスと足音を鳴らしながらお店の方へ戻ってきたキーナ。
「あ、キーナちゃん、戻・・・」
ってきたのねと言いかけて、女将さんが驚いた顔。
「何があったの?」
「え?」
キーナの顔が歌舞伎役者のような変顔になっていたのだった。
女将さんに言われて慌てて顔をマッサージする。
「じゃ、今日一日だけよろしくね」
「うん! まっかしといて!」
笑顔の戻ったキーナがまたお店の中へ出ていった。
待ちかねていた客達が色めき立つ。
笑顔と愛想を振りまき、キーナは一生懸命働いた。
その笑顔は本当にキラキラと輝いていた。
店の奥では、頭を抱えてテルディアスが落ち込んでいた。
まあ、放っておこう。
バン!
と店の扉が勢いよく開き、
「こんにちは!」
と威勢の良い声が店に響いた。
「いらっしゃい・・・」
と笑顔で振り向いたキーナの顔が固まる。
「ませ・・・」
明らかに、うわ~、変なの来た~と言う顔をする。
青い髪に、ちょっと高級そうな服を着たその少年は、かっこつけたようにポーズを取りながら、キーナに近づき、その手を取った。
「キーナさん、君の美しさに惹かれ、僕はまた来てしまった」
端から見ていてこいつおかしいんじゃねーのと思えるような行動。
キーナも珍しく嫌そうな顔をしている。
「また来たのね・・・」
「ああ・・・」
女将さんと主人が小声で話す。
どこで噂を聞きつけたのか、昨日も店にやってきて、キーナを一目見て気に入ったらしく、さんざん時間をかけてキーナの仕事の邪魔をして帰って行った。
こいつ一人のおかげで、店が回らなくなったのだ。
迷惑な奴である。
だがしかし、この少年には強く言えない理由があった。
「ご、ご注文は?」
笑顔を引きつらせながらキーナが尋ねる。
「おっと、君の美しさに見とれて忘れていたよ」
と、はははっと顔を振る。
(変な人)
キーナは自分が美人だとも思っていないので、なんなんだこの目が腐った野郎は、位にしか思っていない。
「ご主人、この店で一番高いものを」
「あ、あいよ」
直に主人に注文すると、キーナの肩を抱いて、席まで案内させる。
肩に置かれた手が気持ち悪かったが、無理にほどくわけにも行かず、我慢して席まで案内する。
その様子を見ながら、女将さんと主人はキーナの心配をする。
「領主の息子だから金払いはいいけど、キーナちゃんに目を付けたみたいだな・・・」
「大丈夫かしら・・・?」
「おかしなことにならなきゃいいけど・・・」
そう、このむかつく少年、実はこの辺り一帯を治める領主の息子なのだ。
金持ちボンボンらしく、我が儘でやりたい放題。
金を出せば何でもできると思っている勘違い野郎である。
ちなみに年は13歳。キーナの一つ下だったりする。
キーナに堂々と触れながら席まで歩く姿を、その場にいた客全員が睨み付けるが、そこはやはりボンボン。全く気にしない。
そして誰も逆らえなかった。
やっとこさ席に案内し、さて他の席のお客さんの所へ行かなければと足を踏み出しかけた時、キーナは腕をガシッと掴まれた。
「キーナさん」
思わず冷ややかな目線でその掴んだ手と、その顔を見てしまう。
崩れかけた微笑みでなんとか誤魔化しながら、
「あの、僕仕事が・・・」
と逃げようとするが、
「僕、今日、一大決心をしてここに来たんです!」
と何やら宣言したまま、手を放してくれない。
「はあ、そうですか」
投げやりに返事を返すが、全く気付いていない。
「色々悩みましたが、キーナさん、僕と・・・」
少年は一度大きく息を吸うと、
「結婚して下さい!」
その声は店中に響き渡った。
奥にいたテルディアスはベッドから転げ落ちそうになった。
「あ、あ・・・あー、あ?」
キーナはあまりにも自分に縁遠い単語を聞かされ、パニックになって言葉が出ない。
そんなキーナに全く気付かず、
「僕は領主の息子で、キーナさんとは身分の差がありますけど、僕の愛の力でどうにかしてみせます!」
と顔を輝かせて宣言する。
「で、でも、まだ、僕、14歳だし・・・」
なんとか逃れようと必死で言い訳を探すが、
「適齢期じゃないですか!」
少年が目を輝かせた。
(そういえば、この世界成人が15歳とか言ってたっけ・・・)
キーナは墓穴を掘った事に気付いた。
この世界で結婚は、12歳から認められていたりします。
地域によって差があったりはしますが。
ちなみに、20歳までに結婚しないと、年増と呼ばれたりします。
閑話休題。
