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白焔パーティー編
雨を避けるには風魔法
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「いや~すまんすまん。女の子が放してくれなくて」
すでに皆広場に集まっていた。
サーガの言葉にオックス以外の面々が呆れたような目をする。まるで嘘をつくならもっとましな嘘をつけとでも言うかのように。
本当の事なのに不思議だね。
「サーガ君。白焔の方達にはもう紹介したが、今回付き添ってくれるうちの従業員のメイジスだ。よろしく頼むよ」
「メイジスです。よろしく」
色黒で背の高いその男性を、サーガは下から見上げる。若干嫌そうな顔をしているのは気にしないでおこう。
「よろしく。サーガだ」
差し出された手を握り返し、すぐに放した。
「ザイードもだいぶ良くなったのだけれどね。まだ無理はいけないから今回は残ってもらったんだ。このメイジスも頼りになる男だよ」
サーガと然程背丈の変わらないオックスが、メイジスの腕を頼もしそうに叩く。
「さて、では皆揃ったし、出発しようか」
オックスの言葉に頷いて、皆馬車へと乗り込んだ。
馬車が動き出し、街の外へ出る。道は多少は整備されてはいるものの、小石やらなんやらで道はでこぼこしている。
オックスとメイジスは交代で手綱を操るのか、御者席で2人並んでいる。白焔の者達は前後に別れて周囲を警戒。そしてサーガは馬車の中に姿がない。
「どうして落ちてこないのかしら…」
カリンが不思議そうに天井を見上げる。
説明しておくが、オックスの馬車は幌馬車と言われるタイプの馬車だ。幌とは防水布を張って雨や砂埃を防ぐ為のもの。つまり布なのでその上に人が乗ったら、よほどしっかり張っているなどしなければその重さで落ちてきてしまうはずである。元より何かを乗せるという構造はしていない。上手く骨組みの上に乗っているのかもしれないが、それでも揺れる馬車なのにバランスを崩さないで乗っていられるわけがない。
余程軽い人間ならば乗っていることも可能なのかもしれないが、いくら背が低いと言ってもそんな軽い人間には見えなかった。
「疲れたら降りてくっから」
と一言言って、身軽に幌の上に飛び乗ってしまったサーガ。サーガが乗っているだろう場所が少し凹んでいるように見えるので、そこにいるのであろう。
「魔法を使っているのではないのかね?」
その呟きが聞こえたのか、オックスが振り返る。今はメイジスが手綱を握っている。
「そんな魔法聞いたことない」
少し不機嫌そうにリラが言う。これでも魔法を学べる学校をきちんと出ているリラである。魔法についてはこの中で誰よりも詳しい。ちなみに年齢については聞いてはいけない。
「まあ、魔法とは奥深いものですから…」
リラの機嫌をとるかのようにエミリーがフォローをするが、エミリーも実は気になっている。
「はて。最初に会ったときもそんな魔法を使っていたけれど?」
オックスも首を傾げる。縛り上げた盗賊達を「魔法で」幌の上に上げてしまったのだ。その後、何故か暴れているのに静かな盗賊達であったのがとても不思議ではあった。
しかし魔法についてそう詳しくないオックスは「そういうものか」と納得してしまったのだが。
「降って来たらさすがに降りて来るだろ」
ジャッカスが馬車の外に手を翳す。
天気は生憎の曇り空。今しも降って来そうな空模様である。
と、その言葉が呼び水になったのか、ジャッカスの手にポツリと雨が当たった。
「降って来たな」
「降って来たか」
フィリップが嫌そうな顔をする。この中で唯一全身鎧の彼は、濡れると鎧の手入れが大変なので雨は大の嫌いである。
しとしとと静かに雨は降って来た。オックスとメイジスもカッパを身に着ける。
「せめて今夜は次の街で宿をとりたいものだな」
空を見上げ、オックスが呟く。
「ちょっと、サーガ君?! 濡れるわよ! 降りて来ないの?!」
世話焼き気質なのか、カリンが上に向かって声を掛ける。
「ほ~い。そんじゃ降りようかな」
そんなのんきな声が聞こえてきて、身軽にサーガがひらりと馬車の中へと降りてくる。幌の骨組みを心配したが、全く大丈夫な様子なので安心した。
「まったく、風邪引くわよ」
カリンが荷物の中からタオルを出して来たが、ふと気付く。サーガはまったく濡れていない。
