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二章
ep.8 抗魔の翡翠
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「セレイア姉ー!」
聞き慣れた少し高い声に、セレイアが振り返る。
棚場の方から、いくつかの小さな人影がこちらへと泳いで来ていた。その内の一人とぱちりと目が合う。セレイアを呼び止めた少年は、満面の笑みを浮かべた。
「なあ、見てて!」
そう言って小さな身体がぐんと水を切って上昇する。頭上を泳いでいた小魚の群れを、まるで帯で縛るようにぐるりと一周して、人魚の少年はセレイアの目の前へと降りてきた。
セレイアがくすりと笑って子供の頭を撫でてから、視線を海面の方へと向ける。急な乱入者に隊列を邪魔された魚たちは不満げに胸びれを揺らして泳いで行った。
つん、とセレイアの腕が軽く突かれる。首を下にやると、少年より一回り身体の大きな少女が口を尖らせていた。
「もー、セレイア姫様からも言ってやってください。最近この子たち、歌の練習もしないで、魚たちにちょっかいばっかり」
「だってあいつら、セレイア姉が歌い出すといっつも寄って来てさ」
ひれの先をくすぐられると鬱陶しいのだと、少年が泳ぎ去る魚群に向けて舌を突き出した。
まあまあ、と少年を宥めてから、セレイアが少し残念そうに眉根を下げてみせる。
「泳ぎを見せてくれたのは嬉しいわ。でも、ついこの間まで歌も頑張ってたと思うけれど、練習はやめちゃったの?」
少年がぷいと目を逸らした。代わりに別の子供が、がっかりしたような顔でため息混じりに答える。
「練習したって、次の儀式はまだまだ先だもん。そこで王様に認められないと、兵隊にはなれないって、大人たちが言ってた」
それもそうだけど、とリーダー格の少女は少し難しい表情で仲間たちの顔を見渡した。
セレイアは苦笑した。数十年に一度の歌の儀式は、ついこの間行われたばかりだ。
衛兵を希望する者は、皆あの場で自らの力量を示し、王自らが城に招くというのが通例となっている。
「あなたたちは、城の衛兵になりたいの?」
もちろん、という複数の返事が返った。
ぎゅっとセレイアの手が握られる。先程自分を呼び止めた少年が、両手に力を込めてこちらを見上げていた。
「そしたら、王様になったセレイア姉を守ってやれるだろ? セレイア姉、いっつもふらふらしてるから」
「ふふ、ありがとう。でも王位のことはお父様が決めることだって、この間も言ったでしょう?」
少なくともしばらくはその予定はないわ。そうセレイアが肩を竦めると、セレイア姉ちゃんはジユウジンだから、と誰かの声が返った。
衛兵になれたらどうするか、子供たちが楽しそうに話している。衣装への憧れや、宮殿暮らしの夢など、ひと通り盛り上がった後で、子供たちはセレイアを振り返った。
「姫様、あたしたちが宮殿に入れるようになったら、いつでも一緒に遊べるね」
「ああ、それでロウゼキモノの人間たちをたくさんやっつけてやるんだ」
少年が自慢げに胸を張る。片言のような発言は、恐らくは周囲の大人たちの言い分を真似ているのだろうとセレイアは思った。
周りを軽く見渡し、大人たちがいないことを確認してから、セレイアが口元に手をやって内緒話のように囁く。
「皆は、人間だとか、他の種族が、悪いヒトばっかりだって思う?」
「分かんない。見たことないもん」
「でも、翡翠貝が増えてるのは人間のせいなんでしょ?」
女の子の問いに、そうだそうだ、と声が上がった。
どうやら彼らが遊び場にしている別の棚場が、件の緑の貝に侵食され、そろそろ立ち入りが禁じられそうなのだという話だった。
「大人たちが言ってた。人間が海にたくさん入って、ハイスイオセン? のせいだって」
「廃水による生態系汚染ね。ママがそう言ってた」
「お前んとこの母ちゃん、宮殿で勉強してるんだもんな」
