【完結】災厄の少女はやがて死に戻りの魔女となる

宵乃凪

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第三幕

ep.23 二人の世界

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 見渡すかぎり、空と水だけがあった。遥か水平線まで、澄んだ青が果てしなく広がっている。

 頭上には、雲はおろか生き物の一つさえも見当たらない。何にも阻まれず、ただ抜けるような蒼穹が続いていた。

 柔らかな風が、水面に小さな波を描いては、細かく砕いていく。全方を囲む水平線は、少しも途切れることがない。

 穏やかな波音だけが響く静かな世界に、少しの前触れもなく、その光は現れた。

 空に赤い点を落としたような光は、次第に強く大きくなる。そしてそこから滲み出た人影は、素直に重力に従って落下して、四方に派手な水飛沫を散らした。



 やがて水面から、黒い髪が現れる。次いで、男の腕に引き上げられるようにして、白い頭が水面を割った。

 女の意識はなかったが、着水の衝撃で気をやっただけだと男は判断する。さして水を飲んでないことを確認し、自らに寄り掛からせるようにして、大小二つの身体が水面に浮かんだ。

 男が嘆息する。
 ここが海であるとすれば、男の知る限り、かつて住んでいた国とその周囲にそのようなものはなかった筈だ。或いは汽水の湖か何かかもしれないが、どちらにしても、さっぱり見当違いの場所に落とされたか、地形が変わるほどの長い年月が経ったか、最悪のところ全く見知らぬ世界である可能性すらある。

 やってくれたな、と青空に向かって呟くと、そこから人を小馬鹿にしたような笑い声が返った気がした。

 
 ふと、胸の上で細い身体が身じろぐ。僅かに開いた瞼の奥から、赤い瞳がのぞき、やがて訝しげに細められた。

 まずは陸地があることを祈れと、男がそれだけを告げると、女はため息を吐いてから渋々頷く。

 半分乗り上げていた硬い身体から、ごろりと転がるようにして、女が水中へと身を落とした。すぐに浮かんできた身体が、白い髪を広げながら、水面に仰向けに浮かぶ。


 隣に同じように浮かぶ男に、ぴったりと寄り添うようにして、二つの身体はただ静かに、透明な青の世界を揺蕩った。
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