「ちょっとあんた! キーナちゃんが嫌がってるでしょ! とりあえずその手を放しなさい!」
見かねて女将さんが助け船。
ところがそれに怯むこともなく、
「嫌がるわけないだろ? 僕の父は領主なんだよ?」
と、変な自信で返す。
「僕と結婚したら一生不自由はさせません! 何でも思うままです!」
今までもそうやって生きてきたのだろう。
「こんな小汚い店で働くこともありませんよ!」
「小汚い?」
その言葉に反応したのは、キーナではなかった。
「こ、小汚くなんかないよ!」
とキーナが反論していると、後ろにゆらりと人影。
「ちょいとあんた・・・、この店のどこが、小汚いって?」
怒りの炎を背負った女将さんが、仁王立ちになって少年の前に立ち塞がる。
どっこい少年は顔色一つ変えることなく、
「小汚いものを小汚いと言って何か?」
と逆に聞き返す。
我慢できなくなった女将さん、少年の襟首をガシッと掴み、
「一発かましたろかこのガキャー!」
と拳を振り上げるが、
「いいんですか? 僕に手を上げて。僕の父親は領主なんですよ? こんな小汚い店でも、潰されたら困るんじゃないですか?」
ときた。
その台詞に固まってしまう一同。
(さ、最低だ・・・、こいつ・・・)
その場にいる一人を残して、皆同じ事を思った。
(最低だけど・・・、この店は・・・)
女将さんの拳が震える。
一発殴ってやりたい所だけど、ここで殴ってしまったら、この店を潰されてしまうかもしれない。
二人で頑張って開いて、二人で頑張って切り盛りしてきた店だ。
二人にとって何よりも大切な場所だ。
女将さんは拳を止めたまま、身動きできなかった。
「いつまでも人の襟首掴まないでください。息苦しい」
その手をバシッと払うと、またキーナに振り向き、その手を掴む。
「ということでキーナさん! このお店を潰したくなかったら、僕と結婚して下さい!」
一人を除いて全員思った。
(え・・・? 脅し・・・?)
いつの間にやら、プロポーズが脅し文句になっている。
「もちろん、いいですよね?」
とにやりと笑う。
その顔が腹立たしくて、握られた手が気持ち悪くて、キーナが何も言えずにワナワナと込み上げる怒りを堪えていると、
シュッ
と何かが空気を切り裂く音が聞こえた。
そして、
ザクッ
少年の手に、フォークが綺麗に突き立った。
「うぎゃあ!」
少年が悲鳴を上げて、キーナの手を放す。
「さっきからアホな話が聞こえて来ると思ったら・・・」
店の奥からテルディアスが姿を現した。
「テル!」
「何をやっとるんだお前は」
テルディアスがキーナの傍に寄る。
困った時のテルディアス。なんていいタイミングで出てきたんでしょう。
「お、お前か! こんなことしたのは!」
少年がテルディアスを睨み付けた。
「ああそうだ。キーナの手に変な虫がついていたからな。退治しようと投げただけだ」
「こんなことしていいと思ってるのか?! 僕は領主の・・・」
テルディアスが少年の頭を掴み、そのままテーブルに叩きつける。
「領主の息子だから何だと言うんだ? 親の威厳がなければ自分のケツも拭けんようなウジ虫が、女を口説くなんて十年早い」
「ぐふ・・・」
押さえつけられたまま、苦しそうに息をする。
「テル! やりすぎだよ!」
キーナが慌てて止めに入る。
「そうか? こんな奴、これでも足りんくらいだろう」
「テルッ!」
そう思っていてもそう言ってはいけません。
テルディアスが頭から手を放す。
少年は痛む頭を押さえながら起き上がると、
「こ、この僕にこんなことをして・・・、どうなるか分かってるんだろうな・・・」
とテルディアスを睨み付けた。
「潰してやる! こんな店! こんな小汚い店なんか跡形もなく・・・」
「やりたければやればいいだろう」
テルディアスがさらりと答えた。
青ざめる一同。
「俺は別に痛くもかゆくもない」
そりゃそうだ。
「て、テルっ!」
いやいや、お世話になっておいてそれはないだろうとキーナが止めに入るが、
「ほ、本当に潰すぞ!」
「だがら、やればいいだろう?」
とギラリと少年を睨み付ける。
その迫力にビビる少年。
「ちょ、ちょっとあんた! 人の店を潰すだの何だの、勝手に言わないでおくれ!」
ここで女将さんのストップが入った。
「そうだよテル!」
キーナも激しく同意。
「そうだそうだ!」
何故か少年も同意。
なんでだよ。
「ならば仕方ないな」
と、ふっと一つ溜息を吐くと、スラリと腰の剣を抜き放ち、
ダンッ!