「研究よ、王宮研究員。あたし、衛兵がダメなら、ママと同じ研究員になって宮殿に住むの」
そう言って少女が胸を張る。
セレイアは少し困ったように眉根を下げた。
確かに、人間による海への侵食や排水の増加が、リュアの住処を汚染する原因なのではないかとそう囁かれている。
「でもまだそうと決まったわけじゃないわ。……それより、折角集まってるんだから、また一緒に歌ってみない? わたし、皆の歌が聞きたいわ」
セレイアがそう言って両手を合わせる。子供たちは頷き、互いに少しずつ距離をとった。
まだ水中に泡を立たせる程度の拙い歌声が、海底の遊び場に響き渡った。
◇
夜の入り江で、セレイアが岩に上体を乗り上げてカイルラスと言葉を交わす。
あの翼人族の葬儀以来、ほんの少しだけ彼の態度が柔らかくなったようにセレイアは感じていた。
この日はカイルラスが部下を引き連れ訓練をしていたということで、遙か上空、雲の向こうの紺碧の世界の話を聞く。カイルラスの話が終わったところで、セレイアは、はああ、と感嘆したような息を吐いた。
「真っ青で影一つない世界。深海と比べてどっちが静かかしら」
「どうだろうな。そもそも種族によって、拾う音の帯域が異なる。海底でお前が歌ったとて、俺の耳がそれを捉えることはないだろう」
「そうかしら? 今度、宮殿から目一杯歌ってみるっていうのは、どう?」
少し挑発的に笑うセレイアに、やめておけ、とカイルラスが答える。
「それでなくとも、宮中では変わり者扱いを受けているのだろう。件の妹に心労を掛けたくないのでは無かったのか?」
「ええ、だから残念だけど、やめておくわ。今からここで歌ってもいい?」
カイルラスは答えず、乾いた岩場に腰掛けた。
それを肯定の意だと判断し、セレイアが瞼を下ろして、そっと歌声を吐き出す。
夜風に静かな音色が流れる。魔力を込めることもなく、高く透き通った声がただ穏やかな音階を奏でた。
ふと、視線を感じてセレイアが目を開ける。月明かりを背にしたカイルラスが、無言でじっとこちらを見つめていた。
その表情はいつもと変わらず、歌を好ましく思っているのかどうかは分からない。しかし、止められないということは、少なくとも嫌がられてはいないのだろう。セレイアはそう判断し、旋律を流しながら僅かに目を細めた。
しばらくそのまま続けていると、カリカリという固い音が耳に届いた。指先をくすぐる感触にセレイアは視線を落とす。岩についた片手の先で、巻貝がじっとこちらを見つめていた。
セレイアが口元に人差し指を立てると、巻貝は呆れたような顔で海へと転がり落ちていった。
「最近子供たちが、歌の練習を休みたがってるみたいなの」
岩に腰掛けたセレイアが、パシャパシャと水を蹴りながら呟いた。
ばさり、と空中から羽音が返る。
「魔力を操るリュアにとって、それは剣や翼と同じものだと思ったが」
「そうなの。衛兵になんてなれなくていい。でも、自分の身を守る術は身に付けておいて欲しいの。いつ争いに巻き込まれるか分からないもの」
尾ひれが大きく水を蹴り上げ、水滴が弧を描いた。
意外だな、とカイルラスは静かに答えた。
「お前は平和主義の夢想家でありながら、時たまそのようなものの考え方をする。戦など起こらない、とは言わないのか?」
「そうあって欲しいけれど……お父様は、きっとそう思っていないから」
セレイアがカイルラスを見上げるように振り返った。
月明かりを反射して、薄紫色の瞳が光る。
じっとしばらく見つめ合った後で、セレイアがふっと微笑んだ。
「あなたの瞳って、とても綺麗な色。翡翠貝の色によく似ているわ」
「……『翡翠貝』というのは」
「えっと……ほら、あれ」
きょろきょろと周囲を見渡したセレイアは、海中の浅いところにある緑色を指差した。
薄く平らな貝殻は、見た目以上に鋭く、宮中に上がる怪我の報告は年々増加の一途を辿っている。
「人魚の身体は魔力に守られてるから。普通の刃物なんかじゃ簡単に傷付かないんだけど、でもあれだけは別なの。何か抗魔力の力を帯びてるんじゃないかって、爺やは――」
