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第1章 魔剣覚醒
謎のストーカー
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「あ゛ー。眠みー、だりー、宿題やってねー!」
花冷えが寝坊の身にこたえる、月曜日の朝だった。
いつも通り、遅刻ギリギリで家を飛び出した聖ヶ丘中学2年、如月瞬はゲッソリした顔で学校に向かっていた。
母親は仕事のトラブルとかで、ここ1カ月はずっとフランスに出張中。
父親は元よりほとんど家にいない。
離れて住んでいる姉のカナタは、たまに家の片付けと、シュンの『監視』にやってくるが、今週は彼氏と旅行らしい。
つまり、今はシュンのやりたい放題。
如月家はまさに、シュンの城だった。
昨日も、せめて数学の宿題だけは終わらせようと思ったのに、その前に「10分だけ……っ」と思ってゲームに手を伸ばしたら、そこでおしまい。
人気RPGシリーズの最新作『FF6』を6時間はやりこみまくって、ベッドで気がついたら朝だったのだ。
「もーシュン君。少しはシャキッとしなよ!」
そして死んだ目で通学路を歩くシュンに、横から呆れ顔でそう言う少女がいる。
ショートレイヤーの黒髪をはずませた彼のクラスメート。
シュンの隣家に住んでいて彼の幼馴染でもある、秋尽鳴だった。
スラリとした手足。
整った顏立ちは、無表情の時は少し冷たいと思わせるくらい神秘的な雰囲気。
でも笑うと周囲にパッと花がさいたように明るくなる。
つぶらな瞳はよく見れば、まるでエメラルドのような深みのあるグリーンなのだが、別に外国人の血が入っているわけではないらしい。
なぜだか生まれた時からそうなのだという。
性格はシュンに言わせればおせっかい、というかものすごい世話焼きだった。
いつもいつも遅刻大王のシュンを見かねたメイは、ここ最近はわざわざ如月家まで、彼を迎えにきているのだ。
「それよりさ、シュン君、これ! 今日のお弁当……」
彼女がシュンに、おずおずと弁当箱を手渡した。
なんと、家にいないシュンの両親にかわって、メイは彼の昼飯まで用意しているのだ。
「うぅうぅ……」
シュンは、三段重ねのゴッツイ弁当箱をメイから受け取った。
ズッシリ。
「今日のおかずは、麻婆豆腐とブリ大根だから!」
愛くるしい笑顔でそう言うメイ。
だがシュンの顔は、ビミョーだった。
食べ盛りのシュンだったが、メイの『お弁当』は、なんだか最近色々と重いのだ。
「あ、あのさメイ。明日からさ、もう弁当はいいよ!」
なんてことだ。
シュンが、ぞんざいな感じでメイにそう言った。
「俺さ、購買のカツサンドとか、焼きそばパンの方がいいんだよね……」
メイの気持ちを全く気にもしてない、鈍感なシュンの言葉に。
「そ、そう……! じゃ、しょうがないか……」
寂しそうに俯いたメイ。ギリッ!
伏せた彼女の口元から、一瞬、歯ぎしりが漏れた。
そんな、微妙かつグダグダなテンションで通学路を歩いて行く2人。
「ところでさメイ。最近さ、どうよ?」
「どうって?」
話題を変えようと、シュンがメイに話を振った。
「例の……見えるヤツらの事……」
シュンが神妙な顔でメイにそう言う。
「うん、最近また、増えてるんだ……」
形のいい眉を寄せて、メイは不安そうに答えた。
『見えるヤツら』。
今ではもう、メイとシュンだけが共有している秘密だった。
夜の公園を漂う青白い火の玉。
九頭竜神社の境内を駆け回る二又の尾をした白いキツネ。
環水公園の水辺で子供たちに紛れて遊ぶ、何匹もの小さなカッパ。
メイには、そういった「人には見えないモノ」が見えるのだ。
その数が、最近特に増えてきているのだという。
普通の人間に話したら、到底まともに取り合ってもらえないだろうメイの話。
だが彼女の話をシュンが信じる理由は簡単だった。
子供の頃のシュンには、メイと同じモノが見えていたから。
神社の境内で、幼稚園の遠足で、夕暮れの公園で、シュンはメイと同じものを見て、そのことを今でもはっきりと覚えているからだ。
信じる理由はもう1つ。これも簡単。
メイがそんなことでシュンに嘘を言うはずがないからだ。
「まあ、増えてるって言ったって、何か悪い事することもないし、気にするなよ、メイ」
「うん、そうする、でもそれとは別に、最近何か変ってゆうか……」
「変って?」
