キーナの魔法

小笠原慎二

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その後の話

アスティの謎の話

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「テルディアスー!!」
「やめーい!!」

寸での所でアスティのぶちゅー攻撃を躱す。
この人は、まったく変わらない。

「おー、髪の色も元の色に戻ってるな。ちゃんと病気治ったのか」
「ああ、まあ…」
「キーナちゃん達は? どうしたんだ?」

アスティが今までの事を知っているわけがないのでそう聞いて来ることは想定内であったが…。
気持ちが落ち込むことを止める事は出来ないテルディアスであった。
そんなテルディアスの顔色を読んだか、それ以上追求してこないアスティ。これでも一応テルディアスよりもお兄さんです。
街の門の近くにある大きな木。昔はこの辺りでも遊んだものだ。
アスティは時折この辺りで稽古をさぼっているらしく、帰ってきていきなり出くわした。
いや、師範がさぼるな。

「あ~、こうなりゃ、お前にも教えないといけないか~」

何か話題を変えた方がいいと察したか、アスティが何かを提案してくる。
そういえばこの街に前回帰ってきた時、いろいろ引っかかる事をアスティに質問したが、明確な答えは貰えなかった。
元の姿になって帰ってきたら教えてやると言われたのだ。

「そうだ。そういえば俺の問いに答えてくれると言っていたな」
「よかろう。教えて進ぜよう。しかし今日は無理だろうな」
「何故?」
「それは、これから宴会だからだ♪」

道場へ着くと、アスティの言うとおり宴会が始まった。
いやお前ら、修練しろよ…。
とテルディアスは思ったとかなんとか。










それから一週間。テルディアスは何をする気にもなれず、ぼんやりと過ごした。
母からの手紙にも目を通すも、ことあるごとにキーナの事を思い出してしまい集中出来ない。
失ったものが大きすぎた。

「テルディアス~。仕度して北門に集合な」

日が暮れた頃に突然やってきたアスティがそう言って去って行った。
なんの仕度だともどこへ行くとも言っていない。相変わらずだ。
マーサは笑いながらテルディアスを送り出す。

「アスティ坊ちゃまも相変わらずですねぇ」

と。

アスティの言うことだから何かの仕合いか何かかと思い、一応剣を携え北門へと向かった。
そこには道場でも腕の立つ者が数人集まっていた。中には引退した者も。

「お、テルディアスか」
「とうとうテルディアスも来たのか」

と皆テルディアスを見て声をかける。

「なんの集まりだ?」

テルディアスとて道場の中では指折りの実力者だ。これだけの者が集まって何をしているのか知らないことに、少しショックを覚える。

「まあ、な?」
「ああ。行けば分かるさ」

何やら意味深に目を見合わせて答えてくれない。

「おーし。皆集まったな~」

アスティが最後にやってきたようだ。

「んじゃ、行くぞー」

門番達も承知しているのか、アッサリと街門を抜け、アスティを先頭に街から出て行った。

(こんな山の中に…)

魔法で明かりを灯しながら、一行は街から少し離れた山の中をひたすら進む。

(! まさか…)

行く先に感じるのは、歪み。
御子として負った使命を果たすべき、歪みによって生じた穴だ。

(まさか、街からこんな近くに…)

然程大きくはないようだが、放っておいたらそれは広がって捻れを生み出すだろう。
だが、今はまだ穴の修復をすることはできない。

(キーナ…)

まだ本物の光の御子を見つけてはいない。
そも、まだ探す気になれていない。
まだ、キーナが側にいないという、今の状況に慣れていなかった。
いつも自分の周りをチョロチョロしていたあの存在が、もういない。
テルディアスは余計に胸を締め付けられる思いだった。

「おーし。団体さんご案な~い」

前方から暢気な声が聞こえてくる。
見れば、前方の木立の間から、妖魔の群れが向かって来るではないか。
どうやらここにある穴は虚無の一部ではなく、この世界の歪みから来る負の感情の吐き出し口のようなものらしい。
いわゆる瘴気が濃いという場所だ。
こういうところからは妖魔が発生しやすい。
テルディアスが慌てて皆のフォローをしなければと気持ちを立て直していたが、その必要はなかった。
意気揚々と皆で妖魔狩りを始めたのである。

