キーナの魔法

小笠原慎二

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シゲール襲来編

家政夫ダン

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朝。キーナとテルディアスは仕事に出かけていき、街まで一緒に来ていたダンは必要な物を買い込みまた街を出る。そしてサーガ達の元へと向かう。
普通の人は入って行かない街道から逸れた森の中。念の為不自然にならないように目隠しの壁を作り、地の結界を張っている。その内部でサーガが風の結界を張っているので常人は入る事は叶わないだろう。

ダンが自分だけが分かるようにしていた目印の辺りから中に入り、結界はもちろん自分が張った物なのでなんなく通ることが出来る。風の結界は通さないようにするためではなく、そこを通る者に反応するものなので特に注意は必要ない。

少し歩くと、ダンが作った小屋と焚き火の前に座るサーガが見えて来た。
小屋は手前の壁は開閉できるようにしてあり、上に押し上げれば屋根代わりにもなる。
中にいるとメリンダが暴れて手をつけられないので、サーガが外で休めるようにと工夫したのだ。柵を張ってあるのでメリンダが突発的に出ることは出来ないようにしてある。
外から中にいるメリンダの様子も見られるのでサーガも安心して外で生活しているようだ。

小屋の中でメリンダの燃えるような赤い瞳がサーガを睨んでいた。近づくダンに気付くと、低い唸り声を上げてダンも睨み付ける。

「おす」

結界を通ったのですでに気付いてはいたのだろう。サーガが挨拶してくる。
ダンは無言で頭を下げる。

「ち、相変わらず喋らねえ奴だな…」

サーガが苦い顔をする。
お喋り大好きなサーガとしては、唯一の話し相手になりそうなのがダンだというのが悲しいのかもしれない。
ダンはなんと話せば良いのかも分からず、とにかくご飯の様子を見る。
昨日作った粥はほぼ減っていないようだ。

「ああ、それな~」

サーガが昨日のメリンダの様子を話し出す。
水を口にはしたものの、食事には全く手をつけようとしないと。
暴れて騒いで寝るを繰り返す。

「流石にちょっとしんどいわ…」

珍しく弱音を吐く。
ダンも話しを聞きながらサーガの様子を診察する。かなり疲れが溜まっているように見えた。

「俺、見る。少し、休め」

ダンのカタコトを、なんとか理解するサーガ。

「あ~、んじゃ、ちょっと寝かせてもらうわ」

さっと差し出されたダンの掌に、黒い小さな丸薬のようなもの。

「・・・飲め、と?」

こくりと頷くダン。
ダンのことは分かっている。差し出してくるものが怪しい物ではなく、多分疲れているサーガにとって必要な某かなのであろうと。
しかし成分も分からず飲むのはやはり勇気がいる。

「何が入ってるんだ?」
「いいもの」
「・・・・・・」

ダンにこれ以上の説明を求めるのは難しそうである。
渋々サーガはそれを口に運び、一気に水で流し込んだ。ちょっと苦かった。

「じゃ、少しだけ、よろしく」

サーガが横になる。疲れていたのか薬が効いたのか、すぐに寝入ったようだった。
ダンはせめてもと、サーガの下に柔らかい草を生えさせたのだった。これで余計にぐっすり眠れるだろう。
メリンダは縛られて身動き出来ないと分かっているのか、睨み付けて唸るだけでそれ以上何をするわけでもなさそうだった。

今のうちにとダンは身の回りの仕事を片付ける。
昨日作った粥は残念ではあるが地面に返す。そして汚れた食器などを洗ってしまう。
瓶に水はあるのかと確認しに行くと、水は満タンに入っていた。
はて、昨日も使ったはずとダンは首を捻るが、そこではたと気付いた。
この場所を選んだのは近くに綺麗な川があるからでもある。ダンであればそこまで水を汲みに行かなければならないが、サーガは風。風の力を使って水を汲み上げたのだろう。
サーガが時折地の力は便利だと呟いていたが、風だってこんな器用な事が出来るではないかとダンは思った。

