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はぐれ闇オルト編
伸びてきた腕
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風が吹いた。痛みが来ない。
不思議に思ってキーナが目を開けると、目の前に剣先があった。その剣先が赤く染まり、ポタリポタリと赤い液体が垂れている。
「サーガ…?」
視線を上げれば、見慣れた黄色い髪。サーガがキーナに背を向けて立っている。そしてその背中から、剣先が生えている。
「サー…ガ…」
キーナの頭が真っ白になる。何故サーガの背中から剣先が生えているのか。何故そこから赤い液体が垂れているのか。
「逃…げろ…」
サーガの掠れた声が聞こえた。
途端、キーナは風の結界に包まれた。そして勢いよく森の方へと運ばれて行く。
「! サーガ! サーガ!」
叩いた所で結界が消えるわけもない。だがキーナは結界を叩き続ける。
「サーガ!」
テルディアスがサーガの体から剣を抜くのが見えた。
「サーガ!」
赤い液体が飛び散り、地面に撒き散らされる。
「サーガ!」
サーガがゆっくりと膝を付いた。
「サーガ!!」
そして、地面に倒れ込む。
パン!
結界が弾け飛び、キーナは投げ出され、勢い地面を転がった。
急いで起き上がり、サーガの姿を探す。
「サーガ!」
風に髪が微かになびく。しかし他に動きは見られない。
「やだ…」
地面に赤い染みが広がって行くのが見えた。
「やだ…」
テルディアスがキーナの方へと足を向ける。
「いや…」
サーガは動かない。テルディアスが地面を蹴った。
「いやあああああああ!!!」
キーナの体から光が溢れた。
ダンが眼を覚ます。テルディアスに蹴られた衝撃で意識が飛んでいたようだ。
激しい剣戟の音がしてそちらへと首を回すと、サーガとテルディアスが再び剣を交えている所だった。
先程よりサーガが押し返している。だがまだテルディアスの方に分があるように見えた。体を動かすと胸に痛みが走る。肋骨をやられたのかもしれない。痛みを取ろうと治療を始める。
「が…!」
サーガが吹っ飛んだ。メリンダが何事か叫んで、テルディアスに向かって炎の龍を出す。しかしテルディアスはそれを剣で切り裂いてしまった。
テルディアスの元々の力なのか闇の者に与えられた力なのか、しかしそんなことなど考えている暇はない。
テルディアスの拳がメリンダの腹にめり込んだのが見えた。メリンダが体を折って地面に倒れ伏す。
(まずい…)
キーナが孤立してしまった。今のキーナは何もできない。
テルディアスが剣を振り上げた。ダンはキーナの前に壁を張ろうとするが、距離が離れている上に痛みで集中出来ない。
「テル!」
キーナの叫び声に、テルディアスの体がビクリとなった。動きが止まる。
「テル…?」
キーナが一歩テルディアスに近づいた。これでテルディアスが正気に戻ってくれたら儲けものだが…。
テルディアスが剣を下ろし、頭を抱え出す。やはりキーナには反応するのだ。
「テル!」
キーナがテルディアスに向かって手を伸ばしたが、
「何やってんの。早く殺れよ」
オルトの非情な声が聞こえた。
その声にビクリとなったテルディアスが、ぎこちない動きで剣を構える。
(まずい!)
ダンは集中しようとするが、痛みがそれを邪魔する。
(間に合わない!)
「う…がああああああ!!」
風が疾った。
突き出される剣の前に、サーガが立った。サーガの腹に剣が埋まる。
(!!)
目を開けたキーナの顔が真っ青になる。口が動いた。形からして「サーガ」と呟いたのだろう。
突如キーナが風の結界に包まれ、その場から離れだした。結界を叩いて何かを叫んでいる。
ダンは少しほっとした。なんにせよキーナが離れる事が出来て良かった。
サーガの腹から剣が抜かれ、血が迸った。
治療しなければ。
ダンはとにかく動かなければと体を起こす。
パン!
