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人間観察が趣味のお姉さん
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「ここで何してるんですか?」
「人間観察」
それは田中奏と理紗が初めて言葉を交わした日の会話の一つだった。二人はこの日初めて話したのだが、奏は理紗のことを以前から知っていた。だから、彼にとってはやっと話せたという嬉しさを感じていた。
奏が彼女を見かけ始めたのはその日から二ヶ月くらい前だった。
通学時に通る駅前の広場で綺麗な人が目に入った。背中にかかるくらいの白髪、それと対称の色である黒のパーカーを羽織り、紺の短パンに黒タイツの女性だった。白髪と赤い瞳、中に着ているTシャツが変なこと以外は普通で、奏は彼女に見入ってしまった。
そしてあんなに目立つ白髪でありながら、自分以外誰も彼女を見ていないことに気付く。気付いたが、ちょうどバスが来たので奏は足早にバスに乗った。
放課後、バスから降りた奏は、朝見たのと同じ場所に彼女がいることに驚いた。彼女はぼんやりとした目で道行く人々を見ている。それでも、誰一人として彼女に目を向ける人はいなかった。
奏は話しかける勇気もなく、理由もなく帰路についた。
その日から、彼女は毎日居た。と言うか、ずっとあの場所にいた。座り込んで、ただ道行く人々を見ている。
話しかけるきっかけは突然現れた。
バスから降りて鞄の中を漁り、探し物をしていた時、プリントが鞄から出て彼女の方へ飛んで行った。
奏はプリントを追いかけて、彼女がプリントに触れたのを見た。
ぱっと目が合った。そのままじっと見つめあって、彼女が驚いたように口を開いた。
「君は、私が見えてるんだ」
「え?」
「私、幽霊だから」
「ええ!」
びっくりして声を上げると、周りの人から変な目で見られた。奏は顔を赤くして、彼女の隣に座った。
「君は私の事気持ち悪いと思わないの?白髪だし、目赤いし」
「え?思いませんよ」
そっかあ、と彼女はくすくすと笑った。それが初めての会話だった。
「ここで何してるんですか?」
「人間観察」
ここに来てやっも、最初と繋がった。それから、二人はよく話すようになり、彼女が死んだ理由も知った。
原因は義弟に押されたことによる事故。彼女は母親が亡くなってから、母親の妹に預かられそこでまいにち暴力を受けていた。先天性アルビノ、それが一番の原因だった。
学校でも悪口を言われ、家では暴力。そんな日々に苦しさを感じながらも、生きていた。そんな時に義弟が生まれた。義弟は両親から可愛がられ、彼女は相変わらず暴力を受けていた。
そして何年か経ち、義弟と彼女がおつかいに行った帰りに、信号待ちをしていた。その時に後ろから押され、彼女はトラックにはねられて亡くなった。
それが地縛霊になった顛末だった。
「まあ、なんで押されたかはだいたい予想つくよ。私の子と気持ち悪いって思ったんだろうね」
静かに笑みを浮かべながら彼女は述べた。初めて会った日、彼女は理紗と名乗った。
「理紗さんは、辛くないんですか?」
「死んでしまえば、だよ。恨み、と言うか心残りはあるから義弟を探してるけど、辛くはないよ」
そう言った彼女は、言葉に反して悲しそうだった。
容姿を見るに、高校生くらいで亡くなったのだろう。
奏は悲しそうな彼女の頭を黙って撫でた。
「君は優しいね」
ふっと笑って理紗は言った。
「優しくはないですよ。ただ、綺麗な髪を撫でたくなったんです」
おかしい人、そう言って彼女はあはは、と声を出して笑った。
他愛もない話をしながら、日々は過ぎていった。理紗の言った特徴の義弟を二人で探しながら。
だけど、探しながら奏は探して何をする気か不安が募った。
一度彼女に聞いたことはあるが、真相を確かめたいだけと返されるだけだった。
