旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり

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バーバラ

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「……いきなり済みません、泣くつもりはなかったのですけれど……」

 そう言ってアーカード様から差し出されたハンカチに、涙を吸わせ深呼吸をひとつ。

 私は今回の事で、心に決めた事があるのです。それは私一人の事ではないので、お義父様おとうさまにも聞いていただければなりません。

「お義父様、お願いがございます」

 そう言って、お義父様を見つめれば、お義父様まで少し涙ぐんでおりました。何故お義父様まで、とは思いますが、話を進めるために私はそのまま話を続けます。

「リカルド様と結婚をしてから、ほぼ一年になりますが、リカルド様と私はベッドを共にしておりません。今回のことで、リカルド様は私と一緒に居る事が嫌なのではないかと思いました。ですので、少々時間はかかりますが、あと二年このままの状態であれば、【 白い結婚 】を申し出ることができます。教会も認めて下さるでしょう、そうすればリカルド様を煩わせることなく離縁が可能となります。ですので、どうかこのまま、今しばらくここに置いていただけませんでしょうか。」

「……」
「……」

 私の言葉に、お二人とも黙ってしまわれました。
 それも当然の事だと思います。
 女の私から離縁を口にするなんてこと、貴族社会の中でははしたない事であり、あってはいけない事なのです。

 私たち貴族の子女は、子供時分は親に従い、結婚したら夫に従えと教えられます。
 幸い我が家では理不尽さを感じることもなかったので、その教えも当然の事として受け止めておりました。

 けれど、こうなってみて思います。
 一度、結婚してしまったら、どんなに理不尽な扱いを受けても、たとえ暴力を振るわれたとしても、女性から離縁など口にすることは本来できないのです。

 もし離縁ができるとしたら、何年経ってもお子が生まれない場合や、旦那様に離縁に申し付けられた時だけです。

 嫡男を必要とする貴族の家では、お子を作るのは義務となります。そのため、妻が子を成せない場合、愛人を屋敷に住まわせることもあるそうです。

 我が国は一夫一婦制ではあるのですけれど、子が成せない妻などいる意味がないとばかりに、愛人を囲う殿方も多いと聞きまーー中には、子を成していても愛人を囲う方もいるようですが。

 家同士の政略結婚だと、なおさらその傾向が強まります。

 本来であれば、リカルド様が望まなければ離縁など成立しないでしょう。
 もしリカルド様が離縁を望まれたとしても、アルトワイス伯爵家から籍を抜いていないリカルド様の意見は、当主であるアルトワイス伯爵様に拒否されれば、やはり成立しないのです。
 
 けれど【 白い結婚 】です。

 夫婦としての営みが無いことを告白するのは、私も気恥ずかしくはありますが、【 白い結婚 】を申し立てる事だけが、女性側に唯一許された離縁の方法ですから仕方がないのですけれど。

 しかし今回の結婚は、アルトワイス伯爵家を助けるためのものでした。ですからお義父様が離縁に渋るのは当然だと思います。だから私は言葉を続けます。

「もちろん、それで持参金を返せなどとは申しません。ただ少なくない金額ではありますので、融資という形でお貸ししていることにして、無利息で構いませんので、領が再興しましたらルーベンス子爵家へ徐々に返済ねがえればと」

 お父様には確認しておりませんが、私がこう言っても怒りはしないでしょう。元々、私の結婚は諦めかけていた父です。少々外聞は悪いですが、王都で社交にでも出ない限り私が煩わされる心配はないですし、【 白い結婚 】であると認められれば、王都にいる令嬢たちに気づかれる事はありません。


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 もう少し短いお話しの予定でしたが、山場ざまぁまでまだ少しかかりそうです。
 というよりもちゃんとざまぁできるといいのですが。
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