何か破裂するような音。見れば結界が解かれ、キーナが地面を転がる。サーガの気が途切れたのだ。
キーナを助けなければ。だがしかし、サーガも重症だ。
「いや…」
キーナの声が聞こえた。サーガを見つめている。テルディアスがキーナの方に体を向けた。せめて足止めをと、ダンが地面に手を付く。
しかし、
「いやあああああああ!!!」
キーナの体から光が溢れた。
ゾクリ
ダンの背筋を悪寒が走り抜ける。
ヤバい。
本能が警鐘を鳴らす。
すぐにテルディアスの体が光に飲まれた。
咄嗟にダンは、サーガ、メリンダ、シアの体を地面の下へと埋めた。少し深めに、空気穴も忘れずに。
そしてダンも光に飲み込まれた。
「いやあああああああ!!!」
キーナの体から光が溢れた。
「なんだ?」
すぐにテルディアスの体が光に飲み込まれる。
様子を見ていただけのオルトとルーンの背筋にも悪寒が走った。
「なんか、嫌な感じがするわ」
「そうだね。ちょっと引いてようか」
3人の体が地面の下へと消え、ダンも光に飲み込まれる。
迫る光を避けるように、2人も空間を狭間へと移動した。
「なんなんだ? この光」
オルトが窓を作って様子を見る。光が今2人がいた場所を飲み込んだ。
「!」
「なにこれ?!」
空間が消滅し、2人は無理矢理通常空間へと引き摺り出された。
「なん…! う、あ、あああああああああ!」
「あ、ああああああああ!」
2人の体から闇の力が溢れ出す。
「が、あああ! ああああああああ!」
光に飲み込まれたダンも、体の内側から力が溢れ、弾け飛びそうになるのを必死に抑えていた。
藻掻き苦しみ、何かに救いを求めるように手を伸ばす。
その視界にちらりと黒い影を見た気がした。
光に飲み込まれたテルディアスは足を止める。そして頭を抱えだした。
「う…、が、あああ…」
パキィ…
小さく何かが割れる音がして、テルディアスの瞳に正気の色が浮かぶ。
「あ…? ここは…?」
見回すと、白い空間。空も地面も右も左も、どこを見ても白い。そして少しの浮遊感。
覚えがある。あの港町での時。キーナが力を暴走させた時と同じだ。
体中から、カキ…ピシ…パキ…という嫌な音も聞こえてくる。まるきりあの時と同じだ。
闇の者に捕まり、約束の日の2日前、2人がやって来たと思ったらそこから意識がない。何かをされたのだろうという事は分かるが、何をされたのかは分からない。そして目覚めるとこの状況。何が起こったのか誰か説明して欲しいものだ。
剣を収め、前を見る。一段と光の強い場所がある。きっとそこにキーナはいる。
体中の音が激しくなって来ている。このままではあの時と同じようにどこかで動けなくなってしまうかも知れない。テルディアスは走り出した。
「はっ」
キーナは気付くと、白い空間に寝ていた。
「ここは…? サーガは?」
早く治療をしなければ。なにせテルディアスの剣がサーガの腹を貫いていたのだから。運良く致命傷にならなくとも、早く止血しなければ出血多量で命を落としてしまうかも知れない。キーナは焦る。
起き上がって周りを見渡す。どこまでも白い。とにかく出口を見付けなければと、立ち上がって走り始めた。
ゴン
「いでぇ!」
見えない壁にぶつかり、おでこを抑えて倒れ込んだ。鼻でなくて良かった。
「な、にゃんだぁ?」
手を伸ばすと見えない壁がある。
「壁?」
おでこをさすりつつ、壁に手を当てて歩き出す。右へ右へと歩いて行くが、どこまで行っても壁がある。
試しに左へと進んで行くが、やっぱり壁があって進めない。
「なんにゃあ? この壁?」
だったら後ろに行こうかと振り返るが、なんとなくこちらではないという気がする。この壁の向こうが出口に繋がっているという確信がある。
試しに壁を叩いてみる。割れそうにない。
右の方へひたすら走ってみた。やっぱり壁は途切れない。左に走っても駄目だった。どこまで行っても壁がある。
「なんで?! どうして!!」
苛立ったキーナが壁をドカドカ叩いた。しかし破れない。蹴ってもぶつかっても壁は壊れない。
キーナは焦り出す。嫌な予感がする。早くここからでなければ。しかしどうやって?