だけど、殺された人が殺した人に対して殺意も持たず話をするなんて、よっぽどの聖人でなきゃ無理な気がしていた。
そんな奏の不安をよそに、その日は突然現れた。
「あ……」
いつものように会話をしていた途中で彼女が何かを見つけた。すくっと立ち上がって、数メートル先の人物に向かって歩いていく。
「理紗さん?」
彼女は何も答えない。奏は嫌な予感がして走った。
理紗はその人物に向かってナイフを刺そうとした。しかし、無理だった。
理紗が前を見ると奏が間に立って、腹部にはナイフが刺さっていた。血が滲んでいくのが分かる。
「わ、わああっ」
理紗が刺そうとした人物、理紗の義弟は奏の友人だった。
「なんで、君が」
理紗が驚いて、ナイフを抜く。どしゃっと血が溢れる。そして奏は倒れる。
「こいつわ俺の友達なんですよ。……それに、あなたが義弟さんを刺しても、復讐しても誰も報われないから。理紗さんは救われないですよ」
「奏君……」
ぽろぽろと涙を流してしゃがんだ理紗は、周りに見えない為何も出来なかった。救急車を呼んだのも付き添って行ったのも彼の友人、もとい理紗の義弟だった。
一ヶ月後、奏は再び理紗のもとを訪れた。
「奏君……」
「お久しぶりです、理紗さん」
あの後、刺した人物のナイフは見つかったが、犯人が特定できないまま時は過ぎた。
奏は友人に事情を話すと、彼は真っ青な顔をして、真相を話してくれた。
「彼、暴力を受ける理紗さんに耐えきれなかったそうですよ。可哀想で、一人死にたいって呟いてたのも聞いてたみたいで、それで押したとか……。でも、後悔したらしいです。たった一人の大事な義姉を亡くしてしまった、と」
それを理紗にも話すと、彼女は涙を流しながら「ごめんね」と繰り返した。
落ち着いた頃、奏に言った。
「ごめんね、奏君。ほんとにごめん」
「そんなに謝らないでくださいよ。俺これから、あなたとずっと一緒にいたいと思ってるのに、気まずくなります」
そう言って奏が笑うと、彼女も泣きながら笑顔を作った。
二人はそれからずっと一緒にいた。その姿はほとんどの人には見えなかった。
「人間観察」
それは田中奏と理紗が初めて言葉を交わした日の会話の一つだった。二人はこの日初めて話したのだが、奏は理紗のことを以前から知っていた。だから、彼にとってはやっと話せたという嬉しさを感じていた。
奏が彼女を見かけ始めたのはその日から二ヶ月くらい前だった。
通学時に通る駅前の広場で綺麗な人が目に入った。背中にかかるくらいの白髪、それと対称の色である黒のパーカーを羽織り、紺の短パンに黒タイツの女性だった。白髪と赤い瞳、中に着ているTシャツが変なこと以外は普通で、奏は彼女に見入ってしまった。
そしてあんなに目立つ白髪でありながら、自分以外誰も彼女を見ていないことに気付く。気付いたが、ちょうどバスが来たので奏は足早にバスに乗った。
放課後、バスから降りた奏は、朝見たのと同じ場所に彼女がいることに驚いた。彼女はぼんやりとした目で道行く人々を見ている。それでも、誰一人として彼女に目を向ける人はいなかった。
奏は話しかける勇気もなく、理由もなく帰路についた。
その日から、彼女は毎日居た。と言うか、ずっとあの場所にいた。座り込んで、ただ道行く人々を見ている。
話しかけるきっかけは突然現れた。
バスから降りて鞄の中を漁り、探し物をしていた時、プリントが鞄から出て彼女の方へ飛んで行った。
奏はプリントを追いかけて、彼女がプリントに触れたのを見た。
ぱっと目が合った。そのままじっと見つめあって、彼女が驚いたように口を開いた。
「君は、私が見えてるんだ」
「え?」
「私、幽霊だから」
「ええ!」
びっくりして声を上げると、周りの人から変な目で見られた。奏は顔を赤くして、彼女の隣に座った。
「君は私の事気持ち悪いと思わないの?白髪だし、目赤いし」
「え?思いませんよ」
そっかあ、と彼女はくすくすと笑った。それが初めての会話だった。
「ここで何してるんですか?」