滔々と説明していたセレイアは、目の前に突き出された手のひらに一度言葉を飲み込む。
どうしたのか、と首を傾げると、カイルラスはため息を漏らした。
「……あの時、俺に血を与えるために、それを使ったか」
「え? ええ、そう。近くにあって良かったわ。メルヴィナちゃんなら、そんなことしなくても上手く治癒できたんだろうけれど、わたし、魔力を扱うのが下手だから」
セレイアが苦笑いを浮かべて、カイルラスに手のひらを見せる。
そこに残る薄い傷跡に、カイルラスは一層強く眉を寄せた。
「お前は……その軽々しく口にした情報が、お前のみならず、種族を危険に晒すものと理解しているか」
「えっ?」
「翡翠貝の力を用いれば、頑強な人魚の身を容易に傷付けられる。この事実を、俺が一族で共有すればどうなる。帝国へと伝えれば、次の戦争では皆がそれを武器として用いるだろう」
カイルラスが淡々と告げる。その声は先ほどまでとは打って変わり、冷たく厳しい。
セレイアはハッと何かに気がついたような表情を浮かべて、やがて肩を落としてカイルラスの顔をおずおずと見上げた。
「……ごめんなさい。確かにわたし、余りにも軽率だったわ。その……皆には黙っててくれない? わたしのせいでルヴィちゃんたちが怪我をするのは、悲しいわ」
「その頼みを俺が素直に聞くと思うか」
「ええ。だってあなたは、優しいもの」
そう言ってセレイアが目を細める。
カイルラスは数秒黙ってから、二度目のため息を吐いた。
「……時たまに、お前を助けたことを後悔することがある」
「たまにってことは、普段は助けて良かったって思ってくれてるってこと? ふふ、わたし喜んでもいいかしら?」
すっかり調子を取り戻したセレイアに、カイルラスは渋い顔をすると黙って空を見上げた。
更に数言問答を交わし、翡翠貝の件はヴァレアや人間には口外しないこととなった。だが、とカイルラスが再度釘を刺す。
「既に事情を把握している者がいないとも限らん。好奇心旺盛であることが悪だとは言わぬが、お前はもう幾許か警戒心というものを身に付けた方がいい」
「ええ、考えておくわ。それから、あのね……わたし、嬉しかったの。メルヴィナちゃんの他に、ちゃんとわたしに怒ってくれたの、あなたが初めてだったから」
「王の娘だと言っていたな」
怪訝そうな表情でカイルラスが問う。
セレイアは苦笑いを浮かべて頷くと、岩の上で少し身を捩り、宙に浮かぶ身体へと背を向けた。じっと暗い海を見つめ、ぽつりぽつりと呟く。
「わたしね、記憶が抜け落ちてるの。気が付いたら今の状況で、ルヴィちゃんのことは少しだけ覚えてるんだけど、お父様のことも、他の皆のことも、それからお母様のことも、ほとんど全部、忘れちゃってるの」
「……王妃は」
「ずっと前に、死んでいるらしいわ。わたし、お顔も、お声も何も思い出せない。そのせいで魔力も上手く使えないし、それから、何となく皆よそよそしいような気がするの。だからね、あなたとお話しができて、わたし本当に嬉しいの」
いつもはつい子供たちとばかり話してしまうのだ、とセレイアは困ったように笑った。
カイルラスは少しの間何かを考えていたかと思うと、無言のままセレイアに向かって手を突き出した。
セレイアは振り返り、どうしたのか、と首を傾げる。
手を出して欲しい、とカイルラスが端的に答え、差し出された白い手は、大きな手のひらに包み込まれた。
「なに?」
「お前には翼がない。ヴァレアの契りは出来ぬ故、人間式ですまないが……これも友愛を示す動作だと聞く。俺も、種族の異なるお前との交流は、翼人族の未来の為、さほど悪いものではないと思っている」
「……えっと、つまり?」
セレイアが不思議そうに目を瞬かせる。
カイルラスは、今宵三度目になるため息を吐いてから、握った手を少し乱雑に軽く上下させた。
「お前と友人になれたことは幸運だった、と言っている」