左の方へと走った。どこかに壁の終わりがあるかも知れない。
しかしいくら走っても壁は途切れず、終わりが見えない。そもそも周りが真っ白なので自分が本当に走っているのか、いや進んでいるのか疑問に思えてきた。もしかしたら同じ場所で足踏みをしているだけなのでは?
走り疲れてキーナは喘ぐ。ここから出なければならないのに、出られない。
「お願い、出して! ここから出して!」
壁を叩く。思い切り両手で叩く。誰にとも無く叫ぶ。だがしかし、答える声はない。
「誰か…」
キーナは壁に両手をついて項垂れる。ここには誰もいない。助けてくれる者などいないのだ。
「助けて…テル…」
壁に頭を付けて目を閉じた。
そこに、ポスン、と頭に手を置かれた。
「え?」
顔を上げると、顔の横に誰かの腕。黒い袖が見える。その手が壁に触れていた。
カシャァン・・・
ガラスが割れるような甲高い音が響き渡ると、今までそこにあった壁がなくなった。
「あ…」
壁に腕をつけてもたれていたキーナがバランスを崩す。慌てて体勢を整え、後ろを振り返った。
しかし、そこには誰もいなかった。
周りを見渡すも、そこは遮蔽物など何もない。確かに誰かがいたはずなのに、誰もいない。
「誰…?」
誰だったのだろう。いつも見かけた女の子は、白い服を着ていたから違う。それにあれは、男の人の手だった。
闇の御子。
キーナの脳裏にその言葉が浮かぶ。だが、どうして今? どうやってここに?
探した方がいいのかと、キーナがキョロキョロしていると、
「***!」
進もうとしていた方から声が聞こえた。
「テル?!」
「キーナ!」
今度はハッキリとキーナの名を呼ぶ声がした。
「テル!」
キーナは声のする方へと走り出した。
不思議に思ってキーナが目を開けると、目の前に剣先があった。その剣先が赤く染まり、ポタリポタリと赤い液体が垂れている。
「サーガ…?」
視線を上げれば、見慣れた黄色い髪。サーガがキーナに背を向けて立っている。そしてその背中から、剣先が生えている。
「サー…ガ…」
キーナの頭が真っ白になる。何故サーガの背中から剣先が生えているのか。何故そこから赤い液体が垂れているのか。
「逃…げろ…」
サーガの掠れた声が聞こえた。
途端、キーナは風の結界に包まれた。そして勢いよく森の方へと運ばれて行く。
「! サーガ! サーガ!」
叩いた所で結界が消えるわけもない。だがキーナは結界を叩き続ける。
「サーガ!」
テルディアスがサーガの体から剣を抜くのが見えた。
「サーガ!」
赤い液体が飛び散り、地面に撒き散らされる。
「サーガ!」
サーガがゆっくりと膝を付いた。
「サーガ!!」
そして、地面に倒れ込む。
パン!