結局は無い物ねだりだね。

食器を洗い、新しくご飯の用意をする。メリンダ用の粥。サーガ用のがっつり飯。
それから簡単な掃除に洗濯と、ダンは実にキビキビと動き回るのだった。











サーガが眼を覚ますと簡単な報告。他に必要な物がないかを聞く。
ふと思い出したダンがそれを取り出した。
笛だった。

「メリンダ、気に入ってた」

メリンダはサーガの笛をいたく気に入っており、あれからことあるごとに吹いてと迫っていた。笛の音を聞いて少しでも慰めになればと思ったらしい。

「そうだな…。暇つぶしに吹いてみっか」

いつメリンダが暴れ出すか分からないので気が張っていたサーガ。これで多少の気分転換が出来ればと笛を受け取る。
笛を吹くとメリンダが大袈裟に褒めてくれたのもちょっと嬉しかったりした。だがしかし、サーガは自分の笛の音がそこまでのものとは思っていなかった。灯台もと暗し。

そしてダンは一時の住処にしている場所へと帰っていく。結界などの確認も忘れない。
仮の住処へ帰ってくると、こちらでも掃除などを行い、夕飯の仕度をし始める。キーナ達が帰って来てすぐに食べられるようにと。
陽が落ちる前にキーナとテルディアスは帰って来た。そしてすぐに夕飯の時間だ。

「今日は少し注文も受けたの!」

キーナは仕事が楽しそうである。
テルディアスは護衛の仕事の話がついたという。

「明日出発して向こうで二泊してくる。3後日の夕方には帰って来られそうだ」

と言った。往復の護衛になるので実入りが良いのだそうだ。
ダンもメリンダの様子を報告する。

「メリンダ、睨んでた。飯、あまり食べない」
「ふんふん。メリンダさんの状況はあまり変わらずに、ご飯もあまり食べないようで心配と。確かに」
(何故分かる…)

テルディアス心の中でツッコミ。
テルディアスもだいたいはダンの言いたいことは分かるが、何故キーナはこれほど細かに理解できるのか不思議だった。
その後はいつものように寝る仕度。
テルディアスはいつものように見回りを済ませ地下に降りようとした時、微かに笛の音を聞いたような気がした。

(空耳か?)

サーガの笛の音はテルディアスも悔しいが良いと思っている。あれほどの弾き手はなかなかいないだろう。
しばし耳を澄ませたが、やはり空耳だったのか、音は聞こえてこなかった。



キーナはベッドに潜り込み、やはり眠る前に枕元に置いてある火の宝玉に向かって祈った。
早くメリンダさんが良くなりますように、と。












次の日。
3人で街に入る。
今日は行きしはテルディアスがキーナを送るが、テルディアスはそのまま護衛の仕事に行ってしまうので帰りはダンが迎えに行くことになっている。
キーナは1人で帰れると言ったのだが、テルディアスが許さなかった。

「1人で帰れるよう」
「駄目だ」
「大丈夫だって」
「駄目だ」
「だってダンも大変でしょう?」
「駄目だ」
「ぶうう」
「駄目だ」

とにかく駄目だった。
過保護極まれり。
まあこれまでにも1人で行動すると何故かいろいろな人に好かれて拐かされたりなどしてきたのだ。信用はできない。
テルディアスはダンに何度も念を押す。