その返答に、セレイアはパッと顔を輝かせた。
濡れた手がカイルラスの手の甲を握り返し、セレイアの両手がぶんぶんと大きく振られる。
「ええ、わたしも嬉しいわ! あのね、空の話もいっぱい聞かせてね。あなたのことがもっと知りたいし、わたしのこともたくさん知って欲しいの。そうだ、今度一緒に人魚の聖地に――」
「それは、種族の長として適切な行動か?」
再びカイルラスの返答に厳しさが混じる。
セレイアは眉根を下げ、反省したように肩を落とした。
「……じゃない、と思う。聖地じゃなくて、違うところ、連れて行ってあげるね」
そう言ってセレイアは岩から水中へとするりと飛び込み、夜の海の上で楽しそうに笑った。
◇
カイルラスと別れ、セレイアが鼻歌混じりに海中を泳ぐ。
いつも暗いこの辺りも、僅かな月明かりできらきらと煌めいているように見えた。
次はどんな話をしようかと、彼が喜びそうな話題を考えていたセレイアの視界に、黒いものが揺れる。
「あっ……メルヴィナちゃん、こんな時間に、どうしたの?」
「ちょっと、眠れなくて……姉さんこそ、どうしたのよこんなところで。最近またこそこそと抜け出してると思ったら、どこで何をしていたの?」
「えっと、散策を……」
そう答えかけて、セレイアは首を横に振る。メルヴィナが怪訝な表情を浮かべた。
「何? もしかしてまた、何か厄介ごと?」
「ううん。メルヴィナちゃんには、隠し事したくないから。あのね、わたし、新しいお友達ができたの」
「さっき歌が聞こえたような気がしたの。やっぱり姉さんだったのね」
それで? と続きを促すメルヴィナに、セレイアは少し気まずそうに身を揺らす。
いつにも増して様子のおかしな姉に、メルヴィナは眉を顰めた。すぐに、まさか、と呟きセレイアの両腕を掴んだ。
「この間の翼人族とか言わないでしょうね?」
「カイルラス、っていうの。ヴァレアの長で翼騎士団長をしてるんだって」
「ばっ……!」
――かじゃないの、という悲鳴を、メルヴィナは何とか両手で押さえ込んだ。
身体の周りの海水が泡立つような感覚に、妹の確かな怒りを感じ取り、セレイアはごめんね、と小声で謝る。
「お父様に知られたら、殺されるわよ。その翼人族」
メルヴィナは長い沈黙の後で、それだけを絞り出すような声で告げた。
分かっている、とセレイアが口元に人差し指を立てる。
「だから、内緒にしておいてくれると嬉しいな」
「あたしがリュアにとっての危険を秘匿するように見えるの? それにあたしが告げ口しなくったって、いつか必ず誰かが気が付くわ。目敏い爺やとか」
「ええ、だから危なくなったら、彼には空に逃げてもらうわ。それから、もう二度と会わない」
「姉さんは? さすがに折檻じゃ済まないわよ」
セレイアは苦笑すると、分かってる、ともう一度繰り返した。
またしばらく黙っていたメルヴィナが、額に手をやり、長いため息を吐く。姉の奇行は今に始まったことではないが、言っても聞かないことなどとうの昔に理解していた。
「……姉さん、あたしが姉さんの味方だからって、そうやって好意を盾にするのは良くないと思うわ。その友達にも同じことやってるんじゃないでしょうね」
すぐに呆れられるわよ、とメルヴィナは続ける。セレイアは少し目を丸くしてからくすくすと笑った。
「あのね、彼って、何となくメルヴィナちゃんに似てるの」
「はあ?」
「厳しいけど、すごく優しくって、色んなことを教えてくれて、一緒にいると落ち着くわ。ほら、ルヴィちゃんと同じ」
セレイアがするりとメルヴィナの手を取る。
両手を握られた状態で、メルヴィナはやれやれと首を横に振った。
「たまに会うのは構わないけど、絶対にあたしには教えておいて。セレイア姉さんまでいなくなったら、あたし耐えられないから」
「ええ、分かったわ。……ねえ、今度ルヴィちゃんも一緒に――」
「嫌よ。あたしは真っ当な人魚族なの。人間じゃないだけマシだけど、翼人族……ヴァレアのことだって、興味ないわ」