「あ、ども、あんがとさん。でも俺濡れない質だから大丈夫よん。匂いかいでいいならもらっておくけど」
最後の言葉にカリンがタオルを急いで引っ込めた。
「え? 濡れないって? どいうこと?」
フィリップが羨ましそうに聞いて来る。
「え~と…、その、魔法で?」
一応魔法の部類に入るのではないだろうかと思う。風の精霊が勝手にやってくれることなのでなんとも言い難い。
「どんな魔法? 特別な呪文でもいる?」
気になったのか、リラがグイグイ聞いて来る。
「お、俺の故郷の特別な魔法っぽいので…。あ、詳細は記憶喪失なので分かりません」
逃げた。
「属性は?!」
「風です…」
どうしても知りたいのか、リラの目つきが怖い。
「風の性質の魔法…。雨を避ける…。出来たらとても便利…。何か特別な魔法陣?」
ブツブツ言い始めた。
本当は女性陣の間にいたかったが、リラが怖かったので後ろの男性陣の方に寄って座る。
「ねえ、あの子、めっちゃ怖くね?」
「ああ、彼女は魔法に関してはうるさいからね…」
ジャッカスも苦笑い気味だ。
「サーガ君、その魔法、鎧に付術したりとか、出来ないかな?」
「う~ん、ちょっと難しいかなぁ」
風の精霊に愛された者のみの特別仕様なので、他人に分け与えることは難しい。
「雨避けか。あったら便利だねぇ」
会話が聞こえていたのだろう、オックスが濡れながら振り向いて笑う。雨の中進むのはやはり大変そうだ。
「オックスさん。ちょっと料金上乗せしてくれるなら、御者席だけでも濡れないように出来るけど?」
交渉し始めた。
「お願いするよ」
即答だった。
「ん」
サーガが軽く指を振る。途端に御者席に雨が当たらなくなる。
「これは…。有り難いですね…」
メイジスも驚いて空を見上げる。頭上数十㎝の所で雨が弾かれている。不思議な光景だ。
「ほほほ。これは風邪を引く心配がなくていいね」
オックスも被っていたフードを取って上を見上げた。
「街に近づいたら取るからね。変に怪しまれても面倒くさいし」
サーガが注意する。
「ああ、分かったよ。その時は声を掛けてくr…」
「どうやった?!」
リラがサーガに襲いかかってきた。
「きゃあ?!」
組み敷かれ、思わず悲鳴を上げるサーガ。
「今、手を振っただけで…! 呪文もなく…! 見たことない…!」
「ちょ、リラ!」
「リラさん! 落ち着いて下さい! はしたないですよ!」
慌ててカリンとエミリーがリラをサーガから引き剥がす。
「教えて! 教えてくれるならなんでもする!」
そういうことは軽々しく言ってはいけません。
サーガが体を起こしつつ、ニヤニヤ笑いながら言葉を吐き出す。
「ええ~? だったら俺と一晩、とか? ベッドの中でなら教えて…」
「分かった。今晩」
「ちょっと待て! そんな簡単に女の子が得体の知れない男に身を任せちゃいけません!」
お前が言うな。
「私は嫌か? 年は少し上だけど、まだ生娘だぞ。男はそういうのが好きなのだろう?」
少し色っぽい仕草でローブの上から自分の体をなぞる。ちょっと凹凸が少ないかな?
「ちょっと、誰か止めてよこの子」
サーガが助けを求めるようにカリンとエミリーを交互に見る。
「リラ。さすがに落ち着きなさいって」
「そうですよ。いくら魔法の知識が欲しいからって、いきなり体を捧げるなんて」
「交換条件なら飲む」
「「「飲むな!!」」」
何故か3人の声が重なった。
「リラ。駄目だぞ。伝家の宝刀ってやつはそう簡単には教えて貰えないものなんだから」
ここでジャッカスが口を挟んで来た。
「剣技とは違う。魔法は術の構築式を知ればあとは使う物の力量次第」
「そうじゃないよ。奥の手とか、そういうものは簡単には人に見せられないって事。サーガ君が教えたがらないのはそう言う物だって事だよ」
「そうなのか」
「そうです。そうです」
サーガがその通りとばかりに首を縦に何度も振る。この話の流れに乗らない手はない。
「そうか…。そうだな。私でも教えられない秘術などはある…。分かった。諦める…」
スゴスゴと所定の位置へと戻っていった。
カリンとエミリーもほっとした顔をして所定の位置へと戻る。
「助かったぜ。ジャッカスさんよ」
「こちらもすまないね。リラは向上心があるのはいいんだけど。魔法のこととなるとちょっとネジがおかしくなってしまうんだ」
「まさか速攻でベッドOK貰えるとは思わなかったぜ」
普通の子ならばここでたじろぐ所であるが。
