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7、いきなり抱擁

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   「リル…」

そう言ってぎゅっと私を後ろから抱きしめた。
「お兄ちゃん、離して」
「お兄ちゃんと…言うな」
お兄ちゃんの顔が肩に触れる。
「ジン…と呼んでくれ」

「ジン…お「お兄ちゃんは無し」」
お兄ちゃんは離してくれない。
「呼んだら離してくれる?」
顔を左右にふる。くすぐったい。
「離さない。ジンと呼んで」

「もう~飲み過ぎ。…ジン?」
ピクリと腕が動いた。
「もう一度、…呼んで」
「ジン」
ぎゅうううううっ!と更に強く抱き締めた。
「痛い!!緩めて!骨が折れちゃうー!」
「ご、ごめん!」腕を緩めた。
はあ~危なかった。
「もう寝たほうが良いよ。ね?」
また顔を左右にふった。髪の毛がくすぐったい。
「もう遅いし。お水を持ってくるから」

顔を肩にスリスリして
「一緒に寝よう?」と言った。

   時が止まった。…気がした。

いや、私の思考が止まりました。聞き違いかな?聞き違いだよね。
「聞き違いじゃ、無い。何にも、しないから一緒に寝よう。…子供の頃のように」

15歳まで何だかんだで一緒に寝ていたけどね。
…何にもしないなら。良いかな?
「そろそろ痛くなってきたし、眠いし、何もしないなら良いよ」
ビクン!とお兄ちゃんは震えた。
「お水を持ってくるから離してくれる?」
そっと腕を離した。
「待っててね」

部屋を出て深呼吸する。ドキドキした。
15歳の頃、学校のお友達に一緒にお兄ちゃんと寝てるのはおかしいと言われて別々に寝るようになった。久しぶりだ。
コップに水を入れて持って行く。

「お待たせ。はい、水だよ」
お兄ちゃんに水を渡す。
「あり…がとう」
ごくごく飲み干す。お兄ちゃんからコップを受け取りサイドテーブルに置く。
フーッと息を吐くお兄ちゃん。
「珍しいね、こんなに酔うなんて」
「リル…」
「お酒強いんだー。ニトリさん言ってたね」
「リル」
私の腕を掴み、引き寄せた。「あ」
ベッドが、ギシリと軋んだ。

「離れるのは嫌だ」
「お…」
「貴族なんかキライだ」
「… 」
「伯爵令嬢って嘘だろ」
「お兄ちゃ…」
「ジンと呼べ…」
「ジン」

バタリ。
「キャッ!」
二人してベッドに倒れた。
お兄ちゃんが覆い被さっている。
「お兄、…ジン?」
返事が無い。

「ジン」
グー。寝てる。

「忙しかったものね…」
色々あって私も疲れました。王様に会えたし。
腕の間から顔を出して苦しくないようにする。
動くと逃さないように腕をからめてくる。
「リル…」
抜け出せないな。ふう…仕方ない。このまま寝よう…。朝、お兄ちゃんが起きないうちに抜ければいいや。洞窟でお兄ちゃんに助けられた時は熱があって動けなかったけど。


 ■□■□■□

(ジン視点)

ん?朝か?
柔らかい。何だ?動かして見る。
手に、ぷにぷに の…。
目を開けて見ると、あれ?リル…?
何で一緒に寝てるんだっけ?
金の髪がキラキラしてる。
閉じたまぶたのまつげは長く、唇は艶々したピンク色。可愛い…。

あ、無意識に胸に触っていた。ヤバい怒られる。起きる前に離さないと。
チュッ。頬にキスをする。
ん?起きない。
おでこにも、チュッ。

昨日…。
色々手続きした後、ニトリ達に飲みに誘われて。やけ酒して…そのあと…。あー。
チラッ。服は着てる…か。
さて、起きる前に。
ぎゅっとリルを抱きしめ、もう一度頬にキスして起きる。


 ■□■□


 あれ?朝だ。
ガバッ!お兄ちゃんはいない。
しまった…。
カチャ。そおっと扉を開ける。
「お早う、リル」にっこり笑った。

「お、お早う。ジン」

びっくりしている。
「あれ?昨日、ジンと呼べって」
「…うん」
「二日酔いは大丈夫?」
ちょっと照れた感じのお兄ちゃんが
「大丈夫だ」と言った。

「朝御飯が出来ているから、一緒に食べよう」




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