そう言ってそっぽを向く妹に、セレイアは、残念だと苦笑した。
聞き慣れた少し高い声に、セレイアが振り返る。
棚場の方から、いくつかの小さな人影がこちらへと泳いで来ていた。その内の一人とぱちりと目が合う。セレイアを呼び止めた少年は、満面の笑みを浮かべた。
「なあ、見てて!」
そう言って小さな身体がぐんと水を切って上昇する。頭上を泳いでいた小魚の群れを、まるで帯で縛るようにぐるりと一周して、人魚の少年はセレイアの目の前へと降りてきた。
セレイアがくすりと笑って子供の頭を撫でてから、視線を海面の方へと向ける。急な乱入者に隊列を邪魔された魚たちは不満げに胸びれを揺らして泳いで行った。
つん、とセレイアの腕が軽く突かれる。首を下にやると、少年より一回り身体の大きな少女が口を尖らせていた。
「もー、セレイア姫様からも言ってやってください。最近この子たち、歌の練習もしないで、魚たちにちょっかいばっかり」
「だってあいつら、セレイア姉が歌い出すといっつも寄って来てさ」
ひれの先をくすぐられると鬱陶しいのだと、少年が泳ぎ去る魚群に向けて舌を突き出した。
まあまあ、と少年を宥めてから、セレイアが少し残念そうに眉根を下げてみせる。
「泳ぎを見せてくれたのは嬉しいわ。でも、ついこの間まで歌も頑張ってたと思うけれど、練習はやめちゃったの?」
少年がぷいと目を逸らした。代わりに別の子供が、がっかりしたような顔でため息混じりに答える。
「練習したって、次の儀式はまだまだ先だもん。そこで王様に認められないと、兵隊にはなれないって、大人たちが言ってた」
それもそうだけど、とリーダー格の少女は少し難しい表情で仲間たちの顔を見渡した。
セレイアは苦笑した。数十年に一度の歌の儀式は、ついこの間行われたばかりだ。
衛兵を希望する者は、皆あの場で自らの力量を示し、王自らが城に招くというのが通例となっている。
「あなたたちは、城の衛兵になりたいの?」
もちろん、という複数の返事が返った。
ぎゅっとセレイアの手が握られる。先程自分を呼び止めた少年が、両手に力を込めてこちらを見上げていた。
「そしたら、王様になったセレイア姉を守ってやれるだろ? セレイア姉、いっつもふらふらしてるから」
「ふふ、ありがとう。でも王位のことはお父様が決めることだって、この間も言ったでしょう?」
少なくともしばらくはその予定はないわ。そうセレイアが肩を竦めると、セレイア姉ちゃんはジユウジンだから、と誰かの声が返った。
衛兵になれたらどうするか、子供たちが楽しそうに話している。衣装への憧れや、宮殿暮らしの夢など、ひと通り盛り上がった後で、子供たちはセレイアを振り返った。
「姫様、あたしたちが宮殿に入れるようになったら、いつでも一緒に遊べるね」
「ああ、それでロウゼキモノの人間たちをたくさんやっつけてやるんだ」
少年が自慢げに胸を張る。片言のような発言は、恐らくは周囲の大人たちの言い分を真似ているのだろうとセレイアは思った。
周りを軽く見渡し、大人たちがいないことを確認してから、セレイアが口元に手をやって内緒話のように囁く。
「皆は、人間だとか、他の種族が、悪いヒトばっかりだって思う?」
「分かんない。見たことないもん」
「でも、翡翠貝が増えてるのは人間のせいなんでしょ?」
女の子の問いに、そうだそうだ、と声が上がった。
どうやら彼らが遊び場にしている別の棚場が、件の緑の貝に侵食され、そろそろ立ち入りが禁じられそうなのだという話だった。
「大人たちが言ってた。人間が海にたくさん入って、ハイスイオセン? のせいだって」
「廃水による生態系汚染ね。ママがそう言ってた」
「お前んとこの母ちゃん、宮殿で勉強してるんだもんな」
「研究よ、王宮研究員。あたし、衛兵がダメなら、ママと同じ研究員になって宮殿に住むの」
そう言って少女が胸を張る。
セレイアは少し困ったように眉根を下げた。