「魔法の知識があればいいのか…」
フィリップが小さく何か呟いていたが、聞かなかったことにした。
すでに皆広場に集まっていた。
サーガの言葉にオックス以外の面々が呆れたような目をする。まるで嘘をつくならもっとましな嘘をつけとでも言うかのように。
本当の事なのに不思議だね。
「サーガ君。白焔の方達にはもう紹介したが、今回付き添ってくれるうちの従業員のメイジスだ。よろしく頼むよ」
「メイジスです。よろしく」
色黒で背の高いその男性を、サーガは下から見上げる。若干嫌そうな顔をしているのは気にしないでおこう。
「よろしく。サーガだ」
差し出された手を握り返し、すぐに放した。
「ザイードもだいぶ良くなったのだけれどね。まだ無理はいけないから今回は残ってもらったんだ。このメイジスも頼りになる男だよ」
サーガと然程背丈の変わらないオックスが、メイジスの腕を頼もしそうに叩く。
「さて、では皆揃ったし、出発しようか」
オックスの言葉に頷いて、皆馬車へと乗り込んだ。
馬車が動き出し、街の外へ出る。道は多少は整備されてはいるものの、小石やらなんやらで道はでこぼこしている。
オックスとメイジスは交代で手綱を操るのか、御者席で2人並んでいる。白焔の者達は前後に別れて周囲を警戒。そしてサーガは馬車の中に姿がない。
「どうして落ちてこないのかしら…」
カリンが不思議そうに天井を見上げる。
説明しておくが、オックスの馬車は幌馬車と言われるタイプの馬車だ。幌とは防水布を張って雨や砂埃を防ぐ為のもの。つまり布なのでその上に人が乗ったら、よほどしっかり張っているなどしなければその重さで落ちてきてしまうはずである。元より何かを乗せるという構造はしていない。上手く骨組みの上に乗っているのかもしれないが、それでも揺れる馬車なのにバランスを崩さないで乗っていられるわけがない。
余程軽い人間ならば乗っていることも可能なのかもしれないが、いくら背が低いと言ってもそんな軽い人間には見えなかった。
「疲れたら降りてくっから」
と一言言って、身軽に幌の上に飛び乗ってしまったサーガ。サーガが乗っているだろう場所が少し凹んでいるように見えるので、そこにいるのであろう。
「魔法を使っているのではないのかね?」
その呟きが聞こえたのか、オックスが振り返る。今はメイジスが手綱を握っている。
「そんな魔法聞いたことない」
少し不機嫌そうにリラが言う。これでも魔法を学べる学校をきちんと出ているリラである。魔法についてはこの中で誰よりも詳しい。ちなみに年齢については聞いてはいけない。
「まあ、魔法とは奥深いものですから…」
リラの機嫌をとるかのようにエミリーがフォローをするが、エミリーも実は気になっている。
「はて。最初に会ったときもそんな魔法を使っていたけれど?」
オックスも首を傾げる。縛り上げた盗賊達を「魔法で」幌の上に上げてしまったのだ。その後、何故か暴れているのに静かな盗賊達であったのがとても不思議ではあった。
しかし魔法についてそう詳しくないオックスは「そういうものか」と納得してしまったのだが。
「降って来たらさすがに降りて来るだろ」
ジャッカスが馬車の外に手を翳す。
天気は生憎の曇り空。今しも降って来そうな空模様である。
と、その言葉が呼び水になったのか、ジャッカスの手にポツリと雨が当たった。
「降って来たな」
「降って来たか」
フィリップが嫌そうな顔をする。この中で唯一全身鎧の彼は、濡れると鎧の手入れが大変なので雨は大の嫌いである。
しとしとと静かに雨は降って来た。オックスとメイジスもカッパを身に着ける。
「せめて今夜は次の街で宿をとりたいものだな」
空を見上げ、オックスが呟く。
「ちょっと、サーガ君?! 濡れるわよ! 降りて来ないの?!」
世話焼き気質なのか、カリンが上に向かって声を掛ける。
「ほ~い。そんじゃ降りようかな」
そんなのんきな声が聞こえてきて、身軽にサーガがひらりと馬車の中へと降りてくる。幌の骨組みを心配したが、全く大丈夫な様子なので安心した。
「まったく、風邪引くわよ」
カリンが荷物の中からタオルを出して来たが、ふと気付く。サーガはまったく濡れていない。
「あ、ども、あんがとさん。でも俺濡れない質だから大丈夫よん。匂いかいでいいならもらっておくけど」
最後の言葉にカリンがタオルを急いで引っ込めた。
「え? 濡れないって? どいうこと?」