と少年の目の前のテーブルに突き立てた。
剣の美しさと鋭さと恐ろしさに、硬直する少年。
「ここで息の根を止めるしかないな」
サラッとテルディアスが言った。
(え? 本気?)
一人を除いて皆が思った。
「そ、そんな脅しに・・・」
と言いかけた少年の顔の横を、風が通り過ぎた。
次の瞬間、少年の頬に、赤い筋ができた。
そこから赤い液体が、つーっと垂れてくる。
少年の顔が青ざめる。
テルディアスが少年の首に剣を当てる。
「次は、首だ」
青ざめた少年の顔が、さらに血の気を失くしていく。
「ひ、人殺し!!」
恐怖で少年が叫んだ。
「あ? お前だって似たようなものだろ?」
「ぼ、僕は人を殺した事なんて・・・!」
「この店を潰そうとしているだろう。店を失った二人がどこぞで野垂れ死んだら、結局お前が殺したという事になるだろう」
テルディアスが剣を振り上げた。
「要は、早いか遅いかの問題だ。ということで、死ね」
剣が振り下ろされようとした時、キーナが慌てて止めに入った。
「ちょ、ちょっと待って! テル待って! いくらなんでも殺すなんて・・・!」
キーナには感じられた。
テルが本当に殺そうとしていると。
「ひいいいいいいいいいい!!! 助けて―――!」
少年はドッピューンという擬音語を残して、命からがら店から逃げ出した。
カロカロカロ・・・
扉に付けられていた鈴の音が響いた。
「・・・逃げたぞ」
テルディアスの冷静な声が、キーナの耳に届いた。
「あ、キーナちゃん、戻・・・」
ってきたのねと言いかけて、女将さんが驚いた顔。
「何があったの?」
「え?」
キーナの顔が歌舞伎役者のような変顔になっていたのだった。
女将さんに言われて慌てて顔をマッサージする。
「じゃ、今日一日だけよろしくね」
「うん! まっかしといて!」
笑顔の戻ったキーナがまたお店の中へ出ていった。
待ちかねていた客達が色めき立つ。
笑顔と愛想を振りまき、キーナは一生懸命働いた。
その笑顔は本当にキラキラと輝いていた。
店の奥では、頭を抱えてテルディアスが落ち込んでいた。
まあ、放っておこう。
バン!
と店の扉が勢いよく開き、
「こんにちは!」
と威勢の良い声が店に響いた。
「いらっしゃい・・・」
と笑顔で振り向いたキーナの顔が固まる。
「ませ・・・」
明らかに、うわ~、変なの来た~と言う顔をする。
青い髪に、ちょっと高級そうな服を着たその少年は、かっこつけたようにポーズを取りながら、キーナに近づき、その手を取った。
「キーナさん、君の美しさに惹かれ、僕はまた来てしまった」
端から見ていてこいつおかしいんじゃねーのと思えるような行動。
キーナも珍しく嫌そうな顔をしている。
「また来たのね・・・」
「ああ・・・」
女将さんと主人が小声で話す。
どこで噂を聞きつけたのか、昨日も店にやってきて、キーナを一目見て気に入ったらしく、さんざん時間をかけてキーナの仕事の邪魔をして帰って行った。
こいつ一人のおかげで、店が回らなくなったのだ。
迷惑な奴である。
だがしかし、この少年には強く言えない理由があった。
「ご、ご注文は?」
笑顔を引きつらせながらキーナが尋ねる。
「おっと、君の美しさに見とれて忘れていたよ」
と、はははっと顔を振る。
(変な人)
キーナは自分が美人だとも思っていないので、なんなんだこの目が腐った野郎は、位にしか思っていない。
「ご主人、この店で一番高いものを」
「あ、あいよ」
直に主人に注文すると、キーナの肩を抱いて、席まで案内させる。
肩に置かれた手が気持ち悪かったが、無理にほどくわけにも行かず、我慢して席まで案内する。
その様子を見ながら、女将さんと主人はキーナの心配をする。
「領主の息子だから金払いはいいけど、キーナちゃんに目を付けたみたいだな・・・」
「大丈夫かしら・・・?」
「おかしなことにならなきゃいいけど・・・」
