キーナの魔法

小笠原慎二

文字の大きさ
291 / 296
最終章~光の御子と闇の御子~

関わった人達のその後

しおりを挟む
キーナがテルディアスの部屋に消え、メリンダは外に散歩に出た。
太陽は山の端に姿を消し、残照がその後を追うように消えて行く。世界は夜が支配し始め、遙かに下に見える街の明かりが昼の明かりを名残惜しんでいるように見える。
山の上からの吹き下ろしてくる風が、メリンダの髪を悪戯にさらう。メリンダは無意識のうちに髪を耳にかけた。

「夜に女の一人歩きは危ないぜ?」

後ろから声を掛けられた。振り向かなくともサーガと分かる。

「こんな所にあんた以外の変態がいるわけないでしょう」
「まあ確かに」

肯定するんかい。
遠くの景色がよく見える。と言ってもほとんど森ばかり。暗くなったら所々に点在する街の明かりが見えるくらいになる。夜はあまり面白い景色ではない。

「姐さんさ、これからどうすんだ?」

今まさに悩んでいたことをサーガが聞いて来た。
キーナの旅はここで終わる。明日、この世界からいなくなってしまう。その後は…。
キーナと共にいたいからと一緒に旅をしてきたが、そのキーナがいなくなってしまう。メリンダは暗い海に放り出されたような気持ちだった。
行きたい場所も特にない。いろいろ世界も見て回った気もする。となれば、答えは1つ。火の村へ帰る。
しかしまだ帰りたいとも思えなかった。だからといって何がしたいとも言えない。いや、1つだけしたいというか、共にいたいと思える者はいるが…。なんだか今更な気もして言い出せない。

「・・・・・・」

サーガの問いに答えられずに黙っていると、

「特にないなら、俺と一緒に行かん?」

サーガの方から声を掛けてきた。
思わず横に並んだサーガの顔を見る。サーガは夜の闇に隠れていく景色を眺めていた。その顔は何を考えているのか読めない。

「な、なんで…」
「いや、姐さんと一緒にいると楽しいし、夜の方も困らんし」

そっちかい! と心の中でツッコみ。
此奴の中で自分はその位置から動く事はないのかもしれない、と溜息。なんだか悲しくなってきた。

「1人で行くより姐さんと一緒の方が面白いかなと思ったんだけど。嫌?」

反射的に「嫌」と答えそうになってぐっと堪える。そうじゃない。ここでそう言ってしまえば多分もうサーガとも終わりになってしまう。そんな確信があった。
夜要員だとしても、一緒にいて楽しいと思って貰えているのだ。一緒に行きたいと思って貰えているのだ。自由気ままな此奴がメリンダと共にいたいと思ってくれているのだ。

「い、良いわよ…」

なんとかその言葉を吐き出した。

「え? まじ? へへ、良かった。断わられるかと思った」

サーガが嬉しそうに笑う。
メリンダの胸がきゅうんと高鳴った。














それぞれが食堂を出て行き、お婆さんも何か用があると部屋に入っていった。なんとなく残ったシアとダンは仲良くお茶をすする。

「ダンは、これからどうしますの?」

シアも旅の終わりを感じ取っていた。これから自分がどうしたいのかもよく分かっていなかった。
ダンはちょっと考え、答えを口にする。

「シア、送る。村、帰る」
「私を水の王国まで送ってくださるのですの?」

ダンが頷く。幼いシアに一人旅などさせられない。テルディアスは光の御子を探しに行くだろうし、メリンダも火の村へ帰るだろう。サーガはきっとメリンダを送るはずだ。自分がシアを送らねばとダンは考えていた。
シアも考えてみれば、水の宝玉を探す為に王国を出たのだ。宝玉はすでにテルディアスから渡されて自分の手元にある。目標は達成されている。あとは王国に帰り、水巫女の試練を受け、姫巫女を目指すだけ、なのではあるが…。何か物足りない気がした。

「私を送り届けたら、そのまま地の村まで帰ってしまいますの?」

ダンが頷く。真っ直ぐ帰るとまた母親に怒られるかもしれないので、途中いろいろな街に足を伸ばしてみようかとも考えていた。テルディアス達と旅をしたおかげか、ダンの心にも多少余裕が出来ている。

「そうですの…」

シアの顔が暗くなった。
何故シアの顔が暗くなったのか分からずオロオロするダン。
シアも、何故自分が気を落としているのかよく分かっていなかった。














翌朝。
キーナとテルディアスが共にテルディアスの部屋から出て来た。
テルディアスの顔がどこかすっきりしたものになっているのは、きっとメリンダの気のせいだろう。
そして、それに気付いた。2人の耳飾りが入れ替わっていることに。
朝食が済んですぐに出ようとする2人に、メリンダが声を掛ける。

「せめて前髪だけでも整えてから行きなさい」

肌を隠す為に伸びっぱなしになっていたテルディアスの髪。メリンダがちゃちゃっと整えてくれた。さすがメリンダである。
さっぱりした頭になり、顔も良く見えるようになった。キーナとシアがその顔を見て、何故か顔を赤くしていた。ナンデカナー。