結界が弾け飛び、キーナは投げ出され、勢い地面を転がった。
急いで起き上がり、サーガの姿を探す。
「サーガ!」
風に髪が微かになびく。しかし他に動きは見られない。
「やだ…」
地面に赤い染みが広がって行くのが見えた。
「やだ…」
テルディアスがキーナの方へと足を向ける。
「いや…」
サーガは動かない。テルディアスが地面を蹴った。
「いやあああああああ!!!」
キーナの体から光が溢れた。
ダンが眼を覚ます。テルディアスに蹴られた衝撃で意識が飛んでいたようだ。
激しい剣戟の音がしてそちらへと首を回すと、サーガとテルディアスが再び剣を交えている所だった。
先程よりサーガが押し返している。だがまだテルディアスの方に分があるように見えた。体を動かすと胸に痛みが走る。肋骨をやられたのかもしれない。痛みを取ろうと治療を始める。
「が…!」
サーガが吹っ飛んだ。メリンダが何事か叫んで、テルディアスに向かって炎の龍を出す。しかしテルディアスはそれを剣で切り裂いてしまった。
テルディアスの元々の力なのか闇の者に与えられた力なのか、しかしそんなことなど考えている暇はない。
テルディアスの拳がメリンダの腹にめり込んだのが見えた。メリンダが体を折って地面に倒れ伏す。
(まずい…)
キーナが孤立してしまった。今のキーナは何もできない。
テルディアスが剣を振り上げた。ダンはキーナの前に壁を張ろうとするが、距離が離れている上に痛みで集中出来ない。
「テル!」
キーナの叫び声に、テルディアスの体がビクリとなった。動きが止まる。
「テル…?」
キーナが一歩テルディアスに近づいた。これでテルディアスが正気に戻ってくれたら儲けものだが…。
テルディアスが剣を下ろし、頭を抱え出す。やはりキーナには反応するのだ。
「テル!」
キーナがテルディアスに向かって手を伸ばしたが、
「何やってんの。早く殺れよ」
オルトの非情な声が聞こえた。
その声にビクリとなったテルディアスが、ぎこちない動きで剣を構える。
(まずい!)
ダンは集中しようとするが、痛みがそれを邪魔する。
(間に合わない!)
「う…がああああああ!!」
風が疾った。
突き出される剣の前に、サーガが立った。サーガの腹に剣が埋まる。
(!!)
目を開けたキーナの顔が真っ青になる。口が動いた。形からして「サーガ」と呟いたのだろう。
突如キーナが風の結界に包まれ、その場から離れだした。結界を叩いて何かを叫んでいる。
ダンは少しほっとした。なんにせよキーナが離れる事が出来て良かった。
サーガの腹から剣が抜かれ、血が迸った。
治療しなければ。
ダンはとにかく動かなければと体を起こす。
パン!
何か破裂するような音。見れば結界が解かれ、キーナが地面を転がる。サーガの気が途切れたのだ。
キーナを助けなければ。だがしかし、サーガも重症だ。
「いや…」
キーナの声が聞こえた。サーガを見つめている。テルディアスがキーナの方に体を向けた。せめて足止めをと、ダンが地面に手を付く。
しかし、
「いやあああああああ!!!」
キーナの体から光が溢れた。
ゾクリ
ダンの背筋を悪寒が走り抜ける。
ヤバい。
本能が警鐘を鳴らす。
すぐにテルディアスの体が光に飲まれた。
咄嗟にダンは、サーガ、メリンダ、シアの体を地面の下へと埋めた。少し深めに、空気穴も忘れずに。
そしてダンも光に飲み込まれた。
「いやあああああああ!!!」
キーナの体から光が溢れた。
「なんだ?」
すぐにテルディアスの体が光に飲み込まれる。
様子を見ていただけのオルトとルーンの背筋にも悪寒が走った。
「なんか、嫌な感じがするわ」
「そうだね。ちょっと引いてようか」
3人の体が地面の下へと消え、ダンも光に飲み込まれる。
迫る光を避けるように、2人も空間を狭間へと移動した。
「なんなんだ? この光」
オルトが窓を作って様子を見る。光が今2人がいた場所を飲み込んだ。
「!」
「なにこれ?!」
空間が消滅し、2人は無理矢理通常空間へと引き摺り出された。
「なん…! う、あ、あああああああああ!」
「あ、ああああああああ!」
2人の体から闇の力が溢れ出す。
「が、あああ! ああああああああ!」
光に飲み込まれたダンも、体の内側から力が溢れ、弾け飛びそうになるのを必死に抑えていた。
