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お弁当を作りたいのですーーサリア・ハーマンは11歳になりました 2

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 私は、ルディアス殿下が毎日お迎えに来てくださる事になったので、早起きをするようになりました。

 理由は簡単です。ルディアス殿下のためにお弁当なるものを作るため。

 それまでは料理長が頑なに、お菓子を作りたいと言っても、クッキー生地の型抜きしかさせてくれませんでしたが、生徒会でのお仕事でお忙しいルディアス殿下のために、せめてサンドウィッチでも作って差し上げたいと料理長に力説しましたところ、早起きができるなら料理やお菓子の作り方をお教えしましょうと言われたのです。

 私、やりましたわ!

 もちろん学院が始まるまでのお休み期間である今も、毎朝早起きして厨房に向かいます。

 だって、これでようやくルディアス殿下に手作りクッキーやお料理などを食べて頂けるのです。

 それに学院が始まったら、お弁当というものも食べて頂けるんですもの。

 でも、私お弁当が何か最初よく分かりませんでしたの。
 ですから料理長にお弁当とは何かと聞いてみましたら、「普通お仕事に行くと大抵は食堂で食べることができます、王城であれば兵士用の食堂や下働きやメイドが食べに行ける食堂とか、上級職の方たちが食べに行ける食堂とか、たくさんあるでしょう?」と。

 私は王城に行っても、お昼を王城の食堂で頂くことはありません。だいたいは王妃様と一緒にお部屋にお食事を持ってきていただきます。でも庶民の方の場合、全員が全員食堂がある場所で働いていないと料理長が言うのです。

 農家の方は畑でお仕事してますし、きこりは林や森の中が仕事場です。牛や豚を飼っている酪農家だって、食堂が側にあるわけではないでしょう、と料理長が分かりやすく教えてくださいます。

 それに食堂に行くとお金がかかります。一食が半銅貨3枚とか半銅貨5枚とかであったとしても、毎日、毎日かかるとひと月いくらになりますか? なんて、まるで算数の授業なような事まで言うのです。

 ひと月は30日で、週末はお休みです。1週は6日で、学院生は4日授業があって2日のお休みとなりますが、大人は5日働いて1日休む事が多いですわ。

 そうしますと5日間毎日食堂でお昼を食べることにしますと、半銅貨15枚から25枚になります。半銅貨10枚で銅貨1枚なので、1週間で銅貨1枚と半銅貨5枚から銅貨2枚と半銅貨5枚という計算になりますわね。

 私が計算して料理長にそう言うと、じゃあひと月ではいくらになります? とまた質問ですわ。

 ひと月は30日で5週あるので、5日間はお休みとなりますわよね。そうしますと25日間お仕事でお昼を食べますわ。えーと、半銅貨3枚なら、月のお昼代は半銅貨75枚、半銅貨5枚なら125枚。

「ひと月の場合、1日半銅貨3枚なら銅貨7枚と半銅貨5枚、1日半銅貨5枚なら銀貨1枚と銅貨2枚と半銅貨5枚、ですわね」
「その通り。では、それを家族4人が同じように昼食を食堂で取ったら?」
「まあ、またですの。えーと、今、計算してますわ、ちょっとお待ちになって、銀貨3枚と銀貨5枚になるはずですわ、たぶん」

 私、計算はそこそこ得意ではありますけれど、暗算はまだそれほど上手に計算できませんの。紙に書くとすぐ計算できるのですけれど。

「庶民のひと月の給金は、大人でだいたい銀貨3枚から4枚なんですよ、父親と母親二人が働いて、子供二人も手伝いやら何やらで仕事をしたとしても、月に稼げるお金は金貨1枚にもなりません」
「あら、それでは食堂で毎日食事をしていたら、お給金がなくなってしまうわ」
「そうなんです。だからお昼にお弁当を持っていきます。家にある食材で作るので、かかるのは食費だけですし、母親は少し大変ですけどね、子供も手伝ってくれるでしょう」

 なるほど、と納得してしまいました。

「しかし、お弁当は一つ大事な注意点があります」

 料理長がもったいぶった言い方をしました。

「まず調理の基本、手を洗っていないと食べ物に悪い菌がついてしまいます。そしてそれを食べるとお腹を壊してしまうのです」
「まあ、それはとても大変な事ですわ。ではお料理をする前にはきちんと手を洗わなくてはいけませんのね」
「その通りです。でも、それだけではなく、お弁当を温かいところや、長時間置いておくと、これもまたお腹が痛くなる可能性があります」
「では、そうならないようにするにはどうしたらいいんですの? 朝早くお弁当を作ったら、お昼まで結構、時間がありますのよ?」

 私がそう指摘しますと、庶民にはなるべく痛まないようなものをお弁当として持っていくか、多少は気にしないのだそうです。なんともチャレンジャーですのね、庶民の方たちは。

 私がそう口にすると、料理長は苦笑を浮かべましたわ。

「でも、お嬢様が作るお弁当は、第二王子殿下も食されるのですよね?」

 そうね、その通りだわ。ルディアス殿下がお腹を壊してしまったら、大変な事ですわ。

「だから、庶民には難しいのですが、魔道具のマジックバックを用意されたらいかがと思います。ランチの量くらいでしたら、一番小さいので大丈夫だと思いますし、それなら金額も抑えられるはずです。なので、もしどうしてもお嬢様が第二王子殿下にお弁当を食べて貰いたいと言うのであれば、当主様にマジックバックの購入をお願いしてみてはいかがでしょうか」

 なるほど、今まで色々と説明されてきましたけれど、料理長はルディアス殿下の事を心配してくださっていたのですね。

「分かりましたわ。その件はお父様に相談してみることに致しますわ」

 私がそう言ってにっこりと笑うと、料理長はほっとされたようでした。それからは、私にまずはサラダを作ってみましょうと、野菜の洗い方を教えてくださったのです。

 そして、マジックバックの件は、お父様に相談しましたら、すぐに了承してくださいましたの。

 殿下を食中毒にするわけにもいくまい、とかブツブツ仰いながらではありましたけれど、私のお小遣いで買える範囲のものにしようね、と今度、魔道具店に連れて行って貰えることになりましたわ。

 私はまだ街でお買い物をした事がありませんでしたの。だから凄くワクワクしますわ。

 中等部に通う楽しみがまた一つ増えました! 私とても嬉しいですわ。



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 頑なにクッキー生地の型抜きしかさせてくれなかった料理長登場です。

 あと一つ、ネタがあるので、もう少しお待ちくださいね。
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