「…は?」

しかも皆手慣れている。
危なげなく皆次々に妖魔を倒していく。
テルディアスがフォローに入らずとも全く問題はなさそうである。

「これがお前の問いに対する答えよ」

後ろに下がって来たアスティが答える。
前回久しぶりに手合わせしたこの兄弟子は、

「人間相手に全力で戦う事があるとはな…」

というテルディアスの呟きに、

「俺も同意」

という謎の返しを返してきた。
そのことについて問い詰めたのだが、のらりくらりと躱されてしまい、結局ハッキリとした答えはもらえないままだった。

「これが答え…というと…」
「うん。俺、昔からここで妖魔退治してたの」

あっけらかんと答える。

「昔って…、いつから…」
「さあ~。いつぐらいからだったかな~。10歳くらいだったかな?」
「多分それくらいだろうな」

古参の1人が話しに加わってきた。

「俺が先代に言われてアスティをつけて、初めて知った事だからな。それでもアスティは12歳くらいだったぜ」

テルディアスの顔が引き攣る。

「どうして…」
「まあなんとなく?」
「説明が面倒だからといつもはぐらかすんだ」

古参の男、エスチルが肩をすくめながら説明してくれた。
エスチルの推察も含めた説明によると、ある時散歩か何かでアスティがこの辺りをうろついていた時、偶然この場所を発見した。
昔から神童と言われていたアスティ。まだ穴が発生直後だったのか、あっさり妖魔を退治してしまったらしい。
しかしその妖魔との闘いは、人相手とはまた違う危うさがあり、稽古に行き詰まり、飽きていたアスティは妖魔退治にはまった。
だが一応妖魔だ。大人にバレたら絶対にやめろと止められるに違いない。
なのでアスティは時折こっそり街を抜け出し、ここで修行(という名目の鬱憤晴らし)をしていたようだ。

「だから…、ある時から道場でさぼるようになったのか…」

人相手では物足りなさすぎる。
なのでアスティは稽古をさぼるようになる。
しかし妖魔との闘いで実力はうなぎ上り。訝しく思った先代が、エスチルに頼み込み、アスティのことを探った。
そしてこの場所がばれた。
エスチルはもちろん、先代がアスティを止めるものだと思っていた。しかし違った。
アスティの妖魔退治は公然の秘密となった。
ただし、条件が一つ。
きちんと後進を育てること。つまり、実力のある者を一緒に妖魔退治に連れて行き、力の底上げをして欲しいということだった。
アスティはその約束を守った。
先代がなくなり、アスティが道場を継ぎ、そして妖魔退治に行く者も少しずつ増えていく。

「だからうちの道場…、田舎町なのに、他とは実力が違うと…」

他にある剣道場よりも、この街の出身の剣士が何故か実力が飛び抜けていると評判になっている。

「いや。連れて来ている者はな、皆街で終生暮らすと決めている者だけだ。そういう奴等と稽古してるから、他の奴等の実力も上がってるんだ」
「? 何故? この街で暮らす者だけ?」
「いや、普通に考えてみろ。街の近くにこんな危ない所があるんだぞ? 下手すれば王都から退治するために人が派遣されてくるかもしれないだろう?」

普通はそうだろう。こんな危ないところがあれば、それを封じる魔導師なりなんなり出て来てもおかしくはない。封じられなければ街を捨てることになることもある。

「街を出て行く者は他で喋るかもしれない。でも俺達だけで対処してれば、バレずにすむ。何より、俺達の腕は上がるだけ」

テルディアスの顔が引き攣る。
皆ここを良い稽古場としか考えていないようである。
普通は妖魔を一介の剣士が単独で撃破するものではないのだが…。
している。今まさに目の前で。
それだけで実力が分かる。

「お前は王都に行きたがっていたからな。昔は呼ぼうとしてなかったんだが。今回呼んだのはどういう心境の変化なんだろうな」

確かに昔は王都に行きたがっていたが、今はそんなことは考えていない。しかしこの街に根を下ろすとも考えてはいないが…。

「それとな。先代の言葉なんだけどな」

エスチルが声を潜めた。
アスティも妖魔退治に加わり、こちらの話は聞いていないようである。

「俺が止めなくていいのかと先代に聞いたら、アスティは少し周りと違って危ない所があるから、これで息抜き出来るなら止める必要もないだろうってな。それを聞いて俺は合点がいったんだが。お前、分かるか?」

エスチルがニヤニヤとテルディアスを見る。

(アスティが危ない?)

テルディアスには訳が分からない。

「お前には、良いお兄さんって顔しか見せてないもんな」

エスチルがぽん、とテルディアスの肩を軽く叩いて、前へと進んでいった。
なんだかますますアスティへの謎が深まり、困惑するテルディアスだった。
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