確かに、人間による海への侵食や排水の増加が、リュアの住処を汚染する原因なのではないかとそう囁かれている。
「でもまだそうと決まったわけじゃないわ。……それより、折角集まってるんだから、また一緒に歌ってみない? わたし、皆の歌が聞きたいわ」
セレイアがそう言って両手を合わせる。子供たちは頷き、互いに少しずつ距離をとった。
まだ水中に泡を立たせる程度の拙い歌声が、海底の遊び場に響き渡った。
◇
夜の入り江で、セレイアが岩に上体を乗り上げてカイルラスと言葉を交わす。
あの翼人族の葬儀以来、ほんの少しだけ彼の態度が柔らかくなったようにセレイアは感じていた。
この日はカイルラスが部下を引き連れ訓練をしていたということで、遙か上空、雲の向こうの紺碧の世界の話を聞く。カイルラスの話が終わったところで、セレイアは、はああ、と感嘆したような息を吐いた。
「真っ青で影一つない世界。深海と比べてどっちが静かかしら」
「どうだろうな。そもそも種族によって、拾う音の帯域が異なる。海底でお前が歌ったとて、俺の耳がそれを捉えることはないだろう」
「そうかしら? 今度、宮殿から目一杯歌ってみるっていうのは、どう?」
少し挑発的に笑うセレイアに、やめておけ、とカイルラスが答える。
「それでなくとも、宮中では変わり者扱いを受けているのだろう。件の妹に心労を掛けたくないのでは無かったのか?」
「ええ、だから残念だけど、やめておくわ。今からここで歌ってもいい?」
カイルラスは答えず、乾いた岩場に腰掛けた。
それを肯定の意だと判断し、セレイアが瞼を下ろして、そっと歌声を吐き出す。
夜風に静かな音色が流れる。魔力を込めることもなく、高く透き通った声がただ穏やかな音階を奏でた。
ふと、視線を感じてセレイアが目を開ける。月明かりを背にしたカイルラスが、無言でじっとこちらを見つめていた。
その表情はいつもと変わらず、歌を好ましく思っているのかどうかは分からない。しかし、止められないということは、少なくとも嫌がられてはいないのだろう。セレイアはそう判断し、旋律を流しながら僅かに目を細めた。
しばらくそのまま続けていると、カリカリという固い音が耳に届いた。指先をくすぐる感触にセレイアは視線を落とす。岩についた片手の先で、巻貝がじっとこちらを見つめていた。
セレイアが口元に人差し指を立てると、巻貝は呆れたような顔で海へと転がり落ちていった。
「最近子供たちが、歌の練習を休みたがってるみたいなの」
岩に腰掛けたセレイアが、パシャパシャと水を蹴りながら呟いた。
ばさり、と空中から羽音が返る。
「魔力を操るリュアにとって、それは剣や翼と同じものだと思ったが」
「そうなの。衛兵になんてなれなくていい。でも、自分の身を守る術は身に付けておいて欲しいの。いつ争いに巻き込まれるか分からないもの」
尾ひれが大きく水を蹴り上げ、水滴が弧を描いた。
意外だな、とカイルラスは静かに答えた。
「お前は平和主義の夢想家でありながら、時たまそのようなものの考え方をする。戦など起こらない、とは言わないのか?」
「そうあって欲しいけれど……お父様は、きっとそう思っていないから」
セレイアがカイルラスを見上げるように振り返った。
月明かりを反射して、薄紫色の瞳が光る。
じっとしばらく見つめ合った後で、セレイアがふっと微笑んだ。
「あなたの瞳って、とても綺麗な色。翡翠貝の色によく似ているわ」
「……『翡翠貝』というのは」
「えっと……ほら、あれ」
きょろきょろと周囲を見渡したセレイアは、海中の浅いところにある緑色を指差した。
薄く平らな貝殻は、見た目以上に鋭く、宮中に上がる怪我の報告は年々増加の一途を辿っている。
「人魚の身体は魔力に守られてるから。普通の刃物なんかじゃ簡単に傷付かないんだけど、でもあれだけは別なの。何か抗魔力の力を帯びてるんじゃないかって、爺やは――」
滔々と説明していたセレイアは、目の前に突き出された手のひらに一度言葉を飲み込む。