「人間観察」
ここに来てやっも、最初と繋がった。それから、二人はよく話すようになり、彼女が死んだ理由も知った。
原因は義弟に押されたことによる事故。彼女は母親が亡くなってから、母親の妹に預かられそこでまいにち暴力を受けていた。先天性アルビノ、それが一番の原因だった。
学校でも悪口を言われ、家では暴力。そんな日々に苦しさを感じながらも、生きていた。そんな時に義弟が生まれた。義弟は両親から可愛がられ、彼女は相変わらず暴力を受けていた。
そして何年か経ち、義弟と彼女がおつかいに行った帰りに、信号待ちをしていた。その時に後ろから押され、彼女はトラックにはねられて亡くなった。
それが地縛霊になった顛末だった。
「まあ、なんで押されたかはだいたい予想つくよ。私の子と気持ち悪いって思ったんだろうね」
静かに笑みを浮かべながら彼女は述べた。初めて会った日、彼女は理紗と名乗った。
「理紗さんは、辛くないんですか?」
「死んでしまえば、だよ。恨み、と言うか心残りはあるから義弟を探してるけど、辛くはないよ」
そう言った彼女は、言葉に反して悲しそうだった。
容姿を見るに、高校生くらいで亡くなったのだろう。
奏は悲しそうな彼女の頭を黙って撫でた。
「君は優しいね」
ふっと笑って理紗は言った。
「優しくはないですよ。ただ、綺麗な髪を撫でたくなったんです」
おかしい人、そう言って彼女はあはは、と声を出して笑った。
他愛もない話をしながら、日々は過ぎていった。理紗の言った特徴の義弟を二人で探しながら。
だけど、探しながら奏は探して何をする気か不安が募った。
一度彼女に聞いたことはあるが、真相を確かめたいだけと返されるだけだった。
だけど、殺された人が殺した人に対して殺意も持たず話をするなんて、よっぽどの聖人でなきゃ無理な気がしていた。
そんな奏の不安をよそに、その日は突然現れた。
「あ……」
いつものように会話をしていた途中で彼女が何かを見つけた。すくっと立ち上がって、数メートル先の人物に向かって歩いていく。
「理紗さん?」
彼女は何も答えない。奏は嫌な予感がして走った。
理紗はその人物に向かってナイフを刺そうとした。しかし、無理だった。
理紗が前を見ると奏が間に立って、腹部にはナイフが刺さっていた。血が滲んでいくのが分かる。
「わ、わああっ」
理紗が刺そうとした人物、理紗の義弟は奏の友人だった。
「なんで、君が」
理紗が驚いて、ナイフを抜く。どしゃっと血が溢れる。そして奏は倒れる。
「こいつわ俺の友達なんですよ。……それに、あなたが義弟さんを刺しても、復讐しても誰も報われないから。理紗さんは救われないですよ」
「奏君……」
ぽろぽろと涙を流してしゃがんだ理紗は、周りに見えない為何も出来なかった。救急車を呼んだのも付き添って行ったのも彼の友人、もとい理紗の義弟だった。
一ヶ月後、奏は再び理紗のもとを訪れた。
「奏君……」
「お久しぶりです、理紗さん」
あの後、刺した人物のナイフは見つかったが、犯人が特定できないまま時は過ぎた。
奏は友人に事情を話すと、彼は真っ青な顔をして、真相を話してくれた。
「彼、暴力を受ける理紗さんに耐えきれなかったそうですよ。可哀想で、一人死にたいって呟いてたのも聞いてたみたいで、それで押したとか……。でも、後悔したらしいです。たった一人の大事な義姉を亡くしてしまった、と」
それを理紗にも話すと、彼女は涙を流しながら「ごめんね」と繰り返した。
落ち着いた頃、奏に言った。
「ごめんね、奏君。ほんとにごめん」
「そんなに謝らないでくださいよ。俺これから、あなたとずっと一緒にいたいと思ってるのに、気まずくなります」
そう言って奏が笑うと、彼女も泣きながら笑顔を作った。
二人はそれからずっと一緒にいた。その姿はほとんどの人には見えなかった。
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