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しおりを挟むふと目覚めると、視線の先には見知らぬ天井があった。
彼女は暫くそれを眺めて、いや、これは天蓋と言うやつではないだろうか、などと思う。
大きな羽が描かれた子供ーーたぶん天使だろうーーやら花やらが刻まれたそれは、やたらときらきらとしていて、どこぞの高級ホテルのロビーの一画を思い起こさせる。だが彼女にはそんな大層なホテルに泊まったことなどなかったはずだ。
そして、ああ、と小さくため息をつく。
見知らぬ天蓋だと思ったものの、それは決して正しくはなかったからだ。
この部屋を与えられてから4年か5年ーーそれだけの時間をこの部屋で過ごして来た記憶が、彼女にもある。
しかし今の彼女からすれば、その記憶はまるで映画館のスクリーンで観ているかのような、どこか他人事のような感じだ。
まあ、それも仕方がないだろう。彼女はまだこの世界で目覚めたばかりで、この身体の持ち主であるアデライーデ・マルチェッロとは乖離している。だが、暫くすれば馴染む。それは彼女もよく分かっていた。
なんとなく彼女は横たわっているふかふかの寝具から、そっと右手を天蓋へと伸ばしてみる。
なんともまあ細くて白く頼りない腕だろうか。
覚えている自分の姿は、黄色人種で黒髪の女性でーーまあ、己の趣味で黒髪でいたのは高校生くらいまでだったけれどーー二十も半ばを超えていたアラサーだった、はず。
だというのに視界に映る手はあまりにも細くて小さくて、まるで子供の手のようだ。それなのに手首にはなぜか鮮やかな青と浅葱色の線が数本、絡まる蔦のように刻まれている。
一瞬ブレスレットかとも思ったが、どう見てもたわみがない。まるでタトゥーのようにも見えた。
アラサーの自分は、確かに左右の耳にピアスを幾つもあけていたけれど、タトゥーだけはいれたことがない。シールのタトゥーくらいならばファッションとしてはありだろうけれど、ちくちく、ちくちくと針を刺されるのは気が進まなかった。
元々痛みには強いが痛いのは嫌いな性分だ。なのに、こんなものが身体に刻まれているとは、これは本格的に起き出して確認してみなければ、と身体を起こそうとしたのに、どういうわけか身体に力が入らない。
「むう」
思わず不満の声が漏れた。が、その声もまた彼女が記憶している自分の声とは程遠い。
彼女はもう一度ため息をついた。
彼女とて、今のこの状況を理解しきれてはいないけれど、なんとなく理解はしている。ただ漠然とではあるが理不尽な気がして納得できていないだけだ。
いったいこの身体がどれくらい眠りについていたのか分からないが、その間、彼女は悪夢を観続けていた。しかも、たぶん、それは、この身体の本来の持ち主の記憶だ。
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2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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