キーナの魔法

小笠原慎二

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青い髪の少女編

逢い引きは屋根の上で

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夕飯を終えて、各々の部屋へと戻って行く。
シアはダンとお金について勉強するため、ダンに引っ張られて行った。

「ダンて女性恐怖症じゃなかったっけ? シアは平気なのかな?」
「女性として見てないんじゃない?」

キーナの問いにメリンダが答えた。その可能性の方が高いか。
寝る仕度を整えると、メリンダはサーガの元へと出て行った。キーナもあとは寝るだけなのだが、今日は寝る前の楽しみがある。
風を纏って外へ出る。屋根に上がるとテルディアスがいた。

「テル」
「キーナ」

キーナは早速テルディアスの隣に座り込む。少しの間だけだが、テルディアス独り占めタイムの始まりである。
キーナが今日あったことを話す。しかし今日一日はほぼシアについて街を回っていたので、やはり話題はシアの事が多かった。テルディアスも影から様子を伺っていたようで、2人で盛り上がる。
しかし楽しい時というのは本当に過ぎるのが早いもので。

「そろそろ戻れ。体も冷える」
「うん…。でももそっと…」

キーナの目がショボショボして来た。いつも同じくらいの時間に寝ているので、体が寝る時間を覚えているようだ。まだ起きていたいのに目が言うことを聞かない。子供か。

「ほら、キーナ…」

テルディアスがキーナを動かせようと腕を上げかけるが、

「いやぁ~ん。もしょっとぉ~~~」

キーナがテルディアスの腕にしがみついてきた。最後の抵抗らしい。
そして、テルディアスの体が固まる。
キーナは寝間着を着ている。そして寝る時は下着は着けない派のようだ。いや、パンティは履いてるよ。上の胸当て、乳袋とでもいうか、つまりはブラをつけていない。
何故分かるかというと、今現在テルディアスが腕にそれを押しつけられているからだ。
寝間着という薄い布越しに、キーナの柔らかいものを押し当てられ、テルディアス動けない。キーナと違い、テルディアスは反対に覚醒していく。フシギダナー。

「にゅぅ…」

キーナはテルディアスの腕を抱えつつ、ほぼ眠りに入っている。いや、離せ。

「き、キーナ…。離せ…」
「にゅぅぅんんんん」

嫌だとでも言うかのように、キーナが腕に力を込める。いや、柔らかいものが押しつけられる感触が…。
テルディアスは余計に動けなくなった。
外は少し寒いくらいなのに、テルディアスは少し暑いくらいだった。ナンデカナー。
少しすると、キーナの腕の力が緩んだ。

「き、キーナ…」

テルディアスがキーナを見ると、スヤスヤ寝入ってしまったようだった。ほっと息を吐く。
そーっと気をつけて腕を抜く。何かがポヨンとした気がするけれど、気にしないでおく。
腕を引き抜き、寝入ったキーナの体を支え、テルディアスは大きく息を吐いた。

(違う意味で疲れる…)

見下ろせば、人の腕の中でスヤスヤと眠るキーナの安心しきった寝顔。その顔を見ていると、なんだか何かムラムラしてくるような…。

(いやいやいや、何を考えてるんだ俺は)

大きく頭を振り、キーナを抱きかかえると、キーナを部屋まで運んだ。ベッドに寝かせ、布団を掛けてやる。安心しきった寝顔を見つめ、最後に頬に軽く触れた。

「おやすみ」

そして窓から静かに出ていった。
それからほどなくしてダンからの合図があり、テルディアスも部屋へと入っていったのだった。
ちなみに、今夜もシアが忍んできたが、今夜は鍵が掛かっている時点で諦めたらしい。修繕費の重みをやっと理解したのだろうか。
キーナはまあ、いつも通りだったということで。













シアが忍んできたことに気付いた。いつでも逃げられるようにと構えていたが、昨日のように鍵を壊したりはせず、素直に帰って行ったようだった。
安堵の息を吐く。

そして朝目覚めると、いつも通りにキーナが寝ていた…。
安堵の息を吐く。

いやいやいやいやいやいや、そこは安心する所ではない。

己の胸の内にツッコミをかましつつ、頭を抱えて密かに悶絶するテルディアス。
そんなテルディアスに気付いたのかどうか、キーナも眼を覚ました。

「おあよう~テルぅ~」
「お、起きたか…」
「ん~…もそっとぉ…」
「くっつくな!」

さりげなく体を寄せてくるキーナの頭を押さえる。

「にゅうぅぅぅぅ…ケチぃ…」
「そういう問題じゃない!」

真にそういう問題ではない。
大人しくキーナが引き下がり、またもや朝のお喋り時間になった。話しているうちにキーナの頭もしゃっきりと目覚めてくる。
テルディアスは何故かキーナの顔をあまり見なかった。ナンデカナー。
宿の中も足音が増え、そろそろ起きなければならない時刻。

「そろそろ行け」

壁際に設えられたベッド。降りるにはキーナがどかなければテルディアスも動けない。キーナを跨げば降りられない事もないが、人を跨ぐというのはあまり褒められる事ではない。
ついでに言うならば跨ぐ間にキーナがちょっかいをかけてきそうなので、迂闊に動けない。

「うにゃい」

キーナが素直に動く気配を見せる。しかし、今日はテルディアスも油断はしなかった。

「最後に!」

と同じように突撃して来たキーナの頭を、寸でで押さえ込んだ。

「ぐはぁ!」
「アホな声を出すな」

頭を押さえつけられ、動けなくなるキーナ。

「テルぅ、最後に、もっかい~」
「早く起きろ。とっとと行け」

テルディアスは許さない。まあ当然か。

「うぐぅ~~」

テルディアスが手を放さないと悟り、諦めるキーナ。渋々テルディアスに背を向ける。
一応油断なく手を構えておくテルディアス。此奴の行動は読めない。
案の定、背を向けたままズリズリ体を寄せて来た。

「何をしている。さっさと起きろ」

しっかり頭を押さえてガード。しかし、テルディアスは忘れていた。

「ふふふ」

キーナが不敵に笑い、体を折曲げてテルディアスに迫る。
そう、後ろ向きならばケツアタックが出来るということを!

