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3027年。
その日、世界は変動した。巨大な国家同士の戦争――第三次世界大戦の勃発。刻一刻と交わる世界情勢。平和はいつの間にか当たり前に教授できないものへと変化する。これはその参戦国の――平和の残滓があった時代から始まる。
アスファルトに素足を晒すとどれだけ熱いのだろう。この蝉の鳴き声よりも暑いのだろうか。暑いという概念はどこから生まれて定着化したのだろう。誰がこれを「暑い」と決めたのだろうか。アスファルトが地面を覆い尽くしているこの時代にも何故蝉は生まれるのだろうか。昔は今よりも大分多く、煩く鳴いていたと文献は言う。だがそれを確かめる術はない。少女はそんな熱いアスファルトの上に平然として立っている。当たり前だ、人類には靴という文明品があるのだから。噎せ返るような暑さはアスファルトとビルからの反射で更に温度を上げている。昔はクーラーの室外機での温度上昇が問題になっていたようだが、それも然程変わらない。空気の循環システムを内部構造に当てはめ室内は冷却によって涼しさが満ちている。嗚呼、早くあのビルの中に入りたい。少女の喉は乾燥していた。茹だるような暑さの中、小一時間程この日陰に居ただけでこれほどまでに水分は蒸発していくのか……。少女は自嘲気味に口角を上げる。ただそれだけの運動量での苦しいのか、更に水分を身体は欲してくる。
少女がここに来たのは約束のためだ。この暑い中夏期講習も終わり、課題の消化をしている中、友人に呼び出されて来てみると相手はいなかった。未だ到着していないのだろうかと思い待つこと小一時間。目の前の雑踏にすら待ち人の姿は見えず。
(ジュース、買っておけばよかった)
自販機は此処から遠い。この炎天下に足を踏み入れるのは躊躇する。だがしかし、このまま時間が経つのなら脱水症状にも配慮しなければならない。もう帰りたい。それが少女の本音だ。鞄から携帯を取り出し友人に掛ける。――だが、一向に出る気配は、ない。こんな事をかれこれ二十回もしていたような気がする。発信履歴は全て友人の名前で埋まっている。それを見つめてため息をついた少女に、少女の耳に、喧騒のひとつが入った。
「聞いた? 北東の」
「ああ聞いたよ。貯水池に毒を入れられたらしいね」
「そう。それ。知り合いがそこにいたんだけど何度電話しても出ないの」
――北東、の。
――何度、電話しても、出ないの。
そのふたつに合致している友人の事を思い浮かべる。もう一度携帯に電話を掛けるが、着信音が虚しく耳に届くだけ。
「……噂では、街ひとつ全滅だってね」
「ここじゃなくてよかったわ」
無責任な会話が聞こえる。どうしてそう思えるのか。どうして危機感を持たないのか。そう、少女も今の今まで危機感を持ってはいなかった。戦争と言っても他人事だと思っていたからだ。だがしかしそれは現実逃避にほかならない。今も着々と我が国を狙う銃口が向かっているのだ……。
迂闊だった。まさかここまで自国が攻撃されているとは思わなかった。情報統制はあったのだろうが、本土を攻撃してくるなんて事は無いと信じていたのだ。確定要素もない、ただ平和ボケした頭で『そうであってほしい』と信じていたのだ。
その結果が友人を一人亡くしたかもしれない事実。それは少女にとって深く重たく心に沈んだ。
(どうして……)
その答えが出る前に、少女の意識はぷつりと途切れたのだった。
その日、世界は変動した。巨大な国家同士の戦争――第三次世界大戦の勃発。刻一刻と交わる世界情勢。平和はいつの間にか当たり前に教授できないものへと変化する。これはその参戦国の――平和の残滓があった時代から始まる。
アスファルトに素足を晒すとどれだけ熱いのだろう。この蝉の鳴き声よりも暑いのだろうか。暑いという概念はどこから生まれて定着化したのだろう。誰がこれを「暑い」と決めたのだろうか。アスファルトが地面を覆い尽くしているこの時代にも何故蝉は生まれるのだろうか。昔は今よりも大分多く、煩く鳴いていたと文献は言う。だがそれを確かめる術はない。少女はそんな熱いアスファルトの上に平然として立っている。当たり前だ、人類には靴という文明品があるのだから。噎せ返るような暑さはアスファルトとビルからの反射で更に温度を上げている。昔はクーラーの室外機での温度上昇が問題になっていたようだが、それも然程変わらない。空気の循環システムを内部構造に当てはめ室内は冷却によって涼しさが満ちている。嗚呼、早くあのビルの中に入りたい。少女の喉は乾燥していた。茹だるような暑さの中、小一時間程この日陰に居ただけでこれほどまでに水分は蒸発していくのか……。少女は自嘲気味に口角を上げる。ただそれだけの運動量での苦しいのか、更に水分を身体は欲してくる。
少女がここに来たのは約束のためだ。この暑い中夏期講習も終わり、課題の消化をしている中、友人に呼び出されて来てみると相手はいなかった。未だ到着していないのだろうかと思い待つこと小一時間。目の前の雑踏にすら待ち人の姿は見えず。
(ジュース、買っておけばよかった)
自販機は此処から遠い。この炎天下に足を踏み入れるのは躊躇する。だがしかし、このまま時間が経つのなら脱水症状にも配慮しなければならない。もう帰りたい。それが少女の本音だ。鞄から携帯を取り出し友人に掛ける。――だが、一向に出る気配は、ない。こんな事をかれこれ二十回もしていたような気がする。発信履歴は全て友人の名前で埋まっている。それを見つめてため息をついた少女に、少女の耳に、喧騒のひとつが入った。
「聞いた? 北東の」
「ああ聞いたよ。貯水池に毒を入れられたらしいね」
「そう。それ。知り合いがそこにいたんだけど何度電話しても出ないの」
――北東、の。
――何度、電話しても、出ないの。
そのふたつに合致している友人の事を思い浮かべる。もう一度携帯に電話を掛けるが、着信音が虚しく耳に届くだけ。
「……噂では、街ひとつ全滅だってね」
「ここじゃなくてよかったわ」
無責任な会話が聞こえる。どうしてそう思えるのか。どうして危機感を持たないのか。そう、少女も今の今まで危機感を持ってはいなかった。戦争と言っても他人事だと思っていたからだ。だがしかしそれは現実逃避にほかならない。今も着々と我が国を狙う銃口が向かっているのだ……。
迂闊だった。まさかここまで自国が攻撃されているとは思わなかった。情報統制はあったのだろうが、本土を攻撃してくるなんて事は無いと信じていたのだ。確定要素もない、ただ平和ボケした頭で『そうであってほしい』と信じていたのだ。
その結果が友人を一人亡くしたかもしれない事実。それは少女にとって深く重たく心に沈んだ。
(どうして……)
その答えが出る前に、少女の意識はぷつりと途切れたのだった。
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