そう、このむかつく少年、実はこの辺り一帯を治める領主の息子なのだ。
金持ちボンボンらしく、我が儘でやりたい放題。
金を出せば何でもできると思っている勘違い野郎である。
ちなみに年は13歳。キーナの一つ下だったりする。
キーナに堂々と触れながら席まで歩く姿を、その場にいた客全員が睨み付けるが、そこはやはりボンボン。全く気にしない。
そして誰も逆らえなかった。
やっとこさ席に案内し、さて他の席のお客さんの所へ行かなければと足を踏み出しかけた時、キーナは腕をガシッと掴まれた。
「キーナさん」
思わず冷ややかな目線でその掴んだ手と、その顔を見てしまう。
崩れかけた微笑みでなんとか誤魔化しながら、
「あの、僕仕事が・・・」
と逃げようとするが、
「僕、今日、一大決心をしてここに来たんです!」
と何やら宣言したまま、手を放してくれない。
「はあ、そうですか」
投げやりに返事を返すが、全く気付いていない。
「色々悩みましたが、キーナさん、僕と・・・」
少年は一度大きく息を吸うと、
「結婚して下さい!」
その声は店中に響き渡った。
奥にいたテルディアスはベッドから転げ落ちそうになった。
「あ、あ・・・あー、あ?」
キーナはあまりにも自分に縁遠い単語を聞かされ、パニックになって言葉が出ない。
そんなキーナに全く気付かず、
「僕は領主の息子で、キーナさんとは身分の差がありますけど、僕の愛の力でどうにかしてみせます!」
と顔を輝かせて宣言する。
「で、でも、まだ、僕、14歳だし・・・」
なんとか逃れようと必死で言い訳を探すが、
「適齢期じゃないですか!」
少年が目を輝かせた。
(そういえば、この世界成人が15歳とか言ってたっけ・・・)
キーナは墓穴を掘った事に気付いた。
この世界で結婚は、12歳から認められていたりします。
地域によって差があったりはしますが。
ちなみに、20歳までに結婚しないと、年増と呼ばれたりします。
閑話休題。
「ちょっとあんた! キーナちゃんが嫌がってるでしょ! とりあえずその手を放しなさい!」
見かねて女将さんが助け船。
ところがそれに怯むこともなく、
「嫌がるわけないだろ? 僕の父は領主なんだよ?」
と、変な自信で返す。
「僕と結婚したら一生不自由はさせません! 何でも思うままです!」
今までもそうやって生きてきたのだろう。
「こんな小汚い店で働くこともありませんよ!」
「小汚い?」
その言葉に反応したのは、キーナではなかった。
「こ、小汚くなんかないよ!」
とキーナが反論していると、後ろにゆらりと人影。
「ちょいとあんた・・・、この店のどこが、小汚いって?」
怒りの炎を背負った女将さんが、仁王立ちになって少年の前に立ち塞がる。
どっこい少年は顔色一つ変えることなく、
「小汚いものを小汚いと言って何か?」
と逆に聞き返す。
我慢できなくなった女将さん、少年の襟首をガシッと掴み、
「一発かましたろかこのガキャー!」
と拳を振り上げるが、
「いいんですか? 僕に手を上げて。僕の父親は領主なんですよ? こんな小汚い店でも、潰されたら困るんじゃないですか?」
ときた。
その台詞に固まってしまう一同。
(さ、最低だ・・・、こいつ・・・)
その場にいる一人を残して、皆同じ事を思った。
(最低だけど・・・、この店は・・・)
女将さんの拳が震える。
一発殴ってやりたい所だけど、ここで殴ってしまったら、この店を潰されてしまうかもしれない。
二人で頑張って開いて、二人で頑張って切り盛りしてきた店だ。
二人にとって何よりも大切な場所だ。
女将さんは拳を止めたまま、身動きできなかった。
「いつまでも人の襟首掴まないでください。息苦しい」
その手をバシッと払うと、またキーナに振り向き、その手を掴む。
「ということでキーナさん! このお店を潰したくなかったら、僕と結婚して下さい!」
一人を除いて全員思った。
(え・・・? 脅し・・・?)