藻掻き苦しみ、何かに救いを求めるように手を伸ばす。
その視界にちらりと黒い影を見た気がした。
光に飲み込まれたテルディアスは足を止める。そして頭を抱えだした。
「う…、が、あああ…」
パキィ…
小さく何かが割れる音がして、テルディアスの瞳に正気の色が浮かぶ。
「あ…? ここは…?」
見回すと、白い空間。空も地面も右も左も、どこを見ても白い。そして少しの浮遊感。
覚えがある。あの港町での時。キーナが力を暴走させた時と同じだ。
体中から、カキ…ピシ…パキ…という嫌な音も聞こえてくる。まるきりあの時と同じだ。
闇の者に捕まり、約束の日の2日前、2人がやって来たと思ったらそこから意識がない。何かをされたのだろうという事は分かるが、何をされたのかは分からない。そして目覚めるとこの状況。何が起こったのか誰か説明して欲しいものだ。
剣を収め、前を見る。一段と光の強い場所がある。きっとそこにキーナはいる。
体中の音が激しくなって来ている。このままではあの時と同じようにどこかで動けなくなってしまうかも知れない。テルディアスは走り出した。
「はっ」
キーナは気付くと、白い空間に寝ていた。
「ここは…? サーガは?」
早く治療をしなければ。なにせテルディアスの剣がサーガの腹を貫いていたのだから。運良く致命傷にならなくとも、早く止血しなければ出血多量で命を落としてしまうかも知れない。キーナは焦る。
起き上がって周りを見渡す。どこまでも白い。とにかく出口を見付けなければと、立ち上がって走り始めた。
ゴン
「いでぇ!」
見えない壁にぶつかり、おでこを抑えて倒れ込んだ。鼻でなくて良かった。
「な、にゃんだぁ?」
手を伸ばすと見えない壁がある。
「壁?」
おでこをさすりつつ、壁に手を当てて歩き出す。右へ右へと歩いて行くが、どこまで行っても壁がある。
試しに左へと進んで行くが、やっぱり壁があって進めない。
「なんにゃあ? この壁?」
だったら後ろに行こうかと振り返るが、なんとなくこちらではないという気がする。この壁の向こうが出口に繋がっているという確信がある。
試しに壁を叩いてみる。割れそうにない。
右の方へひたすら走ってみた。やっぱり壁は途切れない。左に走っても駄目だった。どこまで行っても壁がある。
「なんで?! どうして!!」
苛立ったキーナが壁をドカドカ叩いた。しかし破れない。蹴ってもぶつかっても壁は壊れない。
キーナは焦り出す。嫌な予感がする。早くここからでなければ。しかしどうやって?
左の方へと走った。どこかに壁の終わりがあるかも知れない。
しかしいくら走っても壁は途切れず、終わりが見えない。そもそも周りが真っ白なので自分が本当に走っているのか、いや進んでいるのか疑問に思えてきた。もしかしたら同じ場所で足踏みをしているだけなのでは?
走り疲れてキーナは喘ぐ。ここから出なければならないのに、出られない。
「お願い、出して! ここから出して!」
壁を叩く。思い切り両手で叩く。誰にとも無く叫ぶ。だがしかし、答える声はない。
「誰か…」
キーナは壁に両手をついて項垂れる。ここには誰もいない。助けてくれる者などいないのだ。
「助けて…テル…」
壁に頭を付けて目を閉じた。
そこに、ポスン、と頭に手を置かれた。
「え?」
顔を上げると、顔の横に誰かの腕。黒い袖が見える。その手が壁に触れていた。
カシャァン・・・
ガラスが割れるような甲高い音が響き渡ると、今までそこにあった壁がなくなった。
「あ…」
壁に腕をつけてもたれていたキーナがバランスを崩す。慌てて体勢を整え、後ろを振り返った。
しかし、そこには誰もいなかった。
周りを見渡すも、そこは遮蔽物など何もない。確かに誰かがいたはずなのに、誰もいない。
「誰…?」
誰だったのだろう。いつも見かけた女の子は、白い服を着ていたから違う。それにあれは、男の人の手だった。
闇の御子。
キーナの脳裏にその言葉が浮かぶ。だが、どうして今? どうやってここに?
探した方がいいのかと、キーナがキョロキョロしていると、
「***!」
進もうとしていた方から声が聞こえた。
「テル?!」
「キーナ!」
今度はハッキリとキーナの名を呼ぶ声がした。
「テル!」
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