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4、人見知りの獣人さん
しおりを挟む「あらムウ君、お早う」
「お早う御座います!」
商店街のご近所さんから挨拶してもらった。ボクは開店前、お店の前を掃除していた。
でもゴミなど落ちてなく、枯れた葉っぱくらいしか落ちてない。商店街の皆さんは優しくて、ボクみたいな新しく働きだした獣人にも声をかけてくれる。
「お早う」
お掃除していたら、後ろから声をかけられて振り向いた。
「お早うございます。……?」
あれ? 誰もいない。気のせい……?
開店時間になって、お客さんがいらっしゃった。
「いらっしゃいませ!」
ボクも元気よく挨拶する。噛まずに言えるようになってきた。
「ムウ、三番テーブルの食器を下げてきてくれ」
ファルさんに言われて下げに行く。
音をなるべく立てないようにと、ファルさんに教えてもらったので気を付ける。
トレイに乗せる。わりと重いので慎重に運ぶ。
「よし。よく運べたな。こっちに置いて洗ってくれ」
ファルさんに褒められた。良かった。
お皿とかティーカップを丁寧に洗う。まだ、皆のようにきびきびと動けないけど仕事は丁寧にやると決めている。
スポンジで洗ってお水で汚れを流していく。
綺麗に洗ったら、布で水気を拭いて元の位置に戻していく。
簡単な作業だけどボクの仕事。そのうちに色々な仕事を任せられるといいな。
キールさんがレジに立っていて、お客さんと会話をしていた。
「このクッキーはクルミが入っていて、美味しいです。そんなに甘くないので、男性にも好評ですからプレゼントに良いと思いますよ」
元 騎士さんだったけれど話し方は穏やか、説明上手でお客さんに人気だ。ボクも見習いたい。
明るく元気に接客するレッドさんと、テキパキとクールに接客しているブルーさん。双子さんでも個性が違う。お客さんに好かれている。
ここでボクは、何ができるのか。まだ働き始めたばかりだけど頑張りたい。みんなの役に立ちたい。
「今度は二番テーブルを片付けてくれ、ムウ」
「はい」
慣れてきたら自分で、タイミング良く片付けられるようになったら良いな。
「ムウ君。テーブル布巾、忘れてるよ」
「あ、すみません」
向かおうとしたとき声をかけられて、テーブル布巾を渡された。
「ん?」
あれ? ボクは今、誰にテーブル布巾を受け取った? 振り向くと誰も居なかった。
隣にはファルさん。
ファルさんはオーダーされたコーヒーを淹れていた。両手は塞がっている。
……え、どういうこと?
ボクは双子の二人に怖くなって話した。
「ここって……。お化けとか出ないですよね?」
双子さんはポカンとしてボクに返事をした。
「へ? なに? お化けなんていないよ」
クールに答えたのはブルーさん。
「真昼間から、お化けなんて出るわけないじゃん!」
少し笑いながら言ったのはレッドさん。
ボクだってそう思うけど。
「ねえ、レッド」
ブルーさんがレッドさんに近づき、耳に口を近づけてヒソヒソと話してる。
「ああ。なるほど」
なにか納得したようだけど、何だろう。
「あの……、」
ボクが心当たりあるなら教えて欲しい……と聞こうとしたら、
「そのうち分かるよ」と言われてしまった。
仕方が無い。今は仕事中だ。双子さんは、お客さんに呼ばれて行ってしまった。
お化けではないのを知れてよかった。
ボクは頼まれていた、テーブルの片付けにいった。
「おーい、ムウ。休憩に入れ」
「はーい」
ファルさんに呼ばれて奥の休憩室に行く。お客さんがたくさん来てくれてちょっと忙しかった。お昼を過ぎた頃、お客さんが減ったのでお昼休憩になった。
「今日はスパゲティだそうだ」
「はい。お先にいただきます」
今日のまかないはスパゲティ。ファルさんに教えてもらった。
ん? 今日ファルさんはずっとお店に居たよね?
誰が、まかないを作ったのかな。
休憩室の扉を、入る前にトントンと叩いてから開く。着替え中の人もいるからいきなり扉を開けない。
返事がないので誰もいないみたいだから、扉を開けて休憩室の中に入る。
「あれ? スパゲティがある」
熱々、湯気が立っているので出来立てだ。コップには水が入れてあって、フォークとスプーンも揃えて置いてある。
休憩室の席は、ほぼ決まっている。皆で反省会をするときは決まった席だ。
ボクの席に置いてあるということは、食べていいよね? 他に置いてないし、休憩はボクだけ。
「……いただきます!」
両手を合わせて祈る。
フォークでクルクルとパスタを一口大に巻いて、パクっと口の中に入れる。
「わ……! 美味しい」
ナポリタンスパゲティ。太めのパスタにトマトソースが絡まっていて、とても美味しい。
このトマトソースは手作りだろうか? 酸味が押さえられていて、ボクの好きな味だ。
……なんとなく、ファルさんの作ったものと違う気がする。ファルさんの料理はおしゃれで、お店で出すプロの料理。
このスパゲティは、親しみやすくて家庭の味だ。もちろんお店で出しても皆が美味しいと思うだろう。
ファルさんが作った料理はお酒に合いそう。この料理は毎日食べたい味だ。
別にファルさんの作った料理を、けなしているわけじゃない。
美味しくてすぐに食べ終わってしまった。休憩時間も終わり、部屋から出て声をかけた。
「ご馳走さまです。スパゲティナポリタン、とても美味しかったです!」
ボクは誰に言うわけじゃなく、厨房側にいる人達にお礼を言った。
「気に入ってくれて良かった。夜ご飯はチャーハンだよ」
どこからかボクに、話しかけられた。
「え、チャーハン? 大好きです!」
思わずボクは返事をした。
横を見ると深く帽子を被り、マスクをした人が立っていた。
「わぁ!」
驚いて声を出してしまった。
「あーあ。会っちゃったね」とブルーさん。
「まあ、そうだろ」
ニヤニヤ笑って言ったレッドさん。
「オレはネズミの獣人のジミー。よろしく」
ほぼ帽子とマスクで顔が見えなかった。
「よ、よろしくお願いします」
朝から声をかけてくれていたのは、素早い人見知りのネズミの獣人さんだったらしい。
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