「じゃ、行ってきます」

テルディアスが穴を開け、2人の姿が穴の中へ消えて行った。
メリンダ達4人は少し寂しそうにその姿を見送った。帰って来たら、別れの時だ。
2人がやって来たのはあの港町だった所だ。今は何もないまっさらな大地になってしまっている。
キーナは手を合わせて祈った。テルディアスも黙祷を捧げる。

「遠く離れた場所の景色も見られるんだっけ?」
「何処が見たい?」
「う~ん、ミドル王国からかな? お爺さんいる?」

テルディアスが横に手を振ると、目の前にウィンドウのようなものが現われた。お爺さんの部屋の中が見えるが誰もいないようだった。

「あの人は賢者のくせにしょっちゅう何処かに行っているようだから…」

テルディアスが何か集中し始める。

「あ、待って。お爺さんは後でで良いから、次は水の王国、かな?」

ミドル王国を出てサーガと出会い、離ればなれになったテルディアスと再会。その後サーガがくれた情報により、2人は水の王国へ向かったのだ。

「鍵屋のお爺さん元気かな?」

場面が変わり、あの鍵屋が見えた。中へと景色は移り、カウンターで新聞を読んでいるお爺さんが見えた。

「元気そうだね」

お爺さんからもらった泥棒7つ道具は役に立った。向こうの世界へ持って行くことは出来ないので、テルディアスに好きにして貰うように言ってある。
王様の姿も探すと、執務で忙しそうであった。

「ありがとうございます。直接返しには行けないけど、きちんとシアに託しましたから」

聞こえないと分かってはいたが、キーナは王様に向かって軽く頭を下げた。
その時王様が何かに気付いてキョロキョロしたが、場面を移したキーナ達は知らない。
次はキーナが初めてバイトをした、食い逃げしそうになったあのお店。領主の息子はテルディアスの言いつけをしっかり守っていたようで、お店は変わらず建っていた。
中に入ると、お店の奥で腕に赤子を抱いた女将さんの姿。

「生まれたんだ…!」

キーナが食い入るように画面に見入る。赤ん坊は寝ているようで、動かない。女将さんが少しやつれた顔をしているが、その顔は幸せそうだった。

「良かったな」
「うん」

そして場面が切り替わる。
火の村を見るが、特に変わった様子も無さそうだった。大婆様も祭壇に何かを捧げ、祈りを捧げているようだった。

「皆元気そうだね」

地の村も覗いて見る。以前の場所から動いており、稼ぎにでていた男達が戻って来ているらしかった。ちらほらと男性の姿が見える。
ダンのお母さんのテントを覗くと、何か設計図らしき物を見て話し込んでいるようだった。

「新しい村の場所が決まったのかも知れないな」
「さすが開拓一族」

いずれその場所に新しい地の村が出来るのだろう。

「マーサさんは?」

キーナのリクエストでテルディアスの故郷が映し出される。マーサはテルディアスの家で細々とした用事を片付けているようだった。テルディアスの表情が少し柔らかくなる。

「アスティさんは?」

途端にテルディアスの顔が少し渋くなる。道場の方が映し出されるが、生徒達の姿は見えども師範たるアスティの姿がない。

「あの人は…。またどこかでサボってるのか…」

テルディアスが心当たりの場所を映していく。

「あ、ここ!」

キーナが指を指す。と、道場の屋根に人影がある。近づいてみれば屋根の上で寝転がっているアスティだった。

「ちゃんと後進の指導をしろと先生からも口うるさく言われていたはずなのに…」

テルディアスが苦い顔をする。
と、アスティがふいに目を開け、向こうからは見えなハズなのに、こちらに向かって手を振った。
驚いたテルディアスが咄嗟に場面を切り替えてしまう。

「え、向こうからは見えないはずだよね…?」
「そのはずなんだが…」

2人は背筋が寒くなった。

「えと、次は甘味処のアルバイト!」

気持ちを切り替え、2番目のアルバイト先を映し出す。客の入りはそこそこで、それなりに繁盛しているようだった。見たことのない顔の店員が忙しそうに歩き回っている。

「新しい人入ったんだ」
「そうみたいだな」

レイファ達も元気そうに働いていた。ミラの姿が見えないが、2号店のことで駆けずり回っているのかもしれない。

「風の村…は分かる?」
「そうだな…」

テルディアスが何か考えるようにしていたが、場面を切り替えた。そこには舞台の準備をしている一団の姿が。

「もう一回見たかったなぁ」

今日の演目はなんなのだろう。以前と同じものをやるのだろうか。
キーナも多少手伝ったこともあり、なんというか、手を掛けた子供が巣立ったような少し寂しい気持ちがあった。しかし楽しそうに準備をすすめる姿を見て、良かったとも思う。

「いずれサーガも舞台に立つのかな?」
「想像出来んな」

アドリブばかりで劇をぶち壊しにしそうな感じもする。

「あとは、ナト達のお墓の所に行ける?」
「ああ」

ナトとアディ。救えなかった闇と光の者。空間を繋ぎ、墓の前に来ると2人は手を合わせた。

「闇の宮と、水を抜かした賢者達には直接会いに行こうと思うんだけど」
「ああ。伝えなければならないこともあるしな」

水の賢者は会ったこともないので住処も知らない。
まずは闇の宮へと空間を繋げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...