どうしたのか、と首を傾げると、カイルラスはため息を漏らした。
「……あの時、俺に血を与えるために、それを使ったか」
「え? ええ、そう。近くにあって良かったわ。メルヴィナちゃんなら、そんなことしなくても上手く治癒できたんだろうけれど、わたし、魔力を扱うのが下手だから」
セレイアが苦笑いを浮かべて、カイルラスに手のひらを見せる。
そこに残る薄い傷跡に、カイルラスは一層強く眉を寄せた。
「お前は……その軽々しく口にした情報が、お前のみならず、種族を危険に晒すものと理解しているか」
「えっ?」
「翡翠貝の力を用いれば、頑強な人魚の身を容易に傷付けられる。この事実を、俺が一族で共有すればどうなる。帝国へと伝えれば、次の戦争では皆がそれを武器として用いるだろう」
カイルラスが淡々と告げる。その声は先ほどまでとは打って変わり、冷たく厳しい。
セレイアはハッと何かに気がついたような表情を浮かべて、やがて肩を落としてカイルラスの顔をおずおずと見上げた。
「……ごめんなさい。確かにわたし、余りにも軽率だったわ。その……皆には黙っててくれない? わたしのせいでルヴィちゃんたちが怪我をするのは、悲しいわ」
「その頼みを俺が素直に聞くと思うか」
「ええ。だってあなたは、優しいもの」
そう言ってセレイアが目を細める。
カイルラスは数秒黙ってから、二度目のため息を吐いた。
「……時たまに、お前を助けたことを後悔することがある」
「たまにってことは、普段は助けて良かったって思ってくれてるってこと? ふふ、わたし喜んでもいいかしら?」
すっかり調子を取り戻したセレイアに、カイルラスは渋い顔をすると黙って空を見上げた。
更に数言問答を交わし、翡翠貝の件はヴァレアや人間には口外しないこととなった。だが、とカイルラスが再度釘を刺す。
「既に事情を把握している者がいないとも限らん。好奇心旺盛であることが悪だとは言わぬが、お前はもう幾許か警戒心というものを身に付けた方がいい」
「ええ、考えておくわ。それから、あのね……わたし、嬉しかったの。メルヴィナちゃんの他に、ちゃんとわたしに怒ってくれたの、あなたが初めてだったから」
「王の娘だと言っていたな」
怪訝そうな表情でカイルラスが問う。
セレイアは苦笑いを浮かべて頷くと、岩の上で少し身を捩り、宙に浮かぶ身体へと背を向けた。じっと暗い海を見つめ、ぽつりぽつりと呟く。
「わたしね、記憶が抜け落ちてるの。気が付いたら今の状況で、ルヴィちゃんのことは少しだけ覚えてるんだけど、お父様のことも、他の皆のことも、それからお母様のことも、ほとんど全部、忘れちゃってるの」
「……王妃は」
「ずっと前に、死んでいるらしいわ。わたし、お顔も、お声も何も思い出せない。そのせいで魔力も上手く使えないし、それから、何となく皆よそよそしいような気がするの。だからね、あなたとお話しができて、わたし本当に嬉しいの」
いつもはつい子供たちとばかり話してしまうのだ、とセレイアは困ったように笑った。
カイルラスは少しの間何かを考えていたかと思うと、無言のままセレイアに向かって手を突き出した。
セレイアは振り返り、どうしたのか、と首を傾げる。
手を出して欲しい、とカイルラスが端的に答え、差し出された白い手は、大きな手のひらに包み込まれた。
「なに?」
「お前には翼がない。ヴァレアの契りは出来ぬ故、人間式ですまないが……これも友愛を示す動作だと聞く。俺も、種族の異なるお前との交流は、翼人族の未来の為、さほど悪いものではないと思っている」
「……えっと、つまり?」
セレイアが不思議そうに目を瞬かせる。
カイルラスは、今宵三度目になるため息を吐いてから、握った手を少し乱雑に軽く上下させた。
「お前と友人になれたことは幸運だった、と言っている」
その返答に、セレイアはパッと顔を輝かせた。
濡れた手がカイルラスの手の甲を握り返し、セレイアの両手がぶんぶんと大きく振られる。