フィリップが羨ましそうに聞いて来る。
「え~と…、その、魔法で?」
一応魔法の部類に入るのではないだろうかと思う。風の精霊が勝手にやってくれることなのでなんとも言い難い。
「どんな魔法? 特別な呪文でもいる?」
気になったのか、リラがグイグイ聞いて来る。
「お、俺の故郷の特別な魔法っぽいので…。あ、詳細は記憶喪失なので分かりません」
逃げた。
「属性は?!」
「風です…」
どうしても知りたいのか、リラの目つきが怖い。
「風の性質の魔法…。雨を避ける…。出来たらとても便利…。何か特別な魔法陣?」
ブツブツ言い始めた。
本当は女性陣の間にいたかったが、リラが怖かったので後ろの男性陣の方に寄って座る。
「ねえ、あの子、めっちゃ怖くね?」
「ああ、彼女は魔法に関してはうるさいからね…」
ジャッカスも苦笑い気味だ。
「サーガ君、その魔法、鎧に付術したりとか、出来ないかな?」
「う~ん、ちょっと難しいかなぁ」
風の精霊に愛された者のみの特別仕様なので、他人に分け与えることは難しい。
「雨避けか。あったら便利だねぇ」
会話が聞こえていたのだろう、オックスが濡れながら振り向いて笑う。雨の中進むのはやはり大変そうだ。
「オックスさん。ちょっと料金上乗せしてくれるなら、御者席だけでも濡れないように出来るけど?」
交渉し始めた。
「お願いするよ」
即答だった。
「ん」
サーガが軽く指を振る。途端に御者席に雨が当たらなくなる。
「これは…。有り難いですね…」
メイジスも驚いて空を見上げる。頭上数十㎝の所で雨が弾かれている。不思議な光景だ。
「ほほほ。これは風邪を引く心配がなくていいね」
オックスも被っていたフードを取って上を見上げた。
「街に近づいたら取るからね。変に怪しまれても面倒くさいし」
サーガが注意する。
「ああ、分かったよ。その時は声を掛けてくr…」
「どうやった?!」
リラがサーガに襲いかかってきた。
「きゃあ?!」
組み敷かれ、思わず悲鳴を上げるサーガ。
「今、手を振っただけで…! 呪文もなく…! 見たことない…!」
「ちょ、リラ!」
「リラさん! 落ち着いて下さい! はしたないですよ!」
慌ててカリンとエミリーがリラをサーガから引き剥がす。
「教えて! 教えてくれるならなんでもする!」
そういうことは軽々しく言ってはいけません。
サーガが体を起こしつつ、ニヤニヤ笑いながら言葉を吐き出す。
「ええ~? だったら俺と一晩、とか? ベッドの中でなら教えて…」
「分かった。今晩」
「ちょっと待て! そんな簡単に女の子が得体の知れない男に身を任せちゃいけません!」
お前が言うな。
「私は嫌か? 年は少し上だけど、まだ生娘だぞ。男はそういうのが好きなのだろう?」
少し色っぽい仕草でローブの上から自分の体をなぞる。ちょっと凹凸が少ないかな?
「ちょっと、誰か止めてよこの子」
サーガが助けを求めるようにカリンとエミリーを交互に見る。
「リラ。さすがに落ち着きなさいって」
「そうですよ。いくら魔法の知識が欲しいからって、いきなり体を捧げるなんて」
「交換条件なら飲む」
「「「飲むな!!」」」
何故か3人の声が重なった。
「リラ。駄目だぞ。伝家の宝刀ってやつはそう簡単には教えて貰えないものなんだから」
ここでジャッカスが口を挟んで来た。
「剣技とは違う。魔法は術の構築式を知ればあとは使う物の力量次第」
「そうじゃないよ。奥の手とか、そういうものは簡単には人に見せられないって事。サーガ君が教えたがらないのはそう言う物だって事だよ」
「そうなのか」
「そうです。そうです」
サーガがその通りとばかりに首を縦に何度も振る。この話の流れに乗らない手はない。
「そうか…。そうだな。私でも教えられない秘術などはある…。分かった。諦める…」
スゴスゴと所定の位置へと戻っていった。
カリンとエミリーもほっとした顔をして所定の位置へと戻る。
「助かったぜ。ジャッカスさんよ」
「こちらもすまないね。リラは向上心があるのはいいんだけど。魔法のこととなるとちょっとネジがおかしくなってしまうんだ」
「まさか速攻でベッドOK貰えるとは思わなかったぜ」
普通の子ならばここでたじろぐ所であるが。
「魔法の知識があればいいのか…」
フィリップが小さく何か呟いていたが、聞かなかったことにした。
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