「こいつは目を離すと本当に何処に行くか分からんし、警戒心もほぼ皆無だからすぐに人攫いに攫われる。絶対に目を離すな」

ダンはこくこくと頷く。
なにより憧れの対象であるテルディアスから頼まれ事をされるというのもちょっと嬉しかったりする。
キーナにも、

「いいか。ダンが行くまで絶対に店で待っていろ」
「分かってるよ」
「絶対だぞ。フラフラと外に出るなよ?」
「ちょっとくらい…」
「出・る・な・よ?」
「あい…」

としつこく何度も言ったのだった。
キーナ達と別れた後は、ダンは買い出し。そして街を出てサーガの元へ。

「おっす」

今日はサーガが軽く手を上げてダンを迎えた。昨日より顔色が良さそうに見える。

「いや~まじこれいいわ」

と笛を出してくる。

「これ吹くと姐さんが大人しくなるんだわ」

とサーガがにっかり笑った。

「昨日姐さんがまた暴れて騒いで手がつけられなくなって。どうにかならんかと試しに吹いてみたらすぐに大人しくなったのよ」

サーガが笛をさする。

「気のせいかもしれんけど、ちょっと穏やかな顔付きになってたからさ。ちょっと安心したっつーか」

余程嬉しかったのだろう。サーガの表情も昨日のような思い詰めたものではなく、どこか柔らかくなっている。
ダンもほっと胸を撫で下ろす。

「だけど、やっぱり飯には手をつけないんだよな…」

サーガの表情が曇る。
水はかろうじて飲む。しかしやはり食事には手をつけない。

「果物」

そう言ってダンが色んな果物を出して来た。普通の食事が駄目なら果物ならどうかと買ってきたらしい。

「おお果物か。とにかくなんでもいいから口に入れてくれればなぁ…」

今、メリンダは眠っているので、後でサーガが切って出してみることにする。
いや、サーガも果物の皮を剥くくらいは出来るよ?
それからキーナ達のことなどをダンが簡潔に伝える。

「簡潔過ぎて詳細は分からんが…」

一応大体は伝わったようだ。

「確かにな。キーナは1人で行動させると危ない。頼むぜ」

ダンがこくりと頷いた。
ダンはまだ知らない。キーナの隠遁術を…。
そしてまた同じようにサーガが休憩に入る。もちろんだが夜もメリンダの見張りをしているので碌に休んでいないのだ。
その間にダンはまた食器を洗ったり掃除したり洗濯をしたりとこまめに働く。
もう家政夫と呼んだ方が早いかもしれない。

粗方終わらせるとサーガが眼を覚ます。今日はメリンダの粥を作るのはやめておいた。

「んじゃ、また明日よろしく」

そう言ってサーガがダンを送り出した。
ダンは結界を確認し、壁を確認して街へと戻っていく。
今日はキーナのお迎えをしなければならないのだ。












キーナが働いているというお店は、確かに男は近づきにくいような様相なお店だった。
意を決してダンが店に入る。

「いらっしゃい…あ、ダン!」

お店の制服だろうを着た、キーナそっくりな女の子がダンを見て走り寄ってきた。

「ちょっと待っててね。今着替えてくるから」

そう言うと手前の席にダンを座らせ、奥に引っ込んで行った。
やはりキーナで間違いでは無かったのかとダンは首を捻る。
しかし、キーナは髪が銀髪でもなく、そしてあんなに長くはなかったはずである。
長い銀髪を後ろで三つ編みにして垂らしていたので、キーナなのか?と首を捻ったのだった。

そしてなんとなく店の中を見ると、男性客がちらほらと見える。
この街の男はこういう様相の店にも躊躇わずに入る事が出来るのかとダンは感心した。
そしてダンは気付く。なんだかその男達がダンの事を睨み付けているような気がする…。
体はでかいが気の小さいダンは、なんとなくいたたまれず、大きな体を小さくする。
何故睨まれているのか分からない。何か自分が気に障ることをしたのだろうか…。
オドオドと視線を彷徨わせていると、

「お待たせ~」

とキーナがやって来た。
カツラだったのだろうか、いつもの短い髪に戻っている。

「さ、早く帰ろ」

キーナがダンの手を引き、さっさと店から出る。
ダンは後ろに突き刺さる視線を感じつつも、店から出られてほっとしていたのだった。














テルディアスのいない夕食。
いつものようにお互いの報告をする。
キーナはダンの少ない言葉でも気軽に会話できるようである。
そしていつものように寝る仕度。
ダンはテルディアスに言われたように少し付近を探索し、地の結界を強めに張って地下へと降りて行った。
そしてキーナはベッドに潜り込むと、枕元の火の宝玉に向かって祈る。
早くメリンダさんが良くになりますように、と。
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