「ええ、わたしも嬉しいわ! あのね、空の話もいっぱい聞かせてね。あなたのことがもっと知りたいし、わたしのこともたくさん知って欲しいの。そうだ、今度一緒に人魚の聖地に――」
「それは、種族の長として適切な行動か?」
再びカイルラスの返答に厳しさが混じる。
セレイアは眉根を下げ、反省したように肩を落とした。
「……じゃない、と思う。聖地じゃなくて、違うところ、連れて行ってあげるね」
そう言ってセレイアは岩から水中へとするりと飛び込み、夜の海の上で楽しそうに笑った。
◇
カイルラスと別れ、セレイアが鼻歌混じりに海中を泳ぐ。
いつも暗いこの辺りも、僅かな月明かりできらきらと煌めいているように見えた。
次はどんな話をしようかと、彼が喜びそうな話題を考えていたセレイアの視界に、黒いものが揺れる。
「あっ……メルヴィナちゃん、こんな時間に、どうしたの?」
「ちょっと、眠れなくて……姉さんこそ、どうしたのよこんなところで。最近またこそこそと抜け出してると思ったら、どこで何をしていたの?」
「えっと、散策を……」
そう答えかけて、セレイアは首を横に振る。メルヴィナが怪訝な表情を浮かべた。
「何? もしかしてまた、何か厄介ごと?」
「ううん。メルヴィナちゃんには、隠し事したくないから。あのね、わたし、新しいお友達ができたの」
「さっき歌が聞こえたような気がしたの。やっぱり姉さんだったのね」
それで? と続きを促すメルヴィナに、セレイアは少し気まずそうに身を揺らす。
いつにも増して様子のおかしな姉に、メルヴィナは眉を顰めた。すぐに、まさか、と呟きセレイアの両腕を掴んだ。
「この間の翼人族とか言わないでしょうね?」
「カイルラス、っていうの。ヴァレアの長で翼騎士団長をしてるんだって」
「ばっ……!」
――かじゃないの、という悲鳴を、メルヴィナは何とか両手で押さえ込んだ。
身体の周りの海水が泡立つような感覚に、妹の確かな怒りを感じ取り、セレイアはごめんね、と小声で謝る。
「お父様に知られたら、殺されるわよ。その翼人族」
メルヴィナは長い沈黙の後で、それだけを絞り出すような声で告げた。
分かっている、とセレイアが口元に人差し指を立てる。
「だから、内緒にしておいてくれると嬉しいな」
「あたしがリュアにとっての危険を秘匿するように見えるの? それにあたしが告げ口しなくったって、いつか必ず誰かが気が付くわ。目敏い爺やとか」
「ええ、だから危なくなったら、彼には空に逃げてもらうわ。それから、もう二度と会わない」
「姉さんは? さすがに折檻じゃ済まないわよ」
セレイアは苦笑すると、分かってる、ともう一度繰り返した。
またしばらく黙っていたメルヴィナが、額に手をやり、長いため息を吐く。姉の奇行は今に始まったことではないが、言っても聞かないことなどとうの昔に理解していた。
「……姉さん、あたしが姉さんの味方だからって、そうやって好意を盾にするのは良くないと思うわ。その友達にも同じことやってるんじゃないでしょうね」
すぐに呆れられるわよ、とメルヴィナは続ける。セレイアは少し目を丸くしてからくすくすと笑った。
「あのね、彼って、何となくメルヴィナちゃんに似てるの」
「はあ?」
「厳しいけど、すごく優しくって、色んなことを教えてくれて、一緒にいると落ち着くわ。ほら、ルヴィちゃんと同じ」
セレイアがするりとメルヴィナの手を取る。
両手を握られた状態で、メルヴィナはやれやれと首を横に振った。
「たまに会うのは構わないけど、絶対にあたしには教えておいて。セレイア姉さんまでいなくなったら、あたし耐えられないから」
「ええ、分かったわ。……ねえ、今度ルヴィちゃんも一緒に――」
「嫌よ。あたしは真っ当な人魚族なの。人間じゃないだけマシだけど、翼人族……ヴァレアのことだって、興味ないわ」
そう言ってそっぽを向く妹に、セレイアは、残念だと苦笑した。
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