いつの間にやら、プロポーズが脅し文句になっている。
「もちろん、いいですよね?」
とにやりと笑う。
その顔が腹立たしくて、握られた手が気持ち悪くて、キーナが何も言えずにワナワナと込み上げる怒りを堪えていると、
シュッ
と何かが空気を切り裂く音が聞こえた。
そして、
ザクッ
少年の手に、フォークが綺麗に突き立った。
「うぎゃあ!」
少年が悲鳴を上げて、キーナの手を放す。
「さっきからアホな話が聞こえて来ると思ったら・・・」
店の奥からテルディアスが姿を現した。
「テル!」
「何をやっとるんだお前は」
テルディアスがキーナの傍に寄る。
困った時のテルディアス。なんていいタイミングで出てきたんでしょう。
「お、お前か! こんなことしたのは!」
少年がテルディアスを睨み付けた。
「ああそうだ。キーナの手に変な虫がついていたからな。退治しようと投げただけだ」
「こんなことしていいと思ってるのか?! 僕は領主の・・・」
テルディアスが少年の頭を掴み、そのままテーブルに叩きつける。
「領主の息子だから何だと言うんだ? 親の威厳がなければ自分のケツも拭けんようなウジ虫が、女を口説くなんて十年早い」
「ぐふ・・・」
押さえつけられたまま、苦しそうに息をする。
「テル! やりすぎだよ!」
キーナが慌てて止めに入る。
「そうか? こんな奴、これでも足りんくらいだろう」
「テルッ!」
そう思っていてもそう言ってはいけません。
テルディアスが頭から手を放す。
少年は痛む頭を押さえながら起き上がると、
「こ、この僕にこんなことをして・・・、どうなるか分かってるんだろうな・・・」
とテルディアスを睨み付けた。
「潰してやる! こんな店! こんな小汚い店なんか跡形もなく・・・」
「やりたければやればいいだろう」
テルディアスがさらりと答えた。
青ざめる一同。
「俺は別に痛くもかゆくもない」
そりゃそうだ。
「て、テルっ!」
いやいや、お世話になっておいてそれはないだろうとキーナが止めに入るが、
「ほ、本当に潰すぞ!」
「だがら、やればいいだろう?」
とギラリと少年を睨み付ける。
その迫力にビビる少年。
「ちょ、ちょっとあんた! 人の店を潰すだの何だの、勝手に言わないでおくれ!」
ここで女将さんのストップが入った。
「そうだよテル!」
キーナも激しく同意。
「そうだそうだ!」
何故か少年も同意。
なんでだよ。
「ならば仕方ないな」
と、ふっと一つ溜息を吐くと、スラリと腰の剣を抜き放ち、
ダンッ!
と少年の目の前のテーブルに突き立てた。
剣の美しさと鋭さと恐ろしさに、硬直する少年。
「ここで息の根を止めるしかないな」
サラッとテルディアスが言った。
(え? 本気?)
一人を除いて皆が思った。
「そ、そんな脅しに・・・」
と言いかけた少年の顔の横を、風が通り過ぎた。
次の瞬間、少年の頬に、赤い筋ができた。
そこから赤い液体が、つーっと垂れてくる。
少年の顔が青ざめる。
テルディアスが少年の首に剣を当てる。
「次は、首だ」
青ざめた少年の顔が、さらに血の気を失くしていく。
「ひ、人殺し!!」
恐怖で少年が叫んだ。
「あ? お前だって似たようなものだろ?」
「ぼ、僕は人を殺した事なんて・・・!」
「この店を潰そうとしているだろう。店を失った二人がどこぞで野垂れ死んだら、結局お前が殺したという事になるだろう」
テルディアスが剣を振り上げた。
「要は、早いか遅いかの問題だ。ということで、死ね」
剣が振り下ろされようとした時、キーナが慌てて止めに入った。
「ちょ、ちょっと待って! テル待って! いくらなんでも殺すなんて・・・!」
キーナには感じられた。
テルが本当に殺そうとしていると。
「ひいいいいいいいいいい!!! 助けて―――!」
少年はドッピューンという擬音語を残して、命からがら店から逃げ出した。
カロカロカロ・・・
扉に付けられていた鈴の音が響いた。
「・・・逃げたぞ」
テルディアスの冷静な声が、キーナの耳に届いた。
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