首を傾げるメイに、シュンがそう聞き返すと、
「誰かに、尾けられてる気がするの……」
「尾けられてる? 痴漢? ストーカー?」
メイの答えに驚きの声を上げるシュン。
「うーん、そういうのとは違う気がするけど……家や、道で、誰かに見られてるっていうか、見張られてるっていうか……そんな感じなの」
「気のせいじゃないのか? まあ最近は物騒だからな。気を付けた方がいいのは確かだけどな」
整った貌を曇らせるメイに、シュンはそう声をかけた。
たしかに、最近はなんだか周囲の様子が騒がしかった。
近所で発生している、連日の通り魔殺人事件。
ここ数日、シュンたちの通る通学路の路肩には何台も何台もパトカーが停まっていた。
大勢の警官たちが、慌ただしく走り回ったり、近所の人に聞き込みをしているのだ。
と、その時だ。
ピタリ。
メイの歩みが止まった。
「ちがう。絶対、気のせいじゃない!」
「どうしたんだよメイ、いきなり?」
確信に満ちた声でメイがそう言った。
シュンもメイにつられて立ち止まった。
「だってシュンくん、アレ……」
「あれは……!」
メイがつい先ほど通り過ぎた通学路の電柱を指差した。
シュンも、やっとメイの言葉の意味がわかった。
ジーーーーーーー……………
電柱の物陰からジッと2人を窺う、怪しげな女子がいたのだ。
目元を隠した真っ黒なサングラス。
口許を覆ったマスク。
無造作に束ね上げられたセミロングは燃え立つ炎のような真っ赤な紅髪だった。
身に着けているのは、シュンとメイと同じ聖ヶ丘中学校の制服なのだが、学校で見かけたことは無いような気がする。
「おいお前、そんなとこから何コソコソ見張ってんだよ!」
電柱を指差してシュンが叫ぶと、
「でえ! ウチの尾行が、見破られとる!」
その少女は愕然とした声で、大げさに電柱の陰からズっこけた。
花冷えが寝坊の身にこたえる、月曜日の朝だった。
いつも通り、遅刻ギリギリで家を飛び出した聖ヶ丘中学2年、如月瞬はゲッソリした顔で学校に向かっていた。
母親は仕事のトラブルとかで、ここ1カ月はずっとフランスに出張中。
父親は元よりほとんど家にいない。
離れて住んでいる姉のカナタは、たまに家の片付けと、シュンの『監視』にやってくるが、今週は彼氏と旅行らしい。
つまり、今はシュンのやりたい放題。
如月家はまさに、シュンの城だった。
昨日も、せめて数学の宿題だけは終わらせようと思ったのに、その前に「10分だけ……っ」と思ってゲームに手を伸ばしたら、そこでおしまい。
人気RPGシリーズの最新作『FF6』を6時間はやりこみまくって、ベッドで気がついたら朝だったのだ。
「もーシュン君。少しはシャキッとしなよ!」
そして死んだ目で通学路を歩くシュンに、横から呆れ顔でそう言う少女がいる。
ショートレイヤーの黒髪をはずませた彼のクラスメート。
シュンの隣家に住んでいて彼の幼馴染でもある、秋尽鳴だった。
スラリとした手足。
整った顏立ちは、無表情の時は少し冷たいと思わせるくらい神秘的な雰囲気。
でも笑うと周囲にパッと花がさいたように明るくなる。
つぶらな瞳はよく見れば、まるでエメラルドのような深みのあるグリーンなのだが、別に外国人の血が入っているわけではないらしい。
なぜだか生まれた時からそうなのだという。
性格はシュンに言わせればおせっかい、というかものすごい世話焼きだった。
いつもいつも遅刻大王のシュンを見かねたメイは、ここ最近はわざわざ如月家まで、彼を迎えにきているのだ。
「それよりさ、シュン君、これ! 今日のお弁当……」
彼女がシュンに、おずおずと弁当箱を手渡した。
なんと、家にいないシュンの両親にかわって、メイは彼の昼飯まで用意しているのだ。
「うぅうぅ……」
シュンは、三段重ねのゴッツイ弁当箱をメイから受け取った。
ズッシリ。
「今日のおかずは、麻婆豆腐とブリ大根だから!」
愛くるしい笑顔でそう言うメイ。
だがシュンの顔は、ビミョーだった。
食べ盛りのシュンだったが、メイの『お弁当』は、なんだか最近色々と重いのだ。
「あ、あのさメイ。明日からさ、もう弁当はいいよ!」
なんてことだ。
シュンが、ぞんざいな感じでメイにそう言った。
「俺さ、購買のカツサンドとか、焼きそばパンの方がいいんだよね……」
メイの気持ちを全く気にもしてない、鈍感なシュンの言葉に。
「そ、そう……! じゃ、しょうがないか……」
寂しそうに俯いたメイ。ギリッ!
