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6、皆に助けられて
しおりを挟む「泣いてしまって……。心配させてしまってごめんなさいね」
泣き止んで落ち着いたお姉さんが、お店から出るときにボクに声をかけてくれた。でもスッキリした表情をしていたので、大丈夫かなと思った。
「また、来ていいかしら? 今度は泣かないから」
お姉さんが、ちょっと恥ずかしそうにボクに言ってくれた。
「ぜひ! また来てね? お姉さん!」
嬉しくなってニコニコ笑って言うとお姉さんも嬉しそうに笑った。
「またね、ムウ君!」
「はい! またいらしてくださいね!」
お姉さんは何度も振り返って手を振ってくれて帰って行った。
良かった……。
ボクの心臓はバクバク動いていて、壊れてしまうのではないかと思っていた。水をかけてしまった時はどうしようと思ったけれど、ファルさんやキースさんとルカさんが助けに来てくれた。双子さんは心配そうに見守ってくれてた。
お姉さんは弟さんの事を思い出して泣いた。優しいお姉さんは、水をかけた事は怒らなかったけれど、仕事としてお客さんに水をかけたことは反省しなくちゃいけない。
ボクはまず、キースさんとファルさんとルカさんに謝って、双子さんにも頭を下げた。
「お騒がせして、すみませんでした」
そしてお店にいたお客さんにも頭を下げた。せっかくこのお店でゆっくりしていたのに申し訳ないです……。そんな気持ちで頭を下げていた。
「大丈夫よ、ムウ君」
「え?」
お客さんからそんな言葉が聞こえてきた。
「いつもムウ君は、頑張ってるわよ」
「そうだ。働き者だ」
女性のお客さんや男性のお客さんも、ボクに言ってくれてる。
「頑張れよ」
「今度は気を付けてね」
そんな優しい言葉が返って来た。
ボクはなんだか嬉しくなって、言葉がうまく出てこなかった。
「あり……がとう、御座います」
涙が滲んできたけれど、泣かないと決めてるのでグッと我慢した。
ポン! と肩を叩かれた。
「良かったな」
ファルさんが側に立って言った。その横にいたキールさんが、頷いていた。
「皆。ムウ君を見てないようで、見ているのですから安心して下さいね」
キールさんがそう話した。そうなんだ……。
ボクはなんだか、頑張ろうと思った。
「ところで、ムウ」
ファルさんがボクに話しかけてきた。
「はい、なんでしょう?」
ファルさんが、複雑そうな表情で言った。
「……頭とか撫でさせたけど、大丈夫か?」
何のことかボクは首を傾げた。ファルさんが天井を見上げている。
「お前のこと、撫でたがっている者がたくさんいるけど、いいのか? ってこと」
え? え? どういうこと? ボクは分からなくて焦った。ファルさんがボクを見て呆れた顔をして話した。
「あのお姉さん、きっと皆にムウを撫でたことを広めるぞ? 大勢の人が、ムウを撫でに来ないと良いが……」
ファルさんがボクを心配して? なのか、そう言った。
「ええっ! まさか。そんなことは……」
でも。……心当たりがある。
ボクの毛並みはとても良いらしくて、一度撫でられるとなかなか離してもらえなくなる。でもそんなまさか。
「まあ、そんなことになったら考えましょう」
キースさんがそう話してくれた。ファルさんが頷いた。
「すみませーん。注文お願いします」
三人でレジの所で話し合いをしていたら、お客さんから声をかけられた。
「はい! お待ちください」
ファルさんが対応してくれた。双子さんはそれぞれ、お客さんと接客中だった。
「とりあえずムウ君は、仕事に戻ろうか」
「はい」
キールさんに言われて仕事に戻った。
店長のお菓子はどれも美味しいけれど、今日は特製シュークリームがガラスケースに並んでいる。
騎士団の団長様で忙しいはずなのに、手抜きせず美味しいお菓子をお店に届けている。
ボクが知っているシュークリームよりも大きくて、皮が硬めで食べ応えがあるタイプだ。中身のカスタードクリームはトロリとしていて、少し入っている甘さ控えめな生クリームと合わさってとても美味しい!
お店に並べる前に試食として食べさせてもらったけど、ひいき目なしで本当に美味しかった。
シュークリームは作るのに難しいと聞いたことがある。
お店に並べるほど作れるという事はアラン様の腕前は、すごい ということだ。
その他にイチゴのミルフィーユや、果物のタルト。バナナチョコのエクレアなど、ガラスケースにキラキラと(ボクにはキラキラして見えてる)並んでいる。
「ムウ、イチゴのミルフィーユと紅茶を一番テーブルに運んでくれ」
ボクがガラスケースに見とれていたら、ファルさんに仕事を頼まれた。
「はい。今度から気を付けます」
ボクは慎重にトレーを持って運んだ。今度はドジをしないように気を付ける。
「お待たせしました。イチゴのミルフィーユと、紅茶になります。ごゆっくりどうぞ」
お客さんの顔を見て言い、にっこりと微笑む。
「ありがとう」
お客さんも微笑んでくれる。よし、大丈夫。
「わあ。美味しそう……」
嬉しいお客さんの声が聞こえた。
その日はドジをしてしまったけれど、なんとか皆の助けで乗り越えられた。
「お疲れ――! ムウ、よく頑張った」
ファルさんが頭をポンポンと撫でてくれた。中庭を通りながらボクとファルさん、キースさんと家へ帰っていた。
「ですね。あともきちんとお仕事されてましたし。落ち込んでやる気をなくして適当な仕事をする人もいたりしますから、ムウ君は偉いですよ」
キースさんがボクを褒めてくれた。嬉しかった。
「お帰り。お疲れ様。ご飯できてる」
家に帰ると人見知りのネズミの獣人ジミーさんが、ご飯を作って待っててくれた。
「おう! ムウがドジをして落ち込んでるかもしれないからって、ご飯を作って待っててくれたのか? ジミー!」
ファルさんがジミーさんに言った。
ジミーさんはファルさんの言葉を聞いて、しっぽをピン! と立てた。
「ち、違うし!」
ジミーさんは真っ赤になって顔をそむけた。
ジミーさんも優しい……。
「ありがとう御座います! ジミーさん」
ボクはジミーさんにお礼を言った。
照れてしばらく目を合わせてもらえなかったけれど、食事はみんなで賑やかに食べて美味しかった。
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