なんだこの攻防戦。

「!」

気付いた時にはもう遅い。迫り来るものをまさか手で押さえるわけにもいかず、テルディアスはその侵攻を許してしまう。

ぺったり

テルディアスの下腹部辺りに、キーナのケツが触れた。

「ふ、勝った…」

何がだ。
よく分からん勝利を宣言し、キーナが満足そうにベッドから降り立つ。

「じゃ、テル。またね」

キーナが勝者の笑みを浮かべ、堂々とした勝者の歩みで扉を開けて出て行った。
そして後に残されたテルディアスは…。
ご想像にお任せします。
















「テルディアス様と全然お話出来ませんわ」

((((まあ、そうだろうな))))

朝食の席でシアが呟いた。全員が心で思っても、特に口には出さなかった。

「お部屋にお戻りになるのもかなり遅い時刻のようですし、外で何をしていらっしゃるのかしら」
「ん? お前、テルディアスが帰ってくるの分かるのか?」

水にそんな気配察知系の魔法があったかと、サーガが尋ねる。

「テルディアス様は水の宝玉をお持ちになってますし、なんとなく近場にいることは分かりますわ。正確に居場所を掴めないのが難点ですけれど。ですから部屋の前に水を少量撒いて、そこを通ったら分かるようにしていますわ。そうでもしなければお帰りが分かりませんでしょう?」

ダンの顔が青くなった。そんな手があったとは知らなかった。道理でテルディアスが入った後の部屋に夜這いに行くわけである。帰ったことを知らなければ、部屋に訪れることもないだろう。

「なるへそ~。水に触れれば居場所が突き止められるのか」
「ええそうですわ」

なんとも素直な娘である。
今夜からテルディアスが水に気をつけるようになるだろう。

「まさかとは思いますけど、浮気をしているのでは…」

サーガとメリンダが噴き出しそうになった。お食事中なので噴き出すとヤバい事になります。

「そこら辺の下賎な女に手を出していたらと思うと、食事も喉を通りませんわ」

そう言う割にはバクバク食べているが。
メリンダの眉がピクリと動く。そう言われることには慣れている。しかし、こんな何も知らない小娘に言われるのも腹が立つ。

(そうよ。相手は何も知らない小娘なんだから)

メリンダ、気持ちを落ち着ける。

「よくまあ男性はあんな小汚い方達を相手にされるものですわね。私には分かりかねますわ」

小汚い…。メリンダぷちっと切れそうになる。

「まあ子供には分からんだろうな」

サーガが口を出してきた。

「ああいうお姉さん達がいるから俺達は助かってるんだ。上からしか物を見たことがないちみっ子には分からんだろうよ」

サーガの言葉で、メリンダの気持ちが多少落ち着いた。胸がドキッと高鳴ったけれど、今はなんとか無視しておく。

「確かに私は成人もしていない子供かも知れませんけれど、ああいう方達がいるせいで街の治安や景観が悪くなっているのは分かりますわ」

シアがない胸を張る。

「その考えがお子ちゃまなんだよ。黙って食え」
「なんですのむぐっ」

ダンがシアの口に肉を押し込んだ。グッジョブ。

「人にはいろいろ事情があるんだから、悪く言うのはやめた方が良いと思うよ」

ここで意外に、キーナが口出しして来た。
サーガとメリンダが目を丸くする。

「職業に貴賎はないって言うし、一生懸命働いて生きている人を悪く言うのは、良くないと思うよ」

珍しく真面目な顔で、真面目なことを言うキーナ。キーナも一応そういう人達がどういう事情でそうなったかなど、ぼんやりとだが知っている。なにせ日本は昔、江戸時代では普通に女の子が花街へ売られていたのだ。それもすべて貧しさが為。
それでも負けずに花街で花魁と呼ばれる存在まで成り上がった娘達もいる。彼女達だって生きることに必死だったはずなのだ。貶めるような言葉を言うべきではない。

「にゃんですのあにゃた…」

お肉が口の中で邪魔をして、上手く喋れないシア。食べてから物を言え。

「黙れって」

サーガが言うと、シアが再び口をパクパクさせるだけになった。
慌てるシアを置いて、4人は静かに食べ進めた。

いや、メリンダだけ胸がいっぱいになって、なかなか食事が進まなかった。
一生懸命働いて生きている。そう、とにかく生きる為に必死だったのだ。キーナにそれを分かって貰えるとは思えなかった。なにせキーナもまだまだ子供。
表面的な言葉かも知れない。与えられた知識を口にしただけかも知れない。それでも、メリンダは嬉しくて胸がいっぱいになっていた。
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