伏せた彼女の口元から、一瞬、歯ぎしりが漏れた。
そんな、微妙かつグダグダなテンションで通学路を歩いて行く2人。
「ところでさメイ。最近さ、どうよ?」
「どうって?」
話題を変えようと、シュンがメイに話を振った。
「例の……見えるヤツらの事……」
シュンが神妙な顔でメイにそう言う。
「うん、最近また、増えてるんだ……」
形のいい眉を寄せて、メイは不安そうに答えた。
『見えるヤツら』。
今ではもう、メイとシュンだけが共有している秘密だった。
夜の公園を漂う青白い火の玉。
九頭竜神社の境内を駆け回る二又の尾をした白いキツネ。
環水公園の水辺で子供たちに紛れて遊ぶ、何匹もの小さなカッパ。
メイには、そういった「人には見えないモノ」が見えるのだ。
その数が、最近特に増えてきているのだという。
普通の人間に話したら、到底まともに取り合ってもらえないだろうメイの話。
だが彼女の話をシュンが信じる理由は簡単だった。
子供の頃のシュンには、メイと同じモノが見えていたから。
神社の境内で、幼稚園の遠足で、夕暮れの公園で、シュンはメイと同じものを見て、そのことを今でもはっきりと覚えているからだ。
信じる理由はもう1つ。これも簡単。
メイがそんなことでシュンに嘘を言うはずがないからだ。
「まあ、増えてるって言ったって、何か悪い事することもないし、気にするなよ、メイ」
「うん、そうする、でもそれとは別に、最近何か変ってゆうか……」
「変って?」
首を傾げるメイに、シュンがそう聞き返すと、
「誰かに、尾けられてる気がするの……」
「尾けられてる? 痴漢? ストーカー?」
メイの答えに驚きの声を上げるシュン。
「うーん、そういうのとは違う気がするけど……家や、道で、誰かに見られてるっていうか、見張られてるっていうか……そんな感じなの」
「気のせいじゃないのか? まあ最近は物騒だからな。気を付けた方がいいのは確かだけどな」
整った貌を曇らせるメイに、シュンはそう声をかけた。
たしかに、最近はなんだか周囲の様子が騒がしかった。
近所で発生している、連日の通り魔殺人事件。
ここ数日、シュンたちの通る通学路の路肩には何台も何台もパトカーが停まっていた。
大勢の警官たちが、慌ただしく走り回ったり、近所の人に聞き込みをしているのだ。
と、その時だ。
ピタリ。
メイの歩みが止まった。
「ちがう。絶対、気のせいじゃない!」
「どうしたんだよメイ、いきなり?」
確信に満ちた声でメイがそう言った。
シュンもメイにつられて立ち止まった。
「だってシュンくん、アレ……」
「あれは……!」
メイがつい先ほど通り過ぎた通学路の電柱を指差した。
シュンも、やっとメイの言葉の意味がわかった。
ジーーーーーーー……………
電柱の物陰からジッと2人を窺う、怪しげな女子がいたのだ。
目元を隠した真っ黒なサングラス。
口許を覆ったマスク。
無造作に束ね上げられたセミロングは燃え立つ炎のような真っ赤な紅髪だった。
身に着けているのは、シュンとメイと同じ聖ヶ丘中学校の制服なのだが、学校で見かけたことは無いような気がする。
「おいお前、そんなとこから何コソコソ見張ってんだよ!」
電柱を指差してシュンが叫ぶと、
「でえ! ウチの尾行が、見破られとる!」
その少女は愕然とした声で、大げさに電柱の陰からズっこけた。
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